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長い道がようやく終わり、彼女と私はその鬼の里というのに到着した。私が想像していたのはザ・江戸時代みたいなものだったが実際には普通の田舎の光景だった。今でも都市から離れれば見れるような自然豊かな田舎の町。
「…普通じゃん。つまんない。」
「住み易さ重視、鬼も人間もそこまで変わらないから。」
「ふーん、鬼ヶ島か日本って感じのを想像してたわ。」
「鬼ヶ島は今でもある、此処への入り口。昔、そこを使っていた鬼達が人間…俗にいう桃太郎に殺されたから、今はほぼ使わないよ。」
「へぇ…殺されたの、あれって?」
彼女は歩いくの止めた。静かな声だけが響く。
「…殺された。惨殺だったよ。人も鬼も変わらないのに。」
「……」
何かある。それはわかるがそれ以上私が踏み込む理由もない。そう思い私は黙った。また歩き進めるが、鬼っ子一人いない。
彼女は私を連れたまま、この中で一番大きな平家に入った。地主とかお金持ちが住んでしそうな豪華な家。中はちょっと古そうだが掃除が行き届いているようで綺麗だった。
靴を脱いで上がる。おばあちゃん家があるならそれを大きくした感じ、と言えばいいか。昔ながらの感じで襖で大きな部屋が区切られている。
「ここは?」
「私の家。鬼の首領が住む、人間からすればラスボスのいるところみたいな。」
「夜慧さんが首領なの?」
「違う…ていうか、ずっとそうだけどなんでさん付け?夜慧でいい。」
「あそう。じゃあ夜慧、契約って、昨日言ってたよね?それはここでするの?あと具体的になに?」
「奥に契約用の部屋があるから、そこで。具体的…西洋の伝承とかで悪魔との契約ってあるでしょ?それと同じ。人が悪魔に願いを叶えてもらうために契約するの。基本は命を代償にね。悪魔と鬼は種族的には違うけどやることは同じ。」
「え、私命かけるの?聞いてないんだけど。」
そんな使い捨ての駒みたいなものなのか、嫌だな。
「その予定だったんだけど…月ちゃんの願いが特殊だからこっちからすると損しかない。だから代償を変えるつもり…待って。」
「んん…」
突如、彼女は私の口を塞いだ。苦しいんだけど、と文句を言おうとしたが彼女の目が黙れと訴えている。仕方なく大人しく従った。
彼女の前の襖から声が聞こえる。内容までは聞こえないが、彼女には聞こえているんだろう。顔を歪めていた。
「最悪…顔伏せて。見つかると面倒だから。」
言われるがままに従うと、腕を掴まれて引かれた。そのまま歩かされる。すると微かだが声が聞こえた。
「…主様はもう……だから早く姫様を…」
「だが……は……」
姫様、というのは多分彼女のこと。主様?よくわからないが、彼女が私を隠したことと何か関係があるのだろう。
私はスタスタと前を歩く彼女の背中をちらりと見た。彼女は何を抱えているんだろう。