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帰宅後と特訓のはじまり


家に帰ると、昼食の準備がほとんど整っていた。ハクから少なくとも昼くらいまではかかるだろうと言われていたので、母さんが一旦帰って準備してくれていたのだそうだ。スープ、サラダ、混ぜご飯、焼いた肉や野菜などが並べられていて、とてもおいしそうである。普段はご飯と汁物ともう一品くらいなので、今日は少し豪華だ。

母さんがデザート用に用意していたフルーツの一部を、神社に供えて戻ってくるのを待ってから、昼食となった。


5歳を無事に迎えられてよかった、おめでとう、と改めて言われたあと、いただきます、と手を合わせて食べ始める。

いただきますと言うのは今までもやってきたことではあるけれど、ハクが神としてこの地にいるせいか、日本的な習慣が所々あるようで、少し懐かしく思った。



「温泉?」

「ええ、神社から少し歩いたところに、温泉浴場が作ってあるのよ。ご先祖様がハク様に言われて作ったのですって」


昼食の最中、母さんが今日の夕方は温泉に入りに行こうと言い出した。ハクの言いつけで、俺はこの年まで家の外には出れなかったため、行ったこともないし、温泉があるということすら知らなかった。せっかくだし、入りに行くのはどうか、と。


行くことに異論はない。温泉だって転生前から結構好きだ。……でも、俺、1人で男湯に行かせてもらえるのかな??

見た目は5歳児かもしれないけど女湯に連れていかれたりしたら中身が耐えられる気がしない。

昼食の最中は考えてみる、と一旦話を切って、夕方までにどうするか決めることにしたのだが、なかなか決められずにいた。


『1人で男湯に行けばいいんじゃないかの?』


急にハクの声が聞こえてきて反射的にバッと振り返ったが、何もいない。

首を傾げていると、また声が聞こえてくる。


『こっちじゃ、こっち。今までもこの亀をハクと呼んでおったのに、なぜ結びつかんのじゃ……』


手のひらサイズの黒い亀が、部屋のテーブルの上から首だけ出してこちらを見ていた。

なんだか呆れたような物言いだが、今までしゃべらなかったのに結びつくも何もない。そもそも何故ハクと呼び出したのかすら覚えていない。


「今までこの亀がしゃべったことなんてなかったのに、どうやって結びつけろって言うんだ?」

『テレーゼやアルベルはこれがワシの分身みたいなものだと知っていた。それで名前はハクだとおぬしに言うたから、おぬしはハクと呼んでいたんじゃ。それなのに結びつかないなんて、ワシは悲しいぞ、おいおいぉぃ……』


完全に遊んでいる声色に溜息しか出ない。


「はぁー……その大根みたいな泣く演技、やめてくれる?」

『大根に失礼じゃろ!』

「大根に失礼なのかよ!?」


……もう本当に溜息しか出ない。はぁぁぁぁ。文句の一つも言いたくなってくる。


「それで、なぜ今までしゃべらなかったんだ?」

『ふぅむ。主な理由は2つじゃな。ひとつめ、5歳の儀式までおぬしの記憶を呼び出すきっかけを少なくするため。ワシ起因で転生直前の記憶が蘇り、そこから芋づるで全部思い出したりする可能性があったからの。記憶を戻す時期を待ったのは先刻言った通りじゃ。そしてふたつめ、おぬしの記憶を戻すのを待つことにしたことで、つながりが弱く、あまり力の供給ができなかったため。今はおぬし経由で供給しやすくなっておる』


まともな理由だった。

しかも自分のためだった。文句なんて言えないな、これ……


『何事も動かすにはパワーが必要なんじゃよ、パワーが』

「今まではしゃべらなかったけど動いてはいたよな?それは?」

『地球で言うとそうじゃな……おぬし専用見守りカメラみたいなものかの。何かあったときは蓄えてある力を全部使って守るつもりじゃったよ。何事もなくてよかったがのー』

「そうだったのか。それはその、……ありがとう」

『おぬしのそういうところは愛いところよの。大変好ましい。まぁこれからはいつでもこの亀を通して会話できる。意識をつないだり、意識の中で会話するのは、今はまだ信仰が足りなくてパワー不足じゃな。そのうち神社以外でも出来るようにはしたいのぉ』



ハクとそんなやりとりをして、結局、温泉は1人で男湯に行けた。久しぶりの温泉は気持ちが良かった。夜はぐっすり眠ることができた。




次の日、朝食に起きてくると、ばばさまも母さんもいつも通りの笑顔で迎えてくれた。昨日の難しい表情やアンニュイな表情は俺が変わってしまうことを懸念してのものだったのだと思い、不安にさせた申し訳なさと嬉しさの両方を感じた。


いつも通りに朝食を食べると、ばばさまから今日からハクと特訓に取り組むように、と言われた。

これから少しずついろいろな法則を覚え、魔術や神力を使いこなせるようにならないと困るらしい。それから、この国に学校はないので、資料がそろえば、母さんやばばさま、里の大人たちから勉強を教わるようになるそうだ。勉強がそんなに好きじゃなかった身としては、今から震えておくしかない。


「私は今日は王都に行ってくる。陛下にご報告があるからね。テオドールはハクと特訓をはじめ、少しずつ慣らしていきなさい。アルベルは家のことを頼んだよ。早ければ明日戻る予定だ。遅いと数日かかるかもしれないが、よろしくね」

「いってらっしゃい、お母さま」

「ばばさま、いってらっしゃい」


俺は母に連れられて神社へ行った。儀式をしたあの部屋だ。特訓は慣れれば家や家の近くでもできるそうだが、最初のうちは暴発してもハクが制御できるように神社で行う、とハクが説明してくれた。

今日は神社を管理している大人が1人、出迎えてくれ、部屋まで案内してくれた。


「テオ、お昼になったら一旦迎えに来るわね。しっかりね。でも、無理しないようにね」

「うん、母さん。またあとで」


扉が閉まると、肩に乗せていた小型ハクが宙に浮き、目の前にやってきた。そういえば、重力操作云々とか言ってたっけ。


『さて、それじゃあ始めるかの』

そう言ってハクはニッっと笑った。

読んでくださりありがとうございます。

信仰はパワーやエネルギーです。今はパワーもエネルギーも、この先必要な分を考えると足りない、とハクは考えています。

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