§:はじまりはいつも
あわただしく廊下を駆ける足音が響いている。
突然の警報で宇宙監査庁内はパニックへと陥っていた。
『緊急事態、緊急事態! カーションレベル3に達しました! 宇宙監査庁中央制御部無人探索課は急いで中央メインモニター室までお願いします! 繰り返します。緊急事態、緊急事……』
今まで一度も使われたことのない、庁内警報。
中央監査庁最高司令官は真っ先に中央メインモニター室へと急いだ。
「何事だっ! 何があった!」
急いで部屋に入った司令官の声が室内にこだまする。
「司令官! モニターをご覧ください!」
「モニターだと?」
無人探索課長官が急いで最高司令官に取り繕い、その画面を提示する。
「――これは?」
そこには青々とした惑星が映し出されている。
「これが、どうしたと言うのだ?」
最高司令官の双眸が冷静な、怒りを伴ったそれに変わる。
「我々の星、テスを映し出しているだけではないか。どこが緊急事態なのだ? 説明してもらおうか!」
「じ、実は……」
長官はわずかにためらい、何かを決したようにゴクリと唾を飲み込む。
「この星は我々の星を映し出しているのではありません! あのシズマのちょうど対極にある星を映し出しているのです!」
「何?」
もう一度最高司令官がそのモニターに注目する。
「シズマの周辺の地域はすでに調べつくしているはずだ。そこで、さらに新しい惑星が、しかもシズマの対極にあるだと?」
「はっ、実は他惑星の調査に出ていた無人探索機の一つが計器の故障の影響で予定の帰還コースをはずれ、やむなく恒星を一周してから戻るというコースに変更しました。すると、テスと対極にあるこの場所に、偶然似たような星があることを観測したのです!」
「…ほう」
最高司令官は一度自分の顎を撫で、そして何かを考えるかのように手を顎にあてて黙りこんだ。