ゼロ怒りの進行 エダムを斬る
プラムに迫る脅威、ぜひ最後までご覧ください。
「ゼロ? どうしたのじゃ?」
突然固まったゼロに、プラムは驚いた声を出す。
「ほう、流石“魔王の娘”といったところか」
「な、何物じゃ? 姿を現すのじゃ!」
プラムは周囲に視線をめぐらせて、警戒する。
「初めまして、ではないね?」
木の上から女性が下りてきて、プラムの前に姿を現す。
「お主は確か……そうじゃ、コロシアムにいた奴じゃな」
「おぉ、憶えていたんだな。私は、エダム。君達が倒してきた五英、一人だよ」
透き通る青い髪を風になびかせて、黒い軍服の腰につけたサーベルを抜く。
「五英――妾達を殺しに来たのじゃな? どうやったが知らんが、妾が動ける以上、作戦は失敗じゃな!」
プラムはそう言って余裕そうに笑みを見せるが、実際はかろうじて話している状態だった。
「フハハハハ。君に何ができる? 自慢の従者は動けないのだぞ?」
顔を手で覆い、腰をそらさんばかりに笑いだす。
「ふん、ならかかってくるのじゃ! その時がお前の最期じゃがな」
「そうか……なら挑発に乗って、君から殺そうじゃないか」
その言葉に、プラムは安堵の息を漏らす。
(これでよい、ゼロはここまでよくやってくれたのじゃ。妾が死ねば、この無謀とも言える事に、かかわらなくて済むはずじゃ)
プラムはそう考え、目を閉じる。
この術が解けることを願って……
「アイスクラッシュ」
無数の氷の粒が、プラムを襲う。
その一つが胸に当たる。
「ぐっ、……」
プラムはそのまま、階段の方に倒れていく。
「プラム!!!」
その体を、術の解けたゼロが抱きとめる。
「術が解けたか……一旦引くか――」
ゼロが動き出したのを確認して、エダムはその場から離脱をすることにする。
その口元には、術の影響か血がついていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「プラム。おい、目を開けてくれ……」
動揺した声をだし、プラムの肩を揺する。
「――情けない声を出す出ない、妾の刀であろうに……ごふぅ」
プラムは少し目を開き、苦しそうに血を吐く。
「喋るな。ドラコの屋敷に連れて行ってやるからな」
プラムの体に負荷をかけないように、ゆっくりと立ち上がる。
「よい。もう時間がないのじゃ……よく聞くのじゃ」
「そんなこと言わないでくれ……俺を一人にしないでくれよ」
プラムの手を握り、ゼロが涙をこぼす。
「寂しがりな奴じゃな。良いかゼロ、もう戦わなくてもよい。妾のワガママに付き合ってくれてありがとうなのじゃ。帝都は憎いが妾が死ぬ以上、お主が戦う理由はなくなるのじゃ」
「何言ってんだよ? 帝都を滅ぼして、世界を回るんだろ?」
その言葉にプラムは小さく笑う。
「お主は――」
プラムは言葉を飲み込み、ゼロにキスをする。
「褒美じゃ、嬉しいじゃろ?」
プラムは悪戯に成功した子供のように少し笑った後、体の力が完全に抜け落ちた。
「プラム、プラム!」
呼びかけるも、返事はない。
すまない。俺の力が足りないせいだ。
(プラム、敵を取ってすぐに向かうからな……)
プラムの亡骸を祠の前に埋め、ゼロは誓いを立てて、静かに怒りの炎を燃やし高台を後にした。
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「ふあぁぁぁ!」
「おいおい、仕事中だぞ」
「どうせ、何事もないって」
塔の前の門の警備兵があくびをして、談笑している。
「おい、あれ……」
「ん? なに……」
二人の首が飛ぶ。
「作戦まで日はあるが、俺が先に殺せば問題ないよな――」
夜の闇に紛れて、ゼロが姿を現す。
「これで門が開くのか」
門の横の壁にあった取っ手を回す。
「ん? おい、門が開くぞ!」
「何事だ?」
門の裏にいた兵士が、異変に気が付き警戒する。
「って、なんだよ! おい、優男が一人で乗り込んできたぞ!」
その言葉に、兵士たちが笑い声をあげた。
「どけ……」
「あん? 何言ってんの? ぶふぅ」
拳がめり込んで、兵士は倒れる。
「おいおい、であえーであえー」
「敵襲! 敵襲!」
見張り台で寝ていた兵士がその声に目を覚まして、鐘を鳴らし叫ぶ。
街中に鐘の音が響く。
「「「ウォォォォォォ!!!!!!」」」
砦から数百ほどの甲冑兵が、飛び出してくる。
「四の型、雷光一閃」
「「「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」
ゼロは気にした様子もなく、進んで行く。
塔の中に入ると円形の広場になっていて、奥の階段の前に小太りの男が立っていた。
「来たな? 侵入者! 我が名は新五英が一人、ウルダ様だ」
ゼロの姿に気が付いた男がそう名乗りを上げる。
「お前に用はない……どけ」
ゼロは歩みを止めず、ウルダに近づいていく。
「なめるな! 岩瓦武装。ロックストーム」
ウルダの体が、岩に覆われる。
その後、地面が割れ、瓦礫がゼロを襲う。
「邪魔をするのか……一の型、雷神一閃」
「無駄だ! 何人も、この鎧は傷をつけることはできぬは!」
身を守るように、丸くなる。
「ふん! そうか……ロックフォールの方が、硬かったがな」
「何を、言ってん……だ」
地面に倒れるウルダを見ることなく、階段を上っていく。
(警備用に、五英を組みなおしたのか)
次の階に行くと、また奥の階段の前に人影が見えた。
「やっぱり、いるんだな」
「何を言っているのか分かりませんが、貴男はここまでですよ?」
白い長髪をたなびかせて、長身の細身の男が、かぎづめをつけた手を構える。
よく見るとの後ろには、大きな樽が二つ置かれていた。
「退くなら、殺さないがどうする?」
居合切りの構えを取って、男に話しかける。
「フフフ、舐めないでください。ウォータードラゴン」
樽の中から出てきた紫色の水が、ゼロを襲う。
「二の型、雷神雷光」
水がとらえたのは地面で、ゼロの姿はすでに男の後ろにあった。
「なに!?」
「一の型、雷神一閃」
男の首が宙を舞う。
「なんだ、幻影じゃないんだな」
ゼロは刀を振って血を吹き飛ばし、鞘に納めて、そう声を漏らす。
「次は、二人か……」
次の階に上がると、子供にしか見えない男の子が柔軟体操をしていて、その横でプルプルと震えながら地面に正座で座り、お茶をすする老人がいた。
「あ、もう上がってきた。やるね~、二人を倒すなんて」
「いや、あの二人は雑魚だし当然じゃろう」
少年の言葉に老人はそう反応して、立ち上がる。
以前までのゼロなら、様子を見ながら動いたであろうが、怒りの頂点のゼロは違った。
「え? うぁ」
突然斬りかかられて、少年が尻餅をつく。
「ふぉっふぉ。惜しかったの」
ゼロの刀を手にはめた鉄のリングで止めた老人が、ニヤリと笑う。
(強いな……だが――)
そのまま力を込めて、回転し斬りかかる。
「やらせないよ! 炎帝」
少年が腰につけた小刀を抜き、火柱を発生させた。
「はぁ、二人がかりは厄介だな……」
「ふぉっふぉ。侵入者を確実に殺すためじゃったが、正解じゃったな」
老人は着ていた袴をはだけさせて、上半身露出させる。
「イエトの爺ちゃん。何脱いでんだよ! 気持ち悪い」
「この方が動きやすいんじゃよ。ぬ! くるぞ、オスト」
「三の型、四の型、混合接続。稲妻ランサー」
ゼロは少し距離を取って、雷の槍を飛ばす。
「僕だって、炎弾」
「空弾」
オストと呼ばれた少年は、短剣から火の玉を飛ばす。
それに続いてイエトは、圧縮した空気の弾を拳から飛ばした。
「く、三の型、雷鳴強防」
弾数でおされたゼロは、全身に雷を纏い流れを読んで、残りの火の弾を斬り落とす。
「しぶといな~。あ、イエト。あれいくよ?」
「うむ、やるぞい」
元々決めていたのか、二つ返事でお互いが技を繰り出してきた。
「「炎風ストリームハリケーン」」
炎を纏った風がゼロに押し寄せる。
「仕方ない。零の型、雷神」
プラムが持っていた短剣を取り出し、自分の胸にさす。
体が熱くなり、力が湧くのを感じる。
「ぬ?」
ゼロの動きに、いち早く気が付いたイエトが声を出すも、時すでに遅し。
背後に現れたゼロに、首を斬り落とされた。
「え? どうやって?」
オストが驚くのも無理はないことだった、この狭い場所であの大技が躱されたのだから。
ゼロは上に飛び天井を蹴って、背後に回ったのだ。
「チェックメイトだ。一の型、雷神一閃」
「くそぉぉぉ」
オストは最後に、そう声を漏らす。
ゼロのあまりにもな高速な攻撃を止めるごとができずに、オストは斬られて地面に倒れた。
「ここで、使う事になるとはな……」
元々雷神は、プラムを殺した奴まで取っておくつもりだったのだ。
体の痛みを感じながら、ゼロは階段を上がって行く。
「ほう、ちゃんと来たな。ゼロ」
階段を上りきった先のフロアーの真ん中で、血を流す女性の上に座った薄い青髪のロングヘア―女性が、嬉しそうにそう声をかけてきた。
「コロシアムの時の奴だな……その女はなんだ?」
異様すぎる光景に思わず、椅子にされた女性について聞く。
「うん? ああ、こいつは、私が真の五英だと言ったのでな、格の違いを見せてやったのだ」
ニコニコと、胸ポケットから草を取り出してそれを傷口に当てる。
「うっ! うぅぅぅぅっぅ」
あてられた女性は苦しそうに呻きながら、完全に地面に倒れた。
「フハハハハ、良い声で鳴くな! この草は最近見つけた毒草なんだが、傷に当てるだけでこの威力なんだな」
女性はその草を倒れた女性の口に詰め、無理やり飲み込ませる。
そのまま女性は泡を吹いて少しはねた後、動かなくなった。
「外道が……」
「外道か、いいね」
身をかがめ接近するゼロに対し楽しそうなまま、胸の前で手をクロスして、女性は待ち構える。
「一の型、雷神一閃」
「アイスシールド」
ゼロの攻撃を、分厚い氷で防ぐ。
「この技……貴様がプラムを殺したのか!」
あの時感じた冬のような冷たさの正体はこれか……
「如何にも! 私の名前はエダム。ゼロ、貴様ならここまで来てくれると信じていたぞ」
エダムは楽しそうに名を名乗り、腰のサーベルを抜く。
「この戦闘狂め! プラムが夢見た平和の世に貴様はいらぬ! 屠る」
「いいぞ! 怒れ、お前の全力を見せてくれ。アイスクラッシュ」
無数の氷を飛ばす。
「三の型、四の型、混合接続。稲妻ランサー」
それに雷の槍で相対する。
「フハハハハ、死ね」
「ふん! 一の型、雷神一閃」
石でできた床を踏み抜かんばかりに蹴り、くり出されたエダムの突きを刀でいなして、技を繰り出す。
「無駄だ! アイスシールド」
エダムはまた、分厚い氷で防ぐ。
「く、はぁー」
ゼロは吐血しつつも、身をかがめ構えた。
「どうした? 傷を負いすぎたか? なら次でラストだな。アイスプリズン」
エダムがそう言った瞬間、周囲が冷気につつまれ、粉塵すらも停止する。
「……」
「はぁ、終わりだ――」
つまらなそうにため息をついてゼロの前に行き、サーベルを振り下ろす。
「な、何? バカな」
突如ゼロの姿が消え、エダムは人生初めての狼狽を見せる。
辺りに視線をさまよわせ、ゼロの姿を探す。
フロアーはそこまで広くないのですぐに見つかるはず。
「いない? どうなっているんだ?」
時間が止まっているので、気配を探るのはエダムにもできず、ついに時間が動き出す。
「てぁあ! 神速一閃」
ゼロの攻撃が、エダムの背中をとらえる。
「バカな! 何時の間に……」
よろけながらもエダムは構えて、追撃を防ぐ。
「浅かったか……時を止める瞬間、天井に刀を差してぶら下がっていたんだ」
「フハハハハ。面白い、戦いとはこうでなくてはな」
無数の氷を瞬時に発生させて、放つ。
ゼロはそれを刀で、打ち落とす。
いくつかを体で受けながら、高速で進む。
「雷神一閃」
ゼロの刀が、エダムの胸を貫いた。
「ぐぅっ、見事だ――すべての元凶は、この先にいるぞ」
エダムは満足そうに笑みを浮かべ、そう言い残して地面に倒れる。
(この先に、皇帝が……)
ゼロは吐血しながらも、壁に手を当てて階段を上っていく。
すべての元凶を斬るために。
上は通路になって、下の様子が見えていた。
煙が上がり、兵士達が塔の周りで争っているようだ。
帝国の外にも、煙が見える。
どうやら、作戦を前倒しで始めたようだ。
(すまないことをしたかな……だが、ありがたい)
混乱に陥っているのか、この塔にはもう兵士が見えない。
ゼロは五英が守っていると安心感か? と考え、先を急ぐ。
色とりどりの花が咲く、無人の広場を抜け城にたどり着く。
城のドアを開け、そのまま中に踏み込む。
ドアの先は、玉座の間のようで、短い階段がの先に高そうな装飾の玉座が見えた。
「な、どうなっているんだ」
ゼロは玉座に座っている人物に、そう声を漏らして近づいて行く。
お願いしますです。最後まで読んでくださいです笑




