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第七話

   ☆1☆


「いよ~う、皆さん全員そろってんのかい、いやいや、恐縮恐縮」

 ブリーフィング・ルームにあたしが連れてきた帝都新聞の記者は、開口一番、こんな事を言った。

 だけど、まったく、恐縮した様子は無かった。

 服は白いスーツ。

 同じ色の帽子。

 黒いシャツ。

 赤いネクタイ。

 モジャモジャパーマに浅黒いシャープな顔立ち。

 本人はモボを気取っているのかもしれないけど、正直、全然、似合ってなかった。

 モボ、っていうのは、モダン・ボーイの略だよ☆。

「えっと、この人が帝都新聞の増込遊作さんです。今日は、神風特攻少女隊を取材したい、という事で、忙しい中、ワザワザいらっしゃて下さいました」

 あたしが増込を紹介すると、増込に肩をポンと叩かれ、指先で黒いサングラスをいじりながら、

「まあまあ、コロナちゃん。え~と、副隊長だったっけ、ともかく、そんな堅苦しいあいさつは抜きにしましょうや。お互い、胸を大きく開いて、オープンに、ここが肝心なところね。皆さん、オープンに本音を語りあいましょうや」

 赤月風華が、

「我々は軍人だ。戦うことが仕事なのだ。マスコミの話題にのぼるような、派手な真似はしてないと確信するが」

 増込がニヤリ。と、口のはしを上げ、

「まあまあ、そう最初っから肘鉄食らわすような真似はやめてもらうませんかね、こっちも仕事でしてね。マスコミにつきまとわれるのは、そりゃ、いい気持ちはしませんわな、まして、お堅い軍人さんなら、なおさらってとこでしょう、あっはっは」

 あっはっは、って、

「あれ、いつもの赤月隊長なら激怒しているところだけど、今日は妙に静かだね」

 ナデシコちゃんが、

「マスコミ対応で重要なことは、相手のペースに絶対、乗らない事ですわ。もちろん、相手は海千山千の強者ですから、あの手この手で翻弄しようとしますけど」

 ネコちゃんが、

「なんかイラつくな~! そーゆー事をする奴って.ボクの肌に合わないな~」

 ネコちゃんが嫌悪感をあらわにする。

 あたしは、

「すっごいサバサバして、男の子っぽいネコちゃんにとっては、ほんと天敵だよね」

 トンボちゃんが不思議そうに、

「天敵って、何です~?」

 増込が急にトンボちゃんのほうを向き、

「ありゃりゃ、中等生にもなって、そんな事も知らないんですかい? こりゃ傑作だ! 神風特攻少女隊の隊員は天敵も知らない無学です。と、メモメモ」

 トンボちゃんが涙ぐみながら、

「トンボは無学じゃないです~! たまたま知らなかっただけです~!」

 ナデシコちゃんが、

「天敵というのは、絶対勝てない敵の事をいうのですわ。シマウマはライオンには勝てませんよね。シマウマにとってライオンは天敵なんですわ」

 トンボちゃんとネコちゃんが、

「「へーーーっ!」」

 あたしは、

「ネコちゃんも知らなかったんだ!」

 と、突っ込む。 

 増込が、

「君がネコちゃんか、猪突猛進って噂になってるぜ、なんでも隊長に逆らって、敵前逃亡を企てたらしいじゃないか、まあ、将軍の計らいで記事にはなってないがね」

 ネコちゃんが、

「あれは、色々と、理由があったんだよ!」

 あたしもネコちゃんを援護する、

「あ、あの~、増込さん。その件は、すでに終わっている事ですから、他に取材する事がなければ、そろそろ」

 増込が、

「まあそう邪険にしないで、俺も子供のお使いで来たわけじゃないんでね。俺は俺なりに記事に命をかけている。神風特攻少女隊は確かに最近、作戦を次々に成功させて、世間でも注目のマトだけど、それを納得してない読者も多いんだ。たまたま運が良かった、とか、相手が弱かった、とか、零戦の機体性能のおかげ、とかだ。君たちの仕事を、単なるお嬢様のお遊戯、と豪語する連中もいる。帝国軍人である以上、すべての人を納得するような仕事をしてもらわないと、俺自身も納得出来ない」

 ナデシコちゃんが、

「わたくしたちのフライトは決して」

 ナデシコちゃんの言葉をさえぎりトンボちゃんが、

「トンボのフライトはお遊戯なんかじゃないです~っ! トンボはいつだって、本気で飛んでます~っ!」

 増込が、

「そうかな? 君はいつも仲間に助けられてるんじゃないのかい? いつだって部隊の足を引っ張っている。お荷物だと、噂されてるぜ、本気で飛んでいると、口では何とでも言えるが、本当に、誰にも頼らずに、一人で飛ぶ事が出来るのかい?」

 トンボちゃんが売り言葉に買い言葉で、

「それぐらい、お茶の子さいさいです~」

 増込が、

「それなら、それを証明してもらおうかな、ぼかあこれでも従軍派遣記者として、軍に登録してるんだ。君たちの部隊に是非、従軍して、トンボちゃんの活躍を、この目で見たいものだね。もしも、本当に君が活躍できたなら、神風特攻少女隊は軍神の再来と、ほめちぎった記事を書こうじゃないか、でも、もし、そうじゃなかったら」

 トンボちゃんがゴクリ、とノドを鳴らし、

 増込が、

「赤月隊長の訓練でトンボちゃんが海に墜落した件や、コロナちゃんが倉庫で零戦に弾丸を打ち込んだ件。それに、ナデシコちゃん、あんたがポケットマネーで隊舎をデコった件。赤月隊長がメイド服で出撃した件」

 赤月風華が鬼のような形相で、

「なにっ! い、いや、何でもない、です。続けてください」

 ウソッ! メッチャ逆鱗と地雷を踏まれたのに、赤月風華がこらえたよ!

 増込が、

「あ、あとはですねえ、さっき言った、無学の件も上乗せして記事にしますぜ、それでいいかな。まあ、下手をすると、神風特攻少女隊が解散になるかもしれませんなあ」

 トンボちゃんが上ずった声で、

「か、解散!?」

 増込が、

「その可能性があるって事だよ。まあ、上手くやりゃ、どうって事もないだろうよ」

 あたしは反対した。

「トンボちゃんだけじゃ無理です! 赤月隊長! 何とか言ってやってください!」

 赤月風華が、

「増込さん。あなたの提案を受け入れます。次の作戦では、トンボを一人で出撃させましょう。それで、納得してくれますか」

 手強い反撃を予想していた増込は拍子抜け、といった顔つきで、

「そ、それなら、それでいいんだがね、部外者の俺が言うのもなんだが、トンボちゃんには、あまり無理をさせないことですな、でないと、まあ、これはいわずもがなな事でしたかな、では、俺はこれで帰りますよ、お邪魔虫はさっさと退散するとしましょう」

 ネコちゃんが増込の後ろ姿に向かってアカンベーをする。

 と、突然、振り返り、

「これは、俺の知り合いのパイロットが言ってた事なんだがね、パイロットには三種類のタイプがあるそうですぜ」

 増込が人差し指を立て、

「一つ目は、

ひたすらエースを目指す奴、つまり、勝つこと、強くなる事が、目標な奴だ」

 中指を立て、

「二つ目は、

正義感から戦う奴、いってみりゃ、そいつの信念というか、誇りにかけて戦う奴だな」

 薬指を立て、

「三つ目は、

戦況に応じて対処する奴、味方が有利なら戦い、不利になると逃げる、調子のいい奴だ」

 最後にあたしたちを指さし、

「神風特攻少女隊の諸君、君らは果たして、どのタイプなのかな?」

 増込はそう言い残して立ち去った。


   ☆2☆


「赤月隊長! 何でトンボちゃんを一人で出撃させるなんて言ったんですか?」 

 あたしは納得できなかった。

 赤月風華は、

「出る杭は打たれる! 神風特攻少女隊は最近、目覚ましい活躍を遂げている。各地で苦戦している正規軍にとっては.生意気で目障りな奴。と、いったところだろう」

 あたしは憤り、

「そんな! ひどい!」

 赤月風華が、

「といっても、そんな考えを持っているのは、上層部の一部の士官だけだ。彼らがマスコミをけしかけ、マスコミも動いた、ということだ。マスコミが素直に従ったのは、恐らく、幻の大戦果の問題が、からんでいるからだ」

 トンボちゃんが不思議そうに、

「幻の大戦果って、いったい何です~?」

 ナデシコちゃんが、

「幻の大戦果というのは、海軍の戦果報告の、誤報の事ですわ。最初、アメリカ駆逐艦に攻撃成功、と報告しただけなのに、それを受けた通信兵が駆逐艦を撃沈、なお攻撃中、と付け加え、それを受けた本土の通信兵が、大本営に対して、複数の艦船を撃沈せり、と伝え、最終的に大本営はマスコミに対して、戦艦、空母、駆逐艦、巡洋艦、合わせて十数艦を撃沈した。と発表して、マスコミもそれを鵜呑みにして、国民にそのまんま報道したのですわ。ありもしない大戦果だから、幻の大戦果ですわ」

 トンボちゃんが青くなり、

「とんでもない大チョンボです~っ!」

 ネコちゃんが、

「ボクも昔、伝言ゲームをやった事があるけど、最初はネズミだったのに、最後はイノシンになっていたよ、ウフフ」

「干支かいっ!」

 あたしは突っ込んだ。

 トンボちゃんが、

「あと少しでネズミに戻ったです~。惜しいです~」

 赤月風華が、

「しょせんマスコミは政府に従って市民をシビリアン・コントロールするだけの哀れな飼い犬でしかない。今回は、ご主人様のとんだトバッチリを食らった、というわけだ。それはともかく、軍もマスコミも、この幻の大戦果の火消しに必死だ。市民も薄々、それに気づいている。そこで、我々を陥れ、世間の目を少しでも幻の大戦果から逸らしてやろう、という作戦に出た。だが、大多数の兵士は、我々の活躍に期待し、好意的だ。ともかく、一部の士官とマスコミは、なんとしてでも神風特攻少女隊の足を引っ張ってやれないか? と、考えたすえ、目を付けたのが、トンボだ」

 トンボちゃんが、

「何でトンボなんです~っ! トンボは誰よりも零戦を愛して、一生懸命、頑張ってるです~っ!」

 赤月風華がジト目でトンボを見たあと、

「それはともかく」

 あたしは、

「あっさりスルーしたよ!」

 と突っ込んだ。

 赤月風華が、

「しかも、トンボ単機の出撃は、正規軍からの正式な任務の依頼ではなく、従軍派遣記者を使った回りくどいやり方だ。本来なら受ける必要のない依頼だが、今回、あえて引き受けたその理由はな」

 あたしが一番聞きたかった事だよ。

 きっと、ものスゴ~イ、理由があるんだよ!

 赤月風華が、

「テメェ! 神風特攻少女隊をナメてんじゃねえっ! これが理由だ」

 あたしは呆然自失し、しばらく立ち直れなかった。

「えーーーっ! 理由って! まさか、それだけですか!?」

 赤月風華が、

「売られたケンカは、受けて立つ! だが、まったく勝算がない、というわけでもない。とりあえず、トンボ! しばらく、お前は特別訓練メニューをこなせっ! いいなっ!」

 トンボちゃんが、

「了解です~」

 と、事態をまったく理解出来ていない調子で、お気楽な返事を返す。


   ☆3☆


「何です~? あれは~? お空に浮き輪がいっぱい浮いてます~」

 海に並べられた、重し付きのブイから、糸がはるか上空まで伸びて、浮き輪状のバルーンを空中に固定している。

 しかも、いくつもそれが並べられて、いうなれば、浮き輪バルーンで作ったトンネルとでもいった感じになっている。

 あたしは、

「なんとなく、これからやる事が、想像出来るな~」

 と、つぶやく。

 赤月風華がトンボちゃんに、

「これよりトンボの新たな特訓を始める。見れば分かる通り、あの浮き輪バルーンの中を通って飛ぶだけだ。ただし、チンタラ飛んでいても仕方がない。まずは十分で全ての輪をくぐる事を目標にしろ。そして、徐々にペースアップしていく」

 トンボちゃんが、

「まるで、昔、子供のころ、親に連れられて行ったサーカスの、ライオンの火の輪くぐり、みたいです~」

「むむっ!」

 赤月風華が一瞬沈黙する。トンボちゃんが不審げに、

「ま、まさかっ、トンボはケモミミ扱いですか~っ!?」

 赤月風華が取り繕うように、

「ははは、何を言っている。そんな、私がライオンの火の輪くぐりを参考に、大事な神風特攻少女隊の隊員の訓練メニューを考えるわけがあるまい」

 トンボちゃんがジト目で、

「なんか怪しいです~」

 赤月風華が、

「とにかく、トンボ! お前はなんのかんのいわれながらも、今までのミッションをすべて、そつなくこなしている。戦闘機乗りとしての素質は充分あるはずだ。だが、お前の操縦は、ひっじょう~にっ! 不安定だ! お前の操縦を少しでも安定させるために、浮き輪バルーンのトンネルを設置した。バルーンの軌道は基本的なものばかりだ。が、しっかりマスターすれば、必ず、今以上に操縦が上手くなるばずだ。基本的な機動だからといって手を抜くなよ。目標は三分でバルーンを通り抜けること、いいなっ!」

 トンボちゃんが、

「了解です~っ」

 と言い、訓練機の二式水上戦闘機に乗り込む。

 二式水挺はフラフラ飛びながら上昇し、

 ボスッ!

 最初の浮き輪バルーンに早速、衝突した。

 あたしは溜め息とともに、

「ダメだこりゃ!」

 と、つぶやいた。


   ☆4☆


 トンボちゃんは一人で訓練。

 その間にあたしたちは軍用ジープに乗り込んで、一路、南雲邸に向かった。

 ナデシコちゃんの運転だよ☆。

 あたしは、

「なんか、森ばっかり続いてるけど、いつになったら南雲邸に着くのかなあ?」

 ナデシコちゃんがシレっと、

「三十分前から南雲の敷地ですわ。あと、三十分で屋敷に着きますから、もう少し我慢してくださいね」

 あたしは、

「お金はあるところには、あるんだね~」

 ネコちゃんが、

「ボクにも少しわけてくれないかな~。ウフフ」

 赤月風華が、

「バカなことを言ってないで、今回の作戦をザックリ説明するぞ。増込にはああ言ったが、やはり、トンボ一人で戦うというのは厳しい。そこで、トンボの出撃と同時に我々は休暇を取る」

 あたしは仰天し、

「えっ! でも、それじゃトンボちゃんは本当に一人で出撃することになるじゃないですか!」

 ナデシコちゃんが、

「そこで、わたくしの出番ですわ」

 あたしは、

「えっ、どゆこと?」

 赤月風華が、

「ナデシコの屋敷には自家用飛行機が多数ある」

 あたしは、

「えっ! まさか!」

 赤月風華の瞳がキラーン、

 /☆

 と、光り、

「そのまさかだ。ナデシコの自家用飛行機で戦闘に参加する。休暇を取っている以上、神風特攻少女隊として戦うわけではない。民兵だ」

 ネコちゃんが、

「ものは言いようだね! ウフフ」

 赤月風華が、

「ともかく、南雲邸には軍から横流しされた武器、弾薬がたっぷりある。今日はそれを使って、アメリカ軍と充分渡り合えるだけの武装をカスタマイズする」

 あたしが、

「あっ! お屋敷が見えてきたよ!」 

 それは、お屋敷というよりも、お城を改装した秘密基地、といった感じだった。

 あちこちに武装した民兵と、無数のトーチカが針鼠のように対空機銃を突き出していた。

 トーチカっていうのは、コンクリートで固めた天井つきの陣地の事だよ☆。

 あたしたちは一時間かけて、ようやく南雲邸に入ることが出来た。


   ☆5☆


「さあ皆さん。どれでも、好きな飛行機、武器、弾薬を選んでください」 

 ナデシコちゃんがおっとりと言ったけど、あたしは倉庫にある大量の飛行機、武器、弾薬を目の前にして選ぶのに迷ってしまった。

 赤月風華が、

「飛行機は複座式を。それと、後部座席に対空機銃を取り付けて欲しい。私はガンナーとして戦う。操縦はコロナ、お前に頼む」

 あたしはホッとした。

「わかりました」

 赤月風華が、

「ネコ、お前はナデシコと組め、今回は戦闘機よりはるかに劣る自家用飛行機だ。だから、猪突猛進のお前より、ナデシコの回避能力のほうが重要になる。そのかわり、武装はお前の好きなように選んでいい」

 ネコちゃんが、

「それじゃライフルがいいな。出来るだけ威力があって、射程の長い奴。先制攻撃でガツンといわせたいんだ」

 ナデシコちゃんが、

「それなら対戦車ライフルをロングバレルに改造して、十キロ先まで狙えるようにしますわ」

 ネコちゃんが、

「ボクそれがいい! それに決~めた」

 赤月風華が、

「よしっ、今日は全員、自家用飛行機に慣れるまで試し飛行だ!」

「「「はいっ!」」」


   ☆6☆


 トンボちゃんの乗った二式水挺がスルリ、スルリと浮き輪バルーンをすり抜けていく。

 ここ数日でメキメキ上達したみたいだね。

 トンボちゃんが着水して桟橋に止める。 

 キャノピーを開けて顔を突き出すトンボちゃん。

 あたしは、

「トンボちゃんのミッションが決まったよ! すぐ、ブリーフィング・ルームに来て!」

 トンボちゃんが、

「わかったです~! 今、行きます~!」

 と、返事を返す。


   ☆7☆


 ブリーフィング・ルームの一番うしろの席を増込がしめていた。

 赤月風華が、

「本日は従軍派遣記者の増込さんも参加する」

 増込が、

「どもども~」

 と、片手をあげてヒラヒラと振った。

 赤月風華が咳払いし、

「では、今回のミッションを伝える。今回は敵の補給ルートを断つ。正規軍は大規模な作戦を遂行中で、こういった地味な作戦は行う事が出来ない。そこで、我々、神風特攻少女隊に白羽の矢が立った。決して、トンボのレベルに合わせて作戦を立てたわけではない。詳細を説明する。アメリカ軍、補給基地の一つであるブニターク島から、三機の輸送機と護衛の機体、

 Pー40、ウォーホークが二機、合計五機が南洋諸島、ウィーク島へ向かって飛び立った。トンボはただちに出撃し、この輸送任務を妨害すること。実質的には、護衛する二機を倒せば楽に終わる作戦だ。 Pー40は零戦二一型より劣る機体だから、速やかに倒すこと!」

 トンボちゃんが、

「了解です~」

 赤月風華が、

「なお、他のメンバーはこれより半日の臨時休暇に入る。トンボ! あとはお前に任せた! 増込さん、この条件なら文句はないでしょう」

 増込が、

「ええ、そりゃもうバッチリでさあ、こりゃトンボちゃんには悪いけど、いい記事が書けそうですな、あっはっは!」

 トンボちゃんが、

「ところで、みんな半日も休暇を取って、何をするです~?」

 赤月風華がニヤリと笑い、

「ハンティングだ。それも、マンハントだ。得物はトンボ、お前にもすぐ分かるだろう」

 トンボちゃんが、

「???」

 ハテナマークを浮かべている間に、あたしたちはその準備に向かった。


   ☆8☆


「突貫工事で自家用飛行機の翼に二十ミリ機関靤を左右に一門、合計二門、取り付けましたわ。それと、ご注文通り、後部座席には赤月隊長用の重機関銃、ネコちゃん用の大型対戦車ライフルを取り付けてありますわ」

 トラックに積んだ自家用飛行機を車道に下ろしながら、ナデシコちゃんが説明する。

 赤月風華が、

「完璧だな。これなら機動力でPー40に劣っても、何とか対抗出来るだろう。よしっ! 全員、出撃! じゃなくて、アメ公のマンハントに出発だ!」

「「「はいっ!」」」


   ☆9☆


『ちょっと、ちょっと、ちょっと~、そりゃないんじゃないの、完全に約束違反じゃない?』 

 増込が情けない声を無線であげる。

 赤月風華が、

『今日は、我々は非番で、神風特攻少女隊ではない! ただの、民兵だ! 約束を破ってはいない!』

 増込が、

『ひっでえな、屁理屈もいいとこだよ。まあ、いいや、俺は面白い記事が書ければ、それで満足だ。せいぜい、奮戦してくれよ』

 ミーティングから数分後、あたしたちがトンボちゃんに追い付いたあとの会話だよ。

 ちなみに、増込は複座式の訓練機、その後部座席に座っていた。

 あたしは、

『見えてきた、輸送機と護衛機だよ!』

 海と空の彼方、沸き上がる入道雲の先に、五機の編隊が見えてくる。

 すると、敵側が無線に割り込んできて、

『やっぱり来たな、神風特攻少女隊の諸君、むむ? 今日は一機だけか? 他は訓練機と民間機のようだが』

 と、言ったのはジミー中尉だった。

 ナデシコちゃんが、

『今日はトンボちゃん以外は、みんな民兵ですわ。訓練機はマスコミの方が取材でお乗りになっていますから、手は出さないで下さいましね』

 ジミー中尉が、

『了解だ。騎士道精神に乗っ取り、報道関係者には、一切、手出しをしないと誓おう。ただし、民兵は、例え子供であっても、武器を取った瞬間から敵対勢力、大いなる脅威とみなし、容赦なく排除する。いいな、ナタリー小尉』

 ナタリー小尉が、

『了解よ。でも、ナデシコ! あんたは今度こそ絶対に、やっつけてやる! あんたのせいで、こんな、輸送機の護衛なんて、くだらない仕事を押し付けられたんだからね! それと、そんなショボい民間機で、アタシたちに勝てると思ったら大間違いよ! 覚悟しなさい! 正義はアタシにありっ!』

 ジミー機とナタリー機が輸送機を離れ、螺旋を描きながら、トンボちゃん目掛けて突っ込んで来る。

 ジミー中尉が、

『まずは貴様だ! ドンくさいトンボメガネ!』

 タタタタッ!

 乾いた機銃の音が大空に響く。

 トンボちゃんが動転しながら回避。

 ジミー中尉が感心したように、

『むう! なかなかやるな! 以前より、少しは成長したか?』

 一難去って、また一難。

 トンボちゃんが回避した先にナタリー機が待ち構えていて、

『逃がさないわよ!』

 ダダダッ!

 息のあったチームプレイだよ!

『はわわっ! 二機同時に攻撃して来てるです~、ど、どっちと戦ったらいいです~っ?』

 赤月風華が、

『螺旋機動に惑わされるな! トンボはジミー機を! 我々はナタリー機を追う!』

 トンボちゃんが、

『はいです~!』

 と、言ってジミー機を追う。

 あたしとナデシコちゃんはナタリー機を追っかける。

 あたしは上昇して、ナデシコちゃんは右旋回。

 ナデシコ機の後部座席でライフルを構えたネコちゃんが、

『食らえ! 対戦車ライフルの威力!』

 ダンッ!

 ダダッ、ダンッ!

 ライフルを連射! でも、

『なかなか当たらないよ! 機銃のほうが良かったかな~』

 ナタリー小尉がナデシコ機を狙い、

『鈍い! 鈍いわね! 民間機で楯突こうってのが、そもそも間違ってるのよ! もう逃げられないわよ!』

 ダダダッ!!

 ナデシコちゃんがフワリと回避、

『それが、ナタリー小尉の正義ですの? わたくしが民兵でない、民間人でも、撃ってきそうですわね』

 ナタリー小尉が、

『勝てば官軍よ! 民間人が戦禍に巻き込まれようが、勝ったほうに正義はあるのよ! 負けた奴は奴隷になるだけよ!』

 ナデシコちゃんが必死にフワフワと避けているものの、撃墜されるのは時間の問題だ。 

 ナデシコちゃんがおっとりとした調子で、

『国際法上の交戦規定も何も、あったもんではありませんわね』

 ナタリー小尉が、

『何が交戦規定よっ! ルールは勝った側が作るのよ! 負けた奴は、ただ、それに従っていればいいのよ!』

 赤月風華が会話に割り込み、

『神風特攻少女隊の交戦規定は、ただ一つっ!』

 ナデシコちゃんが、

『それは勝つことでも、自分の正義を他人に押し付ける事でもありませんわ』

 あたしが高らかに、

『全員、生きて帰ること! それが、あたしたちの唯一のルールだよっ!』

 ナタリー小尉が、

『くだらない世迷い事を! ならば、アタシに勝って、それを証明してみせなさい!』

 赤月風華が、

『コロナ! ナタリー機へ降下して攻撃だっ!』

『了解!』

 それまで高度を稼いでいたあたしは、五千メートルの上空から一気に急降下、二十ミリ機関靤を撃つ、撃つ、撃つっ!

 ダダッ、ダダダッ!

 ナタリー小尉が、

『だから、鈍いと言っている!』

 バレルロールでスパッとかわされ、右側面を狙われる。

 赤月風華が一喝、

『上昇! 右ロール!』

 とっさにあたしは操縦悍を目一杯引き、急上昇! 

 そして、操縦悍を右に倒す。

 すると、右上から攻撃しようと、旋回中のナタリー小尉と目がう。

 刹那、

 ガガガガガガッ!

 後部座席の重機関銃が、斜め上を切り裂くように火を吹く、

 ビシビシビシッ!

 ナタリーが呻く、

『しまった! 後部座席の機銃を忘れていた! くそっ! 燃料タンクがやられた!』

 ナタリー機の胴体からガソリンがドンドン漏れ出す。

『覚えてなさいよ! 次こそは、負けないから!』

 その頃トンボちゃんは必死にジミー機を追っかけていた。

 性能的には零戦のほうが上だけど、回避を続けるジミー機に追い付けない。

 トンボちゃんが、

『性能はこっちのほうが断然、上なのに~』

 と、ボヤく。

 ジミー中尉が

『機体性能の差は腕でカバーする。それがエースだっ! 俺は神風特攻少女隊を踏み台にして、もっと強くなってやる! 真のエースになってやる! だが、貴様は何のために戦っているのだ? トンボメガネ!』

 トンボちゃんが、

『トンボはみんなのために戦うです~っ! 一人はみんなのために、みんなは一人のために! です~!』

 赤月風華が、

『トンボ! 下手くそなお前でも機体性能は零戦のほうが上だ! 引き離して反転、正面から撃ち合え!』

 いわゆるヒット・アンド・アウェイだね☆。

 トンボちゃんが、

『わかったです~! やってみるです~!』

 フラフラしながらジミー機を引き離し、反転、ジミー機と正面から撃ち合う。

 ダダダッ!!

 ジミー機も反撃!

 タタタタタッ!

 二機がスレ違い、お互い機体から火を吹く、二人とも飛行に影響はないようだけど。

 ジミー中尉が、 

『くそっ、引き分けか! だが、これで勝ったと思うなよ! 神風特攻少女隊の諸君! また会おう! 全機、撤退する!』

 赤月風華が、

『我々も撤退だっ!』

『『『『了解!』』』』

 あたしは、

『増込さん。今日、あたしたちが勝手に戦ったこと、軍規違反として記事にしますか?』

 増込が、

『いや、俺が記事に命をかけているように、神風特攻少女隊も命がけで戦っている事がわかった。もう、あんたたちを潰すための記事は書かない。むしろ、これからは君たちを大いに応援するぜ、次の帝都新聞、期待しててくれよな!』


   ☆10☆


 帝都新聞には一面トップの見出しと共に、赤月風華のメイド姿がグラビア写真として掲載されていた。

 どうやら、誰かが隠し撮りした写真を載せたらしい。

 赤月風華が新聞をビリビリ引き裂き、ブリーフィング・ルームに撒き散らす。

「増込めっ! はかったなーーーっ!」

 ナデシコちゃんが、

「でも、神風特攻少女隊との繋がりに関しては、何一つ書いてませんわ」

 ネコちゃんが、数部ある別の帝都新聞を開いて、

「ボクが読んであげるね☆。なになに、神風特攻少女隊の基地に美しきメイド嬢あらわる。この少女の正体はすべて不明、まったく謎に包まれている。が、基地の男性兵士の間では、夢か幻か伝説のアイドルか、はたまた、空から舞い降りた天女か。と、まるで女神のごとく崇め奉られている。うんぬん」

 トンボちゃんが、

「もうメイド・アイドル、略してメイドルになるしかないです~」

 と、相変わらず、わけのわからないボケっぷりを発揮して、赤月風華に、

「トンボっ! 貴様の特訓は倍に増やす!」

 と、また怒られるのでした。



   ☆つづく☆



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