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美女美少女五人組で豪華ケンランお食事会っ

 まだキャラ日常篇です。


 「感動の再会の場面は私もモニターで拝見したよ。まあ背後で苦り切っていた君の顔も実に印象的だったねぇ」

 「いくら大人ぶっていたところで所詮は泣き虫のがきんちょの小娘共ですよ。他愛も無い」

 「その他愛も無いがきんちょの小娘にタマ蹴りされて、そこでのたうち回っていたのは誰だったかねぇ」

 「いやあCEOも相変わらず意地悪でお人が悪い。はは。ははは」

 「君のその揉み手とお追従の引きつり笑いにはもううんざりだねぇ。まあいい。今度の案件で警察チームはあくまで救出、戦闘行動はこちら任せという事だね?」

 「さ、左様でございます」

 「警察にはいい貸しが作れたという訳だ。フッフッフッ。残念なのはそれを提案したのがその泣き虫のがきんちょの小娘だったという点だが。指摘を受けるまでそれに気づきもしなかったとは、君の頭脳の方こそ他愛も無いものだ」

 「わ、私はただ、順序立てて説明していただけでしてっ。······そ、それに気づかなかったのはCEOもいっしょ······」

 「今何か言ったかね」

 「いえ別にっ」

 「······ところでニケだが。この件が片付いたら、ただちにミャンマーに戻るんだろうね?」

 「はあ。初めは帰還命令をにべも無く拒否しておりましたが、三人娘がこれまでとは比較にならぬ危険な仕事と聞くなり直ちに帰国すると」

 「そうだろうとも。何せ彼女にとっては最愛最高の教え子達だからな。用が済んだらさっさと東南アジアのジャングルに戻ってもらおう。あの女がそばにいると思っただけでぞわぞわして来る」

 「同感です」

 「さて話は変わるが、三人娘の趣味の世界はどんな具合かね?」

 「女子供のお遊びなんて私にゃ良く判りませんがねぇ。与えられてる『小遣い』の範囲内で、見たり聴いたり読んだり、描いたり作ったり書いたりと、好きなようにやってるようです」

 「さすがは大人を自認する君らしい。後半なかなか気の利いた表現だ」

 「そ、そんな事はありません。は、ははは」

 「まあどうせ誰かの受け売りだろうけどね。そら図星だ。例えばこの部屋の芸術の数々を見たまえ。およそ呑む打つ買う以外の趣味を持たない者には、所詮は理解できない世界だね。彼女達がそれぞれの才能を生かして楽しんでおるのなら、大いに結構な事だよ、君」

 「し、趣味くらい、自由にやらせておけば、こちらの言う事は聞くものだ、親の借金、という足枷だけでは、うまくは使えないのだという、CEOのお言葉通り、その御慧眼、さすがでございます、は、はは」

 「内務班(ケルベロス)の監視の方はどうなのかね」

 「び、病院においても寮においても、これといった怪しい会話または通話の報告はありません。休日時の尾行においても同様です。普通に買い物などしておるようで」

 「ふむ」

 「あ、あのう、寮の個室と女子トイレにカメラと盗聴器を仕掛けるという、私の提案······」

 「それこそ君の趣味の話だろう。ここには一般の女子社員も大勢いる。もし彼女達に見つかって、どっかの変態がこんな物を仕掛けていたと、警察沙汰にされたらどうするのだ」

 「さ、三人娘の個室限定ならいかがでしょうか」

 「見つかった場合に真っ先に報復されるのは君だよ。今度はタマ蹴りじゃ済まんだろうねぇ」

 「てて提案を撤回させて頂きますっ」

 「スパイを増やすとか何とか、方法はいくらでもあるだろうが」

 「もも申し訳ありません」

 「彼らとて馬鹿ではない。当然警戒はしておる筈だ。例のカラオケボックスの方はどうだ」

 「えー、報告によりますと、普通にマンガの主題歌なんかを歌っておりまして、会話もごく普通のものでして、時おりその、『あのガハハ親父が』などと口走る程度の事と」

 「せめてテレビアニメと言いたまえ。ふん。盗聴の心配はまず無い以上、もう少し本音が出て来るかと思っていたが······『ガハハ親父』では当たり前過ぎて、本音にもなるまいて」

 「······あのー、CEO、それって、その、もしかして、私の事······」

 「君以外の誰がそうだと言うのかね。まさか君······」

 「とととんでもございませんっ」

 「彼女達とて君と私の格の差くらい、理解できている筈だろう。まだ何か、訊きたい事でもあるのかね」

 「そ、それならば、ひとつだけ。あのー、CEO、以前、私の事で、スパルタに下品な男は不要、などと、きつーい冗談を、おっしゃった事がありましたけど、あれって、その、マンガか何かの、セリフであって、決して、そ、そのー、本気、じゃ、ありません、よね······?」 

 「アガメムノンくん」

 「は」

 「君はバカかね」

 「はあ?」


            ※


 ニケの姐御と再会して泣いて喜んだのは私達三人だけではなかった。

 瑞谷綺羅々(みずたにきらら)先生は女子寮(パルナッソス)(病院寮を兼ねてある)の廊下で姐御と出くわすなり、「なっちーっ!」と私達同様に号泣して抱き着いた。姐御はかつて私にそうしたように、先生の可愛いプリン頭をよしよしと言いつつ、両手でくしゃくしゃにしたのであった。

 本社オリンポスの廊下で行き合ったケイロンのおじさんは、さすがに泣きはしなかったが、

 「お久し振りです、大尉!」

 直立不動でピシッと敬礼を決め、姐御も厳しくこれに答礼、傍らにいた私達は雷に打たれる思いで震えたのであった。

 ダイダロスのおっちゃんは、まるで別れたのが昨日の事のような口ぶりで、

 「いよーナターシャ、ジャングルの中でのアレの具合はどうだ」

 と、さっそくこちらから送った武器弾薬の具合について尋ね始めたのだった。

 そこでまあ、作戦行動開始まで数日の間があり、姐御の帰国祝いという事で、私達美女美少女五人組は、街にお食事会へと出かけたのであった。

 私達が五人揃って街を歩くと、人目を引くとか振り返るとかではなく、皆のけぞってしまうのである。

 まず何もかも全く対照的な、紺と白のスーツ姿の美女が二人。一人は完璧なプロポーションの巨体に端麗なる美貌の現役女戦士。もう一人は清楚にして華奢、知的洗練の極みのような精神科女医。そしてその後ろに続くのが、我ら優美可憐なりし事この世のものとも思えぬ美少女アサシン・メイド三人娘と来ては、もう世界広しといえども私達に勝てるものなど存在しないのだ。わーっはっはっはっはっはっ。

 ところがこの美しき女戦士と女医の会話ときたら、ほとんどウチらびーびーとかっちんの掛け合いとどっこいなのであった。

 「お前のこのプリン頭も針金細工みたいな身体付きも相変わらずだよなァ。ちゃんと喰ってっかァキララっちィ」

 「何言ってんのよ。アンタのメスゴリラ化もリアルジャングルでますます進行しちゃったじゃないのさっ」

 「アホぬかせ。物知らず。ミャンマーのジャングルにゴリラなんざいるかい」

 「ごめーん、メスコングのまちがいでしたー。きゃー苦し殺されるーっ」

 そして私達の行き先というのは、銀座のイタメシ屋でもなければ、六本木のおフランス料理店でもない、そう、あの、上海亭なのであった。

 ここは瑞谷先生とも何度か来ていて、とりわけ長崎旅行以来の味と皿うどんに大喜びの先生から、「よくこんなお店見つけたわねー」と大絶賛されたかっちんは、またしても「にっひひーっ」とVサインなのであった。やれやれ。

 「いらっしゃい。五名様、予約席御案内っ」

 と、陳さんにナァちゃんが迎えてくれ、私達は奥のテーブルを二つくっつけた「予約席」に案内された。テーブルの上にはそう書かれたボール紙が置かれている。この素朴さがたまんないのである。

 「おー、いい店だな」

 席に着いた姐御が満足げに店内を見回し、頷いた。そして小声で続ける。

 「中華料理屋に入って日本に帰って来たって実感するのも、ちょっと皮肉だけどなァ」

 ナァちゃんがお冷やとメニューを持って来た。彼女の事情についてはもう姐御に伝えている。是非会いたい、と姐御は言ったのだ。もちろん、私達の「仕事」の話と同様に、本当の話はできないけれど。

 注文をメモしたナァちゃんが、カウンターに戻ろうとすると、姐御が真面目な顔をして彼女の肩に手を置き、ビルマ語で何か語りかけた。

 母国語を流暢にしゃべる日本人には滅多に出会わないナァちゃんは、目を大きく見開いて姐御の言葉を聞いた。その目にみるみる涙の玉が浮かび、こぼれ落ちた。彼女は姐御に深く頭を下げ、「ありがとう、ございます」と日本語でつぶやき、カウンターに入って行った。 

 何か苦情でも言われているのかと、少し心配そうにこちらを見ていた陳さんに、事情を説明している。やがて陳さんが大きく頷くのが見えた。

 瑞谷先生が小声で尋ねる。

 「なっち。あの子に何て言ったの?」

 「んー。『君はマンダレーの出身だとこの子達から聞いている。クーデター前に私も仕事で行った事がある。仏塔(パゴダ)や寺院が荘厳な、とても美しい街だった。いろいろあって大変だろうが、気を落とさずに、頑張りなさい』ってね」

 「うーん」

 私達は溜め息をついた。

 ちなみに私達はこういう場所では、聞かれてもいい件は普通に会話するけど、そうじゃない件はテーブル裏を叩いてモールスで通じ合い、それを同時に行なう事ができるのだ。もちろん盗聴器がそこかしこに仕掛けられている社内院内寮内でこれをやるのは危険だが、ここならまず大丈夫だ。

 瑞谷先生が言う。

 「ミャンマーのマンダレーかぁ。クーデターさえ起こらなかったら、私も行ってみたかったなぁ(モールス─あんたミャンマーはジャングルしか知らないじゃん)」

 「そうだねぇ。国情が落ち着いたら、もう一回行きたいね(夜間偵察で侵入した事はあるんだよっ)」

 私。

 「私達も行ってみたいです。いつかナァちゃんといっしょに(姐御。実は三人で相談したんですけど)」

 美貴。

 「総選挙やったら少しは何とかなりますかね(私達もニケ様といっしょに)」

 由美。

 「希望ありますか(戦いたいんですけど。ミャンマーで)」

 姐御と瑞谷先生がじろっと私達を睨みつけた。

 姐御。

 「まあ、駄目だろうねぇ(馬鹿言ってんじゃない!)」

 先生。

 「民主派初めから排除してるでしょ。香港とおんなじ(あなた達にはまだ日本でやる事があるじゃないの!)」

 私達はシュンとなった。

 「そうですねー(ごめんなさい)」

 この件はこれでおしまいだった。そうなのだ。ナァちゃんが痛ましくてならなかったこの時に、姐御が戻って来たものだから、思い余ってつい言ってしまったが、私達にはまだ、日本でやる事があったのだ。

 それに姐御が現にミャンマーで戦っている事を、もしナァちゃんが知ったなら、彼女は姐御に抱き着いて、私ら同様ギャン泣きするだろう。でも私達がミャンマーで戦うなどと聞いたなら、彼女は泣いて怒り狂い、反対するに決まっている。彼女はそういう子なのだ。

 ナァちゃんと陳さんが料理を運んで来た。レバニラ炒めとギョウザと中華丼の全大盛りに生ビール大ジョッキが姐御の前に並べられる。

 「おーうまそーっ」

 姐御は目を輝かせる。そこにナァちゃんがシューマイ大盛りの皿を置いた。姐御はきょとんとする。

 「ん。これ、私じゃないよ」

 「いえ、オーナーからです」

 カウンターに戻っていた陳さんがニコニコしながら頭を下げる。ナァちゃんを母国語で励ましてくれたお礼である。

 「あー。えーと。そーいうつもりじゃ、なかったんだけどなァ」

 「いいじゃないの。もらっときなさいよ」

 大好物の皿うどんとチューハイを前にして、嬉しそうに笑いながら瑞谷先生が言った。

 「あー、じゃ、頂いとくわ。ありがとう」

 私は炒飯大盛り、美貴はちゃんぽん大盛り、由美は野菜炒めライス大盛りと、料理が揃ったところで、姐御が言った。

 「よーし、じゃあ、喰うかっ」

 「いただきまーすっ」

 こうして美女美少女五人組による豪華ケンランたるお食事会が始まり、「うまいうまいうまいーっ」と姐御は豪快に食べまくり呑みまくり、店内を圧倒したのでありました。

 ······そして支払いの時。

 「あんたの帰国祝いなんだから私らが払うわよ」

 と、瑞谷先生が言うのも聞かず、

 「まー私一人で三人前は喰ったからなァ」

 と、姐御が全部払ってくれたのだった。

 「アレが終わった時の打ち上げもここにするぞ。そん時はバッチリ会社の経費で落とすからな。美貴。予定日翌日、貸し切りで予約入れとけ。多分何人か増える筈だから」

 「了解でありますっ」 

 そして「ごちそうさまでしたー」と言う私達に、陳さんは後ろで後片付けをするナァちゃんを見やりながら、しみじみとした口調でこんな話をしたのだった。

 「私、香港人よ。中国返還の前に、一国二制度など絵に描いた餅、そう言って、早々と家族共々、日本に移って来たよ。で、香港がああなって、次にミャンマーがああなって、今度は日本がこうなって。香港の友人や親戚、こっちは自由無くなったけど、とにかく治安だけは今はいい、こっちのメディア、日本もう崩壊寸前、近日内乱、戦争確実、そう報じてる、早くこっち戻って来い、みんなそう言ってる。

 私達、どこ行けばいいか」


 次回は作戦篇となります。

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