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会合

ホログラフィック技術による虚像の矢印が煌めきながら、ヒトミたちの前方を示す。それを目指して、彼女たちの足取りは着実に進んでいった。


アイリスが腕時計をチラッと見て、淡々と言った。「第二班からの報告はまだ来ていない。ターゲットはその部屋の中にいる可能性が高い」


矢印が指し示す先、薄暗い部屋の扉の前に立ち、ヒトミは突如として奇妙な映像が脳裏に浮かび上がるのを感じた。それは、まるでその部屋の中の出来事を覗き見ているかのようだった。


独特の雰囲気を持つ部屋の中心には、黒髪の美しき女性、背の高く堂々とした女性、そして無邪気な表情の幼い子供が、運命のように寄り添っていた。


黒髪の女性は、子供の黒々とした髪を優しく撫でながら、温かい微笑みをこぼす。

「...代ね。もう3歳なのね。大きくなったわね」


立派な背格好の女性は、感謝と尊敬のまなざしで言った。「あなたとカオリ博士のおかげよ。私たちが未来を手にすることができるのは、あなたたちの研究の成果だから」と答えた。


黒髪の女性は、子供の柔らかい頬をつつみ、まるで昔の自分を見つめるような瞳で尋ねた。「さっきの停電に驚いたのかしら?」と尋ねると、子供は小さく頷いた。「私も小さい頃は、突然の音や暗闇が苦手だったの。だから、君の気持ち、よくわかるわ」


ヒトミの心は、そのやりとりに触れることで温かくなっていった。


星明かりの下で、幼い子供が黒髪の女性の胸元に輝くペンダントに手を伸ばした。そのペンダントは夜の闇の中でも独自の輝きを放っていた。


「それ、気になるの?」女性が微笑みながら尋ねる。


子供の瞳に映るペンダントの輝きは神秘的だった。女性はそっとペンダントを首から外し、子供の掌の中に落とし入れると、優しく語り始めた。「この中には、私と母、そして妹の魂の絆が宿っているんだよ」子供は大事そうにペンダントを握りしめ、女性の温かい瞳を見つめた。


「...ミ、トミ、ヒトミ、ヒトミ!」アイリスの声が遠くから響いてきた。


ヒトミは瞬く間に現実へと引き戻され、その美しい緑色の瞳でアイリスを見つめた。「何、アイリス?」


「センサーによると、ターゲットのいる部屋に他にも何者かがいるみたい。どうするの?」アイリスの表情は冷静でありながら、少しの懸念が見受けられた。


ヒトミは一瞬の迷いの中で、アイリスに訊ねた。「あなたなら、どうする?」


アイリスは深く考え込み、そして答えた。「私が先頭を切って部屋に入る。ターゲットと他の者たちを一つひとつ分断していく。目標はターゲットを孤立させること。それが難しい場合は、ヒトミとミランダにサポートを求める。どうかな?」


その背後で、ミランダの鋭い瞳が二人を見詰めていた。彼女はヒトミの判断を静かに待っていた。


ヒトミはアイリスの提案をしっかりと受け止め、「いいと思う。行こう」と言いながら、アイリスの横で部屋のドアに近づいた。


アイリスは慎重にダイアルを操作し、それをカメレオンアイコンに合わせた。その瞬間、彼女のスーツは周囲の色彩とシームレスに一体化し、ほとんど目立たない存在に変わった。


アイリスは、そのスーツの能力を最大限に活かし、静かにドアを開けて部屋の中に足を踏み入れた。部屋の中心にいるターゲットと、彼の側にいる大型の鬼は彼女の存在に気づく気配すら見せなかった。しかし、小型の鬼だけは、彼女の気配を察知したように、ふとこちらを振り返った。


彼女たちは「シンクロ・ヴィジョンインターフェス」という革命的なデバイスを通じて、アイリスの瞳が捉える世界を直接、彼女たちのヘッドセットのディスプレイで共有していた。三人の心は、この緊迫した空気の中で一つとなっていた。


しかし、アイリスはその小型の鬼には気づかれていないことを確信し、さらに前進を続けた。その瞬間、小型の鬼が再びアイリスの方を向いて、その異様に変形した指をこちらに伸ばしてきた。


アイリスは即座にダイアルを元の位置に戻し、その動きとともに手元のマシンガンを取り出す。


ヒトミの頭には再び別の者の視界が流れ込んできた。


彼女の瞳の先に母親とその子供の姿があった。子供が無邪気に部屋の奥を指差す中、黒いスーツを纏った不穏な影が急接近。まるで2本の角を生やした鬼のようなその影は、目の前で子供を一瞬で倒した。母親が悲痛な叫びを上げながら子供のもとへ走ったが、彼女もまた倒れ、部屋は2人の血で満たされていった。


ヒトミの中で湧き上がるのは、悲しみと怒りだけだった。彼女の意識は、その感情の渦の中へと吸い込まれていった。


「ヒトミ、集中しろ!」ミランダの急な声と、彼女の手のひらがヒトミの頬を叩く感触に、彼女は現実に引き戻された。


ヒトミは戸惑いながらも部屋の奥へ進む。そして、アイリスの冷静な声が、水中からのように彼女の耳に響いた。「ヒトミ、ターゲットを見つけた。あとはあなたの出番よ」


しかし、ヒトミの心はまだ先ほどの光景に囚われていて、周囲の音や声が遠く感じられた。警報が鳴り響く中、ヒトミは混乱の中で、必死で現実の状況を理解しようと、あたりを見渡した。


大型と小型、二つの違ったサイズの鬼が、暗闇の中に横たわっている。しかしヒトミは、ただの鬼としてそれらの存在を無視することはできなかった。


「ヒトミ!目の前のターゲットを仕留めるのが先だろう!」遠くで、アイリスかミランダか判別できない声が響いた。だが、その声の主はヒトミにとって今の状況では二の次だった。


暗闇の中、ヒトミは小さな鬼の姿を発見した。その鬼は何やら手元に何か輝くものを持っており、その光は深い闇を切り裂くようにヒトミの目に飛び込んできた。


彼女は慎重に鬼に近づき、その手元の輝くものを手に取った。それを目の前で確認した瞬間、ヒトミの心の中には驚愕と悲しみの渦が巻き起こり、彼女の感情は混沌とした渦に飲み込まれていった。


突如、ミランダがヒトミの脇の白い銃を奪い、ヒトミを突き飛ばした。驚きのあまり、ヒトミの手からマシンガンが滑り落ちた。


「逡巡している暇はない!私が終わらせる!」ミランダの断固とした宣言。


その言葉がヒトミの心に深く刺さり、彼女はミランダの行動を止めようとしたが、その時、大型の鬼が不意に動き出した。その目的は、ヒトミの落としたマシンガン。


アイリスが瞬時にその危険を感じ取り、鬼とヒトミの間に立ちはだかった。銃声、そして彼女の身体が弾に打たれる音。彼女の口から紅い液体が滴り落ちた。


警報の不吉な音が部屋中に響き渡る中、アイリスを撃った鬼は、2発目の発砲を試みるものの、力尽きたかのように息絶え、静かに地面に横たわった。


ヒトミは、心からの悲しみと怒りを押し込め、アイリスの傷ついた体を優しく包み込んだ。この状況の中、何を伝えるべきか、どのように自らの過ちを受け入れるべきか。彼女の心の中は混乱の渦となっていた。


しかし、アイリスの静かな声が、その渦を静めた。「ヒトミ、私、少しミスをしてしまったみたい」


その言葉に、ヒトミの胸の痛みが和らぎ、「私がもっと気をつければ、もっと指示をしっかりして…アイリス、ごめんなさい」と涙ながらに謝罪した。


アイリスは微笑みながら、「ヒトミ、君が取り乱してる姿もなかなか見れないわね。でも心配しないで。私たちの任務は、きっと上手くいくわ」


ヒトミは縋るような気持ちで、「一緒に帰ろう、アイリス。最後まで諦めないで」と強く誓った。


しかし、アイリスは「ヒトミ、私には伝えたいことがあるの…」と静かに告げた。


ヒトミは、その瞬間、アイリスの命が風に吹かれるように消えていくことを悟った。だから、アイリスの最後の言葉を大切に耳にすることにした。


「いつも独りだった私を、あなたは一人の友として受け入れてくれた。ヒトミともっと多くの思い出を作りたかった…」


その言葉の途中で、アイリスの声は永遠の静寂へと消えていった。


ヒトミの心は、混乱と喪失の渦に飲み込まれていた。ミランダの目には冷徹な光が宿り、彼女がヒトミから奪い取った白銀の銃を確かな手元で目の前に向けた。怒りと悲しみの嵐がその顔に宿りながら、銃声が響くと同時に、闇が一瞬のうちにすべてを包み込んだ。


当初の予定では、鬼との激しい戦闘を描く予定でした。ただ、少し冗長になりすぎたのと、その後の展開を考えた際に、メリハリのない構成となることを嫌い、派手な演出をしないようにしました。


本編に出てくる銃の色は白銀しろがね色です。はくぎんではないです。色として用いる場合には、こちらの方がポピュラーかなと思ったのと、私の大好きな漫画へのリスペクトを込めてこちらの呼称にしました。


どの作品か当ててみてくださいね。

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