クルフの町② コロシアムの攻防
五英が一人、スティルトンの強さを見にコロシアムに来た、ゼロ達の運命やいかに……
ゾルと呼ばれ男の後に、少し遅れて少年が手を振りながら入ってきた。
「まさかあいつが、スティルトンなのか?」
「いや、流石に違うじゃろう」
「「「うぉぉぉ! スティルトン様ー」」」
コロシアムが、歓声とともに熱気に包まれる。
「どうやら、そのまさかのようですね」
コトハが誰に言うでもなく、そう言葉を漏らす。
「やー、やー。皆さん。本日は、ありがとう」
スティルトンは手を振って、最後にお辞儀をし、お礼を観客に伝える。
「スティルトン様。本日はありがとうございます」
司会が側に行き、話しかけた。
「僕の方こそ、遊びをありがとう」
ニコニコとスティルトンは、ゾルを見てそう返す。
「てっがやき焼を村の俺 !とだび遊」
ゾルが語気を強めて何かを言ったが、分からなかった。
「なになに? 異民族は、言葉も話せないのかな?」
スティルトンの煽りに、ゾルは槍を構える。
「では、試合開始ぃぃぃ!!!」
司会の男がそう声を上げて、離れていく。
さて、どうなるんだ?
俺は腕を組み、静かに様子を見る。
「ラオ、ラオ、ラオ」
「当たらないよ~」
ゾルの突きを、頭の後ろで手を組んだまま、スティルトンはすべてかわす。
「ーバーシェルライパス、義奥。てっがやめな」
「ふーん、もういいや。死んで?」
ゾルが槍を回転させながら突撃すると、スティルトンはそれを飛んでかわし、着地すると何故かゾルの首が地面に落ちた。
「「「うぉぉぉ!!!!!!!!」」」
コロシアムが歓喜につつまれる。
「なんだ?」
「分からぬ、見えなかったのじゃ」
「腰につけている、短剣も抜いてませんね」
それほど、奇妙な光景だった。
技が見えない。それどころか、剣すら抜いていないように見える。
「はぁ、弱すぎ~。もっと、楽しい玩具はないの?」
スティルトンは退屈そうに、司会の男に言う。
「いや~、強いですね。皆さん、これで満足ですか?」
司会の男はそれに答えず、観客に質問する。
「「「いいぞー! もっとやれ」」」
「何かあるの? いいね! やろやろ」
「では、第二試合! コロシアムが誇る猛者百人と、戦ってもらいましょう!」
その言葉とともに、コロシアムに人が駆けこんできた。
「殺せば解放、いいね! 殺す」
「俺が一番乗りで、決めてやるぜ」
「拙僧が、神罰を下そう」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」
男たちが各々武器を持って、スティルトンに襲い掛かる。
「雑魚ばっかじゃん!」
そこからは、悲惨としか言いようがなかった。
スティルトンは“一度も武器を抜かず”、襲い来る敵の首を全てはねたのだ。
「こ、これが。五英の力だーーー!!!!」
司会の男が興奮して、叫び声をあげる。
「いや、これは弱すぎるよ~! ん~。あ、そこの前身タイツのお兄さん。降りてきてよ」
俺の座っている席の方を見て、そう声をかけてきた。
念のため左右を見るが、こんな服装な奴は俺以外にいない。
「プラム、どうする?」
「お前だ、立て」
プラムに確認しようと声を出したときに、返事よりも先に近くにいた兵士が俺に声をかけてきた。
「とりあえず、従うのじゃ。隙があれば、斬り捨てるのじゃ」
プラムが小声でそう指示をくれたので、俺はうなずき、兵の誘導に従う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
リングに行くと、スティルトンがニコニコと俺を見てきた。
「うん、間違えない。君、強いよね?」
「いや、そこまでは強くないぞ?」
「スティルトン様、どうしてこのような者を?」
司会の男が、不思議そうに聞く。
「僕の動きをずっと、監視するように見てたからね。もしかして君が最近、五英の皆を殺してるのかな」
その言葉に、ドキリとする。
そこまで、帝都の連絡網は早いのか。
「本当なんですか? それ……」
先ほどとは違い、声を落として話しているため、観客には聞こえてないようだ。
司会の男も空気を呼んで、スティルトンに聞く。
「うん。たぶん、こいつが犯人だよ」
「違うと言ったら?」
俺はそう聞いてみることにした。
「別にどっちでもいいよ。強いやつを、なぶるのは楽しいし」
「ふん、ゲスめが……屠る」
俺は身を低くして、居合切りの体勢をとる。
「それでは、第三試合。スティルトン様vs観客の剣客、試合を始めます」
司会の宣言と同時に、スティルトンの雰囲気が変わったのが肌の感覚で伝わってきた。
「少しは、楽しませてね~」
スティルトンはこぶしを握り、空手のような構えを取る。
隙がない、どう動こうか……
じりじりと、刀の柄を掴んだまま、距離を詰めていく。
「シッ」
刀を振るい、様子を見る。
「当たらないよ。君は、慎重だね」
バックステップでその攻撃をかわし、スティルトンはニコニコとそう言ってきた。
「貴様もな……攻めてこい」
「いいよ。その前に、君の名はなんていうのかな」
「ゼロだ」
「いくよ、ゼロ。楽しませてね――」
シュッシュ――
スティルトンの拳が、空を切る。
『羅朱拳』
「何? くっ……」
俺の腹に衝撃が走った。その衝撃を体を横に捻り、和らげる。
「へ~、死なないんだ」
目を輝かせてそう言ってきた。
「やっかいだな。遠距離もいけるのか……」
「ふふ、もっといくよ!」
先ほどより多く、拳を振るう。
俺は、スティルトンの右に回り込むように走る。
「神速一閃」
一瞬の合間を縫って、斬りこむ。
『術式解放――知覚周全防』
“振り返ることなく”俺の背後からの高速の攻撃を、拳で受け止められる。
「な、バカな!?」
「この程度なの? ゼロ」
つまらなそうに、ため息をつかれてしまう。
「二の型、雷鳴迅雷」
俺は後ろ向きに、高速で飛ぶように移動する。
対峙して分かった。この五英、スティルトンは今までの敵の中で、一番強い。
「距離を取ってどうするの?」
あの技を試すか……
この街に来る途中で、思いついた技。
まだ実践では使ったことがない。
「三の型、四の型混合接続。稲妻ランサー」
スティルトンに刀を向け、無数の雷の槍を飛ばす。
雷を呼ぶ力と、雷を飛ばす技の合わせた使い方だ。
「ゼロは、僕達みたいな力が使えるんだね」
その攻撃を、ステップでかわされる。
「ゼローーー!!! しっかりせんか!」
プラムの声が、客席から聞こえてきた。
俺の連れだと分かれば、危ないのに――
「フフッ」
その声に笑ってしまう。
すごく嬉し。
「何を笑っているの? あの子、連れなのかな? 後で殺そうかな、仲間なら」
「その前に、貴様が死ぬがな!」
居合切りの構えを取る。
「またそれ? 芸がないな~」
「終わらせる。『神速一閃、六撃』」
「な、見えな、あ?」
高速で軌道修正を繰り返して、スティルトンの首を斬りつけた。
「何?」
突如、スティルトンがその場で、砕け散る。
「この勝負、ここまで!」
俺は、声がした観客席に視線を向ける。
そこには透き通るような青い髪をした、黒い帝国のものと思える軍服姿の女性がいた。
「何者だ!」
「私か? 私は、エダム。五英の一人だ」
これは少しマズそうだ。
二人がかりで、攻撃をされたら対処しきれそうにない。
それほど、この女からは異様な強さを感じられる。
「何だよ、エダム。邪魔するなよ!」
よく見るとエダムに服の衿を掴まれた、スティルトンがいた。
「仕事だ。反乱分子が見つかった」
ため息をついて、そのまま出口へと歩いて行く。
「ゼロ。今回はここまでだけど、次は本気で殺すよ!」
スティルトンはそう言い残し、エダムにひきずられて、コロシアムから出ていく。
「ドロー! 決着はつかずです!」
司会の男は、そう締めくくる。
この戦いで俺は、一つの課題に気がついたのだった。
強い、強すぎるよスティルトン。
この強さを前に、ゼロの心境にも変化があったようです。
次回も読んでもらえると、嬉しいです。
今回は、後書きが短めですみませんです




