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開花

今日も一限目は「素体防衛術(そたいぼうえいじゅつ)」の授業だ。カリキュラムが進むにつれて、基礎の空手、柔道、ボクシング、ムエタイなどの近代格闘技や古武道をはじめとした前近代の格闘技の習得が完了した後、暗殺拳のような秘伝の拳法を学び始めている。


実践練習では二人一組となり、ミランダとペアを組むようになった。特に会話はなく、黙々とお互いの技を磨き合っている。


二限目の人類史の授業では、一番前の席に座りシスターの声に耳を傾けた。その後の鬼学の授業も、ヒトミは集中して取り組んだ。


シスターをはじめとした施設のスタッフたちは、ヒトミがインヴィトロ・ヘブンでの課題をこなす様子を逆に心配していた。


実は、これまでよりも真面目に授業を受ける明確な理由がヒトミにはあった。ヒトミのこれまでの日常と新しい日常の違いの一つは、ここに隠されている。


それは、全ての授業が終わった後、必ず植物園に寄るルーティーンを持つようになったことだ。シスターはヒトミのメンタルヘルスを考慮し、動植物と触れ合う時間が必要と判断し、それについては特に何も言わなかった。


ヒトミもそのことを理解し、あえて活用してこのルーティーンを維持している。

ただ、植物園に行くこと自体はヒトミにとってそれほど重要ではない。それは表面的な行動に過ぎず、本質的な目的は植物園で何をするかにある。


植物園の入り口に着くと、いつものようにあのウサギがヒトミのもとへやってくる。ヒトミとウサギは植物園の東側からゆっくりと散歩を始めた。初めは2人だけの静かな散歩だったが、その静寂はすぐに破られる。ツツジの花の陰から、輝く目をしたリスが現れ、彼らの足元でちょろちょろと動き回った。空からは色とりどりの小鳥たちが舞い降り、木の枝やヒトミの肩にとまった。


進むにつれて、様々な動物たちが次々と彼らの後ろに続いてくる。一匹の子猫がウサギの尾にじゃれつき、その後ろでは羽音を立てる蝶々が舞っていた。ヒトミはこの小さな動物たちのパレードに微笑み、自然とその中心となっていた。


この植物園の中で、ヒトミはまるで森の女王のよう。彼女の周りに集まる動物たちは、彼女の優しいオーラに引き寄せられていたのだ。


途中、西側に進むか、中央側に寄り道するかを選ぶ分かれ道に差し掛かる。そこでヒトミはいつも右に折れて、中央側への寄り道を選ぶ。途中、ハナミズキやユキヤナギの花たちが彼女を迎え入れる。


この道を通りながら、花たちの状態を観察することこそがヒトミの真の目的であり、それを悟られないように今日も多くの道を歩いてきた。


この道を歩いていると、風が吹き始めた。花たちが揺れ、木々がきしむ中、ヒトミの眼前に一つの花びらが舞い降りる。それは、桃色の絹のような質感を持つ花びらで、直径1cmにも満たない繊細な大きさをしていた。それぞれの花びらは、陽光に透かされているかのように柔らかな光を放っていた。突如として、花びらが空から舞い降り、無数に舞い散る姿はまるで桃色の雪のよう。ヒトミの周りには、この幻想的な花吹雪が舞い、彼女を優しく、そして情緒的に包み込んでいく。瞬きの間に、ヒトミは桃色の世界に囲まれ、時が止まったかのような、夢見るような瞬間となった。


この花をヒトミは知っている。それは春を告げる花で、接ぎ木により繁殖することが可能だったものの、今では絶滅したと考えられている。その花の名前は「ソメイヨシノ」。


「やっぱり」。ヒトミの心に浮かんでいた一つの疑問への答えが、今、明確になった。

「インヴィトロ・ヘブンは噓をついている」


ヒトミはこの答え、あるいはこれを真実と呼べるのかもしれない。ヒトミは、この真実にたどり着いた。しかし、それが彼女にとって良かったのか、それともそうではないのか、はっきりとはわからない。施設で疑問を持たず、安心して生涯を過ごせた方が、安全で安定した生活が手に入るかもしれないと思える瞬間もある。だが、ヒトミは真実に気づいてしまった。時として、真実は、痛みや困難を伴うことがある。ヒトミはこの真実との対峙により、大きな試練を前にすることとなる。だが、この試練に挑戦できるものは、真の自由を手にしたものだけなのだ。ヒトミは今、心の奥底で自由を感じているのだ。この自由なヒトミが起こす行動や、それによって生じる諸問題が、今後どうなっていくのか、一緒に見ていこうではないか。

遂に種子の謎が解けましたね!いやー2話の『少女』で書いてから、答え合わせまでに15話要しましたね。期間にして、4か月弱くらい?よくここまで耐えてくれました。ありがとうございます。


「ソメイヨシノはクローン」であるということで有名ではありますが、では「どうやってクローニングしてるの?」といわれると、知らない方も多いのではないでしょうか?


本編でも触れているように「接ぎ木」をしてクローニングしているんですね。接ぎ木というのはどうやっているかというと、既に根を張っている木(台木(だいぎ))に、増やしたい木(穂木(ほぎ))をくっつけるのです。台木はカッターか何かで、穂木をくっつける部分を切断します。穂木はどこかの桜の木から枝を切断して取ってきます。この2つをくっつけて固定することで、あら不思議、台木から栄養をもらって、穂木が育っていくのです。


サクランボの木とか果物の木もこういった手法が取られていますね。ちなみに、私が接ぎ木を詳しく知るきっかけになったのは、月刊かがくのともに掲載されていた松岡真澄『さくらんぼ』です。いやー絵本って本当に勉強になることが多いんですよね。


実は私、この小説を書き始める前にいくつか絵本を描こうとしていました。そして、いったんその熱は眠ってしまったのですが、いつか覚めることがあると思います。それくらい、いつか書きたいんですよね。絵本。


その為にも、この小説の数字を伸ばす必要がありますので、もしよければ、いいねとブックマーク、感想、レビューをお待ちしております。

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