束の間の休息新たな目的
カースマルツゥの悪事を目の当たりにし一人の女性を掬ったゼロたちは、リリの家にい戻る。
そこで新たな脅威となりうるものの存在を知る……
「おかえりなさい。ど、どうしたんですか? その人」
リリの家に戻るとリリは俺の抱えた女性を見て、驚いた声を上げる。
女性には屋敷でくすねたドレスを着せて運んだ。
「ああ、屋敷での唯一の生き残りだ。部屋で寝かしてもいいか?」
「はい、でもこの家ベッドが一つしかないから、勇者様達はどうしましょう」
リリはあたふたとして、困っている。
「俺は床でかまわないから、彼女を寝かせてくれ」
俺はいまだに目を覚まさない女性を優先し、ベッドを使わせてもらえるように頼む。
「そうだ、勇者様。私の上で寝ますか?」
リリは頬に手を当てて、もじもじと訳の分からないことを言う。
「いや、結構だ。念のためドアの前で寝かせてもらう。ベッドはどこだ」
俺は領主を殺された兵たちの動きが気がかりなので、ドアの前で寝ることにし女性をリリの部屋に運び、床に座る。
「お疲れ様なのじゃ」
俺の右隣に座って、プラムが声をかけてきた。
「なあ、どうも色々気になることができてきたな?」
「何の事じゃ?」
俺の言葉にプラムはそう返す。
「ここの領主の警備の弱さや、魔族と呼ばれるものの事だ」
「お主が強すぎるだけだろ?」
プラムはくすくすと笑って、口元に手を当てる。
「プラムの父は強かったのか?」
俺は魔王の強さを知るためにそう尋ねた。
「そうじゃな、少なくとも人間に負けるとは思えんのじゃ」
それが倒され、魔族が滅ぼされたということは、帝国には何かまだ大きな秘密があるのか?
「ふー、体を拭いてきましたよ」
話の途中でリリが俺の左隣に座って、大きく伸びをする。
「ああ、お疲れどうしたんだ?」
「いえ、何か手伝うことないかと思いまして? マッサージとか?」
手をワキワキと動かし、涎を口から垂らして聞いてきた。
「いや俺はいい。プラムはどうだ?」
「わ、妾も遠慮するのじゃ」
プラムは何故か焦ったようにそう返す。
「そうですか、他にはありませんか?」
「それなら、このあたりに船が手に入る場所はないかの?」
プラムは俺の伸ばした足の上に手を置き、身を乗り出して聞く。
「船ですか? どうしてそんな物を?」
リリは不思議そうに返す。
「帝都に行きたいんじゃ、ここからだと船が無いと行けぬはずじゃろ?」
リリはますます困惑した表情をする。
「えっと、勇者様。妹さんは何を言っているのですか?」
リリは助けを求めるように、俺に聞いてきた。
「俺も詳しくは知らないんだが……この地図の場所に行きたいそうなんだ」
俺はタイツのポケットから、プラムが見せた地図を取り出し見せる。
「お主いつの間に……」
プラムが驚いた声で聞いてきた。
「いると思ってな。リリ分かるか?」
「あの、この地図古いようですよ?」
「え? どういう事じゃ?」
プラムがまた驚いた声を出して、立ち上がる。
「少しお待ちください――」
リリは奥に引っ込んで、紙を手に戻ってきた。
「ありました。これが今の地図ですね」
どうやら新しい地図を持ってきてくれたようだ。
「ずいぶん違うな」
「はい。勇者様が持っている地図は何年前のなんですか? 湖なんて、私見たことないですよ?」
リリは不思議そうに地図を見比べている。
「プラム、船がなくてもいけそうだぞ?」
リリの地図には、帝都までの間にあった湖や囲んでいた城のマークはなく、森林や砦のようなものが書いてあるだけだった。
「この地図は、何時の物じゃリリ」
リリの手から地図をひったくって、プラムが驚いた声を出す。
「二年前に配られた物です。でも、湖なんて、三百年位前になくなったって聞いてますよ?」
「そうなのか、俺には分からないが帝都まで歩いて行けそうなのか?」
深く聞かれては不味そうなので、話を進めリリに聞くことにした。
「徒歩だときついですよ? まず砂漠を越えられないと思います」
「それは困ったな……」
「今、町に来ているキャラバンが明日立つようなので、それに同行されてはいかがですか?」
そういえば行きも乗せてもらったな。
「ありがとう。そうさせてもらう」
「なあなあ、リリ。この砦はなんじゃ?」
プラムは俺の足の上に地図を置いてリリに尋ねる。
「それはですね、五英のどなたかの砦ですね」
「五英? それはなんじゃ?」
小首をかしげる動作をして、そうプラムは聞く。
「五英雄の略称です。詳しくは知りませんが、魔王を倒したとか」
人類より強い魔王を立をした者たちか。帝都を落とす前にどうにかしたほうがいいかもしれない。
「なるほどの、ゼロ、次の目的地が決まったぞ」
「どこに行くんだ?」
「この砦じゃ、強い者たちが集まる前に各個撃破と行こう」
どうやら俺と同じ考えらしい。
「了解だ。リリ、すまないが彼女が目を覚ますまで面倒を見てくれないか?」
「勇者様の頼みなら、望みのままに」
リリは深々と頭を下げて、了承してくれる。
俺はほんの迷惑料だと言って、領主の屋敷で手に入れた金貨を三枚ほど渡す。
「こんなの貰えないです」
「いや、受け取ってくれ。ここまで世話になって、何もないのは俺が嫌なんだ」
「ゼロは真面目じゃな。苦しゅうない、受け取るがいいぞ」
プラムが腕を組んでふんぞり返る。
「どうして妹さんが、ふんぞり返っているんですか?」
不思議そうにリリが聞いてきたところで、俺は真実を一つ伝えることにした。
「いや、こいつは嫁だ」
プラムの頭を撫でて、そう伝える。
「え? えええええええ」
「いや、ただの主従関係じゃ」
「えっえええええええええええええええええええええええええ」
リリはのどが避け切らんほどに声を上げた。
「まだ嫁じゃないのか?」
「ええい、リリ五月蠅いぞ。当たり前じゃ、妾は魔王ぞ」
「ふっええええええええ!!!」
そのままリリは気を失ってしまう。
「騒がしいやつじゃ」
「魔王って言ったことに驚いたんだろう」
「なるほどなのじゃ、妾も気を付けねばの」
二人でうなずき合って、明日の朝早くにキャラバンと合流しようと話し合った。
次回より五英雄編始まります。
戦闘シーン盛りだくさん!?