21 旧世界
旧世界
ねえ、神様。聞いてください、神様。神様、私の声が聞こえますか?
どんどん、と言う音を聞いて、ハルは目を覚ました。
……ようやく救助が来たのか。そんなことをハルは思ったが、その壁を叩くような音は、ハルの見ているロックされたコンピューター室のドアではなくて、もっと上のほうから聞こえていた。
……天井?
天井に誰かいる?
急速に意識を覚醒させたハルは、リックの中に手を入れて、そこからとっさに護身用の拳銃を取り出そうとした。
そして、そのあとになって、……そうだ。この場所に武器は持ち込み禁止だったんだ。と、そんなことを思い出して、なにも掴むことのなかった手をハルはリュックの中から引っ張り出した。
ハルの拳銃は壁の周囲にある検問のところで、その場所を警護しているこちら側の政府によって管理されている、壁のこちら側に属する軍隊に所属する兵士によって、一時的に保管されている状態にあった。
仕方なく、ハルは、非常時に備えて、苦手な格闘による肉弾戦を覚悟した。
どんどん、と言う音はまた聞こえてきた。
音の聞こえてくる場所は間違いなく天井だった。
そこには暗く厚い、黒色をした鋼鉄の天井があるだけだった。
しかし、数回の音のあとに、ばん! と言う音がして、その天井の一部が正方形の形をした板状の形となって、ハルのいるコンピューター室の床の上に落下した。
そして、その落下した鋼鉄の板のあったところには、格子状の檻のようなものが見えた。
それは、通気口だった。
なぜ、通気口が鋼鉄の板で、おそらくは誰かによって意図的に隠されていたのかはわからないが、とにかくそこに通気口があるという事実が判明したことによって、この天井を叩く音が、確かに誰か人の手によるものだと判明した。
ハルはじっと、その通気口を見た。