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一章 少年は英雄の夢を見る 十三話

 

 王城から歩いて十数分、王都の街並みを楽しみながら石畳の道を歩いていくとそれは見えてきた。高さ三(メートル)はあるだろう高壁に囲まれた学び舎、それこそがエミリーとグレイが通う、“王立サルフォード学園”だ。

 今日は学園は休みとのことだったが、学園に用事がある生徒なのか、少なくない数の生徒が学園を出入りしていた。


「うわぁ……。凄い広いんだね……」


 それが僕が初めに思ったことだった。思わず声が漏れるほどに広大な敷地なのだ。正面には巨大な棟が二つ、右には正面に見える建造物と同等の大きさのドーム状の建物が見える。

 左手側にもこれはまた巨大な建物が見え、また左手側には何やら巨大な門のようなものも立っている。それぞれの建物へと続く大道が十字に伸び、道の脇はそれぞれがグラウンドとなっており、計四つのグラウンドが学園には存在した。


「正面に見えるあの大きな二つの建物、あれは学習棟です。座学などの授業は全てあそこで行われています。右に見える屋根が円蓋状になったあの建物は傷付いても闘いが終われば即元通りになる特殊な結界が張られた修練場です」

「へえ、そんなものまであるんだね」

「おうっ! うちの学園では結構実技の授業もあるんだけど、大半はその辺りのグラウンドを使うんだ。でも、実戦練習や毎年行われる闘技祭なんかにはあの修練場が使われるんだ」


 なるほどな、闘技祭なんてものもあるのか。可能なら僕も一度見てみたいものだ。

 二人の後を追い、学習棟へと向かっている最中に僕は気になっていた左手側の大門を指差し、二人に尋ねた。


「ねえ、気になってたんだけどあの大きな門は何なの?」

「ああ、迷宮門(ダンジョンゲート)のことですね」

迷宮門(ダンジョンゲート)?」

「はい、迷宮門(ダンジョンゲート)というのは――」


 迷宮門(ダンジョンゲート)、この世界に数十数百と存在する迷宮(ダンジョン)への入り口のことらしい。形は様々だが、多くは学園の敷地に見れるような門状のものが多い。


 迷宮門(ダンジョンゲート)を潜り抜けると、別次元に存在する迷宮(ダンジョン)へと転移させられる仕組みになっているらしい。迷宮(ダンジョン)の内部には数多くの魔物が生息し、迷宮(ダンジョン)によって魔物が無尽蔵に生み出され続けるらしい。


 迷宮(ダンジョン)は上層から始まり、徐々に階層を下がっていく仕組みになっている。上層、中層、下層という順番に降りていくが、深い階層になればなるほど強力な魔物との戦闘に悪列な(トラップ)、過酷な環境を強いられるらしい。

 それらを乗り越えて最奥に辿り着くと、その迷宮(ダンジョン)守護者(ガーディアン)が待ち構えており、守護者(ガーディアン)を倒すことによって迷宮(ダンジョン)の宝物を手に入れることが出来るらしい。


 何でも王都に学園が立てられたのは迷宮門(ダンジョンゲート)が存在したからというのが大きな理由らしい。それだけ迷宮(ダンジョン)というのは貴重なものなのだ。無尽蔵に湧く魔物は危険も伴うものの無限に経験値を得ることが出来るのと同義であるし、迷宮(ダンジョン)に出現する魔物が落とすドロップアイテムには通常のものよりも貴重なアイテムが多くみられるという点もある。


「で、因みに隣のでかい建物は図書館だ。何やら魔導書なんかも取り扱ってるらしい。まあ、俺は本なんて読まないから行ったことないんだけどなっ!」

「あはは……。確かにグレイは読書してるイメージとかないな」


 話している間に学習棟に着いた僕達は二人の案内で棟内を周った。二人と色々な所を周るのは楽しいが、やはり学校というものには良い気持ちしなかった。


「どうかしましたか? なんだか先程からあまり表情が曇っていますが……」


 気付かない内にどうやら表情に出てしまっていたらしい。僕はぎこちなく笑みを浮かべながら(かぶり)を振った。


「あ、大丈夫だよ。僕、学校っていうものにあんまりいい思い出が無くて……。でも二人と一緒に校舎を周るのは凄く楽しかったよ」

「本当ですか、良かったです」


 僕とエミリーが話していると、一歩後ろを歩いていたグレイの唸り声が聞こえてきた。首を振り返らせ、後ろを見て見るとグレイは腕を組んで歩きながら何かを迷っているようだった。


「どうかした?」

「ん? ああ、学習棟の案内はこれで一通り終わっただろ? あと残ってるのは図書館と修練場、迷宮(ダンジョン)の三つなんだけど、予定ではあと図書館と修練場を見て帰るつもりだったんだ。でも、折角来たんだし、迷宮(ダンジョン)に寄っていってもいいかな~なんて……」


 グレイはそう言いながらちらりとエミリーのことを窺った。エミリーは少し考え込むようにすると僕の方を見た。


「……ジン君は迷宮(ダンジョン)、行ってみたいですか?」

「僕? 僕は……」


 正直に言えば入ってみたいんだけど、エミリーは何だか入って欲しくなさそうな雰囲気を醸し出している。それとは逆にグレイの方は後ろから入りたいって言え、と小声で僕に訴えかけているし……。

 少し悩んだ末に僕は答えた。


迷宮(ダンジョン)に入ってみたいかな」

「そうですか……」

「よっしゃっ!」


 喜ぶグレイと沈んだエミリー、後でエミリーには謝っておこう。でも、エミリーには少し悪いけど迷宮(ダンジョン)というものには前々から興味を持っていたので、中に入れそうで良かった。

 魔物を狩っている際にアレクから度々迷宮(ダンジョン)の話を聞いていたのだ。迷宮(ダンジョン)は危険も伴うが経験値を得るという意味ではとても効率の良い場所だと。

 なので、いつかは行くことになるとアレクから話を聞いていたがまさかこんなに早くその機会が訪れるとは思ってもいなかった。


 どうやら迷宮(ダンジョン)に学園の外部の人間が入るためには手続きが必要らしく、グレイとエミリーは僕の代わりに手続きを行いに職員室へと向かってしまった。一人残された僕が迷宮門(ダンジョンゲート)の側で待っていると、アレクが話しかけてきた。


「ジン、今のお前の実力ならば上層の魔物であれば問題無いだろう。他に二人のパーティーメンバーもいるようだしな。だが、間違っても上層よりも先、中層に降りようなどと考えるな。確かにジンの実力は飛躍的に伸びている。だが、まだお前はLVもステータスも低い、今の状態で中層に向かえばまず間違いなく死ぬだろう」


 死、これまで遠い存在だと思っていたものが身近に存在している世界。魔物と戦うようになってその実感が最近では湧いてきた。

 僕が頷くと、アレクも満足気に笑みを浮かべ、頷き返した。


「お待たせしましたーっ!」

「悪ぃっ! ちょっと説得すんのに手間取った!」


 戻ってきた二人はそれぞれが武器を持っていた。

 エミリーは腰に二振りの剣を、グレイは拳にガントレットを嵌めている。


「えっと、ジン君がどんな武器を使うのか分からなかったので色々と持ってきました」


 よく見ればグレイとエミリーの背には籠のようなものが背負われており、中には様々な武器が入っている。それに、皮製の軽い防具も持ってきてくれたようだ。


「わざわざありがとう。持ってきてもらって悪いんだけど、武器なら持ってるんだ」


 僕は【アイテムボックス】を使用し、ガレスさんに貰った直剣を取り出した。やっぱり何度見ても美しいと思える、蒼い刀身に映える金色の模様。一点の曇りもない刀身は陽の光を浴びて、輝いている。

 見る者の目を奪い、魅了する程の美しさ。エミリーとグレイもこの剣のことを凝視していた。


「凄く……綺麗な剣ですね」

「ああ……こんな業物、王城の宝物庫にも無いぞ。なあ、この剣は誰に打ってもらったんだ?」

「それは……ごめん、言えないかな」


 ツヴァイ様から聞いた古の大戦の話。あの話に出てきた王の右腕、技術王ガレス・デトロイトというのはほぼ間違いなく僕の知っているガレスさんのことだろう。

 古の大戦の英雄が生きていると知られればどうなるか分かったものではない。それに、ガレスさんは自分の認めた相手にしか装備を作らないと言っていたし、グレイには申し訳ないけど名前を出すわけにはいかないだろう。


「そうかぁ……それじゃあこの剣の名前を教えてくれよ」

「名前?」


 僕が首を傾げると、グレイにその剣に対して【鑑定】を使ってみろと言われた。剣に対して【鑑定】を使うと確かに剣の名前や、情報が表示された。


 蒼魔剣“マギア・インディクム”

 等級:幻想級(ファンタズム)

 系統:武器(ウエポン)


 技術王ガレス・デトロイトによって打たれた一振り。蒼魔鉱石と呼ばれる秘境の地でしか採ることの出来ない希少な蒼白い鉱石を精錬した蒼魔鋼を鍛え上げ作られた。蒼魔鋼の特性である、魔力を吸収するという特性を持っている。


 効果:魔力を吸収する 魔力を貯蓄する 魔力を放出する


 へえ……そんな名前だったのか……。それに三つも能力を持っている。これだけ見ていると分かり難いけど、幻想級(ファンタズム)ということは相当に希少で強力なんだろう。


「マギア・インディクムっていう名前みたい」

「おおっ! なんかかっこいいなっ! まあ、俺は剣よりもこっちの方が好きだけどな」


 そう言ってグレイは両手に嵌めたガントレットを打ち付けた。ニカッと笑うとグレイは一歩前に出る。


「それじゃあ迷宮(ダンジョン)探索といきますかっ!」

「うんっ!」

「あ、少し待ってください。先にこのパーティーでの個々の役割を決めておきましょう。私は遠近両方で戦えますし、適正魔法が水と風なので支援魔法も使えます。なので、どの役割(ロール)でも問題ありません」

「俺は近接戦だけだな、魔法は火と風に適正があるが、俺は自分を強化する付与魔法とかしか使えないぜ」

「僕も基本的に役割(ロール)はどこであっても大丈夫だと思うよ。魔法適正は基本四属性と空間の五つで、剣でも戦えるから近接戦も平気だよ」


 僕がそう言うとぽかんとしたような表情を浮かべた。僕が「どうかしたの?」と聞いたら二人の止まっていた時間が動き出した。


「え、ジン君魔法適正が五属性もあるんですか!?」

「う、うん」

「凄いなっ! 俺初めて見たかもしれないぞっ!」

「それなら役割(ロール)は物理と魔法両方に対応出来る、攻撃者(アタッカー)にしましょう。私は後方支援に回るので支援者(バッファー)回復者(ヒーラー)を兼任します。グレイは物理主体の《アタッカー》、攻撃者(アタッカー)二人の支援者(バッファー)一人でいきましょうか」


 これもまたアレクに教わったことだけど、パーティーを組んで戦う場合はメンバーの数にもよるけど基本的に四つの役割(ロール)がある。


 一つ目は敵に攻撃を与え、ダメージを稼ぐ攻撃者(アタッカー)。これには物理攻撃を主体とする場合と魔法攻撃を主体とする場合の両方が含まれる。ある意味パーティーの要ともいえる存在だ。


 二つ目は敵の注目(ヘイト)を引き付け、味方を相手の攻撃から守る防衛者(タンク)。この役割(ロール)は自身の体力管理や注目(ヘイト)管理など技術を要するが、いないといるのではパーティーの安定性に雲泥の差が出来る役割(ロール)だ。


 三つ目は味方を回復し、状態異常などを治癒する回復者(ヒーラー)。ほぼパーティーに必須ともいえる役割(ロール)で、基本的に回復者(ヒーラー)は後方から味方を回復させるのでその元に敵がいかないよう、前衛の攻撃者(アタッカー)防衛者(タンク)が気を配る必要がある。


 四つ目は味方に能力向上の補助魔法をかけることは主とする支援者(バッファー)。パーティーに必須ではないが、いるだけでパーティーとしての性能に差が生まれる存在だ。


 以上の四つの役割(ロール)があるため、基本的にパーティーを組む際は四人以上で組むことが多い。ただ、今回は三人ということもあって、少し変則的なパーティー編成になってしまっているというわけだ。

 それでも二人共僕なんかよりも強そうだし、問題は無さそうに見えるけど。


「それではいきましょうか」

「うん」

「おうっ!」


 エミリーが迷宮門(ダンジョンゲート)に手を(かざ)すと重厚な大門が音を立てて開き、白い光で塗りつぶされた空間を露わにした。

 グレイを先頭にして、僕達は光の中へと進んでいった。


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