表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

プロローグ


ふと意識が持ち上がると、いつもより視点が高いことに気が付いた。


徐々に周りがはっきりし、さらにその周辺へと意識を向けてみると、高速道路下の幅広い道路の淵、集まる人々の少し上に自分が居ることが分かる。集まる人々の列は不自然に途切れ、その途切れた少し向こうに、少しへこんだ大型トラック、べっこりとへこんだ乗用車があり、パトカーが停まっている。救急車も出動しており、今まさに人が担ぎ込まれていた。

視界の端映った服に見覚えがあり、そちらによくよく意識を向けてみると----------


--------------------担架にすら乗せてもらえない、自分のカラダがあった。


そこで唐突に理解する。自分はつい先程交通事故に巻き込まれ、死んだのだと。次いで唐突に思い出す。乗用車とぶつかった衝撃、刹那の激しい痛み、息ができない苦しさ、動かず、冷えていくカラダの感覚、走馬灯のように頭を駆け抜けた物心ついてからの記憶。


急に思い出した記憶の奔流に息が詰まり、目頭が熱くなる感覚に襲われる。もう反応を返すカラダはないのだが、自分を育ててくれた両親、生意気なところもあるが自分を慕ってくれた弟、自分たち兄弟をとても可愛がってくれた祖父母、そして、ずっと恋焦がれた幼馴染のことを想い、もうその誰とも言葉も交わせないと思うとひたすらに泣き叫びたくてたまらなかった。


『ふむ、おぬしになったか、トウノカケル』


ふいに悲しみに支配された自分の思考の外から声がかかる。声がしたと思う方向へ反射的に意識を向ければ、そこには黒く得体の知れない何かが浮いていた。ハンドボールくらいのサイズで、学校の鉄棒よりはちょっと細いくらいの何かが巻き付いているように感じたが、それ以上のことは認識できなかった。


『--------------------??』


何がなんだか分からない。そう、確かに自分はトウノカケルという名前だった気がする。だが、この黒いモノが何なのかも、それが発したと思われる、おぬしになったか、の意味も、そもそも、何故自分の名を知っていて、何故自分に声をかけたのかも、何も分からなかった。


『ふむ、流石に先程の今で声をかけ説明し選択を迫ろうというのは酷かの?しかし、別のナニカになったりここからいなくなって戻ってしまう前に契約せねばならんしのぉ……』


何やらブツクサ言っているが、そもそも"声をかけ"までしかされていない。今の自分には説明が必要だと思った俺は、言葉を伝えよう、と意識する。


『----------、--------------------!』


ダメだ、うまく言葉にできない。言葉にしようとするが、すでにカラダも感覚もなく、自分が今カタチを持っているかどうかすら分からなかった。


『む、まだ魂が体を離れてそんなに時間は経っていない筈だが、うまくカタチを保てないか?混乱しているからかの??ふむ……、ひとまず説明はしてやる気でいるから、落ち着け。落ち着いて、自分だと思うカタチになれ。今のお前は、明滅している灯りのようだ。自分の顔は普段どのようじゃったか意識できるか?手足は?今日はどんな服を着ていた?』


そう言われ、落ち着けるか!とは思いながらも、自分のことを思い出すよう意識する。毎朝鏡で見ていた自分の顔、髪、首、胸、腹、手足。今日はどんな服だったか……、そうだ、俺は、会いに行く、いや、探しに行くところだった。しばらく連絡を取れていなかった幼馴染を。会った時俺だと分かるように、昔幼馴染がくれたペンダントを首にかけ、少しは歩き回ってもいいようにとクッションのあるスニーカーを履いていた。シャツに細身のパンツを着て、気に入りのジャケットを羽織っていた。


『……ふむ、大丈夫そうじゃな。試しにワシに向かって何か言ってみよ』

『…………お前は、なんだ?さっき言ってた、選択とか契約って何の話なんだ?』


言葉に、なった。足元に目を向けると、今日履いていたスニーカーっぽいものが見える。少し浮いているし、透けてはいるが。


『ふむ、よかろう。少しは落ち着いたようじゃし、よほど暴走しなければ問題なさそうじゃ。ひとまずワシなりに順番に話すとしようかの。質問があれば後でまとめてするがよい。

まずは、自己紹介じゃな。ワシは、ハク。日本にて信仰された神のうちの一柱じゃ。名前がハクじゃな。その昔、ワシが見える幼子がワシをそう呼んだのじゃ。それが殊の外気に入っての、それ以来、名を聞かれたらそう名乗ることにしておる。ワシのことはハクと呼べ』


ハクと名乗る黒い塊は、そう言って説明を始めた。


この世界が科学によって暴かれ、地球上の神々やそれに準ずるモノたちへの信仰が薄くなるもう少し前。その辺りから、信仰を糧とする神々などは、信仰が薄くなりつつあることを察知した。消滅の危機が迫ってきていることを認識した神々などは、己の存続のため、信仰を獲得できそうな他の銀河系の惑星を探し、見つかればそこで己が信仰を広げる、という動きをすることにした。ハクや同列の神々も同様に動き、結果、一つの惑星に目を付けることとなった。

ハクたちはその惑星にあった大陸1つをそれぞれの領域に分け、そこに根を下ろすことにした。その大陸に住まう生き物に知性を獲得したものはまだなかったが、進化を見守り、育て、信仰を獲得することにした。

そうして月日は流れ----------


『----------信仰を獲得できるようになって消滅は免れたのは良かったんじゃがな?惑星に問題というか、ちょっと今後が怪しくなってきておっての。まぁ限界になるまでは、もう少しあるんじゃが、できれば限界になる前に何とかしたいんじゃ。

ワシらと相性の良い者を地球上で見繕い、その者の同意が得られれば、件の惑星に転生させる。いろいろとやってほしいことはあるんじゃが、最終的には今後の懸念の解消をしてほしいんじゃ。一応見返りも考えておるぞ』


黒い塊はそう言って、一息ついたように見えた。


『さて、ざっくりとした説明はこんなもんじゃが、質問はあるかの?』


そう言われたが、まず。自分が一番説明してほしかったことはそういうことじゃない。


『……お前がハクって神で、別の惑星に移住?して、なんか今後が怪しそうだから何とかしたい、ってことは理解した。でも、俺が説明してほしかったことはそういうことじゃない。まず一番聞きたいのは、俺に何が起こったんだ?俺はもう、地球では生きていけないのか?

 それから、何故俺なんだ?俺は特に超能力があるとか、信仰心がすごい強くて特別な力が使えるとか、神に仕える家系だとか、そういうのはない、と思う。相性ってなんだ?起きてる問題ってなんだ?見返りって、何してくれるんだ??』


『ふむ、ワシが説明したいことは説明して満足していたが、疑問点が多いな、ふむふむ。……悪かったの、配慮が足りとらんで』


黒い塊が切なげに揺らいだ。


『ヒトと言葉を交わすのも久しぶりじゃて、多少は大目に見るがよい。さて、まずは"何が起こったか"じゃが、おぬしの肉体の生命活動が止まったことは、もう理解しておるじゃろう。聞きたいことは、なぜまだ輪廻の輪へと戻っていないか、ということについてじゃな?』

『……まぁ、そうと言えば半分そうだけど……自分が死んだと認めたくないのが人の心だと思うんだけど、ハッキリ言ってくれるなぁ…………』

『ふむ。では、肉体の生命活動が止まる原因となった事象の話からした方が良いのか。おぬしが信号が青になって横断歩道を渡りきる少し前、運転手が意識を失った状態のトラックが右折待ちの乗用車と衝突し』

『ストップ!ストップだ!!それ以上はいい!!!!』


詳細に事象を説明されたら色々な意味で耐えきれる気がしない。神サマってのは、こうも人の心が分からないもんなのか。あんまりだ……。


『ふむ。説明を受けることで己が死をしっかり認識したいということかと思うたが……難しいの。まぁとりあえず、なぜまだ輪廻の輪に戻っていないのか、じゃが。おぬしには、以前ワシが相性がよさそうだと思って目印つけておいたんじゃ。おぬしには未練があり、未練があったため輪廻の輪にすぐには戻らず、おぬしが輪廻の輪に戻る前にワシが声をかけたから、まだ戻っていないわけじゃな。何もすぐすべての魂が輪廻の輪に戻るという訳ではない。戻るとまた次のを待たねばいかんからの、急いで駆け付け声をかけたんじゃ』


次のってのは……未練保持者ってことなのか?相性がいいやつのうちの1人が死んだことを感知してここに来て、急いで声をかけた、と。まぁ、運よく相性のいいやつがたまたま未練持ってるとか少ないってことなのか?うーん……。


『地球で生きていけないのか、については、今までの肉体では無理じゃが、輪廻の輪に戻り、新しい生命として生まれ変われば、地球で生きることはできる。何になるかはワシも分からんが』

『人として生まれ変わるかは分からないってことか?』

『そうじゃな。まぁ悪行を重ねたわけでもないし、高確率で人間ではあると思うが、保証はできん。それから、なぜおぬしか、じゃが、縁があったからじゃ。それに尽きるな。相性、やってほしいこと等々については追々の方が理解もしやすかろうて、今は省こうかの。あとは……そうじゃな、見返りについてじゃが』


ゴクリ、と、もう無い喉が鳴るような感覚。


『生き返らせるのは無理じゃが、任意の人間の夢枕に立たせることであれば、できる。伝え損ねた言葉があれば、伝えられよう』


その言葉を聞いた瞬間、この黒い塊を認識してから、考えないようにしていた悲しみが戻ってきた。同時に、言葉を伝えられるのならば伝えたい、可能ならば言葉を交わしたいとも思った。


『……言葉を交わすことは、できる、のか?……夢枕って、相手は内容を、覚えていられるのか?』

『言葉を交わすのは相手次第じゃ。相手も言葉を交わしたいと願っているなら、おそらくできるじゃろう。内容を覚えていられるか、についてじゃが、通常の夢を見たときのように忘れてしまわないか、という意味であれば問題ない。通常の短期記憶には留めておけるじゃろう。そこから先忘れてしまわないかは、これも相手次第じゃな。相手が度々思い出し、長期記憶に刻んだのなら、忘れないじゃろう』


絞り出すように聞いた言葉に、黒い塊は今度はしっかりと内容を捉えて返してくれた。

俺の心は決まった。この黒い塊と契約しなかったら、そもそも人として転生できるかも定かでないのなら、夢枕に立てる方がいいと思った。


『……わかった。転生して、転生した先で手を貸せばいいんだな。』

『うむ。そう決めてくれて良かった。では、早速----------』


俺は新たな目標を胸に、黒い塊から放たれた光を受け入れた。必ず、感謝と謝罪、それから別れを伝える。伝えてみせる。

見返りを受け取るまでに時間が少しかかるかもしれないけど、きっと必ず、伝えに来るから。


のんびりマイペースで書いていく予定です。

楽しんでもらえれば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ