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第二話

   ☆1☆


 こうして、あたしとトンボちゃんは、神風特攻少女隊として、初めて、実戦に出撃することになった。


   ☆2☆


「すっご~い! 本物の二一型零戦です~っ! 実戦配備されているこの機体は、訓練機なんかとは違って、機動力が数段上なんですよ~、ルンルン☆」

 先ほどまでの不安な表情はどこへやら、完全にピクニック気分だ。

「トンボちゃん、訓練じゃないんだよ、気を引き締めないと、やられちゃうよ」

 トンボちゃんがちょっとうろたえながら、

「わ、わかってます~、でも、零戦に乗れるのは、嬉しいです~」

 あたしはあきれながら、

「それは、わからなくもないけど、あたしだって零戦ははじめてだもん、そりゃあ浮かれる気持ちもわかるよ、だけど、あたしたちがコレに乗るのは、大人どころか、学徒動員で徴兵された少年兵たちも、みんな、アメリカ兵に殺されたからだよ。せっかくの零戦も、パイロットがいなきゃ、飛ばしようがないって、それで、あたしたち女の子が呼ばれたんだよ。あたしたちは、男の子たちが大きくなって、戦えるようになるまでの、つなぎでしかないのよ。浮かれているわけにはいかないわ。将来、子供たちに渡さなきゃいけない大事な機体なんだから、受かれ過ぎて、傷つけでもしたら大変だよ」

 トンボちゃんがシュンとする。

「うん、わかってる。アタシたちは一時的な代替え品。使い捨ての道具に過ぎないってこと……。でも、未来の兵士に負けないぐらい、アタシにとっては大切な機体だから、絶対に守って見せる!」

 あたしはトンボちゃんの爆発したようなクセッ毛をグシャグシャと撫でる。

「守りましょう。この国も、子供たちも、大事な零戦も」

「うんっ!」

 トンボちゃんが元気よくうなずいた。


   ☆3☆


 二一型零戦に乗り込んだあたしとトンボちゃんは、薄暗い格納庫を出て、眩しい空の下、雑草が生い茂っている路面をタキシング(助走)して滑走路へと、ガタゴトいいながら向かった。

 滑走路手前で一時停止。

 トンボちゃんの離陸をあたしは見送った。

 右へ左へと、ヨタヨタしながらトンボちゃんが飛び立っていく。

 正直いって離陸すら危うい。

 あたしは付いてきて正解だと思った。

 上空でトンボちゃんに合流し、並んで飛んだあたしは、進路を九十度方向に向ける。

 つまり、東の方向へ向ける。

 そっちは太平洋で、その先にある離島は前線基地の一つなの。

 天候は晴れ、視界は良好。

 絶好の偵察日よりだよ☆。

『見えたっ! 敵機だ!』

 あたしが無線で叫ぶとトンボちゃんが動転したように、

『ええっ! どこどこ! 全然見えないよ!』

『2時の方角、太陽のちょい東に一機!』

『あっ! 本当だ! いたいた! コメツブみたいだよ!』

 相手もあたし達に気がついたのか、旋回して回れ右をする。

 つまり、逃げ出した。

 トンボちゃんが、

『どうしようコロナちゃん? 敵が逃げ出しちゃったよ、基地に帰って風華隊長に報告する?』

1・このまま引き返す。

2・追っかけてやっつける。

 選択肢は2つ。

 あたしは2を選択した。

『追っかけてやっつけようよ。放っておいたら本隊を引き連れて、白銀市に攻め込んでくるかもしれないよ』

 トンボちゃんが不安そうに、

『う、うん。わかった。で、でも大丈夫かな?』

『平気平気、偵察機ぐらい、零戦なら楽勝だよ』

 あたしはスロットルを全開にして敵機を追いかける。

 どうやら、ろくな武装も積んでいない、本当の偵察機みたいだ。

 瞬く間に接近し、チョコマカと逃げる敵機を照準に捉える。

 実際は、敵機の少し先のほうに狙いを付ける。

 時速300キロで旋回する敵機に向かって、まっすぐ飛んで行く機関砲を撃っても、敵機の後方に逸れて当たらない。

 敵機が飛んで行く方向を予測しながら撃たなきゃいけない。

 いわゆる、予測射撃ね。

『当たれ~っ!』

 ビシビシッ!

 尾翼にかすったけど落ちない。

 それどころか、逃げられないと判断した敵があたしの目の前で急ブレーキをしてきた、フワフワしながら体当たりをかまして来たのだ。

『えっ! ウソっ!』

 あやうく衝突しそうになり、あたしはスロットルオフ、エアブレーキ全開、操縦桿を右にぶっ倒して右ロール、ぷらす、右ラダーを思いっきり踏んで右ヨー、の右急旋回! 目とはなの先を敵機が通り過ぎ去る。

『やった! ギリギリでかわしたよ!』

 だけど、

『ぶっ、ぶつかる~っ!』

 トンボちゃんの悲鳴とともに、

 ガシャン!

 敵機の翼がトンボちゃんの翼の先に当たった! 翼の先が千切れ飛ぶ。

『トンボちゃん!』

 トンボちゃんが墜落する! かと思いきや、フワリと浮き上がり、フラフラしながらも飛行を続けた。

『だ、大丈夫です~。かすっただけです~。まだ、飛べます~』

『よ、良かった、危なかったね!』

『急に敵が突っ込んできたから驚いたです~』

『安心して、あとは、あたしがやっつけるから!』

『コロナちゃん、たのみます~』

『行っくぞーっ!』

 フラフラ飛んでいる敵機を容赦なく機銃掃射、胴体に着弾、

 ドカンッ!

 敵の機体が火を吹く。

『ナイスキルっ! です~っ!』

 トンボちゃんの無線とともに敵機が爆散、黒煙とともに海の藻屑と消え去った。


   ☆4☆


 基地に戻ったあたし達を、赤月風華が飛行場で待ち構えていた。

「よくやった、日ノ本コロナ。初めての戦闘にしては上出来だ。男子の兵士でさえ、実戦の緊張に耐えられず、逃げ出す奴がよくいるなか、よく敵を撃墜してくれた。副隊長に相応しい働きだったぞ」

「は、はあ」

 なんか、ベタボメされて、かえって落ち着かない。

 ろくな返事も出来ずにポーっとしていると、一転、トンボちゃんに対しては赤月風華ブシの激しく、容赦ない叱責が飛ぶ、

「トンボ! 貴様はやる気があるのかっ! 敵を倒せないのは仕方がない! 私もそこまでやれとは命令していない、あくまで偵察機の確認だけで充分だとは言った。が、だからといって交戦の可能性がないとは言っていない。その覚悟を持って任務にあたらねばならない、しかも、貴様の乗った零戦二十一型は敵の偵察機よりはるかに性能が上だ、にもかかわらず、なぜ敵機にぶつかるなんてヘマをやらかして、大事な零戦を傷つけた? 楽勝とはいかないまでも、単機の偵察機の体当たりがかわせないでどうする? しかも、お前は先によけたコロナの機動を見ていたんだろう、普通なら、どんなヘボパイロットでもかわせる状況のはずだ! このグズパイロットが! トンボ! 貴様はグズのなかのグズパイロットだ! 素人にも劣る! 貴様に大日本帝国が誇る零戦に乗る資格はない! 荷物をまとめてさっさと帰れ! 帝国軍人に貴様のような素人は無用だ! 貴様は本日をもって除隊とする! 以上!」

 赤月風華が一気加勢に言いきって、さっそうと基地へ戻って行く。

 最初、事態が飲み込めずにポカ~ンとしていたトンボちゃんだけど、やがて、事態の絶望的なことをさとり、

「うわあああん! アタシ! クビになっちゃったよ~~~っ! うわあああんっっっ!」

 涙と鼻水を膨大に垂れ流しながら、顔を真っ赤にして号泣するトンボちゃん、あたしはなぐさめる言葉もみつからず、ただ、ただ、トンボちゃんを見守るしか出来なかった。


   ☆5☆


 その夜、トンボちゃんは遅くまで零戦の修理を手伝っていた。

 兵舎でだべっていたネコちゃんが、

「今回はボクも隊長にドーカンだよ。偵察機相手に大事な零戦を壊されたんじゃ、実際たまんないよ」

 あたしは立ち上がってこぶしを握りしめる、

「でも、クビにするなんてあんまりだよ! トンボちゃんだって、一生懸命戦っているのに、ちょっと失敗しただけなのに、あんまりだよ! 零戦は修理すれば直るけど、トンボちゃんのかわりはいないんだよっ!」

 ナデシコちゃんが哀しげに、

「だからこそのクビですわ。コロナちゃんの言った通り、零戦は修理すれば直せます。でも人間は死んだら修理出来ません。たとえクビにならなかったとしても、今後、今以上に強い敵があらわれたら、トンボちゃんが撃墜される可能性もあると思います、いえ、その可能性はとても高いでしょう。トンボちゃんを死なせないためにも、心を鬼にして、クビにするしかないんじゃないでしょうか」

 あたしはナデシコちゃんの超論理的解答に口ごもってしまった、

「確かにナデシコちゃんの言う通りだよ、そ、それは、そうかもしれないよ、でも、理屈じゃないんだよ! あたしたち仲間でしょ、ずっと一緒に地獄の猛特訓を乗り越えてきた戦友でしょ! それを、見捨てるなんて、あたしはいやだっ! 絶対いやだ! やだったらヤダ! ヤダヤダヤダッ!」

 ネコちゃんがあきらめ顔で、

「ボクだってヤダよ。だけど仕方がないんだよ。この基地で一番強い奴がそう決めたんだから、ボクたちが強くなるためには、そうしなきゃいけないんだよ、クジュウのけつだんってヤツだよ、赤月隊長だって、きっと本心からクビにしたいわけじゃないと思うよ。最終的に、どう考えても、それが一番トンボのためになるって考えたからこそだと思うよ」

 ネコちゃんの説得に、あたしは自分で痛くなるほど握り締めたコブシをゆるめ、力なく落とした、あたしは無力感を感じながらフラフラと自分の部屋へもつれ込み、そのままベッドにぶっ倒れた。明日には、トンボちゃんとお別れなのだ、でも、その前に、やることがある!


   ☆6☆


 明け方近くになってにゴソゴソと荷物をまとめて出て行く、小さな足音が聞こえてくる、トンボちゃんが兵舎を出ると同時に、あたしはベッドを抜け出し、トンボちゃんを追っかけた。

「トンボちゃん! 待ってトンボちゃん!」

 薄暗くて青みがかった、澄んだ空気のなか、白いワンピースに大きなカバンを抱えたトンボちゃんがあたしを振り返る。

 あいかわらず爆発気味のクセっ毛だった。

 クリクリした瞳であたしを見やり

「コロナ……ちゃん?」

 あたしは口火を切った、

「なんでやめるの、トンボちゃん! こんな簡単にやめちゃって、トンボちゃんは後悔しないの? ここでやめたら二度と空を飛ぶことは出来ないんだよ! トンボちゃんの大好きな零戦とも、永遠にお別れなんだよ! それで本当にいいのっ!?」

 トンボちゃんの瞳に大粒の涙が浮かぶ、

「でも、だって、アタシが乗ってたんじゃ、きっと、もっと零戦を傷つけちゃうよ、もしかしたら、いつか撃墜されちゃうかもしれないよ、ア、ア、アタシじゃ、ムムム、無理なんだよ、これで…これできっと、良かったんだよ」

 あたしも負けずに涙をためて、

「あたしはヤダっ! こんなお別れがいいわけがないっ! ヤダったらヤダっ! 零戦なんか壊れたっていい! トンボちゃんがいなくなるほうが、あたしはイヤだっ! 敵だって必死なんだよ! みんな死にたくないんだから、みんな必死に戦ってるんだよっ! 傷つくのはトンボちゃんだけじゃないよ! 誰だってそうだよ! トンボちゃんには、トンボちゃんは! あ~っ、もうっ! 口じゃ説明出来ないよ! 来て! トンボちゃん!」

 トンボちゃんが目を丸くする、

「えっ? いったいどこへ?」

「とにかく来てっ!」


   ☆7☆


 あたしはトンボちゃんを引っ張って零戦の倉庫に入った。

 淡い朝日を受けて、零戦はピカピカと光り輝いている。

 あたしは護身のために各隊員に貸与されているピストルをポケットから取り出し、トンボちゃんに渡して言った、

「トンボちゃんが神風特攻少女隊をやめるなら、もう零戦は関係ないわよね! だったら、そのピストルで零戦を撃って! もう一生関係がないんだから、それぐらい出来るわよね!」

 トンボちゃんが零戦とピストルを交互に見交わし、

「そ、そんなこと言われても、ア、アタシは」

 あたしはトンボちゃんからピストルをひったくると、

「トンボちゃんが撃たないならあたしが撃つっ!」

 バンッ! ババンッ!

 立て続けに三発発射、一発それて二発が零戦に命中した。

 反動で身体が大きくそれる。

 が、体勢を立て直して、さらに撃とうとすると、

「やめて! もうやめてコロナちゃん! お願いだから! もう、大事な零戦を傷つけないでっ!」

 トンボちゃんの絶叫が倉庫の中にコダマした。

 あたしも負けずに大声をあげる、

「たとえあたしがやめてもアメリカ兵はやめないよ! 容赦なく撃ってくるよっ! どうしたらいいのっ!」

 長い、長い沈黙があった、トンボちゃんが身体をブルブルふるわせながら、か細い声で、

「ア、アタシが、アタシが守る。アタシが守ってむせるもんっ!」

 あたしはピストルをおろす、

「その言葉に嘘いつわりはないね、トンボちゃん」

 トンボちゃんが大きくうなずく。

「それじゃ一緒に行こう!」

 トンボちゃんがキョトンとし、

「行くって、どこへ?」

「赤月隊長にトンボちゃんが復帰出来るよう、ジカダンパンに行くんだよっ!」


   ☆8☆


 あたしはボンヤリしているトンボちゃんを半ば強引に引っ張って、赤月風華のいる士官候補生、専用兵舎にズンズンと向かって行った。

 けど、赤月風華はすでに兵舎の扉の前で仁王立ちしていた。

 すらりとした小柄な美少女、という立ち姿に似合わない、うんけいかいけいの阿吽像じみた恐ろしい風格に圧倒さたあたしは、その姿を見ているうちに急激に心臓の鼓動が早くなるのを感じた、

 ドックン!

 ドックン!

 偵察機と戦った時もこんなに緊張しなかったのに…、

「なにか言いたいことがありそうだなコロナ副隊長」

 ギクっ! あたしはドギマギしながら、

「あの、ですね、えっと、その……」

 我ながら自分の優柔不断さが情けない、というか呪いたくなる、はっきり言わなきゃいけないのに! その時、トンボちゃんが、か細い声をふるわせ、

「赤月隊長! ア、アタシを神風特攻少女隊に復帰させてください!」

 モタモタしているあたしを尻目にンボちゃんが赤月風華にそう訴える! 凄い! 勇気あるトンボちゃん! ナイスファイト! 赤月風華がトンボちゃんをにらみつけ、

「貴様はすでにクビを言い渡してあるずだ。いまさら何を甘いことを」

「ふ、副隊長として、あたしもトンボちゃんの復帰を支持します。げ、現状では、ネコの手も借りたいぐらい兵士が不足しています』

「寝子がいるだろう」

「いえ、ネコちゃんじゃなくって! その、トンボちゃんの復帰は、必ず神風特攻少女隊のためになると考えます!」

 あたしは一気にまくしたてた、赤月風華が、

「副隊長たっての進言を無下に却下するわけにはいかないな。いいだろう、トンボ! お前の復帰を許可する!」

 ダ、ダイドンデンガエシ? 

「ヤッターっ! 良かったねトンボちゃん! また一緒に空が飛べるよっ!」

「は、はいっ! これもコロナちゃんのおかげです~っ!」

「ただしっ!」

 赤月風華が鋭く言い放つ。

「トンボにあるミッションを言い渡す、その任務を達成できたら、晴れて復帰だ!」

 トンボちゃんが不安そうに、

「ど、どんなミッションなのでしょうか~?」

「詳細はナデシコに伝えてある。以上!」

 赤月風華が兵舎へ戻っていく。

 入れ替わりにナデシコちゃんが出てきた。

「え? どゆこと? なんでナデシコちゃんがこんなところにいるの?」

「コロナちゃんがトンボちゃんの説得に行ったようなので、わたくしは赤月隊長の説得に向かったんです」

「さすがナデシコちゃん! 忍者みたいに素早いね!」

 あたしは感嘆の声をあげる。

「それでそれで? どうなったの?」

 あたしはナデシコちゃんに続きをそくす。

 ナデシコちゃんがクスクス笑いながら、

「赤月隊長は最初からトンボちゃんをクビにする気はなかったそうです。ただ、気合いを入れるために、心を鬼にして、ああ言ったまでだそうです、このことは他言無用にお願いします。わたくしが赤月隊長の本心を漏らしたと知ったら、今度はわたくしがクビになってしまいますから」

 あたしは気抜けした口調で、

「な~んだ、そうだったのか、心配して損しちゃった」

 トンボちゃんがそれでも心配そうに、

「で、でも、赤月隊長の言っていたミッションとは、いったい、どんなミッションなんでしょう~?」

「そうだった! まだミッションが残っていたんだ! どんなミッションなの?」

 ナデシコちゃんが態度を改め、

「では、トンボちゃんへのミッションを通達します。今朝、夜明け前に、白銀基地、司令官が秘密会議のために極秘で大本営へと車で向かいました」

 ここでナデシコちゃんが言葉を切る。

 そして、あたしたちをジッと見つめる。

 何だろう? 司令官の身に何か起きたのだろうか? それとも敵が襲ってくるのだろうか? もしかして、もっとささいな事で、あおり運転をくらって事故っちゃったとか? ナデシコちゃんの真剣そのものの眼差しからは何も読み取れない。

 緊張しまくるトンボちゃん。

 一緒にあたしまで緊張してきちゃったよ! いったいどんなメイレイなんだろう! 気になる気になるううう~~~っ!!!


   ☆9☆


 ナデシコちゃんがミッションの通達を続ける、

「ところが司令官がうっかりお昼のお弁当を忘れて出掛けてしまいました。ということで、トンボちゃんのミッションは司令官へ、お弁当を届けることですわ」

「ウーバーイートかいっっっ!!!」

 あたしは思わず突っ込んだ。

 だけど、トンボちゃんはホッとした様子で、

「お、お届けものぐらいなら、アタシにも出来そうです~」

 ナデシコちゃんがいたずらっ子みたいな笑みを浮かべ、

「それでは詳しく説明しますね。司令官は白銀連峰南側の草原を通る道路わきに車を停車して、お弁当の到着を今か今かとお待ちかねです。お弁当はバスケットの中にシロツメ草をたくさんつめてクッションにして入れてありますから、二式水上戦闘機で司令官に接近したあと、そのまま放り投げてください」

「りょ、了解です~」

「あたしもついて行っていいかな?」

 ナデシコちゃんがうなずき、

「問題ないです。赤月隊長があらかじめコロナちゃんの同行を許可しています。トンボちゃん、グッドラック!」

「はっ、はい、がんばるです~」


   ☆10☆


 数分後、あたしとトンボちゃんは空の人となった。

 気持ちのいい晴天、風がちょっとあるぐらいで、絶好のフライト日和。

 草原へ向かう途中、小高い山一面に広がる竹林の上空をこえた。

『あれ? あれは何だろうね、トンボちゃん』

 あたしは無線でトンボちゃんに呼び掛ける、

『はい? 何ですか?』

『8時の方向、竹林の一部が、一直線に、ふもとまで刈り取られてるよ』

『本当です~、とても長い坂になっているです~、いったい何でしょう?』

『わかった! きっと長~いスベリ台を作ってるんだよ』

『あはは、そうかもしれないです~、きっとテーマパークを作ってるんです~』

『テーマパークか~、最後に花屋敷に行ったのはいつかな~』

『アタシは花屋敷より零戦に乗っているほうがずっと楽しいです~、リアル・アトラクションです~』

『撃墜されたら本当に死んじゃうけどね』

『はう、それが一番の問題です~』

 とかなんとか、トンボちゃんと無線交信しながら竹林の先にど~んと広がる、結構、大きな湖の上空を越えて行く。

 やがて、白銀連峰の裾野に広がる大平原地帯が目に入ってくる。

 一本の道路がず~っと続いている。

 あたしとトンボちゃんが道づたいにノンビリ飛んでいると、はるかかなたに黒塗りの高級車が見えてくる。

 そのそばに立っている司令官が手を振っていた。

 トンボちゃんがニ式水上戦闘機の速度を300キロほどまで落としてキャノピーの窓からお弁当の入ったバスケットを放り投げる。

 バスケットは無事、司令官の近くの原っぱに落ちる。

 司令官がノソノソとそれに近づいて拾った。

 ミッションコンプリート!

 あたしのなかでファンファーレが鳴る! これでトンボちゃんも神風特攻少女隊に復帰できるよっ!


   ☆11☆


 基地へ帰ると、赤月風華が、

「トンボの復帰は許すが今まで以上に厳しい特訓をするから、しっかり覚悟しろ、トンボっ!」

「はいっ! です~!」

 トンボちゃんがうれしそうに返事をする。

 メデタシメデタシ。

 そこへ、機体整備のオッサンがしゃしゃり出てきて、大声一喝、

「誰じゃ! 大事な零戦に銃弾を二発も撃ちよった不届き者はっ!」

 整備長のどら声が基地全体に響き渡る。

「しっ、シマッタ~っ!」と、あたしの心の声、

 あたしは冷や汗を流しながら青ざめ、そうだった、すっかり忘れていたけど、そう言えばそんなこともありました←(他人事)

「あ、あの、あたしが撃ちました、二発とも」

「きっ、貴様か、コロナっ! 来いっ! きっちり修理するまで、絶対許さんからなっ!」

 あたしはペコペコ頭を下げる。

「は、はいっ、すみませ~んっ! 修理します!」

 穴があったら入りたいとは、まさしく今のあたしのことじゃないかしら?

 あたしは徹夜で零戦の修理をする羽目におちいったのでした。


   ☆つづく☆





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