ミモレットの陰謀――町を後に
ミモレットを斬った後、ゼロたちは地上に向おうとして……
「よし、生きてる者を運ぶのじゃ! ゼロ」
「ああ、あまり離れないでくれよ」
プラムが先に駆けだしたので、慌てて声をかける。
「フハハハハハ、勝機!!!!!」
突如、地下室にミモレットの声が響く。
「な、プラム。警戒してくれ!」
辺りを、紫色の煙が包む。
視界が完全に失われて、プラムの姿がどこにあるか分からない。
「フフフ、フハハハハハ! もう遅い! この煙は毒ガスだ! 母体を失うのは嫌だが、我を追い詰めた貴様や腰抜けの魔王はここで死んでもらう」
「ミモレット、妾に毒は効かぬのじゃ」
「知ってますよ! だが、その人間はどうでしょうか?」
高笑いが、響く。
「ゼロ、階段を上がるのじゃ! 妾はその側に居るのじゃ」
危険を承知で、プラムが居場所を教えてくれる。
今のところ口を押えているので、体に異変はない。
身体に電気を、めぐらせていく。
『雷神雷光』
神速を越え数秒後には、プラムを連れ上の階に移動する。
「お、お~! 何じゃ? ゼロ、瞬間移動なのかの?」
抱きかかえているプラムが、目をぱちくりとさせて、驚いた感じで聞いてきた。
「いや、走っただけだ」
その言葉に、プラムはおかしそうにケラケラ笑い、「本当に規格外じゃのう」と、声を出す。
「しかし、何で毒の影響がないんだ?」
自分の体を不思議に思って、確認する。
「それは以前、妾の血と唾液を与えたからじゃろうな」
なるほど、研究所の時か……
「何故だ、何故なんだ!!!!! 何故その男が生きている!」
階段からコツコツと上る足音とともに、ミモレットの苛立った声が響いてきた。
「ゼロ、あまり長時間は吸ってはダメじゃぞ? どこまで耐性が付いたか、分からぬでの」
「ああ、了解だ。上ってきたところを、斬る!」
プラムを下ろして、居合切りの構えを取る。
「くたばれーーーー!」
ミモレットが、飛び出してきた。
両手の爪が異様に長く伸びている。
「新、一の型。雷神一閃――」
爪が俺をとらえるより早く、そして細かく斬り刻む。
「二度と蘇るな、外道」
「フェェ? 斬り刻まれる~」
今度こそ確実に、とどめを刺す。
「よくやったのじゃ、ゼロ。これで、本当に敵をとれたのじゃ」
「ああ、そうだな」
刀を一振りし、血を飛ばして鞘に納める。
ミモレットは、今度こそ動かなくなった。
「なあ、ゼロ? 毒が消えたら、下を探らぬか?」
「そうだな。何か隠している可能性があるしな……」
顎に指を当てて、思案する。
「しかし、地下ゆえに毒ガスが消えそうにないの」
プラムが残念そうに声を出す。
「よし、少し動かないでくれ」
そうプラムに言い、教会の入口に近づく。
「何をするのじゃ!」
俺はその声に答えず、刀を構える。
「ふぅ、紫電一閃」
床に向かい、刀を振るう。
バキバキバキ――
床が砕けて、煙が外に向かって噴き出す。
「な、な、な」
プラムが驚て、声を詰まらせる。
「ここが丁度、ミモレットと戦った場所なんだ。これでガスが、外に流れるだろう」
外に出たガスはさすがに、霧散するはずだ。
「本当なのじゃ!? ガスが消えてゆくのじゃ」
「ゆっくり進もう」
「うむ!」
毒が薄まっていく中を、プラムとともに進む。
途中、目から血を流す女性の死体が倒れていた。
「助けられなかったな……」
「魔王として謝罪と、冥福を祈らせてもらうのじゃ」
プラムは女性に手を合わせて、目をつむる。
プラムは魔王に生まれただけで、人よりも優しい心の持った魔族だと思う。
「行こうか?」
「そうじゃな……」
毒ガスが足元には残っているので、俺達は女性を埋葬してあげることは、叶わなかった。
奥に進み、多くの死体を見て、イラ立ちが募る。
「ドアがあるな――」
俺は歩みを早め、ドアのノブを掴む。
「罠はなさそうじゃの」
「ああ、そのようだ」
身長にドアを開け、中に入る。
「書庫かの?」
プラムの言うように、中はたくさんの書物が棚に納められていた。
その奥にある、小さめの木の机と椅子が置かれている。
光源が乏しいせいで、本は読めそうにない。
プラムが机の上の本を手に取って、読み始める。
魔族は夜目がきくんだったな。
「何が書いてあるんだ?」
「うむ、日誌のようじゃ――ふむふむ。どうやら、ミモレットは人間と魔物の配合を試していたようじゃな」
「やはりそうなのか……」
「どうにも人間に産ませた個体が、知能は低いものの喋れたことがきっかけの様なのじゃ……若い女、それも聖職者が望ましい――効率よく触手の魔物に卵産みつけさせ、生まれた魔物を使い、帝都を滅ぼす。私を裏切ったとを、後悔するがいい。プラムをどうやら殺そうとしているようだが、その前に私が手に入れたいものだ。あのものは仮にも歴代最強の魔王の娘、必ずや優秀な母体になるだろう――って、誰がなるか! なのじゃ」
プラムが床に日誌を、叩きつける。
「おいおい。で、どうなったんだ?」
そう声をかけると、仕方なそうに日誌を拾い、続きを読み始めてくれた。
「追い詰められた。ありえない……この私が、この場所に潜伏し気を待つか……何かデカい気配が町に来たな。五英どもか? ここで、終わっているのじゃ」
やはりミモレットが、あの触手を作ったのか。他にも豚の魔獣もいたな……実験は成功? しているようだし、何かまだ隠してそうだな。
「読んでくれてありがとう。プラム、他にめぼしいものはあるか?」
「ぬ? この日誌以外は、人間世界の読みものばかりじゃな」
「そうか……とりあえず、この教会から出るか?」
「そうじゃな。もう長居する意味もなさそうじゃ」
プラムは本棚を端から見終えて、出口に向かう。
帝都がミモレットを使い、何かを企んでそうなのを少し気がかりに思いながら、その後に続いて出口に向かって進んでいく。
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教会を出て、多少新鮮な空気を吸い込む。
「これからどうする?」
「妾としてはラルクに一度、向かいたいのじゃ」
確かに当初の目的はラルクを経由して、帝国に向かう予定だったな。
「よし、向かうか……羅針盤はどうだ?」
「そうじゃったな……お、使えそうなのじゃ」
プラムが嬉しそうに見せてくれる。
「この場所の名前を、調べないとな?」
「じゃな――あれがそうかの?」
プラムが端の方まで歩き、町を見渡してそう声をかけてきた。
指をさす方には半壊した宿があり、ようこそルルの町へと、落ちかけの看板に書かれている。
「多分そうだな――地図だとここだな」
地図をプラムに見えるよう開き、指をさす。
「うむ――こっちの方角じゃな」
地図通り最短で進むなら、崖伝いに進む必要がありそうだ。
「プラム、おんぶさせてくれ」
「すまぬが、そうさせてくれなのじゃ」
プラムも、無理だと判断したようだ。
最短ルートで俺達は、ラルクへと向かって歩き出した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
後書き書く時間がない(笑) 次はラルクの町のお話です。
次のお話も読んでもらえると嬉しいです




