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5歳のお祝いの儀式


いつもより少し早く目が覚める。

朝日はまだ昇っていないが、空の色が少しずつ明るくなってくる頃合いだ。

今日は5歳の誕生日、お祝いなのでウキウキした気分で、目はパッチリしていた。


枕元には、いつも一緒にいる、両手の上にちょうど乗るくらい大きさの黒い亀。ハクと呼んでいる。

物心ついた時から傍にいて、肩や頭の上に乗ったり、動くとついてきたりする。


「ねぇハク、ボクは5歳になったんだよ。今日はお祝いなの」


ニコニコして話しかけると、ハクは甲羅から首を少し出し、気持ちニコリとしたように見える顔をして、また首を引っ込めた。


「ふふふ、ハクはまだ眠いのかな?母さま達もまだ起きてきてないよね、きっと。もう少しここで明るくなるのを待っていようかな」


そう呟いて、ベッドの上でひとりゴロゴロする。ボクの部屋は一人部屋だ。5歳になるまでは家から出てはいけなくて、寝るときはひとりで、部屋で寝ることになっている。もっと小さい、赤ちゃんの頃はどうしていたのかは全然わからないけど、幼い頃は危ないからみんなそうしているらしい。

家には母さまとばばさまがいて、外での仕事をしないときは、家で一緒にいてくれる。そういう時は、ごはんを一緒に作ったり、お話を聞かせてくれたりするんだけど、ふたりがいないときは少し寂しかったりした。


でも、今日のお祝いの儀式を終えたら、そこからは外に出られるようになる。ふたりがいなくても、他の家の子供たちと遊んだり、他の大人たちと話したりして、寂しくない楽しい毎日がやってくると思えて、顔は自然と笑顔になった。


外に出られるようになった後のことに何度も想いを馳せながらゴロゴロしていると、朝日が部屋に差し込んできた。

そろそろ母さま達が起きてくるかな?と思っていると、部屋の扉をコンコンコン、と叩く音が聞こえた。


「テオ、朝よー。起きていらっしゃいな」


扉を開けながら、母さまが部屋に入ってくる。ボクは飛び起きて、「おはよう、母さま!!」と叫んで走り寄って抱き着いた。


「あら、もう起きていたのね、テオ。早起きね」

「うん、今日は早く目が覚めたんだ。楽しみで仕方なかったの」


ニコニコしているボクの頭を、母さまの優しい手が撫でてくれた。母さまは黒くて長い髪をいつものように三つ編みにして後ろへ流し、穏やかな笑顔を浮かべている。


「じゃ、朝ごはんをたべて、今日の支度をしましょう。顔を洗って食卓へいらっしゃいね」


母さまと離れて、顔を洗いに洗面所に行き、洗面器に水を入れてパシャパシャする。顔を拭いてさっぱりしたところで、食卓へ向かうと、ばばさまがすでに席についていた。


「おはよう、テオドール」

「おはよう、ばばさま」

「今日はお前の祝いの儀式がある。朝食を終えたら支度を整えて、玄関の前で待っていなさい」


ばばさまは難しい顔をしてそう言った。ばばさまは難しい顔をしていることが多いけれど、今日はいつもよりもちょっと難しい顔をしているように思えた。

はい、と返事をして、いただきます、とみんなで手を合わせて、朝食を食べ始めた。



朝食を食べ終えたら、母さまに手伝ってもらって儀式の服に着替える。上は白いもので、前を合わせてひもで止め、その上から灰色の、よくわからない柄の入った服を穿いて、またひもで止める。最後に、黒の上着を羽織って完成だ。黒の羽織は金や白で何かはわからないけど柄が入っていて豪華で、特別な感じがして嬉しかった。


少し髪を整えてもらい支度を終えると、ハクを肩に乗せて母さまと連れ立って玄関まで行く。ばばさまはすでに待っていた。さっきよりもさらに難しい顔になっている気がした。


「準備はよいか?」

「ええ、問題ないわ」


どことなく寂しそうな笑顔で、母さまは言った。


「では、行こう」


初めて家の外へ出た。これから行く先は里の中央にある、この土地の神様が祀られている建物だ。神社というらしい。

その建物の祭壇がある部屋で儀式がある。難しい儀式ではなくて、部屋の中央にある大きな鈴を、鈴についている大きな綱を振って鳴らして、そのあとは膝立ちでお祈りすればいいのだそう。お祈りの時間が終わったら、扉が開く音がするから、そうしたら立ってお辞儀をして、扉のところまで戻れば終わり。ふふ、簡単、簡単。


鼻歌を歌いながら、母さまに手を引かれて神社に着いた。里の大人たちが何人か、門のところで待っていた。大人たちの中のうちの一人が口を開く。


「お待ち申し上げておりました。族長、アルベル様、テオドール様」

「ああ、準備は整っているか?」

「はい、すべて問題なく」


アルベルは母さまの名前だ。この感じだと、ばばさま、母さまは里の中でも偉いみたい。

大人たち、ばばさま、母さまと神社の中へ入っていく。なんとなく重そうな雰囲気だったので鼻歌はやめて、手をひかれながら長い廊下を歩いて、重そうな扉の部屋の前に着いた。


「ここだよ、テオドール」


ばばさまがしゃがんでボクと目を合わせ、そう言った。


「やることは分かっているね?」

「はい、ばばさま」


教えられていたことを順番に言うと、よろしい、と言ってばばさまが頷き、ボクの頭を撫でた。ばばさまがそうするのはちょっと珍しかった。


「では、行ってきなさい」

「いってらっしゃい、テオ」


そう言ってばばさまと母さまが手を振って、大人たちが扉を閉めた。

部屋の中には10段くらいの階段があり、その先に家みたいなものがあって、そこに大きな鈴と、綱がぶらさがっていた。家には扉はなく、奥の方が祭壇みたいだ。


ボクは教えられていた通り、鈴の前まで歩いていく。綱を握って振ってみると、鈴がカランカランと鳴った。

膝立ちになって、手を合わせ、目を閉じてお祈りする。後は、扉が開く音がするのを待つだけだ。


そうすると、目を閉じていたはずなのに、視界が白く染まった。そして、声が聞こえる。


『待っておったぞ、テオドール』


読んでくださりありがとうございます。

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