ゼロの思い、ゼロの過去……
スティルトンとの戦いを終えて、プラムの身を案じるゼロ。
そこに謎の男が現れて……
スティルトンが去った後、コロシアムに残された俺は、司会の男の誘導で外に出る。
五英と渡り合ったおかげで、その場で襲われることはなかった。
「コトハはもう少し、町を見ていくそうじゃ」
隣に立つプラムが、そう言ってくる。
「そうか……」
「なぁ、何で元気がないのじゃ? スティルトンを退けたのじゃぞ?」
歩きながら、プラムが気を使ってそう言ってきた。
「いや、すまない。プラム、俺はこのままではダメなんだ」
「ダメとはなんじゃ? どういう意味じゃ」
「弱い、弱すぎる。このままではプラムを、守れない」
町の入口に来たところで立ち止まる。
「何を言っておる? まさか、ビビったのか?」
ムム、と唸ってそう言われてしまう。
「ビビってなんかいない。ただ、プラムが心配だ」
「ふん、言い訳じゃな。妾は、そこまで弱くないぞ!」
よく言う、寝ているとき泣いているのを知っている。
そもそも俺を招来したせいで、力もないだろうに……
「提案なんだが――」
「断るのじゃ!!!」
言い切る前に、遮られてしまう。
「どうしたんだ?」
「どうせ、天都で待っていろとか、安全なところに身を隠せてとか、言うのじゃろ?」
俺の言いたいことを、すべて言われてしまった。
「けどな、その方がいいだろ?」
「嫌じゃ、お主は妾の刀で、妾はお主の主じゃ。刀の側に妾がいないで、どうするのじゃ? 刀はひとりでには動かぬものじゃ、それとも側に居たら迷惑かの?」
目を潤ませて、駄々っ子のようにそう捲し立てる。
「違う、心配なんだ。いや、怖いんだ……プラムを失うのが……」
俺はしゃがんで、プラムを抱き寄せた。
「ゼロ……」
「プラム……」
自然と見つめ合う。
「フォッフォッ。こんにちは、こんなところで会う事になるとは……」
突然声をかけられて、ビクッと、プラムから離れる。
声の方を見ると、キャラバンにいたお爺さんが立っていた。
「お主は、キャラバンの」
「そういえば、自己紹介がまだでしたね? ワシは、ズットイというんじゃ」
「改めて、俺はゼロだ」
「妾はプラムじゃ! して、ズットイ。どうしてこの町に?」
「物資の交換です。それが終わったので、帰る所ですじゃ」
商売熱心な人だ。
「そうか、それで俺達に何か用か?」
「フォッフォッ。何やら、もめている様に見えたのでな。おせっかいを焼こうかと思ったのじゃが、大丈夫そうじゃの」
ズットイは、楽しそうに笑う。
だが、この出会いは都合がいいかもしれない。
「そうか、それはありがと。なぁ、少し聞いていいか?」
「うん? なんじゃ? 答えれることなら答えるぞ」
「この辺りで、修業ができそうなところを知らないか? 噂でもいいんだ」
商人なら、何か情報を持っているかもしれないと思って聞く。
「若いの~。まだ強くなりたいのか?」
「ああ、目的のために」
「ゼロ……」
プラムが何かを言いかけて、やめる。
「そうか、そうか。ついてくるがよい、いい所を紹介しよう」
ズットイの言葉にうなずき、馬車に載せてもらう。
何故か俺達以外に、乗っていなかった。
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馬車が止まり、降りるように声をかけられる。
馬車の外は、木が生い茂る森の中だった。
「ここは……」
「修業がしたいと言ったじゃろ?」
ズットイは、俺の質問にそう答える。
ここでどんな、修業ができるんだ?
「なあ、おい。ズットイとやら、お主、何物じゃ」
「わしゃ、商人じゃよ」
「そうではなかろう? そもそも人ではないのじゃ」
今まで黙っていたプラムが、突然そんなことを言う。
「どういうことだ? プラム」
「こ奴は商人でも、人でもないのじゃ」
「魔物か?」
「それとも違うの。匂いが違うのじゃ」
「流石、魔族と言ったところか……如何にも、私はズットイなどという商人ではない」
ズットイの声が、急に幼くなる。
「どうなっているんだ?」
「最近、人間どもが騒がしくてな。それを、お前に止めてもらいたいのだよ」
「どういうことだ?」
ズットイの姿が消え、辺りが霧に覆われた。
「コロシアムの試合を、見せてもらった。お前なら修業をすれば、帝国に勝てるかもしれない。修業をつけてやる」
その言葉を最後に、手の先も見えないくらいに霧に飲まれてしまう。
「プラム、気を付けろ!」
俺はそう言葉をかけて、気配を探る。
『へ~、記憶がないんだ』
頭に直接、声が響く。
「どこにいる? でてこい」
『少し探るね~』
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「はっ!」
「どうしたの? 一護食事中にぼーっとして」
「え? 一護……いや、何でもない。“姉さん”」
いかんな、姉さんに心配をかけてしまった。
「そう? 最近、魔物の退治ばかり行くから、心配だわ」
俺の四つ上の姉、篠崎寧々(ねね)が心配そうに見てくる。
「大丈夫だよ! この家には絶対、魔物を近寄らせないから」
俺はそう言って、味噌汁をすすった。
「フフ、頼もしいわ。でも、家のしきたりはそこまで気にしてはダメよ? お父様も死んだのだから……」
姉さんが鮭を一口食べ、俺の目を見つめてくる。
「……ありがと。姉さんこそ、体が悪いのだから、無理するなよ」
こうやっていると、思いだしてきた。
俺と姉さんはこの家で、二人で暮らしている。
母は俺を生んで死んでしまい、父さんは、俺が殺した。
俺の家は昔から麒麟という神を崇め、その肉を食らい力を得て、繁栄してきたのだ。
そのしきたりから、父は厳しく俺を育てた。
姉さんは武術の才能があったものの、生まれつき体が弱く、俺が家を継ぐように言われたのだ。
毎日、死ぬ思いの修業を繰り返していく日々で、あの事件が起こった。
俺が五歳のころの話だ。
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「寧々! 何をしている?」
蝋燭の明かりに照らされた、薄暗い道場中で、男の声が響く。
男の名は、篠崎綺冷この道場の現当主だ。
「あら、お父様。何って、麒麟の肉を食べているんですよ?」
声をかけられた寧々は、神棚に置かれた干からびた肉を食べながら、そう返事を返した。
「寧々、それがどういう事か分かっているのか?」
「もちろんです。弟に家は、継がせません。私が継ぎます」
「それはならん! 貴様には、武を振るう資格がない」
綺冷は激高し、寧々の元へと足早に歩いて行く。
「資格? 何ですかそれ? 私はこの家で一番、強いですよ?」
その言葉は嘘でも、自信過剰でもなく事実だった。
寧々は弟の修業を毎日盗み見て、技を全て会得しているのだ。
「何故、俺がお前に修行をしないか分かるか?」
「う~ん、そうですね……私の才能が怖いからですか?」
ニコニコと父親をバカにしたように、そう口にする。
「ああ、そうだ。貴様には心がない、そんな奴に力をつけさせるわけにはいかない」
「心? それはお父様もじゃないですか? あんなに優しい、一護にひどいことをして……」
声に怒気がはらむ。
「やはり、もっと早くに殺すべきだった」
綺冷は、寧々に跳びかかる。
「それは同感です――」
綺冷の蹴りを回転するようにいなして、綺冷をそのまま投げ飛ばす。
「一の型、雷神一閃」
寧々の手が、綺冷の胸を貫く。
「グッハァ! 貴様その技をどこで……」
「毎日、稽古を見てますから……後、この家の書物は全部、読ませていただきました」
「やはり、化け物だな――こうなれば父として、共に死んでやろう。零の型、雷神」
綺冷は、懐から脇差を取り出して、自らの胸を刺す。
「知らない技ですね、どうなるんでしょう」
「知る必要はない『雷神一千』」
ゼロが使う神速一閃よりも早く動き、寧々の懐に飛び込む。
「身体強化といったところでしょうか? 三の型、雷鳴強防」
寧々は落ち着いた様子で、その攻撃をいなしてしまう。
「化け物めが……」
「フフ、この武術は応用があっていいですね? さて、まだやりますか?」
「ウォォォォォォ!!!!!」
綺冷は雄たけびを上げ、手刀を連続でくり出す。
「フフ、醜いですね……グッ、こんな時に……」
寧々は持病の発作で、その場に膝をついてしまう。
「勝機……」
そこを見逃さず、手刀を寧々の顔をめがけて、振り下ろす。
「やめろーーーー!」
そこに物音で目を覚ました、一護が乱入する。
日本刀を両手で持ち、姉を襲うやつめがけて投げつけた。
「! な、無念」
綺冷は突如、頭に刀が刺さりそのまま絶命する。
「え? 父さんなの? どうして?」
聞き覚えのある声に、一護は困惑した声を出す。
「ありがとう、一護。助かったわ」
発作の治まった寧々が、困惑する一護のもとに行き、抱きしめながらそう言う。
「父さんが何で……俺が、父さんを……」
「大丈夫、大丈夫だよ。お父さんはね、力におぼれたの。助けてくれてありがとう」
頭を撫でながら、優しく言い聞かせるようにゆっくりとそう嘘をつく。
「姉さん、俺。どうしたら……」
「大丈夫、大丈夫だよ。もう一度、寝に行きましょう? 今日は一緒に寝てあげるから」
寧々は放心状態の一護を引っ張って、寝室へと向かうのだった。
前回のゾルの話し方の秘密、分かりましたか? 実は逆さ言葉になっています。
今回から少し過去の話を始めるのですが、やはり必要なんですよね……少しでも楽しんでもらえるように頑張ります! そして、寧々を可愛く書きたい(笑)
物語もそこそこ、後半ですが皆様の声援が嬉しいです!
いつもありがとうございます
それではまた次回もよろしくお願いしますです




