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第十話

   ☆1☆


『トンボ! 遅れてるぞ! しっかり付いて来い!』

 赤月風華の叱責にトンボちゃんが、

『はっ、はい、です~!』

 棲息吐息で無線を返す。

『 ナデシコ! フワフワしすぎだ! 機体を安定させろ!』

 ナデシコちゃんは相変わらず、おっとりと、

『了解ですわ』

『コロナとネコは、なんとか付いてきているようだな。全員、編隊を崩すなよ!』

『『『『了解』』』』

 目の覚めるようなスカイブルーの空の下、あたしたち神風特攻少女隊は必死に訓練を続けている。

 きたるべき展示飛行に備えての訓練だった。

 戦意高揚のために軍事パレードの最後に神風特攻少女隊の展示飛行をしよう。とか、政府高官、将軍、将校が言い出したらしい。

 はた迷惑な話だよね!

 ネコちゃんは、

「ボクたちはサーカスの空中ブランコじゃないっての!」

 とか言って怒った。

 けど、赤月風華は、

「展示飛行とは、実際に飛んでみると、実に高度な技術が必要になる。毛色の違う訓練になるが、経験すればスキルアップ間違いなしだ」

 と言って展示飛行に乗り気満々だった。

 きらめく大空を、

 逆V字型に編隊飛行を組んで、あたしたちは飛んでいた。

 一番機は赤月風華。

 隊長だからね。

 二列目の二番、三番機は、あたしとナデシコちゃん。

 逆V字型の両端、四番、五番機はネコちゃんとトンボちゃん。

 それにしても、展示飛行って結構、大変だよ。

 右ロール、左ロールだけでも編隊が崩れちゃう上に、右旋回とか、左旋回とかって、どう考えても無理! 

 すぐみんなバラバラになって、赤月風華の怒鳴り声が無線に響く。

『貴様らヤル気があるのかっ! 展示飛行は明後日だぞっ! まともに飛べるようになるまで、訓練を続けるからな! 今日はメシ抜きだっ!』

 鶴の一声で、あたしたちは翌朝まで徹夜で、しかもゴハンなしで飛び続けた!

 ひどいにもほどがあるよっ!


   ☆2☆


 あっという間に展示飛行の日がやってきた。赤月風華の地獄の猛特訓のおかげで、そこそこ飛べるようになったけど、赤月風華いわく、

「五十点だな。ギリギリ平均点だ」

 だ、そうよ(涙)。

 その日は、白銀基地の飛行場に特設会場が設置され、お偉方がふんぞり返ってズラリと並ぶ。

 軍事パレードが終わったあと、そんなお偉方を尻目に、神風特攻少女隊の五機が次々と離陸する。

 今日は零戦二一型で飛んでいるけど、かなり派手なペイントをしている。

 赤月機は赤色。

 あたしは黒。

 ナデシコちゃんはピンク。

 ネコちゃんは青。

 トンボちゃんは緑。

 展示飛行というよりは、もはや何かのヒーローショーに見えるよ。

 でも、展示飛行が終わったあとは、お偉方も万雷の拍手喝采、上機嫌そのものだった。

「我が帝国軍の零戦は世界一の最新鋭、戦闘機じゃあああ!」

 そうね、その通りだね。

 と、ありがた~い、ご高説をたまわる。

 腕を振り回し満悦至極の高官たちだった。

 気はすんだようだね。

 イベントの最後は、飛行場に並んだ少年少女たちから神風特攻少女隊への花束贈呈だった。

 食糧は配給制のはずなのに、妙にふくよかな、立派な身なりの子供たち。

 ナデシコちゃんが小声で教えてくれる。いわく、

「花束贈呈に参加した子供たちは、みんな将校や士官たちのお子様ですわ」

 ははあ、道理でフックラしてるわけだ。あたしは変なふうに納得する。 

 あれ?

 でも、五人並んだ子供たちの一人、あたしの前に立っている女の子だけは、妙にやせていて、着ている服も、つぎはぎだらけの粗末な着物だよ。

 何でだろう?

 しかも、他の子供たちは豪華なバラの花束なのに、この女の子の花束は明らかに造花だよ。

 しかも、よく見ると手作り感満載な手製のバラだった。

 あたしがそれを受け取るのを戸惑っているのかと思ったのか、その女の子が、

「すみません。こんな手作りのバラですみません。だけど、だけど、みんなで一生懸命、作ったんです。だから、だから」

 今にも泣き出しそうな女の子に、

「ううん。うれしいよ。手作りのほうが、気持ちがこもっているって感じ。それに、生花と違って、いつまでも飾っておけるしね☆」

 あたしは紙のバラを受け取る。

「ありがとうございます。みんな、喜ぶと思います」

「みんなって、お友だち? それとも兄弟?」

「あの、あの、みんなっていうのは、シセツのみんなのことです」

「施設って、何の施設?」

「軍属遺族会孤児院です。桃のお父さんも、みんなのお父さんも、みんな軍の偉い人たちだったけど、戦地で、戦地で」

 言いながら桃ちゃんの瞳がにじむ。あたしはとっさに、

「ごめんなさい!」

 と、謝った。余計な事を聞くんじゃなかった。

 ここにいる子供たちは、みんな将校や士官の子供たちだ。その子供が施設に入っているということは、当然、戦地で亡くなったということだ。

 つまり、子供は孤児院に入ったと考えて当然だった。

 あたしは自分の考えの足りなさを痛感した。

「余計なことを聞いちゃったね。それにしても、このバラ、本当にキレイだよ! ずっと大切にするから。みんなにもコロナお姉さんが超・ホメてたって言ってね。あっ! でも、あたしがホメても、嬉しくはないかな?」

「そんな事はないです。神風特攻少女隊の副隊長、日ノ本コロナさんがホメたと知ったら、きっとみんな大喜びします!」

 やっと笑顔になった。

 ホッとしたよ。でも、この埋め合わせは、いつかやらないとね。


   ☆3☆


「軍属遺族会孤児院? ですか? ええ、もちろん場所は知っていますわ。でも、何でそちらにうかがいますの?」 

 ナデシコちゃんの質問にネコちゃんが、

「バラの贈呈式の時に、コロナっちが、小さな女の子の胸を、深~~~~く、深く、えぐっちゃったんだよね、ウフフ」

 トンボちゃんが、

「思い出したくない父親の死を思い出させるなんて、ひどいにもほどがあるです~! 鬼です! 悪魔です! コロナちゃんです! トンボも呆れて開いた口がふさがりませんです~」

 ナデシコちゃんが、

「それで、その女の子に会いに行くというわけですわね」

 あたしは肩を落とし、

「返す言葉もないよ。だけど、まったくその通りでさ、あの場は上手く誤魔化したけど、もう一度、ちゃんと埋め合わせをしてあげくてさ」

 ナデシコちゃんが、

「具体的に何をなさるんですの?」

 あたしの目が泳ぐ。

「えーと」

「何も考えてないってことですわね。それじゃ、ドレスをプレゼントするとかは、どうでしょう? 他の服でもいいかもしれませんわ」

 と、ナデシコちゃんが提案する。すかさずネコちゃんが、

「ボクはケーキがいいな! ケーキなら子供は大喜びだよ! 食べ物のほうが絶対いいって!」

 トンボちゃんが、

「トンボは航空雑誌がいいと思うです~。バックナンバー百冊を進呈するです~」

 いきなり三択になった!

 1・ドレス。

 2・ケーキ。

 3・航空雑誌。

 あたしは迷わず、

「そうだ! 手作りクッキーにしよう! 日持ちもするし、簡単に作れるし、ねっ! クッキーに決~めた!」

「「「はうう~~」」」

 三人が同時に嘆息する。

 ナデシコちゃんが、

「まあ、コロナちゃんが、そう言うならクッキー作りを応援しますわ」

 あたしは、

「ナデシコちゃんは手伝わなくっていいよ」

「なぜですか? わたくしのクッキーに対する知識は、超一流のパティシエールも及ばないほどの豊富さで」

 ナデシコちゃんの抗議に対して、

「でも、作ったことないでしょ、クッキー」

 あたしの言葉にナデシコちゃんが目をキョトキョトさせながら、

「ですが知識だけなら」

「でも作った事ないよね?」

 ナデシコちゃんがガックリとだれる。

 そこへネコちゃんが意気揚々と、

「それじゃボクが」

 あたしは間髪入れずに、

「ネコちゃんは砂糖と塩、小麦粉と片栗粉を間違えるからダメだよ」

「トンボが」

「却下!」

 あたしは、

「みんな心配しないでいいよ。あたし、こういうのって意外と得意だから、一人でちゃんと作れるよ」

 ナデシコちゃんが、

「では、せめてトッピング用のお菓子だけでも用意させてくださいまし」

 あたしは、

「うん! ありがとう、ナデシコちゃん。トッピングはナデシコちゃんに任せるよ!」

 ネコちゃんが、

「じゃあボクは味見をしようかな? 作るのはともかく、テイスティングなら、任せてちょ!」

 あたしは、

「食べ過ぎてクッキーが無くならないようにしてね。ネコちゃんは食いしん坊だから」

「うは~い」

「トンボは」

「却下!」

 

   ☆4☆


 翌日、あたしは食堂の厨房を借りて、昨日の夜のうちに作ったクッキーを持って、軍属遺族会孤児院へと向かった。

 ちなみに、赤月風華の許可はあらかじめ取っておいたよ。

 だから、あたしは今日一日、特別休暇にしてもらった。

 下町風の路地を抜けて奥へ奥へ進んで行くと、段々うらぶれた、荒んだ家屋が増えてくる。

 まるでスラム街みたい。

 そんな街角に掘っ建て小屋みたいな倒壊寸前のボロボロな平屋建ての家が一軒、ひっそりと建っていた。

 あたしは自分の目を疑いながら、

「こ、ここが、ほんとに

軍属遺族会孤児院なの?」

 と、思わず呟く。すると、

「そこに、そう表札が出ているだろう」

 突然、背後から言われて、ドキッ! 

 と、後ろを振り向く。

 影のように突っ立っていたのは、白銀基地の整備員が着る灰色の制服を身に付けた男の子だった。

 あたしは表札を見直する。

「ほんとだ。所々、かすれているけど、すっごく読みづらいけど、ほんとに、ここが軍属遺族会孤児院って書いてある」

 ビックリした。

 まさかこんな廃屋同然の家。

 というより掘っ立て小屋とは予想外だった。

 あちこちの板壁ははがれて、土壁がむき出しになっているうえ、窓は割れていないガラスを探すほうが簡単。

 その窓がカラリと開いて、ひょっこり顔を出したのは、

「あっ! 声がしたから、お兄ちゃんかと思ったら、やっぱり、影次兄えいじにいだった! あっ! それに、コロナさんも! 来てくださったんですね!」

 展示飛行の花束贈呈式で会った桃ちゃんだ。

 あたしはクッキーの詰まった袋を持ち上げ、

「こないだ手作りのバラをもらったから、そのお返しに、お土産を持ってきたよ」

 桃ちゃんがニコッと笑い、

「ほんとですか!」

「ほんと、ほんと」

「ありがとうございます!」

 言いながら玄関にまわってくる。

 影次くんが、

「お前が、神風特攻少女隊の日ノ本コロナか」

「そ、そうだけど」

「ふう~ん」

 あたしの事を上から下までジロジロ見つめ、

「帝都新聞には神風特攻少女隊のメンバーはみんな美少女って書いていたけど」

「えっ!?」

「お前は普通だな」

 なんて失礼な奴っ!

 信じらんないっ!

 あたしは何か言い返そうとしたけど、

 ガチャッ! 

 と、扉が開いて、

「どうぞ! コロナさん。遠慮しないで入ってくださいっ! どうぞ、どうぞ!」

 と言いながら桃ちゃんが、あたしの手を引っ張る。

 仕方なく桃ちゃんに従った。

「こいつは、時雨桃子。この孤児院では一番年下で、十歳だ」

 影次くんがぶっきらぼうに言う。

 孤児院にはどれぐらい子供がいるのかな?

 なんて考えながら、あたしは孤児院に入っていった。


   ☆5☆


 室内は外から見たほど、ひどくなかった。

 影次くんが、

「下から、

 桃、

 緑、

 あおい

 あかね

 女ばっかりで、歳は今言った順番に一歳ずつ違っている。

 茜はコロナと同い年だな」

 いきなりコロナとか呼び捨て(汗)。

「俺も前は、この施設にいたんだが、今は白銀基地の宿舎に寝泊まりして戦闘機の整備をしている」

 と、自己紹介?

 する。

 あれ?

 あたし、影次くんのことを、基地で見かけたことがないんだけど、影が薄いからかな?

 次に桃ちゃんが、

「桃はね、桃はね」

「桃は展示飛行でコロナさんに会ってるんだから、緑がさき!」

 桃ちゃんを押し退け、緑ちゃんがそう言う。

 桃ちゃんが不満そうに、ほっぺたをおモチみたいにプクっと、ふくらませる、可愛い☆。

「ええ~~~、ヤダもんヤダもん! 桃が、桃がコロナさんと、お話するの、するの!」

「二人ともケンカしちゃダメですよ~。二人一緒に、仲良くコロナさんとお話すれば、いいじゃないですか~。あっ、コロナさん。わたしは、葵と申します。コロナさん、お初にお目にかかります。ヨロシクお願いします~」

 すっごい、のんびりと、桃ちゃんと緑ちゃんをいさめる葵ちゃん。

 なんだかホッコリ癒し系の女の子だよ☆

「ヨロシクじゃないわよ、葵! 茜はコロナ! あんたなんか認めないからね! なによ! 敵機をフタケタやっつけたからって、調子に乗っちゃって!」

 茜ちゃん?

 が突然、敵意を剥き出しにして怒る。

 なぜに?

 影次くんが、

「一機撃墜すれば一人前、五機撃墜すれば、エースパイロットだ。フタケタ以上となると、奇跡だな」

 茜ちゃんがギロっと影次くんをにらみ付け、

「ふ、ふんっ! な、なによ! それぐらい! 帝都新聞には、美少女戦隊とか書いてあったけど、冗談じゃないわよ! てんで、ブスじゃない! ブース、ブース!」

 あたしは目が点になった。

 な、何なの?

 この茜ちゃんって子は?

 あたしを物凄い目の敵にしているよ!

 なんでだろうね?

 ほんとに?

「いや、俺は普通だと思うけどな」

 影次くんが険悪なムード、といっても、茜ちゃんが一方的に険悪なんだけど、を解消しようと、茜ちゃんとの間に入ってくれた。

 茜ちゃんが般若みたいに激昂して、

「影次! 何で、こんな泥棒猫の肩を持つのよ! 茜と結婚するって言ったのは、あれは嘘なの!?」

 影次くんが真っ赤になって動転しながら弁解する。

「おいおい、待て待て、いったい、いつの話だよ。小等学校に入る前の話だろ。それに、あれは茜が無理矢理、俺に言わせたんじゃ」

「おだまりっ!」

 って、茜ちゃんがまなじりを、これ以上ないってほど見事に吊り上げ、

「何よ何よ! こないだまで一緒にお風呂に入って、茜と背中の流しっこをしていたのに!」

「夏の暑い日に水風呂に入ってたら、いきなりお前が入ってきたんだろう。茜も水浴びするとかなんとか意って、水着だって着てただろう」

「ひどいわ! 影次がそんな薄情な奴だなんて思わなかったわ! 影次のバカっ!」

 俺は悪くないって、顔つきでソッポを向く影次くん。

 あたしは二人をとりなすように、

「あ、あの~。お土産のクッキー。みんなで食べない?」


   ☆6☆


 色気より食い気。

 みんなクッキーに飛び付いて、あっというまになくなった。

 十人で食べても三日は持つはずだったのに。

 計算が狂ったよ。

 でも、もう一つお土産があるのよね。

 あたしはポケットからそれを取り出す。

「もう一つお土産があるんだけど、これ、トランプだよ~」

 桃ちゃんが瞳をキラキラと輝かせながらトランプを手に取り、 

「わ~~~い! やりたい、やりたい! みんなトランプしよ、しよ!」

「緑がシャッフルする! シャッフル、シャッフル!」 

「うわ~ん! 桃が、桃がシャッフルしようと思ったのに~!」

「もう終わっちゃったもんね! さあ! 何して遊ぶ!」

 葵ちゃんが相変わらずノンビリと、

「葵は~」

「ポーカーにしよっ、ポーカーに。それで、茜には、提案したい事が一つあるのよね!」

 葵ちゃんにミナまで言わせず、茜ちゃんがポーカーに決めてしまった。

 でも、提案って、いったい何だろう?

 悪い予感しかしない。

 茜ちゃんがニヤリと笑い、

「ポーカーの勝者は影次にキスしてもらうってことで、どうかしら?」

 影次くんが真っ赤になって、

「なっ! なに言ってんだ! 俺はキスなんかしないぞ!」

 即効で反対した。

 茜ちゃんが鼻息荒く、

「勝てばいいのよ、勝てば。それとも、勝つ自信がないの? 影次は?」

 茜ちゃんの無茶ぶりに影次くんが、

「運だろ! 運! 自信とか、関係ないだろ!」

 茜ちゃんが口をとがらせ、

「ポーカーは駆け引きのテクニックよ、運だけじゃないわ」

「運だ!」

「テクニック!」

 二人の口論が終わりそうにないので、あたしは、

「それじゃあ、キスする場所は影次くんに決めてもらうってのは、どうかな? オデコとかホッペタとか、手とか」

 影次くんが真っ先に、

「おっ、それなら、やってもいいぞ! それでいこう」

 茜ちゃんが不服そうに、

「このままじゃ、ずっと平行線だろうし、仕方ないわね。茜もそれでいいわ」

 と、折れてくれた。


   ☆7☆


 いよいよポーカーが始まる。ちゃぶ台を全員で囲んで、紙で作ったチップを、それぞれ百枚づつ配る。

 全員にシャッフルしたカードが配られた。


 ~ゲーム・スタート~


 ゲームっていうのは小さな子供からお年寄りまで、誰でも出来る楽しい物だけど、ゲームの達人となると、話の次元が違ってくる。

 物凄い修練が必要になる。

 たかがゲーム。

 なにをそこまで熱くなるんだ?

 って馬鹿にする人もいる。

 決められたルール、偽のお金、つまりチップ。

 虚構の世界で遊ぶには、相当な想像力が必要で、なにより遊びごころ、天衣無縫の童心が必要なのね。

 ゲームは夢のような物。本来、とてもかなえられない夢をゲームはかなえてくれる。

 夢を忘れない人のためにゲームはある。

 そんな夢追い人たちが、たとえゲームでも、もし達人になれるなら、あたしは思う。きっと、この現実世界でも、きっと何かの達人になれるんじゃないかなって。

 ゲーム好きの世迷い事? 

 そうかもしれない。

 これは、あたしの勝手な思い込みだもの。

 気に入らない人は、すぐに忘れてしまってね。

 自分の夢を忘れたように。

 さてと、それじゃ、子供心に戻って、久しぶりにゲームを楽しむとしましょう!

 開始早々、影次くんはあっさり脱落した。

「だいたいだな、ポーカーなんて、しょせんは、運! なんだよ、運が悪けりゃ負けるだけさ! 言っとくけどな、こんな運ゲーで負けたって、俺は全っ然! 悔しくないからな!」

 こんな影次くんに向かって茜ちゃんが、

「負け犬の遠吠えね。さっ、気にしないで続けましょう」

 影次くんが胸に何か刺さったように、胸元を押さえている。

 見なかった事にしよう。

 次に桃ちゃんが脱落した。

「うわあああ~~~~~~~~~~~んっ! 桃が、影次兄にキスしてもらうつもりだったのに、だったのにいいい~~~~~~~~~っ!」

「チップがないんだから、さっさと、どきなさい、桃。言っておくけど、この世はカネなのよ。カネのない奴は、何一つ出来ないのよ。もちろん、影次とのキスもね」

 茜ちゃんの無情なコメントに、桃ちゃんが瞳をまん丸にして思考停止に陥る。

 よほどショックだったみたい。

 気を取り直して、

 残りは四人。

 今のところ波に乗っているのは緑ちゃん。

 ツキがあるというのは恐ろしい。

 あたしのチップも瞬く間に減っていく。

 あたしは、

「あちゃあ! 変なカードばっかりだよ! マイッタナ~」

 と、言うと緑ちゃんがすかさず、

「よし勝負するよ! 勝負、勝負、緑と勝負出来る人はいるかな!」

「茜はパス」

「葵は~、う~んと、パスします~」

「あたしは受けて立つよ」

 緑ちゃんが一瞬、戸惑ったけど、

「よしっ! チップ三十増しでどうだ!」

「それでいいよ」

 あたしは不安そうにチップの半分以上を出す。

 緑ちゃんが手札を開き、

「エースのスリーカード!」

 あたしも手札を開く。

「クローバーのフラッシュ!」

「あっ! 負けた! さっきは、いいカードがこないって、言ってたのに~! 悔しい~!」

 その後も、あたしのポーカー・フェイスに緑ちゃんは引っ掛かって、一気にツキに見放された。

「ああ~っ! 緑もついに負けちゃったよ~! でも、桃に勝ったから、まあいっか」

 緑ちゃんが意外とあっさり負けを認める。

 これで残りは三人。

 茜ちゃんと葵ちゃんは二人とも、あたしのポーカー・フェイスに引っ掛からない。

 茜ちゃんは分からないけど、葵ちゃんはあたしの言葉より、自分の手札に集中しているみたい。

 とっても手堅い手を打ってくる。

 長期戦になると手こずって、ジリ貧で負けるかも。

 あたしはまず葵ちゃんを何とかしよう、と、心に決める。

 葵ちゃんはじっくり考え、思わぬ役を作ってくる。

 そこで、あたしは速効で葵ちゃんのペースを乱す作戦で勝負に出る。

 手札が配られると、速攻で、

「勝負しよう!」 

 あたしは、

「ワンペア」

 葵ちゃんは、

「ツーペアですよ~」

 茜ちゃんは、

「ブタ(役無し)」

 その後も、あたしは速攻を繰り返す。

 ただし、負けた時は、次の勝負で、負けたチップを倍にして掛ける。

 これで勝つと負けたチップを回収する事が出来る。

 この方法を繰り返すと、さしもの葵ちゃんも陥落した。

「あれよ、あれよという間に負けてしまいました~。でも、とっても楽しかったの~」

 と、葵ちゃんが晴れやかにコメント。

 あたしは胸がチクリと痛んだ。

 ゴメンね葵ちゃん。

 勝負の世界は非情なんだよ。

 ついに、茜ちゃんとの一騎討ちになった。

 ポーカー・フェイスも速攻も通じない。

 いったい、どういう事だろう?

 あたしは周囲をさりげなく、見回す。

 すると、机の上に置いてあった手鏡が、変な角度になっていた。

 なるほど、あれが手品の種ね。

 茜ちゃんの位置からだと手鏡を通して、あたしの手札がまる見えだよ。

 だけど、トリックさえ分かれば、対処はそう難しくないよ。

 カードが配られたあと、手札を確認するさい、あたしは手札が手鏡に映らないように、胸元から離さないように注意して見た。

 すると、茜ちゃんが、

「ええ~~~っ! あれじゃ見え!」

 ムグっと口を押さえる茜ちゃん。

 あたしはスッとぼけながら、

「何か見えたの?」

 と、言うと茜ちゃんが目をグルグル泳がせながら、

「なっ、なんでもないわよっ! さあっ! 勝負を始めるわよっ!」

 気力、体力?

 時の運。

 すべてをかけた最後の戦いが始まる。

 配られたカードを広げる。

「変なカードばっかりだよ~☆」

 あたしは渋い顔をする。

 茜ちゃんは、あたしの表情に誤魔化されないぞ!

 とばかりに用心しながら、なかなか勝負をしてこない。

 あたしは、

「長引くと大変だから、次の勝負で、お互いに全部のチップを賭けて、決着をつけない?」

 茜ちゃんが、

「受けて立つわ! 次が最後の勝負ね!」

 お互いチップをすべて出す。

 最後の戦いが始まった。

 しばらく、カードを入れ替えたあと、茜ちゃんが、

「キターッ! 運命の女神は茜に微笑んだわ!」

 みんなの視線が茜ちゃんに集まる。

 その瞬間、あたしは左腕の袖から素早くカードを取り出し、逆に、今まで持っていたカードを左腕の袖の中に隠す。

 チラッと周囲をうかがうけど、誰も気付いてない。

 茜ちゃんもズルをしてたから、おあいこだよね!

 茜ちゃんが、

「勝負よ! これで終わりねっ!」

 手札をテーブルに広げ、

「スペードのストレート・フラッシュ!」

 みんなが歓声をあげる。

 確かに、凄い。

 運だけで揃えたとしたら、本当に運命の女神が微笑んだのかもしれない。

 あたしは、ちょっと驚いた様子で、

「凄いね、茜ちゃん。茜ちゃんの執念を見た気がするよ。びっくりした☆」

 茜ちゃんがニンマリしながら、

「さあ! コロナも手札を見せなさいよ! さあさあさあっ!」

 あたしは手札を広げる。

「ハートのロイヤル・ストレート・フラッシュ!」

 一同、目が点になる。

「ウソっ! ウソよ! そんなバカな事が! あるわけがないわっ!」

 茜ちゃんの絶叫が虚しくこだました。


   ☆つづく☆





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