§:星の名はルイン
こころもち重い足音が、人のまばらな廊下に響く。
「ふう……」
まったく政府の人間は何を考えているのだ、と最高司令官は思った。
テスに似た惑星が見つかってから数日が経ち、先ほどまで、その惑星についての討論が繰り広げられていたのである。
「暗黒星とはよく言ったもんだ。これからその星にテスの住人が移ろうとするかもしれない、その星を『ルイン』とは…」
ぼやいたところで何ができるわけでもない。
いくら庁の最高司令官だとしてもそれに異議を唱えられるほどの権限は有していないのだ。
観測データによると、ルインは太陽からの距離、惑星の直径、公転速度、自転速度など、極めてテスに近い星である可能性が高いとのこと。
生命体は今のところ、観測されていない。
ルインを発見した無人探索機では、そこまで細かく調べることができないのだ。
「DIOの投入、そして文化的生命体の排除、か。そこまでしていいほど我々は偉いのだろうか…」
頭が痛いところである。
司令官は庁のロビーの空きソファーに体を任せた。
そのたくましい体がソファーに埋もれかかる。
「おや、どうなされたんですか?」
無人探索課長官が司令官の前でならった。
「最近、よく会うな」
「そうですね。何か運命でしょうか」
「男と出会う運命なんざごめんだがね」
司令官が笑いとばす。
「どうしたんです? 疲れた顔をなさってますが」
「うむ………さきほどまでの会議の進展に参っているのだ」
政府は新惑星、ルインの調査に乗り出すことにした。
現段階で特定の場所が把握されていないため、全自動でその惑星に行くことは難しい。
まずテスから調査船を宇宙に射出する。
次にエンジン噴射を利用してその場に半年間待機。
テスとルインの公転軌道が類似していることを利用するのである。
そしてルインが近づいたところでルインの大気圏に突入する、というものらしい。
しかしこの計画は一度発動すると最低一年以上かかり、その上調査が長引けば、さらに長い期間を要する。
「政府はDIOの扱いになれた中央アカデミーの中からルインに行く者を決めるそうだ」
司令官の声に溜息が混ざる。
「それは…なかなか大計画ですね」
長官もそれに合わせて嘆息する。
この計画には、一つ重要な問題があった。
乗組員だ。
そのほとんどの作業をDIOが行い、それは前もってプログラムされるのだが、あることに関してはその場でプログラムを入力させる人物が必要なのだ。
文化的生活を営んでいる生物を発見した際の排除命令である。
それだけではない。
半年にわたる宇宙滞在なのだ。
DIOを搭載していくとはいえ、いったいどんな生物がルインに存在しているかわからない。
未知なる場所への恐怖など、不安要素があまりにも多すぎる。
「果たして志願する者がいるかどうか…」
「まあまあ、そう気を落とさずに。ほら、一杯どうですか?」
長官が懐からウイスキー瓶取り出す。
「ああ、すまないな…」
それを受け取って、司令官は仕事中だったのをはたと思い出した。
「…来月のボーナス、無しな」
「え、ええぇ…」