儀式終了と家族との会話
「俺は……間に合うのか?」
考えれば考えるほど不安になってくる。俺はあの後すぐ転生できたのか?転生までの間に何年も空いていたら?見返りを受け取るまでに何年もかかったら……?
『大丈夫じゃ、安心せぃ。地球での1年がこの惑星での100年じゃ。今はテラスフィアで5年ほど経っているから、地球ではまだ20日も経っておらんよ』
ハクは穏やかな口調でそう言った。
「そ、そうか。……良かった。少し安心したよ」
良かった。本当に。あまり考えたくない話だが、祖父母や両親が生きている間に見返りを受け取るのが間に合わないようなことがあれば、転生した意味がかなり薄くなってしまう。
『この宇宙の中では、テラスフィアは地球より内側に位置している。地球の方が外側へと向かっていく速度が、テラスフィアが外側へと向かっていく速度よりかなり早い。それで時間の流れは、テラスフィアの方が早いんじゃ』
なんか聞いたことある感じだな。ウラシマ的な。
ハクがしてくれたざっくりな説明に頷いておく。今はとりあえず、焦る必要がないと分かったことが大事だ。
『5歳になるまで記憶を戻さなかったのは、赤ん坊から訓練なぞ出来んし、その間体は赤ん坊なのに中身大人では苦痛かと思っての。5年くらいであれば許容範囲じゃろうて』
言われてみれば確かに。それについてはありがたい配慮だった。
『うむうむ、礼には及ばんて!』
何も言っていないのにドヤ顔している様が少々イラっとするが、スルーだ、スルー。俺の中身は一応大人だ。ありがたかったのは本当なんだから黙っておくしかない。今は思考が筒抜けなので意味があるかと言われると困るけど。
『さて、5年間転生者としてではなく普通の子として育ったわけだが、今までの家に帰れそうか?一緒に暮らせそうじゃろうか??』
急に雰囲気変えて尋ねてこられたので戸惑った。琥珀色の瞳はまっすぐ自分を見つめている。
「あぁ、大丈夫。地球の両親は今もまだ親だと思っているけど、ここで育ててくれた2人もちゃんと家族だと思ってるよ。ただ……、母さまと呼ぶのは少し気恥ずかしくて呼びづらいから、母さんと呼んでいいかだけ後で聞いてみる。ばばさまは…、ばばさまのままで呼べそうだ。呼んでみてダメだったら考える」
『そうか。暮らしていけそうなら良かった。2人はワシの力も少し分けた、言わば腹心のようなものじゃ。おぬしが今日で前世を思い出し、変わってしまう可能性があることを分かっていて、一緒に暮らせない可能性も考えていたようじゃからな。2人が悲しくならないのならワシもその方がよい』
「……、そっか」
自分が変わってしまうことが分かっていて、それでもこの先一緒に暮らしていきたいと思っていてくれていたなら。そう思ってまた少し嬉しかった。
『さて、そろそろ戻る感じで良いかの。意識の中でなくなったら扉が開く。その後、アルベル、テレーゼと3人で話す場にしよう』
また視界がホワイトアウトする。扉が開く音が聞こえ目を開けて後ろを振り返ると、扉のところにアルベル、テレーゼ、その後ろに里の大人たちがいる。
「おぉ、テオドール様。なんと神々しい……」
「無事に御使いとなられたのですね、テオドール様」
大人たちがそう言っているのが聞こえた。
『アルベル、テレーゼのみ入室し、扉を閉めよ。他は引き続き部屋の外で待機じゃ』
「「かしこまりました」」
2人が部屋に入り、再び扉が閉められた。というか誰がしゃべってるのかと思ったら、ハクが俺の体でしゃべっていた。びっくりするから先に言って。
「何のご用向きでございましょうか、ハク様」
『うむ、無事にテオドールが記憶を思い出し、ワシとのつながりが深まった。これでこの先の段階に進めるというもの。ここまでテオドールを健やかに育て、この度の儀式を行ったこと、大儀であった』
「もったいないお言葉でございます」
テレーゼがハクと話している。向いているのは自分の方だからものすごく不思議な気分だけど。
『さて、テオドールには事前に話をしているが、今後も2人と一緒に住んでもらおうと思っておる。テオドールも2人を家族と思えるようじゃし、いいかと思っての。テオドール、2人に改めて挨拶せい』
「えっっこの流れで!?!?」
『この流れとは?』
「俺の体でしゃべってるのにそのまま俺しゃべると思わないだろ!」
『なるほど。納得したが、それでも改めて世話になるのなら挨拶はするものじゃろ』
2人が目を丸くしてこちらを見ていた。まぁ2人にしてみたら急に口調がコロコロと変わる感じになるから驚きもするかもか。
「……あ、その……ハクも言っていたけれど……、前世の記憶を取り戻したし、精神年齢に変化もあるし、性格も少し変わっている可能性もあると思います。そ、それでも……俺は2人を家族だと思えるし、もし2人がよければ、これからも一緒に暮らしていきたいです。お2人はどうでしょうか?」
緊張して、急にちょっとかしこまった口調になってしまった。
「私は問題ない。……むしろ、急に他人のようになったら寂しいと、思っていたからね。これまで通り家族でいたいし、敬語にもしなくて構わないよ」
「私も一緒にいたいわ、テオドール。大事な私の息子ですもの」
「そっか……ありがとう。面倒をかけることもあるかもしれないけど、これからもよろしくね、ばばさま、あと……母さま。それであの、母さん、と呼び方を変えてもいい?少し呼びづらくて……」
「ええ、変えた方が呼びやすいのなら、それでいいわ。あのかわいい声で母さまと読んでもらえないのは少し残念に思う部分もあるけれど、あなたが儀式を終えた今でも私を母だと思ってくれているのが、とても嬉しいもの」
3人で和やかに、この先も家族でいることに同意できた。よかった、2人とも家族でいるって言ってくれて。
『では、3人とも家に帰って、お祝いの食事にすると良い。後でワシにも少し供えに来てくれ』
「もちろんです、あとでお持ちしますね」
母さんがそう答えると、また扉が開いた。
里の大人たちに見送られながら神社を出た。少し気恥ずかしかったけれど、3人で手をつないで家に帰った。
読んでくださりありがとうございます。
2人はハクに頼まれた以上に、テオのことを自分たちの孫として、息子として大事に思っています。