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第九話

   ☆1☆


「今日のように、いつも天気が良くって、いつでも視界が良好とは限らない。それこそ、嵐の夜、一寸先は闇、そんな最悪の状態で戦わねばならない事があるかもしれない。そういった、悪天候な状況でも、しっかりと戦えるように、今日は悪天候による視界不良の状態を想定して訓練を行うことにする」

 赤月風華が今日の訓練について説明した。

 だけど、飛行場は太陽の光がサンサンと降り注いでいた。

 汗ばむほどの陽気だよ!

 悪天候の訓練とか言われても、さっぱりピンとこなかった。

 トンボちゃんが真っ先に疑問を口に出す。

「こんなに天気がいいんじゃ、悪天候とか言われても、さっぱりピンとこないです~」

 赤月風華が飛行場に持ってきて、足元に置いてあった木箱からゴーグルを取り出す。

 それをトンボちゃんに渡して、説明する。

「ゴーグルのガラス部分が、クモリガラスになっている。まったく見えないというわけではないが、かなり見ずらいぞ」

 トンボちゃんがゴーグルんかぶって、クモリガラスごしに周囲を見回し、

「本当です~! まるで雲の中にいるみたいに、うっすらとしか見えないです~っ!」

 赤月風華が、

「今日は全員、このゴーグルをつけて飛行すること。なお、今日みたいな陽射しの強い、汗ばむような陽気だと、気力、体力、双方が衰えやすい。そこで、今日は体を芯から冷やし、気力、体力を整えるイベントを行う。なので、訓練が終了したあと、全員、ブリーフィング・ルームへ集合すること!」

「「「「了解」」」」


   ☆2☆


 数分後、あたしたち神風特攻少女隊の全員が空に上がった。

 飛行訓練はほぼ基本通り。

 機体は二式水上戦線機だよ。

 赤月風華が無線で、

『悪天候で視界不良の際は、目視に頼らないことそいつは命取りになるほど危険だ。つまり、計器に注意すること。ゴーグルの下の方は計器が見えるように普通のガラスをはめてある。高度計、水平計、方位計をよく注意して見ながら飛ぶこと!』

『『『『了解』』』』

 確かに、視界不良だけど、普通に飛ぶだけなら、どうって事は、

『えっ!』

 いきなりトンボちゃんの機体が目の前に迫る! 

 危うく激突する寸前、回避!

『ゴ、ゴメンです~! 気がついたら接近してたです~!』

『キャッ! ですわ!』

 今度はナデシコちゃんの悲鳴。

 ネコちゃんが、

『メンゴ、メンゴ! ボクとした事が、ちょっとだけスピードオーバーしちゃったよ! ウフフ』

 今度はナデシコ機があたしの目の前をかすめる!

『ヤバッ!』

 あたしはロールしてかわした。

『ゴメンですわ、コロナちゃん。どうにもこうにも、視界が効かなくて、上手く操縦出来ませんわ』 

『だ、だよね~』

 その後も、何度もニアミスが続く。

 そんな中、赤月風華だけが悠々と、四機の間をすり抜けていく。

 あたしは不思議に思って、

『赤月隊長は何で、そんな簡単に、スイスイ飛べるんですか?』

 と、聞いてみた。

 すると、

『まずは、空間把握能力だな。これは生まれつき持っているか、いないかによるのだが、幸い私はそいつに恵まれている。それから、リズム感だな。例えば、こんな感じだ』

 赤月機が現れ、すぐ離れる。

 赤月風華が、

『タン、タン、タン、ハイッ! そこだ!』

 右斜め後方にピタッと赤月機が現れる。

『うそみたいに正確だよ! 空間把握能力は分からなくもないけど、リズムっていったい、なに?』

 赤月風華が、

『機体の挙動から数秒後には、だいたい、この位置にいるだろう、と予測し、リズムに乗って移動するのだ』

 ますますわからないよ!

 ネコちゃんが、

『どうも怪しいな~。もしかして、ゴーグルを外して操縦してるんじゃないかな?』

『ネコっ! 貴様、隊長を疑うとは何事だ! ただじゃすまさんぞ!』

 ネコちゃんがあっさり折れる。

『ゴメンなさ~い』

 赤月風華が、

『人が懇切丁寧に指導しているというのに、茶化すんじゃない!』

『ハ~イッ』

 ネコちゃんが素直に従った。

 どうも、腑に落ちないなあ。

 いつもと違って素直すぎるよ。


   ☆3☆


「ネコちゃん、さっきはずいぶん、おとなしかったね。いつもなら、あのままケンカになって大変なのに」 

 あたしは訓練が終わると、さっそくネコちゃんに聞いてみた。

「ウフフ、これはボクの素晴らしい作戦なんだよ、コロナっち! ボクが鬼隊長に、ただ素直に従っていると思ったら大間違いだよっ!」

 ナデシコちゃんが、

「ネコちゃんはブリーフィング・ルームのイベントで出る、かき氷が食べたいから、素直に従ったんですわ」

「はうっ! なぜそれを!」

 ビックリするネコちゃん。

 ナデシコちゃんが、

「訓練前に赤月隊長が体を冷やすイベントをするとおっしゃっていましたわ。今日の朝早く、実は食堂の調理室に、大きな氷が運ばれていたのです。その時、わたくしと一緒に食事をしていたネコちゃんも、あの氷を見ていたはずですわ」

 あたしは、

「相変わらずナデシコちゃんは鋭いね!」

 トンボちゃんがニパアと笑いながら、

「かき氷なんてアメリカとの開戦前に食べたきりです~。ここ数年、まったく、全然、さっぱり、食べてなかったです~。久し振りだから超・楽しみです~。ルンルン♪」

 あたしも、

「開戦してから、食料が配給制になって、砂糖なんて、超・貴重品になったから、甘いもの自体が久しぶりだよ! かき氷どころじゃなかったもん! その夢のかき氷が! 今夜のデザートに出るなんて! まるで夢みたいだよ!」

 ナデシコちゃんが不思議そうに、

「あら、みなさん。かき氷が食べる事が出来ないなら、アイスクリームを食べればいいじゃないですか」

 そう言って満面の笑みを浮かべる。

 あたし、ネコちゃん、トンボちゃんは、しばし絶句したあと、

「「「あんたはマリー・アントワーネットかいっ!!!」」」

 と、三人そろって突っ込んだ!


   ☆4☆


 ブリーフィング・ルームへ行く途中、あたしはフト気づいた事を口にする。

「でもさあ、かき氷を食べるのに、何で食堂じゃなくて、ブリーフィング・ルームなんだろう? ちょっと、おかしくない?」

 ネコちゃんがカラカラ笑いながら、

「コロナっちは心配性だな~。場所がどこだろうと、かき氷が食べられれば、それでいいんだよ」

「それも、そうだね」

 あたしは、まだ腑に落ちない気持ちだったけど、とりあえず、そう返事をした。

 ブリーフィング・ルームの前でトンボちゃんが立ち止まり、

「ブリーフィング・ルームの中が妙に暗いです~」

 ナデシコちゃんが、

「とにかく入りますわ」

 ブリーフィング・ルームに入る。

 部屋が暗かったのは、中央に丸いテーブルが置いてあって、ローソクを五本、灯していたからだった。

 それに、妙にヒヤッとするのは、何でだろう?

 ローソクのほのかな明かりに照らされた赤月風華が、あたしたちを手招きして、

「では、これより神風特攻少女隊メンバーによる、怪談イベントを行う。各自、身も凍るような怖い話を披露すること」

 突然の怪談話にみんな驚いたけど、なかでもネコちゃんが赤月風華に食ってかかる。

「ボクのかき氷はどうなったの!」

 涙ながらに絶叫する。

 赤月風華が、

「かき氷? いったい何の事を話ている?」

 ナデシコちゃんが、

「朝、食堂の調理室にしまって置いた、大きな氷の事ですわ」

 赤月風華がボムと手を打ち、

「この部屋を冷やすために使った。もう全部、溶けてるんじゃないかな? ちょっとヒンヤリしているほうが、怪談の雰囲気が出るだろう」

「ア~~~~~~ッ! ボクのかき氷が~~~~~っ! グフッ!」

 ネコちゃんが燃え尽きた。

 赤月風華が、

「気を取り直して、怪談を始めるぞ。一番手は誰が話す?」 

 ナデシコちゃんが、

「わたくし、かなり怖いお話を存じ上げていますわ。最初は、わたくしから始めましょう」

 赤月風華が、

「よし、ではナデシコ、背筋の凍るような、怖い話を頼むぞ」

「はい。あれは、お母様と昔、デパートのバーゲンセールに、お買い物に行った時の事ですわ。お母様は、お金に困っているわけでもないのに、バーゲンと聞くと、行かずにはいられない性格でしたわ。さて、そのデパートは、とても古めかしい、古色蒼然とした、昔のデパートでした。怪奇現象にも事欠くことがなく、昔から出る、出ると、怪しい噂の絶えないデパートでした。事実、そこの屋上から飛び降りて自殺した若い女性がいたぐらいですから。とにかくおっかないデパートで有名でした。さて、わたくしとお母様は連れだってバーゲンセールへ突入しました。まさしく、それは突入、といった表現が正しく、お母様いわく、バーゲンセールは戦場。という、まさしく、阿鼻叫喚の地獄絵図でしたわ。バーゲン品に群がる主婦また主婦。まるで命の取り合いをするかのような、凄まじい争奪戦。激しく身をよじりながら、物凄い勢いで、バーゲン品に群がり寄る主婦たち。少しでも安いバーゲン品を、血眼になって探し、お互いに奪いあっていましたわ。わたくしも必死に参戦しようと、何度も飛び込み、あらん限りの力を出して、奮戦しましたが、力を使い果たし、あっさりバーゲンセールの輪から弾かれてしまいました。わたくしは、ただもう、お母様が、この地獄のような戦場から、無事に生還する事だけを祈って、力なく、うなだれておりました。すると、歴戦の猛者のような主婦に混じって、とてもホッソリとした華奢な若い主婦が、青ざめながらも必死にバーゲン品に手を伸ばす、健気な姿に出くわしました。

 若い主婦が弱々しい、震えるような、か細い声で、

『届かない、届かない。バーゲン品がこんなにあるのに、取る事が出来ない。悲しい、悲しいわ』

 と、つぶやきます。それもそのはず、その主婦の手首から先は、手がなかったのです! やがて他の主婦たちに紛れて、その若い主婦は姿を消してしまいました。わたくしは、夢か幻でも見たのでしょうか? その話を買い物の終わったお母様にしてみたところ、以前、このデパートの屋上から飛び降りた若い女性は、バーゲンセールに来ていた主婦で、屋上から飛び降りたさい、腕をガードレールにぶつけ、手首から先をスパッと切断したそうです。きっと、バーゲンセールに何か深い未練があって、手が切断されたとも知らずに、つかめない手で商品を取ろうと、霊がさまよっていたのだろうと」

「ヒイイイイイイイッ!」

 ナデシコちゃんの怪談も恐かったけど、ネコちゃんの悲鳴にドキッとしたよ!

「大丈夫? ネコちゃん。怖かったら怪談を聞かなくてもいいんだよ」

 あたしがそう言うとネコちゃんがゼハゼハ肩で息をしながら、

「や、やだなあ、コロナっち~。ボボ、ボクが怖いなんて、ありえな~い」

 赤月風華がボソッと、

「どうやら情報は正しかったようだな」

 トンボちゃんが、

「えっ? 情報って、何の事です~?」

「いや、何でもない、さて、次は」

「次はトンボが話す番です~! 実は、トンボはとんでもなく、おっかな~い話があるです~。そう、あれは、トンボが十歳の時の話です~。その日、お友達が三人、トンボのお家に来て、紙飛行機を飛ばしながら、神風特攻・紙飛行機隊ごっこをして遊んでいたです~。でも、あらかた遊び尽くしたら、誰かがコックリさんをやろう、と言い出して、やろう、やろうと、みんなでコックリさんをやる事になったです~。その日、両親は買い物に行っていて、帰って来るのは遅くなる、と分かっていたので、それじゃあ本格的にやろうと、居間の中央に魔方陣を書いた紙と、数本のローソクを立てて、コックリさんを始めたです~。時刻は冬の夕暮れ時、薄暗い部屋の中は、カチコチと鳴る古時計の他は、ヒッソリとして、本当に逢魔が刻、といった雰囲気だったです~。とはいえ、いざコックリさんを始めると、しょせん子供のやる事ですから、好きな食べ物とか、お菓子とか、好きな花とか、動物とか、他愛もない事ばかりをコックリさんにたずねては、指先でコインを適当に動かしてハシャイでいたです~。そして、いつの間にか質問は将来のおムコさんの事になったです~。コックリさんに、その質問を答えてもらっては、一喜一憂してたですが、ついにトンボの番が来た時、その不思議な現象が起きたんです~。突然、トンボの全身が震え出して、まるで悪霊に取り憑かれたみたいに、全身をガクガク震わせて、これはただ事じゃないと、みんなトンボから離れて様子を見守っていたです~。トンボは舌まで震えて声も出せずに、でも、指先のコインが勝手に動きだして、

 オ・ジ・イ・サ・ン

 と指したです~。

 トンボは震えあがって、そのまま気絶してしまいました! 気がつくと、お父さんと、お母さんが、心配そうにトンボを覗きこんでいたです~。あのあと、トンボをベッドまで運んだそうです~。トンボがコックリさんの不思議な話をすると、お母さんも不思議な顔をしたです~。実は、トンボがそんな状態になった、ちょうど同じ時刻に、田舎のおじいちゃんが亡くなった。と、いうことでした! きっと、死んだおじいちゃんが、コックリさんを通して、あのメッセージを伝えたかったのかもしれないです~」

「ヒグッ、ウウウ」

 ネコちゃんが真っ青になって、冷や汗をかいている。

 赤月風華が、

「どうやら、お灸が上手く効いているらしいな」

 あたしは、

「お灸って何ですか?」

「いや、何でもない。次はコロナ、お前の番かな?」

「はいっ! ナデシコちゃんや、トンボちゃんに負けないよう、とびっきり怖いお話をするので、期待していて下さいっ!!」

 あたしは一呼吸置いてから、ローソクを引き寄せ、

「これは、地獄のインパール作戦から生還した、ある兵士の、その後のお話です。だけど、まずは、ある兵士の戦場の話から始めます。ご存知のように、陸軍のインパール作戦は、インド領に駐屯するイギリス軍を叩いて、インド、中国、日本への、敵、侵攻ルートを、最初のインドで潰してしまおう、という作戦でしたが、そのために兵士は直線距離にして、青森から東京まである、気が遠くなるほど長い道のりを、徒歩で進軍しなければなりませんでした。しかも、途中にヒマラヤ山脈が横たわっているという、前代未聞、歴史上、類のない作戦でした。その上、食料は現地調達という事で、進軍の途中にある村々を襲っては食糧を強奪するという、大変な強行軍でした。だけど、さすがにヒマラヤを登り始めると、現地調達も不可能になって、八万人いた兵士のうち、五万人は飢えと疫病で死にました。インドにようやく到着したあとも、食料不足はひどくなる一方で、餓死者は増え続ける一方でした。にもかかわらず、なぜか? 一部の士官だけは、ピンピンしていました。ある兵士は不思議に思い、夜中に出かける士官のあとをつけて行くと、何やら肉を焼く匂いがします。ある兵士は餓死寸前だったので、香ばしい焼肉の匂いにつられて、士官のいる場所まで行き、士官に何の肉を食べているのか? と、尋ねました。すると士官は、

『サルの肉だ』

 と、答えました。そこで、ある兵士も一緒になって食べることにしました。が、しばらく食べていると、肉に紛れて骨に指環がはまっていました。そこで初めて、ある兵士は、それが人肉だと気付きました。死んだ兵士の肉です。が、餓死寸前の猛烈な空腹のせいで、ある兵士は食べる事をやめられなかったのです。やがて、インパール作戦が失敗し、ある兵士も帰国する事になりました。途中、靖国街道を歩いていると、靖国街道というのは、インドで死んだ日本兵の骨が、インドの街道のあちこちに落ちているため、霊魂だけは靖国に帰ってくれ。靖国で弔ってもらえ、という願いを込めて、兵士たちが靖国街道と呼んでいたのです。そこへ、インパール作戦を指揮した牟田口将軍が通りかかって、こう言いました。

『貴様らの根性が足らんから、帝国陸軍は負けたのだ! 食料がないなら敵に食らいつけ! 鉄砲の弾がないなら、肉弾戦だ! それが大和魂なのだ!』

 その後、将軍は飛行機に乗って、さっさと帰国しました。それはともかく、ある兵士も、なんとか日本へ帰国しました。さて、ある兵士の住んでいる家の近くにAという人がいました。Aは、ある兵士が夜中に度々外出するので、不思議に思い、こっそり、ある兵士の後をつけました。すると、ある兵士が墓場へ入って行きます。Aもおっかなビックリ、墓場へ入って行くと、

 ピチャッ、

 ペチャッ、

 と、変な音が暗い墓場の奥から聞こえてきます。Aが勇気を出して墓の間から覗いて見ると、あの、ある兵士が、なんと墓を暴き、死体を貪り食っていたのです。ある兵士は戦場で食べた人肉の味が忘れられなかったのです。ある兵士が振り向きます。その目は鬼火のように赤く、爛々と輝き、口の周りは血で真っ赤に染まり、狂ったように、

『ミイイ~~、タアア~~、ナアアア~~~ッ!!』

 ガターン!

 あたしはビックリしながら、

「ネコちゃんが倒れて気絶しちゃったよ! そんなに恐かったかな?」 

 赤月風華が、

「いや、日本は火葬だから墓を暴いても、出てくるのは骨だけだろう」

 ナデシコちゃんが、

「ですが、インパール作戦については、ずいぶん詳しく調べたなあ。と、ほめてあげたいですわ」

 あたしは種明かしする。

「実は、ちょっと前に、ネコちゃんから聞いた話なんだけどね」

 トンボちゃんが、

「あっ! ネコちゃんが目を覚ましたです~。ネコちゃん。もう怪談はやめるですか~?」

「ボボ、ボクはまだ、だ、大丈夫だよ。タ、タオルはまだ必要ないよ」

「パンチドランカーみたいにフラフラしながら言われても困るです~」

 赤月風華が、

「まあ、いいだろう。本人がそう言っているのだから。うむ、少々、藥が効きすぎたか?」

 トンボちゃんが、

「え? 何の藥です~?」

「いや、何でもない。それより、次は私の番だな。この話は、実は実話だ。題して、

 幽霊部隊。

 暗い嵐の夜だった。

 正規軍の小隊、八機が南海諸島で演習中、突然、の嵐に襲われた。そんな事はよくある事だが、このあと問題が起きる。なんと、その嵐に乗じて、敵機が小隊を襲ってきたのだ。雷鳴とどろく嵐の中、小隊は一機、また一機、という具合に、次々と撃墜されていった。だが、かろうじて、一機だけ生還した。そのパイロットの証言によると、敵の数は八、九機。もしくは、二、三機。だったと言う。はっきりした数がわからない。それが、幽霊部隊の名前のゆえんだ。生還したパイロットの証言が続く。機体は影のように黒い。暗くて機種の判別はつかなかった。一度だけ敵の機体に接近した時、コックピットにいる敵兵を見た、と言った。敵兵の顔は何も無いガランドウで、ただ、その瞳だけが、青白く光っていたという。その後も、この幽霊部隊は嵐の夜に乗じて、どこからともなく現れては、正規軍を撃墜している。すでに三つの小隊、二十機が犠牲になっている。被害は甚大だ」

 ウウウ~~~ッ!

 ネコちゃんの悲鳴ではなく、警報が鳴り響いた。

『東南諸島で演習中の正規軍が嵐に遭い、さらに、幽霊部隊と接敵、交戦に入った。神風特攻少女隊は、ただちに出撃し、正規軍の援護に向かえ! 繰り返す』

 赤月風華が、

「神風特攻少女隊、出撃!」

「「「了解!」」」

 ネコちゃんが遅れて、

「りょ、りょ~、かい」

 あたしは、

「ネコちゃん大丈夫? 嫌なら赤月隊長に言ってあげるよ」 

 そう言うと、赤月風華が、

「幽霊などいるはずがない! 全員出撃だ! ネコ! 根性出して、ついて来い!」

「りょ~かい!」

 青ざめてビッショリと冷や汗をかいているネコちゃん。

 本当に大丈夫かな?  

 あたしは不安でしょうがないよ!


   ☆5☆


 いつの間にか白銀基地にも嵐が近づいていた。 

 あたしたちは夜の雨にたたられながら、東南諸島の演習場に飛んだ。

 機体は零戦二一型。

 かなりの距離があるので、予備の燃料タンクを一つ付けてある。

 演習場の手前ぐらいで、爆弾を落とす要領でタンクを落とした。

 赤月風華が、

『敵は得体の知れない相手だ。交戦してヤバイと思ったら、すぐに逃げろ! 無理に戦う必要はない! 機体を捨てて、脱出しても構わん! 命を優先しろ!』

『『『了解』』』

 ネコちゃんが遅れて、

『りょ、かい』

 嵐の中、友軍機を探すけど、まったく、影も形も見えなかった。

 もしかしたら、全滅したのかもしれない。

 時折、嵐の切れ目に入ると、視界が開けてくる。

 その一瞬、黒い機体がチラッと横切るのが見えた!

『幽霊部隊と思われる機体を一機、発見! トンボちゃんに向かってるよ!』

 あたしが叫ぶとトンボちゃんが、

『きっ、来たです~! わわわっ! こっちからも! あっちからも! 次々に襲ってくるです~! いったい何機いるですか~!』

 タタタ!

 タタタタ!

 嵐の中、乾いた銃声が響く。

 けど、全然、見えないよ!

 トンボちゃんが、

『翼に被弾したです~! 戦線離脱します~!』

 赤月風華が、

『了解! 嵐を抜けて上空か低空に退避しろ! ナデシコ! 首尾はどうだ?』

 ナデシコちゃんが、

『バッチリですわ。一機だけ、後をつけましたが、トンボちゃんを攻撃しては離れ、また攻撃しては離れる。これを繰り返してましたわ』

 赤月風華が、

『私も一機、後をつけたが、ナデシコが言った通り、同じ行動をしていた。恐らく、もう一機いて、そいつも同じ事をしているのだろう』

 あたしは、

『まさか! 敵はたったの、三機だけですか!?』

 赤月風華が、

『その通り。闇夜の嵐に乗じて、三機が波状攻撃を仕掛ける。すると、攻撃を受けた兵士は、まるで多くの敵の攻撃を受けたかのように錯覚を起こす。という事だ』

 あたしは、 

『だから、敵の数が多かったり、少なかったりしたんですね。あっ!』

 嵐の切れ目から、あたしの機体の目の前を、敵機が激突スレスレでかすめ飛んでいった。

 一瞬、雷が青白く光り、敵機のコックピットをはっきりと照らし出す。

 操縦席には黒人がいた。

『敵の正体が分かりました! 敵は黒人です! しかも、機体は、Iー16です!』

 赤月風華が、

『なるほどな。黒人なら暗闇で見えたとしても、黒い影にしか見えない。ガランドウの中、瞳だけが光っている理由がそれだ』

 ネコちゃんが、

『よ、よよ、よくも、ボクをダマシタなあああっ!』

 ネコ機があたしの機体を飛び越えて、嵐の中に突っ込んで行く。

 嵐の切れ目で敵機の背後を取ると、

『正体さえ分かれば、もう怖くなんかないぞ! 食らええっ!』

 ガガガガガガッ!

 ビシビシビシッ!

 ネコちゃん怒りの一撃に、敵機が爆散する。

 さらに、もう一機、追おうとするけど、敵機は嵐に紛れて、一目散に逃げ出した。

 赤月風華が、

『追うな、ネコ! 三位一体の一角は崩れた! 二度と幽霊部隊が現れることはない! それに、リズムに乗った三位一体の波状攻撃といい、嵐を物ともしない空間把握力といい、敵ながら天晴れ。これ以上追う必要はない!』

 ネコちゃんが、

『ブ~~~、了解』

 ブ~たれながらも了解した。

 赤月風華が、

『そのかわり基地へ帰ったら、敵を撃墜したホービに、かき氷を食べ放題、食べていいぞ』

『えっ!? 氷は、みんな溶けたって、言ってなかった!?』

 ネコちゃんがそう言うと、赤月風華が、

『まさか! 怪談で使ったのは、氷の五分ノ一ほどだ。残りは、かき氷用として、ちゃんと取ってある』

『ヤッター! ヤッター! ヤッターかき氷食べ放題きたーっ! メロンにイチゴにレモン。みんな、お代わりして食べるぞ~っ!』

 ネコちゃんが大喜びする。

 ナデシコちゃんが、

『かき氷はメロンもイチゴもレモンも実は同じ味なんですよ。鼻をつまんで食べてみれば分かりますわ。違うように感じるのは、香料によるものですわ』

 あたしは、 

『へー、そうなんだ! 全然、知らなかったよ!』

 三へーぐらい驚いた。 

 でも、ネコちゃんは、

『そんなの、どうでもいいの! ボクはとにかく、いっぱい食べれば、それで幸せなの! ウフフ!』

 いつのまにか編隊に戻ったトンボちゃんが、

『トンボは、ミルクとアズキが食べたいです~!』

『『『『ババクサッ!』』』』

 全員で突っ込んだ。


   ☆6☆


 翌日、ネコちゃんは、かき氷の食べ過ぎで、お腹を壊して寝込んだ。

 でも、幸せそうな顔をしながらウンウン唸っているのを見ると、ネコちゃん的には、これで良かったのかな?


   ☆つづく☆



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