恐怖のスラング銃撃戦だ十八歳未満お断りッ!
二番勝負でございます。
えっとォー。以前佳代っちが私の事を「美貴に語り手なんてやらせたら話があさっての方向に飛んでってそれっきり戻って来ない」だのとぬかして一方的に「おしゃべりかっちんの語り手の件は却下ッ」ってやってたみたいだけどさー。私だって語り手くらいちゃーんと務まるって事を、今回はっきり証明してやろうじゃないのさ。何がエキセントリック美貴だ。覚えてやがれおちゃびーめ。
という訳で、ケルベロス三ツ首の一人「青銅の巨人」と、私カサンドラ美貴の決闘の場となったのは、本社倉庫だった。ここって書類から日用雑貨文具備品と、いろんな物が雑多に置かれてるんだけど、たまに武器弾薬庫からはみ出た物が、一時的に置かれる事もある。ほんとはいけないんだけどねー。
あ。それでピンと来たぞ。こいつがどういう魂胆でここを選んだか。
私とタロスは倉庫の入口前に向き合って立った。倉庫の受付に普段座ってるお爺さんは、とっくの昔に避難してる。タロスは私を陰気な目で見下し、不気味な笑みを浮かべてこう言った。
「カサンドラよォ。おめェ、モーゼル使いなんだってなァ」
「だから何?」
「あんな不細工で不恰好で古臭くてやたら馬鹿でかくて使い勝手の悪いおんぼろな博物館行きの骨董品っつーかまあゴミだな。アレをおめェみたいな小娘がまともに使えんのかと思ってよォ」
こいつもろに私を挑発してるな。だけど残念、その手に乗るか。私は余裕で笑って言った。
「あーら御挨拶ねえ。そう言うあんたは銃なんて物は撃てさえすりゃ何でもいいって信条で、トカレフなんかを御愛用のようだけど、安全装置すら付いてないような物騒な拳銃振り回して、得意になってんじゃないよヤクザ野郎」
「······おい。生意気な口叩いてられんのも今のうちだぞ小娘が」
「そーそー、もしかしてここを決闘場に選んだのって、他にその『何でもいい』ってのを隠しといて、そいつをバリバリ撃ちまくって、私をやっつけようって腹積もりなんじゃないのかなー、違う?」
タロスは無言で私を睨みつけている。違わないらしい。私は右にモーゼルC96、左に予備のHSCを、素早く手にして構えてみせた。
「ま、あんたが何を使おうが、私はこの二丁があれば充分だから、知った事じゃあないけどさ。今回手榴弾置いて来た分、弾丸はたっぷり抱えて来たもんね。派手に撃ち合おうじゃないの、元海上自衛軍陸戦隊教官、末次亀人伍長殿」
タロスの青い顔が一瞬醜く歪んだ。
「······ニケか、ケイロンか、ま、監察部の回し者とつるんでいる以上、お前らが知ってんのも当然だがな」
「ずいぶん新兵しごきで悪名轟かせていたみたいじゃん、あげくにとんでもない事件を起こしちゃってさ、鬼教官っ」
タロスは唸り声を上げて懐ろから当のトカレフを引き出し、銃口を私に向けた。私はモーゼル二丁をぶっ放しながら倉庫に飛び込む。
倉庫は百平方メートル程の広さで、段ボール箱が詰め込まれたスチール棚が立ち並び、そこかしこに木箱やら何やらが、かなり無造作に積まれている。そういえばあのお爺さん、よく受付で居眠りしてたなあ。ちゃんと整理しとけよなー。
私はとりあえず、隅の方に積まれている木箱の陰に飛び込んだ。トカレフの銃弾が襲って来る。私は予備のHSCをしまい、C96で応戦する。
タロスはスチール棚の陰から陰へと移動を素早く繰り返し、こちらに絶え間無く銃弾を送って来る。図体に似合わず、敏捷というのは、タロスも「ブルドックおばさん」スキュラもおんなじなのだ。
まあ倉庫のこの広さで手榴弾は使えまい。やるとしたらあるだけ放り込んで自分は逃げるというやつだが、「楽に死なせる」気は無い以上、それはよっぽどあっちが煮詰まってからやる、最後の手段と考えるべきだ。どうだおちゃびー。ちゃんと語り手務まってるだろ。くっそーまた派手に撃って来やがった。トカレフの分際で。
大体トカレフなんてのはね。ソ連のF・V・トカレフっておっさんが、世界中の軍用銃のいいとこ取り、寄せ集めでこしらえたって代物でさ。生産性の向上、工具無しの分解を可能にする為、部品点数と組立工数をぎりぎり削減したあげく、安全装置まで外しちゃったっていうとんでもない銃なのさ。だから外観やメカニズムはニケ様御愛用のコルト・ガバメントの盗作みたいなもんだし、中国産トカレフなんてのは日本の暴力団御愛用で、私もこれまで何度となくやり合ったもんだ、この糞銃とは。トカレフのくせに生意気だ。ま、今じゃ後継のマカロフが主流だけどさ。おっと、ついやっちゃうな、あさっての方向。銃撃戦に集中しなくちゃ。
双方装弾の為に銃声がしばし途絶え、私はこの機会に尋ねた。
「ちょっと訊いておきたいんだけどさ。瑞谷先生の御両親を殺ったの、もしかして、アンタ?」
「だからどうした」
スチール棚の陰から陰気な男が答えた。だからどうしたとは何だっ。私は怒りに声を震わせる。
「······あー、もうそれだけで、生かしておく訳、いかないから」
「それはこっちの台詞だ、小娘がっ」
またしばらく銃弾の応酬が続く。で、次の装弾タイムになった時、あいつが信じられないくらいふざけた事をぬかしやがったのだ。
「だがなカサンドラ。お前あと二、三年したら、いい女になるだろう。俺のものになるんだったら、許してやってもいいんだぜ」
げ。
「やなこった。犬の糞でも舐めてやがれ。この蛆虫の油虫の銀蝿野郎ッ」
私と奴はしばし無言で激しく撃ち合い続けた。別に合わせた訳じゃないんだけど、それぞれの得物に装弾するタイミングがたまたま何度か一致し、そのたびに激しい罵倒合戦になったのだ。なら相手が装弾してる瞬間を狙えばと思うだろうけど、お互いプロだから装弾も瞬間芸、今だと思って飛び出したら蜂の巣になるだけなのだ。
ところでモーゼル(現在はマウザーと発音すら方が近いそうな)の弾丸装填は、小銃のように装弾子を用いて、通常の拳銃の弾倉交換とは反対に、銃の上の方から行なわれる。マガジンが空になると、ボルトがホールドオープン、つまり後ろに突き出た状態になる。マガジンの上のエジェクションポート後方のスリットに、十発ワンセットの専用クリップを差し込み、弾丸のみをガチャコンとマガジンに装填するのである。このへんがまあ、クリップそのものが小銃でもほぼ使われなくなった上に、現在のオートマチック拳銃はほとんど全て弾倉交換方式だから、古臭いと言われても仕方が無いんだけど、ここにまたたまんない味があるんじゃないのさっ。そもそもこの銃が開発された当初、どうしてこの方式に開発者がこだわったかと言うと──いかん。悪い癖がまた出てしまった。あ。あいつが何かつまんねー事ぬかしてやがる。
「俺を舐めるな、小娘がっ」
「誰が舐めるか、汚ならしいっ」
「へっへっへっ、そっちの意味でなら、じき嫌になる程舐めさせてやるぜェ、この俺様の××な×××で××××の×××をよォ」
「うげーっ、やめろ、反吐が出る。このうすらボケ。フランケンシュタインの怪物野郎。てめーなんかバ×ゴンに喰われちまえ。海底火山の噴火に呑まれりゃいいんだ」
「何を訳の判んねえ事ぬかしてやがる」
「人を喰ってる俺様に何を言っても無駄だぜくらいの気の効いた応じ方を少しはしろよこの糞バカタレの朴念仁がッ。これだから呑む打つ買うしか趣味を持たない奴は嫌いなんだ!」
「あーそういやおめェの渾名は女ヲタだったよなァ」
「うるさいよこの唐変木っ。と言ったってアンタのボスみたく露骨な古参ヲタ親父も最悪だ。ったくどいつもこいつも頭に来る奴ばっかだ死ねーッ!!」
私はしばし怒りに我を忘れて撃ちまくった。まあこんな調子だからエキセントリック美貴なんてあいつに言われちゃうんだな。
そのうちトカレフがタマ切れになったらしいタロスは、思った通り、棚に前もって隠してあったショットガンを引き出し、ぶっ放し始めた。
わ。あれってウィンチェスターM1887じゃんか。わざわざ珍しいレバーアクション式のって、アイツ完全にター×ネーター気取りでやんの。ふざけやがって。プレス機で挟んでぺしゃんこにして、溶鉱炉にぶち込んでやる。うう。しかし。こんな可憐な乙女に向かって、散弾ぶち込み続けるなんて、一体どんな神経してやがるんだ。ひとでなしめーッ。
バリケードの木箱に散弾が弾け、破片が飛び散り、撃ち返すのが難しい。おまけにじりじりと距離を詰めて来た。この調子じゃバリケードも持たなくなるぞ。くっそー卑怯者めっ。これはヤバい。
大体アイツの事はニケ様や西村のおじさんから聞いてて良く知ってる。二人共、ほんっとに嫌ーな顔をして吐き捨ててた。
「ゲス野郎」って。
「だが油断するなよ」
「根性最悪だが、腕は立つ」
アイツはさっきも触れた通り、海上自衛軍陸戦隊教官だった男で、その新兵しごきの凄まじさたるや、何人が除隊に追い込まれ、また自ら海に身を投じる事になったか。もちろん軍上層部も問題視してはいたが、生憎この男「有能」だったのである。
つまるところ、人望ゼロ、誰からも慕われず、ひたすら恐れられ、嫌われながらも、結果だけを見るならば、率いたチームはことごとく上位入賞、全国大会進出、そして優勝といった具合、実績抜群、誰にも文句は言わせねェといった、典型的な実力派鬼コーチ男だったのである。
これって「あの映画」のカーボーイハットの鬼教官そのものだね。でもあのおっさん、役者じゃなくて、本物のアメリカ海兵隊の教官で、初め映画の監修役だったのが、いっそ本物にやらせちまえと、まあそれで、凄まじい事になった訳で。あの映画を佳代と由美に私の部屋で初めて観せた時、二人共ただもーぼーぜんで、
「姐御はこんなんしなかったぞー」
「おねーちゃん厳しくても優しいもん」
私は嘆息して言ったのだ。
「まあこの本物の教官のおっさんも、これ地でやってる訳だろ。よく今まで命あったよなー」
映画じゃトイレで殺されちゃうんだよね、「ニコニコデブ」に。
んでまあ、今ショットガンで私を撃ちまくってるこのおっさんにも、おんなじような運命が待ち受けていた。
しごきに耐えかねた三人の新兵が、ある晩バット片手に闇討ちを仕掛けたんだよね、飲み屋帰りのおっさんに。
おっさんは無言のまま、素手であっという間に返り討ち。ここは映画と逆。でもやり過ぎた。二人は再起不能の重傷。一人は首の骨を折られて即死。
これはさすがに大問題となり、報道され、世間からも叩かれた。軍法会議にかけられたおっさんは、平然と正当防衛を主張。まあ三人がかりの闇討ちは事実だから、これはある程度認められたけど、やはり過剰防衛という訳で、これまでの「功績」を鑑み、不名誉除隊はかろうじて免れ、依願免職って事に落ち着いた。
それから後の事はもうお定まり。日本全国の港町を根城とする暴力団の間で、各地を渡り歩く伝説の用心棒「青銅の巨人」(これは当時からの渾名だった)を知らぬ者はいなかった。抗争になりかけるたびに「青くてでかいのを呼ぶぞっ」っておどしただけで相手は手を上げたってホントかしら。それじゃガキのケンカだよ。で、その青くてでかいのが流れ着いた先というのがここでございましたという訳で、今私は苦戦中です。トホホ。
助けは来ない。一人でなんとかしなくちゃいけないなあ。びーびーもめっちもニケ様も、必死に戦ってる最中だし。早く瑞谷先生助けに行かなくちゃなんないのに。このでかぶつどうやって倒そう。うわー。ショットガンの乱射がますます迫って来た。撃ってすぐ棚に隠れる。撃ち返すタイミングが取れない。でかいくせしてほんと素早い。本来こっちがああするべきだったのに。しくじった。くっそー、籠城しちゃったよ。どうしよう。
オリジナルは確か、くるぶしに青銅の釘が刺さってて、それを引っこ抜かれて全身の血が抜けてしまい、スクラップと化したそうだけど、大昔の人形アニメの映画でも、そうやって退治──って使えんなこりゃ。
いや待てよ。これは心理戦だ。どうすればアイツを棚の陰から引っ張り出して、確実に仕留められるかを考えろ。ニケ様とおじさんがなぜアイツを「ゲス野郎」と吐き捨てたのか。
そうだ。アイツは本能的に弱い者いじめが大好きなんだ。
教官時代は新兵いびりが生き甲斐だった。教官として有能だったのはたまたまの事で、人格とは何の関係も無い。新兵に対する愛情なんて、全く無かった。いじめの対象に過ぎなかった。その新兵達に闇討ちされ、アイツは逆上したんだ。
自分の「教え子」に対して何のためらいも無く、いきなり襲って来たチンピラを扱うように、殺人的な技と腕力を平然と振るい、一人を殺し、二人を再起不能の障害者にして、恥じる事が無かった。つまりアイツは「生意気な奴」が大嫌いなのだ。この俺様に逆らうとは何事だ、新兵の分際で、と。
「相手が新兵か、チンピラか、暗くて良く判らなかった」
などと軍法会議では弁明していたが、夜戦の教習もやってた教官殿が、判らなかった筈無いだろが。嘘つきめ。ニケ様とおじさんには、かつて同じ組織に属していたあの男のそういう冷酷さが、やりきれなかったのだ。新兵に、後輩に、ひとかけらの愛情も思いやりも持つ事が無かった「ゲス野郎」。
そうだ。あの映画だ。アイツもあれは教官時代に観ている筈だ、「仕事の参考」の為に。今までの悪口合戦の比ではない、あの教官殿の卑語まみれの罵詈雑言をそのまんま、「生意気な小娘」からぶつけられた時、この唐変木がどんな反応を示すか、試してみる価値はある。幸い(げーっ)アイツは女としての私に関心があるようだから(ま、男ならとーぜんだけどさっ)、一応こうすりゃ話を聞こうとするだろ。
私はモーゼルの銃身先端に白いハンカチを結び付け、頭上でぱたぱた振ってみせた。頭の中ではあの映画の教官殿の「名台詞」を猛スピードで整理しながら。音声再現つまり生の英語でも可能だけど、それじゃアイツには効かないだろ。だから字幕版だ。字幕再生。
銃声がやんだ。
アイツはさすがに油断はせず、私の魂胆を見極めようと、棚の陰から慎重に、こちらの様子をうかがっている。そして口を開いた。
「何だ、降参か? 俺の女になる決心がついたのか。よしよし、悪いようにはしないぜ。ボスにはちょっと、叱ってもらうがな。まずその物騒な二丁の銃を──」
「おい聞けよ亀公」
私はそう言い放つと、すっと息を吸い込み、某テレビ司会者おばさん真っ青の猛烈なスピードでもって、カーボーイハットの教官殿の「名台詞」をまくし立てた。以下、伏せ字無しなのでよろしくっ。
「蛆虫! 地球で最下等の生命体! 貴様は人間ではない! 両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない! 判ったか蛆虫! アカの手先のおフェラ豚め! ぶっ殺されたいか! 頭がマンコするまでシゴいてやる! ケツの穴でミルクを飲むまでシゴき倒す! 腐れマラ! クソガキが! 貴様だろ臆病マラは! クソが! 勇気あるコメディアン! おふざけ二等兵! 帰って妹をファックしろ! スキン小僧が! じっくり可愛がってやる! 首切ってクソ流し込むぞ! まるでそびえ立つクソだ! パパの精液がシーツのシミになり、ママの割れ目に残ったカスがお前だ! どこの穴で育った! おフェラ豚! カマを掘るだけ掘って相手のマスかき手伝う外交儀礼も無い奴! お前を見たら嫌になる! 現代美術の醜さだ! 名前はデブか!? 貴様も吸うんだろ! ホースでゴルフボールを吸い込む口だ! ニコニコデブ! 気色悪い笑みを早く消せ! 早く顔面に伝えろ! デブ二等兵! 三秒やる、三秒だ、間抜け! アホ面を続けるなら、目玉抉って頭蓋骨マンコしてやる! ワン、ツー、スリーッ!!」
「がお」
×ジラよろしく一声吠えると、ウィンチェスターの銃口をこちらに突き出し、末次亀人元教官殿が、怒りに全身わななかせながら、棚の陰から飛び出して、生意気な小娘の顔面を、散弾の至近発射で粉砕せんと、突進を開始したのであった。
まさかこんなにあっさり引っかかるとは思わなかった。
私は何のためらいも無く、ハンカチを外したモーゼルを、迫り来る「青銅の巨人」の額に狙いをつけ、発射した。
巨人の狭い額にポツンと赤い穴が開き、銃弾は頭蓋骨を貫通して、脳髄を破壊したにもかかわらず、その突進の勢いは衰えなかった。私はバリケードの陰から思い切り跳んで、タロスの頭上で一回転し、その背後に見事着地した。
同時にタロスはバリケードに激突、ウィンチェスターは暴発、既に死体となっているその巨体は、大音響と共に木箱の山を崩壊させ、壁際に積まれたダンボールその他を巻き込んで、倉庫の隅に自らの墓を築き上げたのであった。あーあ、倉庫係のお爺さん、ごめんねー。
でも先生。とりあえず、御両親の仇、実行犯は、討ち取りました。
さ、早く先生助けに行かなくちゃ。他の三人も気になるけど、それぞれの格闘中に連絡なんか入れて、万が一それで気が散って負けちゃったりしたら大変だから、前もってそれは慎むよう、打ち合わせていたんだ。とにかく、集合予定の場所に向かおう。みんな頑張って。
映画「フルメタル・ジャケット」より、原田真人氏の字幕翻訳を引用させて頂きました。
次回、見た目小学生対怪獣おばさん、ナイフ対決でございます。




