天都の守護者③
しばしの休息。
帝国の滅んだ先の未来に各々の理想を描いて……
「こちらです」
「おぉ~。中々豪勢じゃな」
物見台を降りた後、コトハの案内で宿へとやって来たのだが、他のテントのような建物と違い木材で作られた立派な宿だった。
「どうしてここだけこんなにしっかり作られているんだ?」
「それは……元々ここはアクト様の屋敷の予定だったからです」
ため息交じりに、そう教えてくれる。
「どうして宿になったんだ?」
「俺だけこんなところに住めるかと言って、アクト様が宿にしてしまったんです」
「それは、豪快じゃな」
プラムはケラケラと笑って、そう声を出す。
「中に入りましょうか、アクト様には困ったものです」
宿に入りながら少しの間、コトハの愚痴を聞いていた。
・・・・・・・・・・・・
「これまた広い部屋だな」
案内された部屋は二人には広すぎるくらいで、大きなベッドが二つと金細工の四人ほどが使えそうな長テーブル。椅子も見るからに高そうで、背もたれに細やかな動物の細工が施されている。
「こちらは特別な方のための部屋ですから、まあ家具はアクト様のために用意したのですが」
どこか残念そうな声だ。アクトが使わなかったのが、悲しかったんだろうな。
「ふむ、悪くない。モフモフじゃ」
プラムはいつの間にか、ベットの上に上って飛び跳ねて遊んでいた。
「プラム、危ないぞ」
「大丈夫じゃ、おっと。危ない危ない」
勢いあまって、落ちそうになっている。
コトハには正体を知られているからか、プラムは今ローブを脱いでドレス姿だ。
パンツが見えないか、冷や冷やだ。
「あの、ゼロ。どうして血走った眼で、プラム様を見ているんですか?」
コトハが、若干引いている。
「いや、何でもない。案内、ありがとう」
「そうですか……。あ、食事はすぐに運ばれますので、ご安心を」
食事まで手配されているのか、ありがたいな。
「助かるのじゃ、コトハ」
遊び終えたプラムがそばまで来て、ニコニコとコトハにお礼を言う。
「では、私はこれで。ナイフはそこにありますので、どうぞお使いください」
コトハはそう言い残し、部屋を後にした。
「さて、プラム。髪を切るか?」
「おぉ、そうじゃった。頼むのじゃ」
プラムを椅子に座らせて、下にとりあえず布を引く。
「どういう感じにするんだ?」
「とりあえず、揃えてほしいのじゃ」
俺は要望通りに髪を指で梳かして、慎重に切っていく。
初めて会った時の長さは失われたが、艶があり美しい髪だ。
ボブショートの長さまで切りそろえる。
「終わったぞ」
「うむ、中々短くなったな。どうじゃ? 似合っておるか?」
プラムは髪を触ってから椅子から降り、笑いかけてきた。
「ああ、すごく可愛い。ますます好きになった」
俺はその頭を撫でて、笑い返す。
「本当にお主は、まったくじゃな。ますます若くなった感じじゃ」
短くなった髪のせいでそう見えるのは仕方ないと思うし、何より可愛いので俺からしたらアリだと思った。
髪を切り終えて片づけを済ましたタイミングで、部屋のドアがノックされた。
「うん? どうぞ」
俺はそう声をかけ、プラムの前に立つ。
「失礼します。夕ご飯でございます」
そう言って入ってきた人物から目が離せなくなる。
「どうしたんじゃ? コトハ、給仕の服を着て」
入ってきたのは、すっごく丈の短いスカートでフリフリ衣装のコトハだったのだ。
「あまり見ないでください。くぅぅ」
凄く恥ずかしそうに、俯いてしまう。
「これ、ゼロ。何見惚れているのじゃ!!」
コトハの言葉に反応して、プラムが怒ってきた。
「いや、見とれてないぞ? 驚いていただけだ」
実際そうなのでそうしか言いようがないのだが、プラムは半目で見上げてきている。
「まあ、そういう事にしとこうかの。で、何故コトハが給仕を?」
良かった、今回は殴られなかった。
「アクト様の命令です。事情を知るものが運んだほうがいいと」
なるほど、確かにそのほうがいいな。
「気を使ってくれて、ありがとう」
「い、いえ。それでゼロ、この服はどうですか?」
先ほどと違って何故か、感想を求められる。
髪をほどいているので長い黒髪と合わさって、似合っていると思った。
「似合っていると思うぞ?」
「魔王ぱーんち」
俺がそう声を出したところで、脛のあたりを叩かれてしまった。
「痛いぞ、プラム。どうしたんだ?」
「ふんだ、ふんだ。ゼロの浮気者! そうやってホイホイ女子を褒めおって」
すっかりへそを曲げてしまったようだ。
「分かった。もう褒めない。プラム以外は褒めないから」
そう言いながら、ポカポカ叩いてくるプラムの頭を撫でる。
「はにゅ~。まあ、許してやろうかの」
頭を撫でたとたん、呆けた顔になって許してくれた。
撫でられるのが好きなんだな。
「あの、そろそろ。料理を並べていいですか?」
凄く冷たい視線を感じて、コトハを見るとそう言われてしまう。
「ああ、すまない」
「頼むのじゃ、コトハ」
・・・・・・・・・・・・
「美味かったな」
「うむ、色々な物がのっていて、面白さもあったのじゃ」
食事を終えて、感想を言い合う。
魚の揚物とご飯、お肉ものっていて、久々に豪勢な夕餉だった。
「お口にあってよかったです。デザートのゴリンをむきますね」
食べ終えるまで横に控えていた、コトハがそう声を出す。
「おお、あれじゃな! 頼むのじゃ!」
コトハの取り出したゴリンを見て、プラムがテンションを上げる。
「どうぞ――」
真ん中に綺麗にむかれたゴリンとフォークを、置いてまたコトハは後ろに下がっていく。
「うん、うまそうじゃ! コトハも食べるがよい! 先ほどからそこにいては気になるのじゃ」
プラムはゴリンを突き刺したフォークを、コトハに向け声をかける。
「ですが……」
「いいんじゃないか?」
俺の方に視線を向けてきたのでそう言う。
「では、失礼して」
俺の横の席にコトハは座った。
「うむ、それにしてもこれはうまいな」
コトハが座ったところで、プラムは幸せそうに食べ始める。
俺はコトハにフォークを手渡して、手づかみで一つ食べた。
「本当だ、美味しいな」
少し酸味があるがそれよりも甘さが際立っていて、すごく美味しい。
「では、一つ――」
俺とプラムの視線を受けて、コトハはゴリンを齧る。
コトハの表情が幸せそうなものに変わった。
「しかし良いのか? ここまで贅沢してしまって?」
プラムの言葉にハッとする。
確かに帝都の脅威が迫る中、俺達がここまで贅沢していいのだろうか?
「かまいませんよ。今日の食材は全部、この町の方が貴方方のために差し出したものですから」
「そうなのか――でもどうしてここまで?」
俺は疑問に思ったことを聞く。
「貴方方のことを話したら、感謝されてましたよ? 当然ですが、仲間の仇を取っていただいたので」
なるほど、そういうことか。
「そこまでの事はしてないんだがな」
「私も助けてもらいましたし、謙遜はやめてください」
コトハそう言って、俺に頭を下げた。
「やめじゃ、やめじゃ。今は楽しむのじゃ!」
プラムが腕をぶんぶんと振ってそう声を出す。
「だな、コトハ。今は楽しむぞ」
「え? え?」
そうだ、俺達は生きている。
せっかくこんな美味しいご飯がたべれるんだ、今はプラムの言うように楽しまないとな。
・・・・・・・・・・・・
しばしの宴の後、俺はアクトの元へ来ていた。
「呼び出してすまないな」
「いや、かまわない」
プラムはもう寝ると言って、先に寝てしまった。
あの宿なら安全なので、無理に付き添わせなかったのだ。
「少し手合わせを頼みたい」
「何故だ?」
「俺はいずれチェダーを倒さなくてはいけないのでな! それに匹敵するゼロと戦いたい」
なるほどだが、チェダーはもう死んでいるはずだ。
「少し話をいいか?」
アクトに先に教えるべきとそう提案する。
「何だ?」
「チェダーはもう死んでいる。五英は残り二人のはずだ」
「よもやよもや、なかなか面白い冗談だな」
信じてくれないようだ。
「いくぞ――獅子乱舞」
回転するように俺に斬りかかってくる。
「やるしかないか――ハァァッァ」
俺はそれを刀で受けて、弾き返す。
「見せてもらうぞ、ゼロ」
「こい、アクト!」
斬りかかってきたところを見きり、峰打ちを決める。
「ここまでか……」
アクトはその場に膝をつき、そう言葉を漏らす。
「満足したか?」
「フハハハハハ。ああ、満足だ。自分の実力も分かったのでな――」
アクトは大声でそう言って立ち上がり、俺に笑いかけてきた。
「これが次代の英雄、勇者の実力か」
そう言葉を続ける。
「勇者? 俺がか?」
「そうだ。帝国を滅ぼした暁にはそう言われるだろう」
アクトはうなずき、俺の目を見てそう説明してくれる。
「興味がないな。俺はプラムの側に居れれば、それでいい」
「本当に面白いやつだな」
楽しそうに笑っている。
「面白いか? そうだ、アクトは帝国が滅んだらどうしていくんだ?」
「そうだな……この町を発展させて、差別のない国を作りたいな」
俺の質問にどこか遠くを見て、そう答えてくれた。
「それは、魔族もか?」
今は滅んでいるがもしかしたらこの先、生まれるかもしれない知能のある魔物についての事を、俺は気にかけて聞く。
「当然だ。俺はそういう種族を越えた、発展を望んでいるのでな」
俺はその言葉を聞いて、安心した。
アクトにならそれを実現するだけの力があると、俺はそう思っていたからだ。
ついにプラムが髪を切りました。
このシーンを描くためにここまで話が進むとは(笑)次回より次の場所の移動します。
どこまで行くのかプラムさん、地図があるので迷わないはず。
今回は後書きが短くて申し訳ないです。
少しでもいいなってなりましたら、応援してもらえるとやる気につながります。
次回も是非読んでいただけると嬉しいです。
では次回でお会いしましょう




