出発
今の世界の状況をプラムがゼロに説明し、とある場所に向け魔王城を後にします
俺は、魔王プラムと名乗る少女と握手を交わした。
その手を放して、魔王プラムは俺に聞く。
「ゼロ、お前が憶えていることは何じゃ」
「この刀の使い方だけだな。自分がどう暮らしてきたかは、忘れてしまった」
俺は刀を見せて、そう返事を返す。
「そうか、今は不安じゃろうが、今は妾を信じてくれ。取り敢えず、この世界の説明から始めるか――」
玉座の後ろにあったでっぱりを引くと引き出しのような仕組みになっていて、その中から地図を取り出す。それを見ながら、説明をしてくれるようだ。
俺はその姿を可愛らしいなと思って見ていた。
「今いるのがこの左端じゃ、大陸の名をリリアと呼ばれている。ここから右下に行く途中にあるこのデカい場所が、妾の行きたい場所帝都じゃ」
プラムは地図の真ん中を指さして、ざっくりとした説明を終える。
(うん、まったく分らん)
「この場所が帝都なら、この帝都を囲む城のマークは何だ?」
俺が指摘したのは、帝都を三角形の形で囲んでいるお城のマークだ。
「うむ、そこは帝都と並んでいた強豪国じゃ。今は、帝国の罠によって植民地同然じゃが」
「罠?」
「もともと魔族と人間が争っていたのじゃが、知能を持つ魔物は親父と私、後は四天王と恐れられた者たちだけでな……」
そこから何やら言いずらそうに黙ってしまう。
「何があったんだ?」
俺は気にしながらも、聞かなくては話が進まないのでそうたずねる。
「今から三年前、帝都の上にある国、篝と平和条約を結びに、わが父と四天王の穏健派アズーが呼ばれていったのじゃ。だがそれは帝都によって仕組まれた罠で、篝が魔王と手を組み他の国を滅ぼそうとしてるように吹聴し、父諸とも篝を壊滅させ、それに軍を割いた右下の国、羅漢も滅ぼしたのじゃ」
「残った国はどうなったんだ?」
左下がどうなのかを聞く。
「この国エギルは、残った四天王が滅ぼしてしまってな。妾は止めたのじゃが、聞く耳を持ってもらえなくてな。この見た目じゃから仕方ないんじゃが」
そう言って俯いてしまう。
「俺は可愛いと思うぞ?」
俺は照れることなく、思いのままそう言った。
「いや、魔物はより強いものや恐怖でしか動かないものがほとんどなのじゃ。その言葉は魔族的には侮辱じゃ」
少し赤らめた頬を膨らませて、ゼロを睨む。
「そうなのか、すまなかった」
「いや、分かればいいのじゃ。その後すぐに帝都の討伐隊によって、四天王は滅び魔族もほとんどいなくなってしまったのじゃ」
怒っているのか、声に怒りがにじんでいる。
「復讐をするのか?」
「そうじゃ、妾がこの帝都を滅ぼし世界の王になるのじゃ」
「だがそうすれば他の物に恨まれて、無益に人を殺すことになるぞ?」
俺は魔王であるプラムに言っても仕方ないと思いながらも、そう聞く。
「安心せい、殺すのは悪だけじゃ」
プラムは要領の得ない回答をする。
「悪?」
「ゼロも外に出ればわかるのじゃ。ここからだと船がないと帝都には行けないからの。まず船を探すのじゃ」
そう言って、プラムが男たちの死体をよけながら進んでいく。
俺は何も言わず、後ろについていくのだった。
悪の定義は人によって変わる、プラムがその事を知っているのかを心配に思いながら。