出会い
プロローグ
「一の型、紫電一閃」
「びゅぅぅぅく」
イソギンチャクのような魔物は俺の居合切りによって、醜い悲鳴を上げ息絶えた。
「終わったな……」
日課である魔物退治を終えて刀を鞘に納めた俺を、突然黒い霧が包み込んだ。
(何だこれは……うん? 誰かの声がかすかにするな)
暗闇の中、冷静にその声に意識を集中させる。
「死にゆくものに名乗る名などない、招来せよ我が魔獣」
少し幼い女性の声が聞こえると同時に、俺の体が光り浮遊感が体を襲う。
先ほどの土の地面の感触と違い、石でできたしっかりとした足の感覚に戸惑う。
(どうなっているんだ?)
光りが完全に消え、首を左右に向け辺りに目を凝らす。
松明の明かりが見えた方に視線を向けると、十数人くらいの黒い騎士甲冑の集団が俺を見ていた。
「貴様、魔王の手下か?」
その中でも一段と図体がでかい男が、大ぶりのハンマーを構えて聞いてきた。
魔王? 聞いたことないな。
「何のことだ?」
俺は素直にそう返事を返す。
俺のその言葉に反応して、騎士の一人が剣を抜き走ってくる。
「とぼけてんじゃねーぞ?」
そう叫び斬りかかってきた。
「一の型、紫電一閃」
刹那、俺の刀から僅かな鍔なりが響くのと同時に、男の腕が地面に落下し、血飛沫上がる。
「う、腕がーー」
斬りかかった男は泣き叫び、地面に転がる。
俺はそれを無視して、一段と気配がでかく感じる奥へと進む。
この気配が、魔王なのか?
「お、おい」
大男が何か声を出そうとしたようだが、それ以上は何も言ってこなかった。
奥へと進むと、赤いじゅうたんの引かれた階段が柱につけられた松明によって見えてくる。
その階段の上に金でできた玉座のような物が、見え誰かが座っていた
飛ぶように階段を上り、そこに座っていた人物に俺は刀を向ける。
「な……」
その姿に俺はうろたえ、刀を下ろす。
「どうした? 怖気づいたのかの? そもそも主に向かって刀を向けるとは何事じゃ。しかし人間が召喚されたのは誤算だったのじゃ」
玉座に座った人物は足を組み、ひじ掛けに肘をつき、自身のこぶしに顎を載せそう言う。
「……可愛い」
「は? 何じゃと?」
立ち上がり、真紅のドレスのスカートを翻して、俺を睨んできた。
だが、170センチある俺の腰丈くらいしかない背では、怖さがなかった。
「結婚してくれ」
そう言ってひざまずき、手を差し出す。
「は、はーーーあーー? 何言ってるんじゃお主は」
「その俺の腰丈ほどの身長。クリっとした目も、その長い銀髪もすべて俺の理想の女性そのものだ。俺と結婚してくれ」
捲し立てるように求婚する。
俺は一目ぼれしていた。
「な、何バカなこと言いてるのじゃ、そう言って妾をバカにしているのか?」
「本気だ、バカになんてしていない」
「そうやって油断させて、殺す気じゃろ?」
腰に手を当てて、魔王はにらみを利かせてくる。
「バカなこと言うな、お前のような可愛いやつを殺すなどありえない」
「はにゅ、可愛い言うな! この戯け、妾は魔王じゃぞ」
顔を赤らめながらそう言い放つ。
その時、階段の下から先ほどの集団がやってきた。
「なんだ? 魔王がいるかと思えば、ガキだけかよ」
大男はため息をついてそんなことを言う。
「そうだ、ここには魔王というやつはいない。お前たちはあきらめて帰るんだな」
階段の上から、俺はそう言い放つ。
「そうはいかねえな。仲間を殺されたんだ、お前を殺してその後、後ろの子にでも楽しませてもらおうか」
大男は下種な笑い声をあげ、周りの兵もそれをはやし立てる。
「ゲスめが……」
そう声を出し、大男の前に一瞬で移動し首をはねる。
「「「……」」」
周囲にいた兵がざわつきだす。
「お前らは人間の屑のようだな、斬らせてもらう」
俺はそう言い刀に手を当て、居合切りの構えを取る。
「び、ビビることはない! 数で押すぞ」
兵の一人がそう声を出し、俺を取り囲んで一斉に斬りかかってきた。
「ふん、四の型、雷光一閃」
「ぐへーー」
「ぐはぁ」
「いでぇー!」
俺の刀が光り、取り囲んでいた兵士たちを一斉に斬り倒す。
「待たせたな」
俺はさっき大男を斬るのに使った二の型、雷鳴迅雷を使い、魔王の目の前に一瞬で行き、そう魔王に言う。
「規格外じゃな、今も妾を斬れたのに斬らなかったのはなぜじゃ?」
魔王はやれやれと首を振って聞いてきた。。
「さっきも言ったが、好きだ結婚してくれ」
またひざまずき手を伸ばす。
「ふふ、面白いやつだ。名は何という?」
「名? 俺の名前は……」
その質問に頭が割れそうなくらいの痛みを感じて、頭を押さえる。
「もしかして忘れたのか? 転移の影響かの?」
魔王は何かを推測し、心配そうな目で俺を見てきた。
「分からない、でも魔王。俺はお前といたい」
俺は心配を少しでも和らげようと、笑みを浮かべてそう返す。
「そうか……では、第五十八代目魔王、ダリューングリ・プラムの名において貴様に名前を授ける……貴様は今日からゼロと名乗るがよい」
少しの間の後に、魔王プラムはそう名付けてくれた。
「ゼロか、悪くないな。今日からはそう名乗らせてもらおう」
「うむ、ではゼロ。ともに今日から旅を始めないか?」
魔王プラムはにそう言って、手を差し出してくる。
「ああ、お前と一緒ならどこへでも」
俺はその手を取った。