選考
ネオンの明かりが弱まり、夕闇が訪れる中、ヒトミは日々の義務を終え、寮の木の扉を静かに開けた。
シャワールームの扉を押し開けると、湯気が彼女を迎え入れる。冷たい水の下で、一日の疲れや考えを一つ一つ洗い流していった。水の音だけが耳を打つ中、ヒトミの心の奥に眠っていた記憶が鮮明に現れた。
それは、ある夢の中の謎めいた女性。彼女が掌に宿していた、宇宙の謎や人類の歴史が凝縮されたかのような一粒の種子。その意味を、この瞬間理解できるかもしれないと感じた時、突如として大きな声が響き渡った。
「シスターが来るよ!」その声に、寮中がざわついた。
「またか、今週に入ってもう二度目だよね?」ヒトミは驚きの中で、タオルで急いで水分を払い、速やかに着替えた。頭に巻いたタオルの上から髪を押さえながら、彼女は広間へと足を運んだ。
そして目の前には、言われていた通り、シスターの姿があった。
暗くなりかけた薄明かりの中、姿勢を一切崩さない女性が、生徒たちの前に堂々と立っていた。彼女の背筋はまるで堅い竹のように真っ直ぐで、その気品ある姿は見る者全てを引きつけた。
「皆さん、今夜は特別な実戦が行われます。その名も、『ミッション・コクーン』。参加する者たちの名前を呼びます。呼ばれた者は直ちにエントリーポットに向かい、詳しい指示を受けてください」
その言葉に、寮の空気は一層引き締まった。生徒たちの瞳には興奮と期待が踊っている。それもそのはず、この瞬間を待ち望んでいたのだ。すべての生徒が自分自身を信じ、『インヴィトロ・ヘブン』の繁栄のために貢献するチャンスを求めていた。
神聖なる静けさの中、シスターが手に持ったボードに瞳を落とし、深く息を吸い込む。その瞬間、全ての生徒の胸の鼓動が一つになったかのように感じられた。
「アイリス・デイビス」
その名前を受けて、会場は瞬く間に拍手の渦となった。
「やっぱり、アイリスが選ばれると思ったわ」
「前回のミッションも、彼女がいなければ……」という声が至る所から聞こえてきた。
ヒトミの目は、その名声を浴びるアイリスの背中を追っていた。親友の彼女の成功を心から祝福している一方で、自分の未熟さに押しつぶされそうになる気持ちとのせめぎ合いがあった。
シスターが再び声を上げる。
「続いて…」
囁きや予測が交差する中で、シスターの声が新たな名前を告げた。
「ミランダ・クラーク」
再び渦巻く歓声。会場内の興奮はピークに達した。
「ついにミランダが選ばれたのね!」
「彼女の能力は、これまでの成果だけで評価されるべき!」との声が高まる中、ある生徒の口から予想外の言葉が漏れる。
「それにしても、ヒトミはいつになったら…」
「ちょっと、ほらあそこ」ヒトミが近くいることに気づき、友人の発言を制すものもいる。
広間の隅に近い場所では、数人のやじ馬たちが陰口混じりにヒトミの話題を上げていた。彼女らの興奮した様子が遠くからも感じられ、彼女の胸の中で心が沈んでいった。
「これで、私だけが残されたのか...」ヒトミはその場を離れ、孤独を感じながら自分の部屋へと向かおうとした。と、その時。
「最後に、ヒトミ・ブラウン」
その言葉が響くと、時間が止まったかのような静寂が広間を覆った。振り返るヒトミの目には、期待、驚き、慈しみ...様々な感情を持つ多くの目が焦点を合わせていた。
シスターは真剣な眼差しを向け、隣に立つミランダは緊張を隠せない表情をしていた。アイリスの目には、甘く儚げな涙が滲んでいた。
「よくやった、ヒトミ!」言葉を発したのは明るいメガナだった。すぐ後に、ピクシーが飛び跳ねながら「ついに実戦デビューだね!」とヒトミを抱きしめた。
次第に他の生徒たちも彼女の元へと集まり、最後の選ばれし者としてヒトミを祝福した。
彼女は微笑みを浮かべながら、シスターやアイリス、そしてミランダのもとへと足を運び、シスターの言葉を待った。
「さあ、三人とも、エントリーポットへ向かいましょう」
4人は寮をあとにしてエントリーポットに向かった。
前回は、マイケル・クライトンの『スフィア』について、少し話したのですが、これについてちょっと視点を変えてお話をします。
元々の私の課題としてあったのが、SF小説を読んでいる人が周りにいないということでした。
これ、結構問題なんですよね。
というのも、私としても多くの方に読んでいただきたいのですが、そもそもSFというジャンルがウェブ小説界隈だと非常にパイが少ない。
これにはいろんな原因が考えられます。
例えば、今一番ホットなジャンルは異世界転生ものを考えてみます。
ディマンドサイドで考えると、日本社会の閉塞感みたいなものが、異世界で無双する主人公に多くの読者が刺激を受ける。
サプライサイドで考えると、設定や世界観に制約が少ない為、初心者でも書きやすく、多くの投稿が行われる。
上記の理由で異世界転生は非常に人気を博したジャンルであるといえます。
対して、SFはというと、空想をなるだけ現実に見せるという制約上、あまり無双しすぎると現実感がなくなる。(私自身はそんなことないよと言いたいのですが)印象として、書くのが難しそうなので、執筆する人も増えない。
ただですね、ジャンルはあくまでもジャンルであって、本当によいストーリーの前ではジャンルは関係ないと思っています。
ジャンルが着ている服だとしたら、ストーリーは人そのものということです。
ある程度、ファッションでその人となりがわかるという反面、本質的なものは人そのものにあるように、ジャンルもつかみやすさやランキングといった形式上なものだけで、本来的な面白さはストーリーにあると思っています。
ちゃんと面白い作品を書けば、ジャンルとして下火なものであっても、見てくれるということです。
つまり何が言いたいかというと、
面白いと思ってくれたら、是非友達に紹介してください(切実)