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「あー…花那。とりあえずこの後ろの人に首の物騒なものどけるように言ってくれない?」
私がそう言うと花那は少し迷うながらも命令した。後ろにあった気配はすぐに無くなった。こんな死に方はしたくないものだ。首の皮が繋がっていることを触って確認する。
「どうして月ちゃんは此処に来たのかなぁ?花那、なにかしちゃったぁ?」
普段と同じような話し方をしてくる。無理に笑顔をつくっているようで未だ殺意は消えていない。多分私に見られたことで不都合があったんだろうな。その角のこととか。
「その話し方やめない?そーゆうのまじキモい。」
「じゃあ…なんで此処に来たの?山の中だよ?それに此処は普通には入れないはず。」
「知らんよ。私、ただあんたの通ったところを通ってきただけでだし。」
「有り得ない。」
彼女は私の主張をその一言で否定して来た。やめない、と言ったのは私だがすぐに切り替えるあたりあれは人前だけな感じか。
「此処に来れるのは“鬼”だけなんだよ。」
「鬼…?ああ、だからその2本角か。納得したわ。」
「…ともかく、帰って!」
「私はそれでもいいんだよ?だけど君のお仲間さん達は私を返すつもりがないようだし。このまま殺されるのも嫌だしなぁ。」
小刀を向けられてた時からずっと殺意に囲まれてる。まぁ予想はできる。人に見られちゃいけないものなんていくらでもあるのだ。
私は興味本位で突いてはいけない彼女の闇に触れたようだ。一応両手でもあげとくとしよう。
「もう良いでしょう。この人間一人くらい行方不明という事にして消してしまえば…。」
「そうですぞ!何を躊躇している。早く殺してしまえばいいのだ。」
周りから色んな声が聞こえてくる。目の前にいる彼女は私を返そうとしてくれているようだ。知り合いが殺されるのは嫌だったらしい。
「…なんで…そうよ、最初から変だった。月ちゃんだけには効かないし…。」
「夜慧様!」
花那__彼女に向かって叫ばれた名は聞いたこともない。やえ。花那とは全然違う。
「花那…いや夜慧さんと呼んだ方がいいか。言っておくけど、私は何にもないよ。なんでもないただの人間。」
「嘘…鬼の血が流れているでしょう!ただの人間は私の角が見えるわけない。」
いや、知らんて。私は正真正銘ただの人間だ。そんな特異な血が流れているはずない。完全に混乱している彼女に言っても無駄だが。
「はぁ…めんどい。」
「と…とにかく捕えなさい!彼女に傷をつけてはなりません。」
彼女はそう高々と言う。すると周りにあった気配が一気にこちらに近づいてくる。相手の姿が見えるわけではない。気配も、移動してとわかる風も感じる。だけど姿だけは見えなかった。
横から伸びてきた蜘蛛の糸。強固そうな糸が私の腕と足を拘束し、地面に倒れさせた。そのまま担がれ彼女の前に連れて行かれる。
近くで見る彼女。改めて見ると。
「…なんか顔変わった…?」
花那はもう少し可愛い系だったはずだ。顔は良かった。うん。
だが私の目の前にいる彼女は凛々しく美しい。一気に大人っぽくなっている。黒い髪に青色の角。角は水晶のように半透明なのが綺麗。
あれ、こんな顔だっけと頭の中を疑問が支配した。