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ネロスクードの隠れ里


午前中でほぼ体力を使い果たし、デロンと横になっているところで、母さんがお昼のために迎えにきた。


「えっテオ?大丈夫!?」

「大丈夫、慣れないことしてものすごく疲れただけ……」


駆け寄ってきてくれた母さんにそう返すのがやっとである。このまま寝かせるために家に連れ帰った方がいいのか、お昼を食べさせた方がいいのか、母さんが呟きながら迷っていると、ハクがここに昼食を持ってきてほしいと言った。


『テオへの昼食を持ってくるついでと言っては何だが、ワシにも何か持ってきてもらえるかの?アルベル』

「かしこまりました、ハク様」


そう言って母さんは家へと引き換えし、しばらくして、昼食やフルーツをバスケットに入れて持ってきてくれた。

「ありがとう、母さん」と、言って、どうにか体を起こした。

ハクが母さんに家に戻ってよいと言ったので、心配そうにしている母さんに手を振って見送り、小さなおにぎりを2つと、玉子焼きを食べて昼食を終える。おにぎり、急いで作ってくれたんだろうな。ごめんね、母さん。


「それで、この後は何かするのか?俺、結構へとへとだけど……」

『この国や里についての話でもするとするか。ずっと里のことも何も話しておらんかったからの。普通の5歳児に言っても分からなそうだったから、というのもあるがの。』




この隠れ里は"ネロスクード"というそうだ。マール王国最北部にある山の中腹にある里で、この国の王族、その側近、それから里の住民くらいしかこの里の場所を知らないらしい。

何故そんなことになっているのかと言えば、この隠れ里の住民は王族の情報部として動いていて、里の場所を知られると危険だというのが1点、この神社がハクにとって重要拠点だというのが1点だそうだ。


ふぅん、そしたらこれまで時々仕事でばばさまや母さんが外に出ていたけれど、王族からの情報収集依頼だったのかな。


「今日ばばさまが出かけたのも、情報部としての仕事?」

『まぁそうと言えばそうじゃな。おぬしの儀式が無事に終わったのを報告に行くと言っておったじゃろ?特に何もなければ明日帰ってくるじゃろうが、まぁ恐らく数日後じゃろうなぁ』


王都まで1日くらいで、何か言われればその間滞在して、その後戻ってくるって感じか。もっと王都は山から離れているとなんとなく思ってたけど、意外と王都は近いみたいだ。


「この神社は重要拠点て言ったけど、ハクとって家みたいな感じなのか?」

『家でもあるし、人で言うなら胃袋でもあるな』

「えっ……胃袋!?」

『別にとって食いやせんわ!信仰はワシにとってパワーでありエネルギーじゃ!それを回収するんじゃから、胃袋みたいなもんじゃろうが』


驚いて後ずさると、ハクに怒られた。胃袋って聞いたら反射的に食われるかと思って警戒するよね?俺悪くなくない?


『この里はもうずっとずぅっと前、この山中に暮らしておった民たちが、ワシのための社を作り、それに感動したワシが、この辺り一帯をワシの特別領域として定着させたところが発端じゃな。懐かしいのぉ』

「ハクは何かその民たちにしてやったのか?」

『その年は一際厳しかった冬じゃったかなぁ。「神さま、このままでは飢えと凍えで私たちの、村の子供たちがきっと春まで生きられないのです。どうかどうか、お救いください。」と毎日聞こえてくるようになっての。ちょいと様子を見てみたら、雪が例年よりひどく、ずっと吹雪いて山から降りられず、村からもとてもじゃないが出られず孤立した状態じゃった。多少の蓄えはもちろんあったものの、春までを考えると時間の問題じゃった。ここで助ければ良い信仰者になるかの、と思っての、助けることにしたんじゃ。』


ここで、なんと哀れな、と思わないところがハクだよなぁ……。


「具体的には何をしてやったんだ?」

『村とその周囲の雪を融かして、冬でも採れる山菜や果物が自生している場所までの雪を融かし、取りに行けるようにしたんじゃ。ワシ、慈悲深い神じゃろう?』

「それ自分で言うのな……。でも、雪を融かすって、ハクにできることなのか?」

『ワシ、神じゃし?』

「それで済ますな、気になるだろ!」

『まぁ、そうじゃな。この山をはじめ、この大陸の北部は最初に取り決めたワシの領域。特にこの山においては、ワシの神域も置いた大事な山じゃ。その山でワシが雪を融かすくらいできないワケないじゃろ?この山は温泉も湧く活火山。地熱を利用すれば、特定の領域だけ雪を融かすなぞ造作もないわい』


そう言ってハクはドヤ顔だ。なんでドヤ顔ってわかるかって?空気に出てるんだよ!空気に!


「つまり、地熱の熱をハクが特定の場所に集まるようにしたってこと?でもそんなことどうやって……」

『そこは神じゃし?次元が違うんじゃよ。信仰をエネルギーとして扱うワシが、それ以外の分かりやすい形になっておるエネルギーを扱えないハズもなかろう』


ニヤリとするハクを前に、なんだか疲れがどっと増した気がした。神サマ次元に該当する部分は考えない方がいい、考えるなってことか……。

まぁ、ハクが何やったのかは理解した。


「それで、その時助かった民たちが、神社を作ってくれたのか?」

『そうじゃ。今に比べれば小さなものじゃったが、社を作ってくれたのが嬉しくてのぉ、村とその周囲は雪が積もらんようにして、その辺りを特別領域として定着させることにしたんじゃ。そこから何年も経って今に至る。今では神社もこんなに立派になったし、近くに温泉も作ってくれたし、みな良く祈ってくれておるし、良かったと思っておるよ』


ハクは少し嬉しそうにそう言った。

読んでくださりありがとうございます。

冬でも、実をつける低木や、食べられる野草、木の芽などがあります。

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