帝都の真実
ゼロとプラムは訪れた街で、今の帝都のやり方を知り……
魔王城から外に出ると、そこは砂漠地帯だった。
太陽が昇っていて熱い。
俺はタイツに足先が金属でできた靴と、どういう環境でも戦える格好のため、何とか耐えられると思っていたが、プラムの格好を見て心配になる。
ドレスの上からフード付きのローブに身を包み、頭からフードをかぶっていた。
「熱くないのか?」
「うむ、魔族は温度変化に強いからの。それに城の中では気づいてないようじゃったが、妾の頭には角も生えてるのじゃ。人間に見つかるわけにはいかないのでな」
俺を見上げてプラムはそう説明してくれたので、頭を撫でる。
確かに小さいながらも、角のような物があるのが分かった。
「な、何をするのじゃ? 仮にも魔王で、お主の主にむかって?」
俺を見上げてプラムは抗議の声だし、手をグーの形にしてぶんぶんと振るう。
「すまない、嫌だったか?」
「嫌ではないが……なんかこう主としてこうな」
もじもじと照れている姿が可愛らしい。
プラムを先頭に、歩き進めながら会話を続ける。
「プラムが俺を呼んだのか?」
「いかにも。もともとは魔獣を招来する魔方陣なのじゃが、何故かお主が現れたのじゃ」
けらけらとプラムは笑う。
「なるほど、俺とプラムはやはり運命で結ばれているようだな」
俺は顎に手を当てて、そう呟く。
「何をバカなことを言いておる。だいたい、怒ったりしないのか?」
「何故だ?」
様子を窺うように俺の顔に視線を向けたプラムに、俺は訳が分からずそう言い返す。
「記憶をなくしたのは妾のせいじゃろうし、何よりこんな世界に呼んだのだって普通ならもっと戸惑ってもおかしくない事じゃのに……」
プラムはそう言って立ち止まってしまう。
「そんな暗い顔をしないでくれ。もし、そうだとしても俺はプラムと出会えてうれしかった。プラムに一目ぼれしたんだ」
プラムの前にひざまずき、小さな肩に手をおいて俺はプラムに笑いかける。
「お主、ロリコンというやつなのじゃな」
プラムはやらやれといった感じで笑い返して、そう言ってきた。
「ロリコン? 聞いたことない言葉だな、どういう意味なんだ?」
「知らないのか? なら、秘密じゃ」
悪戯っ子のようににししと笑い、プラムはまた歩き出した。
俺は元気になってよかったと思いながら後を追いかける。
少ししたところで、人の集団が見えてきた。
兵ではなく、キャラバンのようだ。
数は十人くらい。
「こんなところで人に合うとは、この辺りは魔族の住処という噂で危ないようですよ?」
キャラバンの一人が俺たちに気付いて、声をかけてきた。
「そうなのか、ところでお主らは何故ここにいる?」
プラムはとぼけて、そんなことを聞く。
「私たちは、この先の町に物を売りに来たのです。まあ、帝都の指示ですな」
「帝都の?」
「はい、何でも魔王討伐軍がここにきているそうで、物資の補給のついでの商売です」
その男は、ふぉふぉと笑って説明してくれる。
「そういうことか……すまないが町まで同行してもいいかの? このあたりの地理はそこまで詳しくないのでな」
「ええ、もちろん。さ、馬車に乗ってください」
俺たちはキャラバンの荷馬車に載せてもらって、移動をすることにした。
・・・・・・・・・・・・
プラムは見た目と違って、しっかりと大人な振る舞いができるようだ。
「君たちは若いのに、二人で旅をしているのかな?」
馬車の中にいたお爺さんが、俺達に声をかけてきた。
「そうなのじゃ、帝都を目指しているのじゃ」
「な、悪いことは言わん。帝都には行かぬことじゃ」
お爺さんは目を見開いて、声を抑えてそう言ってくる。
「どういうことだ? 帝都は栄えていると聞いたが」
俺はプラムが言っていた通りなら、そのはずだと思いそう聞く。
「ええ、一部富豪はな。ワシらのような者はましじゃが、貧富の差が激しくってな」
お爺さんは遠い目をして、どこか悲しそうだ。
その時、馬車が激しく揺れ馬車が止まる。
「逃げろサンドワームの群れだ!」
馬車を操縦していた男が叫び、何かがこちらに地鳴りをあげて迫っているのが分かる。
「ゼロ、出るぞ!」
「分かった。殺すのか?」
「人を襲うものは魔族にあらずただの魔獣じゃ」
二人で外に飛び出しながら聞くと、プラムはそう言って討伐を指示してきた。
「君たち、早く逃げなさい」
お爺さんの声を無視して、馬車の前に行き、地面を泳ぐように移動する人間の数倍はデカい百足のような魔獣と対峙する。
「やれそうか?」
「愚問だな、俺の力を見て惚れるといいぞ」
俺は笑って、そう言い放ち、刀の柄を握り体制を低くして構えた。
プラムは俺の後ろに回り腕を組む。
「ぶじゃぁぁぁ」
奇声を上げて、突進してきた魔獣はゼロを中心に真っ二つになる。
「フハハハハ、でかした。ゼロよ」
「な、な」
お爺さんは、口をパクパクとさせ、その場に座り込む。
「おい、今のは何だ? 魔物が真っ二つだぞ」
「助かったのか?」
「やったー」
キャラバンの人たちは、驚きと歓喜の声をを上げる。
「ゼロよ惚れるかどうかは別にして、妾はお主の力を全面的信用しているぞ」
俺の隣のに来た、プラムが笑いかけてくれた。
・・・・・・・・・・・・
「いやー、本当に助かりました」
魔獣を討伐して、また馬車で町まで移動した俺達は馬車を降りたところで操縦士にお礼を言われる。
「いや、妾たちも助かったのじゃ。うぬらがおらねば、日が暮れるところじゃったからな」
すでに日は陰り始めていたが、砂漠で野宿ということはしなくて済みそうだ。
「そうだ、これはほんのお礼だ。この辺りでは、貴重な水だ」
操縦士はそう言って、水の入ったボトルを渡してくれた。
「おぉ、助かるのじゃ」
「いえいえ、それではご武運を」
キャラバンに別れを伝え、町の散策を開始する。
町は石造りの建物しかなく、奥に進むにつれ床に倒れるものが目に入ってきた。
「ずいぶん、治安が悪そうだな」
「ふむ、貧困の物が多いせいじゃろうな。建物もボロボロじゃ」
宿を探したかったが、これでは望みが薄そうだ。
「プラム、宿はなさそうだがどうする?」
「う、そうじゃな、あの裏とかにはないかの」
プラムは、駆け足で路地裏に行ってしまう。
「きゃっ、やめてください」
プラムを追いかけて裏に行くと如何にもガラの悪そうな男に腕を掴まれたワンピースを着た女性がいた。
「もめごとか?」
プラムに声をかける。
「うむ、そのようじゃ。ゼロ助けてやってくれぬか?」
「分かった。そうだ、殺すのか?」
「お主は妾を鬼畜かなにかと勘違いしてないか? 殺す必要などない」
「そうなのか?」
悪人はすべからず切り捨てるのかと思っていたが、違うようだ。
「おいおい、そこの兄さん何見てんだ? あぁん」
男が俺たちに気が付いてすごんでくる。
「あ、助けてください」
女性も俺たちに気付いて、助けを求めてきた。
「はぁ、フッ」
俺はため息をついて、目にも留まらぬ速さで男の背後に行き、首を叩く。
「が、ぐあ」
男はその場に膝から倒れる。
「おっと、大丈夫か?」
バランスを崩した女性を抱きとめ、そう声をかけた。
「は、はい。(ポッ)ありがとうございます。お礼がしたいのですが、何か私にできることはありますか?」
女性は赤くなって少し目線を俺から外して聞いてくる。
「なら、君の家に泊めてくれないか?」
宿を探していた俺達にとってありがたい言葉だったので甘える。
「え? まだあったばかりなのに積極的なんですね? まあ、いいですけど(ポッ)」
頬に手を当てて、くねくねと動きながら女性はそう返す。
「ご、ゴホン。妾もいるんじゃが……」
蚊帳の外のプラムが、わざっとらしく咳払いをし声を出す。
「あ、妹さん? がいたんですね。まあ、夜は眠るだろうしって、キャ」
「とにかく案内してくれ」
一人で妄想に入っていく女性に俺は気にすることなく、淡々と言い放つ。
俺達は女性を助けたことで、何とか泊まる場所を手に入れたのだった。
・・・・・・・・・・・・
女性の家は路地の奥の、表の建物に比べ比較的綺麗な家だ。
家の中のテーブルの前に置かれた椅子に横並びで座って、ご飯を持ってくるといった女性を待っていた。
「すみません、食事って言ってもこのパン一つしかないのですが」
女性は申し訳なさそうに、テーブルに丸いパンを欠けた皿にのせて、俺達の前に置く。
「ふむ、籠っている間にますます人間どもは腐ってきているようだな」
プラムは苛立ち気に声を出し、皿を女性の方に押す。
「人間ども? ごめんねこんなものしか出せなくって」
プラムの言葉に疑問を持っていそうだが、パン一つしか出せないことを怒ったのだと思ったようで謝ってきた。
「気にするな、そのパンは君が食べるといい」
これ以上突っ込まれてはいけないのでそう言って、自分の前に押されたパンをまた、女性の前に置く。
「あなた達は天子様の使いなんですか? ここまで親切な人は、もうこの世にはいないと思います」
女性はうつむいて、泣き出してしまう。
「プラム、なぜ彼女は泣いているんだ?」
俺は訳が分からず、プラムの方に聞く。
「それだけ、この世は腐っているってことじゃよ。お主そう言えば名はなんじゃ?」
女性はその言葉に顔を上げて、そうでしたねと涙をぬぐい――
「私の名前はリリと言います。この度は助けていただきありがとうございました」
頭を下げた。
「うむ、苦しゅうない。リリ、帝都の今を教えてくれぬか? 旅をしていてそういう事に疎いんじゃ」
プラムは腕を組みふんぞり返って、リリに聞く。
「そうなんですか?」
不思議そうに俺の方を見てリリは聞き返す。
「ああ、教えてくれないか?」
「はい、その前に貴男の勇者様の名を聞かせていただけませんか?」
リリは期待の様なまなざしを向けて、聞いてきた。
「勇者? 俺はそうは呼ばれてないが、ゼロというものだ。この子は、プラムだ」
俺は自分の挨拶とプラムの自己紹介を手早く済ます。
「ありがとうございます、ゼロ様。あまり大きな声で言えないのですが今、帝都は虐殺が横行しています」
「虐殺?」
「はい、地位や権力を持つ者たちが庶民を虐げているのです。この街も去年までは美しかったのですが、領主であったブライアン様が帝都のやり方を非難した翌日殺されてしまい、このような無法の町に」
リリは泣きそうな声でそう言った後、耐えきれなくなったように泣き出してしまった。
どうやら帝都という場所は、本当に一部の者にしか優しくないようだ。
「それで今は、誰がこの街の領主をしているのじゃ?」
「それは、帝国の犬と呼ばれるカースマルツゥという男です」
リリは涙を流しながらプラムの方を見た後、俺の方に視線を戻し――
「どうか、ここの領主に天罰を下してくれませんか?」
そう懇願した。
「どうして天罰を?」
「奴はこの街にいる女性を、帝都に売りさばいているのです。私の妹も連れ去られてしまいました、私もいつ連れ去られるのかと怖いんです……」
リリは体を震わせ、怯えている。
「プラム、お前の言う悪とはこういうやつの事か?」
「そうじゃ、だがここまで腐敗が進んでいるのには少し驚いたがの」
プラムの言っていた、悪の定義が分かったような気がする。
プラムは人間の大量虐殺を願っているのではなく、
立場の弱いものを虐げる者を許せないのだ。
「なら、天誅に行くか」
「そうじゃな、夜の方が目立たないしの」
俺が立ち上がり、その後ろにプラムが続く。
「あの、本当にあなたたちは何者ですか?」
立ち上がる俺達を見て、リリは聞かずにはいられない様子で聞いてきた。
「ただの世直し人じゃ。すぐ帰るから寝床を用意して待っているのじゃ」
俺達は領主、カースマルツゥの屋敷へと向かう。