6.四日目の出来事
四日目の朝
広場に駆けつけると、チイの姿が見えた。
I「チイちゃん、無事だったのね!」
C「あっ、あいちゃんも無事でよかったです」
チイは青白い顔で返事をした。
間もなく、天から昨日の犠牲者を報告するお告げが流れてきた。
M『今は四日目の朝です。それでは、昨晩の犠牲者を報告します。昨晩、お亡くなりになったのは……、
ボスさんと、ヒミコさんです。
それでは、昼の討論に入ってください』
昨晩、チイちゃんの部屋で死者が出た……。
凍りつくような長い沈黙を撃ち破ったのは、フォックスであった。
F「では、私から弁明をいたしましょう。
昨晩、私の部屋から死者が出ました。ボスさんです。
彼は狂人でした。自殺をされたのです」
誰も口を挟まない。生きのこって広場にいる人物は、フォックス、チイ、グレイ、そして私の四人だけになってしまった。
F「同じく、同居部屋から死者を出されたチイさん。あなた、何か述べたいことがありますか?」
C「皆さん、信じてもらえないかもしれませんが、昨日いっしょだったヒミコさんは……、人狼でした!
そして、私は祈祷師です。私は襲いかかってきたヒミコさんをかえりうちにして殺しました」
チイがはっきりとした声で弁明した。
G「ちょっと待ってくださいね。ヒミコさんが狼の可能性ってあるんですか?」
I「大丈夫です。ヒミコさんが人狼である可能性はのこっています。
初日の夜にヒミコさんの部屋では死者が出ています。ドロシーさんを襲った狼がヒミコさんであったとすれば、昨晩のフォックスさんとの宿泊で、ヒミコさんはパスが一回できます」
F「あるいは、私が狼であれば、ヒミコさんはまだパスを一回も消費せずに、昨晩をむかえていたかもしれませんね。
おおっと、下らないことをいってしまいました。私は、狼ではなく、村人側の人間ですよ」
気取ったような口調でフォックスがつけ加えた。
G「のこったこの四人の中に、村人側は何人いるのだろう?」
I「チイちゃんにヒミコさんが殺されたということは……、人狼はのこりひとりになったことになりますね」
F「アイリスさん。チイさんの発言が真実であるという思いこみは、思わぬ落とし穴にはまることになりますよ!」
いつになく厳しい口調で、フォックスの忠告が飛んできた。
I「おっしゃるとおりです。気をつけます」
F「さて、皆さん。ここまで来ると純粋な推理で真相に辿り着くことも可能かもしれません。とにかく、偏見は一切排除して、疑いのない事実を積み重ねて、推論しなければなりません。
そして、私たちは、絶対的に信頼のおける重要な手がかりを各自が持っています。すなわち、それは……、自分自身の役割です!
この情報は、秘密の交信が許されている人狼同士を除いて、他人には知られない、自分だけの真相への手がかりなのです。
さあ、もう一度、自分の役割を考慮して、推理を組み立ててみてください。
ところで、昨晩、唯一死者が出なかった秋の間でのコメントを、まだ伺っていませんでしたね。アイリスさんとグレイさん、何かコメントがあればおっしゃってください」
I「はい、昨晩は平穏に何事もなかったです」
と私は気軽に答えた。
F「グレイさん、何かコメントは?」
フォックスがグレイに目を向けてうながすと、グレイがおもむろに返答をした。
G「昨晩、私はアイリスさんをブロックしました!
私は牧師です。そして、アイリスさんの正体は狼です!」
反射的に、私は叫んでいた。
I「待ってください。グレイさんは嘘をいっています。私は狼ではありません!」
C「そうです! あいちゃんが狼だなんて……」
チイが相槌を打った。
F「グレイさん、あなた本当にブロックしたのですか?」
確認をうながしたフォックスの顔面には、明らかな動揺の色が浮んでいた。
G「はい、申し上げたことは事実です」
グレイは素っ気なく答えた。
私は冷静になろうと努力していた。グレイの発言はもちろん嘘である。しかし、私にはその虚偽をフォックスとチイに証明することができない。
確かに、私は初日にフォックスと、翌日にチイと宿泊していて、それらの夜を何事もなく過ごしている。しかし、グレイの発言のために、三日連続で同居部屋から犠牲者を出していないにもかかわらず、私が狼である可能性をぬぐい去ることができなくなっているのだ。
虚偽をした張本人のグレイは必然的に人狼側の人物、すなわち人狼か狂人ということになろう。
人狼を退治することができる狩人たちが村に到着するのは明日の夕刻の投票後だ。それまでに、私は生きのこれるのだろうか?
M『時間です。会議は終了いたします。次に四日目の夕刻の投票に入ります。投票の順番は、グレイさん、フォックスさん、アイリスさん、チイさんに決まりました。それでは、グレイさんから、票を投じてください』
三日目の夜の犠牲者は以下のふたりである。
ボス(同居人はフォックス)、ヒミコ(同居人はチイ)
四日目の夕刻
順番にしたがって、グレイから投票がはじめられた。
G「アイリスさんに投票します」
あっさりとグレイはいった。
私は凍りついた。もしかして、この投票で私は殺されてしまうのか?
私は次の投票者のフォックスを見つめた。フォックスは長い間、考えこんでいた。
M『フォックスさん。あなたの番です。すみやかに投票してください』
F「……。
はい、私は……、グレイさんに投票します」
ようやく、フォックスが票を投じた。
いよいよ、私の投票の番である。このとき、私は何か異様な雰囲気を感じとっていた……。
何だろう? 何かが引っかかるんだけど……。
これから宣言する投票は、確実にこのゲームの勝敗を左右することになるだろう。ならば、私がとるべき最善の選択は?
私の思考は、深くて暗い海の底に向かって、ゆっくりと沈みこんでいった……。