脱走計画
ヒトミは寮に戻り、すぐにシャワーを浴びた。その日の肉体と精神の疲れを水とともに洗い流し、次第に頭の中がクリアになっていった。シャワーの後、身体と髪の水滴をバスタオルで拭き取り、寝間着に身を包んだ。自室に戻ると、ベッドに深く沈むようにして寝転んだ。外見上は静かに休むように見えたが、ヒトミの頭の中は活発に動き、新たな策略を練り始めていた。
彼女が胸に秘めていたのは、「インヴィトロ・ヘブンを脱走する」という計画であった。この場所、インヴィトロ・ヘブンが語る真実には隠された嘘が潜んでいると感じていた。受けた教育や訓練、すべてが真実かどうか疑念を抱いていたのだ。インヴィトロ・ヘブンの示す“鬼”の存在への解釈に対して、ヒトミは自身の目で真実を確かめねばと焦燥を感じていた。その背景には、過去のある任務で目撃した光景があった。黒いスーツの少女が、無邪気な子供とその母親を冷酷に撃ち抜く場面。あの時の真実を知りたいという願望。そしてアイリスが何故命を落とさざるを得なかったのかが、その真実によって説明されうるという切望がヒトミの心に渦巻いていた。
この脱走計画には複数の検討すべき論点が存在する。主に居住区内、施設内、そして地上という3つの場面での論点に分かれるが、最も優先的に考慮すべきは居住区内と施設内である。第一の問題は、ヒトミたちがどのように居住区を脱出し、施設内に進入するかである。次に、施設をどのように抜け出して地上へと到達するかという点だ。これらは実質的に「居住区内と施設内のどのような監視体制が敷かれているのか」という論点に落とし込むことができる。
監視体制は大きく無人監視と有人監視に分けられる。それぞれの点を検証する仮説を、ヒトミは頭の中で整理していた。
「無人監視の部分で、居住区内の監視カメラは全216個の位置を既に把握している。次に確認するのは、一定時間カメラに映らない場合に、アラートが出るかどうか。居住区から施設内への移動ではセキュリティカードが要るけれど、センサーについても検証が求められる。一方、有人監視の方は、スーツを着ていれば、私の隠密スキルを駆使することで適切に対処できるだろう。そのため、まずはスーツの調達する必要がある」
「よし! 明日から行動開始だ」と心の中で高揚するヒトミ。それと同時に冷静に自分の気持ちの高まりを捉えている自分が共存していることを認識した。この冷静な部分が、高ぶる感情を抑え、睡眠の重要性を認識し、すぐに眠りにつくことを決めた。
ヒトミはまた、止まらない不快な夢を見た。夢の中、あの男の声が響く。
「俺だ、フォボスだ。プロジェクト・ルミナスの捕獲地点の詳細を伝える。施設前のA6番出口で待機しろ。別動隊が運んできたターゲットをすぐに移動させろ。以上だ」
無線の切れる音がした後、男は低く笑った。
「フフ、30時間後には彼女は我々のものだ」
夢の中、ヒトミは強い不安を感じる。さらに、どこかの誰かも同じような不安を抱えていることを察知する。男の高笑いがピークに達すると、ヒトミは急に目を覚ました。額からは冷たい汗が流れていた。
ヒトミは考えた。「前回の夢からちょうど24時間。今の夢も、そのタイミングで見た。時間がない、実行を早めねば」
過去に見た夢が現実の出来事を予告していると感じていたヒトミ。特に、夢の中に現れた具体的な種子が実際に存在したことから、その実感は確信へと変わっていた。今回の夢がヒトミ自身に関わるものかは定かではないが、夢の中の不穏な空気は、確実に現実の出来事を暗示しているように思えた。最低限の検証をして、なるべく早く計画を実行に移す必要があると悟った。
皆さんは悪夢を見たことがありますか?子供の時はありますよね?大人になってから見たことはありますか?
私はあります。あまり夢は見ないのですが、この話を執筆した年に珍しく2つの衝撃的な夢を見ました。その一つが、今回お話する悪夢でした。
悪夢という表現だとあまりしっくりこないのですが、現実のものとして感じられる怖い夢みたいなものですね。ある種の宗教体験、神秘体験に近いです。これを経験したのは、脱毛サロンで笑気麻酔をしている時です。キャー恥ずかしい(/ω\)
なぜだかその日は笑気麻酔の効きがめちゃくちゃよくて、人生で初めて予定のない気絶をしました。気絶中に見た夢が、非常に神秘的で宗教的だったのです。
夢の中で私はいつものように日常を過ごしています。そしてふとしたタイミングで、誰かに肩をたたかれるんです。振り返るとそこには、巨大な手が顔になった黒づくめの男が立っています。すると急にあたりが真っ暗になり、巨大な人差し指を立てた手が出現し、時計のように周り出します。そして、手は徐々に回転を速め、最終的には超高速で回り始めます。そしてある一定を過ぎると、逆回りに回転しているように見えるのです。わかりますかね、自転車とか自動車のタイヤをずっと見てると、ある時から逆回りしてみるように見えるやつ。(調べたら、この現象には「ストロボ効果」、「ワゴンホイール効果」という名称があるみたいです。)
しばらくすると、私は夢から覚めて、またいつもの日常に戻ります。そして、結構楽しく日常を過ごしていると、また、あの男に肩をたたかれ、回転する手を見る羽目になるのです。
これを永遠に繰り返すうちに肩をたたかれるのがとっても怖くなります。心の中で「肩をたたかないで!」、「やめて!」、「やめて!」と叫ぶものの、その甲斐なくまた肩を叩かれては、夢からたたき起こされ、また同じ日常に戻っていくのです。
永遠と思えるような回数でこれを繰り返され、ある時、また肩を叩かれます。肩を叩かれるのは本当に怖いので、やめてくれ!って思います。でも、なんだか今回の感覚は今までとちょっと違うんです。声がします。「大丈夫ですか?」って。この時、意識は混濁していて、「もう怖いからやめてくれよ!」と思ってます。徐々に意識が戻ってくると、自分が処置室のベッドの上に寝かされていることに気づきます。そして、思い出すのです。「あ、私いま、脱毛に来ていたんだ!」って。
施術師さんに、「大丈夫ですか?」と聞かれて、「すみません、飛んでました。大丈夫です。」と伝えると、笑気麻酔の濃度を下げて施術が続けられました。施術後に施術師さんに「どのくらい意識が飛んでましたか?」と聞いてみると、「30秒くらいですかね。」と言われ、永遠に感じたあの夢は、この世界ではたったの30秒だけだったのかと、驚きました。
私にとって、この経験は、2つの大きな意味がありました。
1つは、「唯識論」とか「空の思想」など、座学では勉強したこともあり、なんとなく言葉では理解をしていたのですが、それが体験として刻まれたことです。あの夢を見た日は、自分が自分ではない感覚、この世界が虚像に過ぎない可能性があるという感覚が強くありました。後書きを書いている今は、だいぶその感覚は弱まりましたが、あれが俗に言うフローとか、ゾーンとか、幽体離脱とか、いろんな表現をされていると思いますが、神秘体験なのかなと思いました。確かにこの足で歩いているという感覚があるにも関わらず、そこに自分がいない感覚があったんですよね。不思議。
2つ目は、なんであの夢を怖いと思ったのか?と考えた時に、一つのいい回答にたどり着いたことです。なぜ怖いと思うのか?それは今私が生きている世界が夢だと困るからということです。つまり、どういうことかというと、案外今の世界で生きている私に満足してるってことなんですよね。恐怖は人間において最も本能的なことだと思います。なので、私の今の人生の実存性を否定されることに大きな恐怖を感じたということです。つまり、本能的に私は私の人生を肯定しているってことなんだなと、自分の人生観みたいなものを再認識することができました。
いやー、本当に怖かったですね。夢なんだけどすごい現実的に感じたんですよね。あの男に肩を叩かれた感覚もちゃんとあったんです。
最終的に何が言いたいかといいますと、ヒトミも、現実だと思えるような夢を見たということはとっても怖い体験をしたんだと思います。
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