1
クラスに一人は嫌いな人間がいるものだ。
性格が合わない。行動が嫌い。過去に喧嘩した。とか。
私にもいる。山田 花那。俗にいうぶりっ子と呼ばれる奴。ハーフツインテールが特徴で背は低め。庇護欲をそそる…らしい。行動が、男に媚び諂い自分をよく見せるのに必死で見ていて恥ずかしいのだ。
「え〜、すごぉい。水谷君ってそんなことできちゃうんだぁ。」
「おう!花那はいつも可愛いよな。」
「嬉しい♡」
きゃっきゃとはしゃぐ声に嬉しそうな表情をする男子。二人を囲むように集まるクラスメイト。みんな揃えたように笑う。口に弧をつくって笑ってる。変なの。
下手くそなお芝居を見ている気分になる。それにしても明らかにつくっているのに気がつかないものなのか、男子は。
「学校、めんどいなぁ…。」
私の周りには誰もいない。机に突っ伏した状態でぼそりと呟いた言葉に反応する人もいなかった。
◇◇
放課後。学校が終わると部活等の用事がない生徒は帰る。カーブミラーに映る生徒たち。私のその一人でさっさと家向かっていた。
ふと目についたのは珍しく一人でいる花那の姿だった。いつもはクラスメイトに囲まれているのに今日は一人なのか。いつも笑っているから無表情だと違和感がある。
花那も家に帰ると思っていたが違うらしい。学校から少し離れたところにある山へと進んでいった。
あれ、あそこの山ってこないだ熊が出るって言われてなかったっけ。それに、何かあるとかも聞いたことない。一体花那は何をしに行ったのか。興味の湧いた私は少し時間をおいてから山に入った。
「うーわ…この山整備されてないじゃん。超歩きずらい。ったく、あのぶりっ子野郎は何しに行ったのか。」
山を登るうちに辺りは夕暮れに染まり始めていた。花那の姿は見えないが道は一つしかなく足跡もあるので今進んでいる道の先に彼女がいるのは確かなはず。鬱蒼と木々が茂っていて邪魔。足元にも苔がびっしりと生えている。イライラしながらも山を登る。
少し歩けば開けた場所へと出た。そこにあるのは古びて崩壊寸前の神社、と。
「花那…?」
真剣な顔でお祈りをする花那の姿。笑顔が一切消え失せ別人のようにも見えた。一歩、彼女に声をかけようとした私の動きは止められた。
「……何者だ。どうしてここまで来れた。」
ピンと空気が張り詰めた。花那も私に気がついて目を見開いている。花那でも私でもない気配が沢山。さっきまで感じなかった気配がこの場所に集まっていた。その一つが私の首に小刀を当てている。後ろに誰かいるようだ。
「…なんでクラスメイト追いかけて来ただけで脅されてんだろ。私は。しかもそのクラスメイトは人外とか。」
最悪だなぁ、と溜め息と一緒に出た言葉。小刀が近づいた気がする。
そう、花那の頭には先程までなかったであろう2本の角が生えている。コスプレでもなけりゃあそれはまさしく人外と言えるだろう。人外と呼んだことで花那の顔から表情が消えた。真っ直ぐとこちらを見る目には殺意が滲んでいる。
「…月ちゃん。」
静かに私の名を呼ぶ花那の声色は普段と違っていた。
ぶりっ子が表の面だとしてもこうも変わられるとな…と私は心の中で思った。