魔術の特訓
『さて、それじゃあ始めるかの』
「なんか嬉しそうだな?」
ニッっと笑ったハクを見てそう言う。
『待ちわびておったからの。ここから能力を磨いていけば、我が御使いであるおぬしへの信仰が集まり、その結果ワシへの信仰も高まり、ワシらパワーアップ!となる予定じゃからな。先を思えばテンションも上がるというものじゃ』
皮算用してるってことね、はいはい。テンション上げていくのは大事ね、うん。でもそんなに急に変化を実感できるのかな。
「そんなに急に信仰は高まるものなのか?ここは地球より100倍の早さで時が進むんだろ?ということは、ここまで何千年、何万年単位で信仰を集め、高めてきたんじゃないのか?」
『そりゃ集めはしたがね。ちょっとご利益あるかも?くらいの神と、実際につながりをもって力をふるう者がいる神と、どちらが説得力があるかと問われれば、確実に後者じゃろ。
それに、この先大量に力が要ることが分かっておるから、これまでは使うエネルギー量を控えられるだけ控えたつもりじゃ。これからは、得られる信仰が増えるならば、控える量も少なくて済む。色々とワシも動けるようになるのぉ、楽しみじゃ』
今まではできるだけ動かずに、信仰によるパワーやらエネルギーやらを蓄えていたらしい。自分の使える力の量が増えるから喜んでいたのか、なるほど。
『名付けて、ワシの御使いはすごいぞ!計画、発動じゃあ!!』
「ネーミングは要検討だな……」
『まず今日は、魔術について進めてゆこう。程度の差はあれど、この国では大体の者たちが使うことができる。それなのに、守護神の御使いが使えないようでは格好もつかん。気を引き締めて、手早く習得できるよう励め。
魔術における基本属性は5つ。木、火、土、金、水じゃ。昨日も言ったかもしれんが、ワシが司るのは水じゃから、おぬしが適性あるのは水属性の魔術じゃな。』
「ハク先生、質問です」
『よろしい、言ってみよ』
「主にマンガの知識だけど、地球における西洋魔術では地水火風が基本属性となっている……と思う。地水火は対応するものがハクが今いった基本属性にあるけど、風がないだろ?風はどういう扱いなんだ?」
『風は基本属性ではないが、一応木の系列になるかのぉ。木が使えるようになれば風も少しは使えるようになるんじゃないかの?』
なるほど。基本属性が使えないと他の系列属性は使えない感じか。何でもかんでも使えるわけじゃないんだな。ちょっと残念。
『まぁ水は木を生ずるゆえ、全くおぬしに使えない、ということもない。いつかは使えるように訓練すれば良いと思うが、ひとまず先におぬしが一番使いやすいと思われる水から訓練せねばな。さぁ、手を出すがよい』
両手を出すと、ハクがその上にちょこんと乗った。何やら熱ではないけど、何かを感じる。熱くない熱気というか、何というか。うまく言葉にはできないけど。
『今、少し魔力を放出してみておる。感じ取れるか?』
「今感じるものが魔力で合っているのなら、感じ取れている、と思う」
『うむ、よろしい。では、同じような波長のものが、自分の中にあるのを感じ取れるか?感じ取れたら、体の中でよいので少し動かしてみてほしい』
自分の中を探るように集中してみる。ハクが出しているのと同じような波長の何か。うーん……。
「……ちょっと見つけられない。結構難しかったりする?」
『この国の大抵の者たちが使えるのじゃから、難しすぎるということはないと思うが……ふむ。地球では感じることはほとんどない感覚じゃからの。テオには少しハードルが高いのかもしれん』
「そっか。うーん……」
うんうん唸りながら自分の中に意識を向けていても、まったく感覚が分からない。
『ふむー。……少々借りるぞ』
そう言うとハクは、すっと姿を消した。すると、自分の中の何かが動かされる感覚がある。
『これじゃこれ。今、昨日と同様に、一時的におぬしに憑依しておる。おぬしの中にある魔力を少し動かしてみているが、これが動くのは感じ取れるか?』
「……うん、わかる」
体の中心部にある、熱とは違うエネルギーのようなものが、少し動かされて手の方へ移動しているような感じがした。
『よろしい。では、今度はそれを自分で動かしてみよ。手のひらに集めてみるとよい。』
ハクは俺への憑依を解除して、再び近くに浮いて、俺を注視しているようだ。
俺は、言われたように、感じ取った魔力を手のひらへ移動させてみた。
『うむ、問題なさそうじゃな。そうしたら今度は、それを手ですくった水になるようなイメージをしてみよ』
手ですくった水になる……と想像すると、急に手が冷たい感じがした。
「え?」
手の中には水があった。驚いて凝視していると、しばらくして手の中の水はふっと消えた。
『おぬしは、水の属性じゃから、魔力も水系統のものになじみ深い。今は呪文なしで行えることをやってみたが、呪文を使えば他にもいろいろとできる。しばらくは、自分の中の魔力の感覚に慣れること、動かすことになれること、少量の水の召喚及び操作ができることを目標にしてやっていこうかの』
そうして俺は、今日の午前中はひたすら魔力を把握するように集中したり、動かしてみたり、水を手のひらに出してみたり、出した水を動かしてみたりした。そうしてお昼になったころには、疲れ果ててぐったりしていた。
『今日はここまでじゃの。慣れないことは疲れるものじゃ。それに肉体は5歳児だしのー。今まで外に出していなかったし、走り回る日も必要か?少し考えてみるかの』
ハクはそんなことを言っていたが、俺は疲労感でそれどころじゃなかった。
読んでくださりありがとうございます。