クルフの町①
次なる場所は、奴隷産業で栄えるクルフの町。
コロシアムで、特別試合があるようで……
二日ほど森で過ごし、平原のような場所に出た。
この辺りはサンドワームの影響が少ないのか、自然が多いようだが――
「臭いな……」
鼻が戻ったはずなのに、辺りに血特有の、鉄の臭いが漂っている。
「じゃな、これは人の血の匂いなのじゃ」
プラムが同意し、臭いの原因を教えてくれた。
「人の血か……誰か襲われたのか?」
「にしては濃すぎるの……墓とか戦争でもあったのかの?」
「戦争はないんじゃないか? 馬の足跡や、死体が落ちていないし」
お互いに分析を述べながら、歩いていく。
「これは酷いのじゃ」
少し歩くと、その臭いのもとが分かった。
磔にされ、声にならない声を出す人の群だ。
「酷すぎる」
体にやけどを負っていたり、内臓が飛び出ていたり。まさに拷問の博覧会のように、人が並んでいた。
その人たちの首元には、謎の数字が書かれた札が付いている。
「生きてるものは、速やかに殺してあげるのじゃ」
プラムの言葉にうなずき、首を斬り落としながら進む。
全員、手当てをするのも無駄そうだ。
「ぐぅぅぅ」
「ありがと――」
「奴らを殺してくれ……」
口々に言葉を残し、皆の首をはねていると、町の入口についた。
「ここが、クルフか」
「そのはずじゃ。この蛮行の主がいるやもしれん、気をつけていくのじゃ」
「そうだな」
気を引き締めて、町に入っていく。
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「どうだい、そこのお兄さん。いいお肉、はいってるよ!」
「らっしゃい、らっしゃい。薬草、キノコはこちらだよ」
町の入口から、ずらりと市場の様に屋台が並んでいた。
天都よりも、活気がある。
だが、そこかしらに首輪の付いた人が垣間見える。
「どうなっているのじゃ、ここの者たちは……」
プラムがそう声を漏らしたところで、「おや、お兄さん? もしかして、奴隷をお探しですか?」
顔を白塗りにして、丸い赤鼻の小太りの男が声をかけてきた。
「いや、興味ないな」
「またまた~、小さい子もいるよ?」
プラムの方を見ながら、そう言う。
「他をあたってくれ、奴隷なんていらない」
きっぱりと断る。
「じゃぁ、この街に何をしに? もしかして、賭け事ですかい?」
「いや、物資の調達と帝都の方角への、軌道修正だ」
「へぇ、兄さん達。帝都に行くのですかい?」
「そうなのじゃ! だから、お主にかまってる暇はないのじゃ!」
プラムが手を払って、その男に退くように言う。
「何だ貴様、奴隷の分際で」
男がプラムの方を向き、こぶしを振り上げる。
「おい、お前。死にたくないなら、去れ」
俺は怒気のはらんだ声を出して、男の腕を掴む。
「兄さん、俺は強いんんん!!!!! アベシ」
男が何かを言う前に、地面にたたきつける。
男はピクピク体を動かして、白目をむいていた。
「こ、殺してないのじゃよな!?」
プラムが少し、焦っている。
「多分、大丈夫だろう?」
俺は男を一瞥して、そう答えた。
「おい、貴様。そこで何を、している」
黒い騎士甲冑の男が俺達の方に走ってきて、手に持った斧を俺に向けて、そう聞いてきた。
「いや、まって。こいつがからんできたんだ」
「うん? ああ、またこいつか……これは失礼した」
その騎士は地面で伸びている男を見て、斧を向けるのを止めて、俺に頭を下げる。
よくあることなのか?
「いや、誤解が解けたならいい。じゃぁ、俺達は行くぞ?」
プラムの手を取って、その場から離れようとしたが――
「今日はこの後、コロシアムで特別試合がある。それだけでも見ていきなよ!」
その言葉に俺は、足を止めた。
「特別試合? 何だそれは?」
「お、興味あるかい? ここだけの話、五英のスティルトンが、出てくる予定だ。良いショーが、見れるぜ」
男が楽しそうに、教えてくれる。
「五英か……プラムどうする?」
俺は小声で、プラムの意見を聞く。
「タダで実力が見れるなら、逃す手はないのじゃ」
その言葉にもう少し、この町に残ることを決めた。
「コロシアムは、どこにあるんだ?」
「この道を、まっすぐ抜けた先さ。楽しんで来いよ」
気さくな、騎士だな
「ああ、ありがとう」
お礼を言って、コロシアムに向かった。
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「さあ、本日も始まりました。最強を決める戦いが――本日は特別試合!!! 南の異民族、ゾルVS我らが帝都の精鋭、スティルトン様との特別試合だ!」
コロシアムは円形の三階建てで、そのデカさからすぐに分かった。
リングになる一階部分で、リーゼントヘアーの男が、大声で試合を盛り上げる。
俺達は二階部分の観客席に座り、試合開始を待つ。
「団子~、団子~。東の国生まれの、団子はいらんかね~」
階段の所から声が聞こえ、そちらをむくと髪をお団子の形に結った、若い女性が売り子をしていた。
「ゼロ、買うのじゃ! 甘い匂いなのじゃ!」
プラムが目を輝かせ、肩をゆすってくる。
(可愛い、超かわいい)
「おい、団子? をくれ」
「え? はい、毎度ある。お釣り無いから、二十本ね」
金貨を渡すと片言の言葉で、そう言って、甘い香りが漂う黄金色に光る棒に刺さった団子を、皿にのせて手渡してくれる。
「こんなに食えるか?」
「うむ、美味そうじゃが……ちと多いのじゃ」
流石のプラムも、その数に戸惑ってしまう。
「少し分けるか……あの、少し食べませんか?」
仕方がないので、周りの人に声をかける。
「ええ、頂きます」
「お、悪いね。兄ちゃん」
後ろにいた、“コトハ”と小太りのおじさんに三本ずつ手渡した。
「ふぇ? 何故、お主がおるのじゃ?」
プラムも気が付いて、団子を頬張ったまま、驚いた声を出す。
「少し用事できたのですが……何故、帝都から離れたこの街に貴方達が?」
「色々あって、寄り道することになってな。天都は大丈夫なのか?」
「はい。あの後、町の人たちも警備を買って出てくれたんですよ。隣、いいですか?」
そう断りを入れてから、移動して俺の左側に座る。
コトハの服装はひざ丈ほどで足元を切った、青い着物姿だ。
「むむ、許可しとらんのじゃ!」
プラムが口の周りに、団子の蜜をつけたまま、不満そうな声を出す。
「まあ、いいじゃないか? ほら、汚れているぞ」
俺は、水の入ったボトルを傾け、プラムの手を濡らし拭くように促す。
「すまんのじゃ。して、コトハ、何用かの?」
「この町の調査に来たんです。帝都に一矢報いるため動く貴方達を見て、私達にできることはないのかと話し合いをして、ここに私が来たんです」
声を抑えて、コトハそう話し出す。
「話し合い?」
「ええ、このまま守り一辺倒では、いずれ侵略されて終わるのではないのか? なら、貴方達の革命を手伝えば少しは希望が見えるのではと、勝手に話し合っていました」
コトハそう言ってから、頭を下げる。
「謝ることは、ないのじゃ。確かにそのほうが、妾も助かるのじゃ」
「ありがとうございます。この、クルフの町は奴隷商売が盛ん何ですよ。そこで、奴隷を少しでも開放して、戦力になってもらおうかと」
「しかし、奴隷が戦力になるのか?」
疑問に思い、そう聞く。
「そこは大丈夫です。このコロシアムに来たのは、剣闘士の奴隷の見定めです。言い方は悪いですが……帝都のやり方に不満があって、逃げ出したい方を探しているんですよ」
なるほど、確かにそれは戦力になりそうだ。
「良いんじゃないか? それで、どうやって連絡を取り合うんだ?」
「そこはお任せください。少し、血をいただいてもいいですか?」
「血? どうするんだ?」
「連絡用に、鷹に匂いを覚えさせるんですよ。指先でいいので」
プラムに傷をつけたくないので、俺の手を差し出すことにした。
「これでいいか?」
「はい、大丈夫です。少し、チクっとしますよ」
コトハは針を取り出して、俺の人差し指を刺す。
針の先から少し血が垂れ、それをコトハが懐から取り出した布で拭く。
「終わったか?」
「はい、ご協力ありがとうございました。これで、連絡は大丈夫です」
「「「オォォォォ!!!!!!!!」」」
突如、コロシアムが騒がしくなる。
リングの方を見ると、上半身裸の槍を持った細身の男が立っていた。
顔は、ひし形のお面をつけているので見えない。
「始まるようなのじゃ!」
プラムが、リングの動きに集中するように促してきた。
コトハも俺も話すのをやめて、試合に集中する。
「お待たせしました! もう間もなく、試合開始だぁぁぁ! さあ、どちらに賭ける? 勝って当然、スティルトン様か? 大穴で南の異民族、ゾルかぁぁぁ? もうすぐ締め切りだぁぁぁ」
賭け事もしているのか……
「気に食わんのじゃ……」
「だな、悪趣味だ」
俺とプラムは同じことを、思っていたようだ。
さて、始まりますよ! 次なる五英、スティルトン。その実力はいかに……
もちろん次の話ぐらいで、ゼロも戦います。あ、コトハはたまたま必要があって出しましたが、レギュラーにはなりません。コトハが好きな方は、すみません。
あくまでも、プラムとゼロの二人旅を軸に作りたいのです。
順レギュラーくらいですね!
少しでも楽しいんで貰えるように、これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
では、また次回お会いしましょう!




