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しかし、そんなハルの希望はすぐに失望に変わった。
タブレットを見ると、そこにはあの虹色の光を放つ炎のような、人の魂の形そのものの(アバターの)ような姿をしたコスモスの姿はなくなっていた。
タブレットは真っ暗なままだった。
なんの映像も、情報も、その透明な特殊なガラスの表面には映されていなかった。そこに映っていたのは、『一人の男』。……ハル本人の顔だけだった。
ハルは次にコンピューター室の中にある小型のコンピューターの画面を見た。
そこにコスモスがいるかもしれないと思って、そんな行動をしたのだけど、そこにコスモスはいなかった。
コンピューター室の中にる小型のコンピューターの四角い画面には、『機械仕掛けの神 ゼウスエクスマキナ』の文字が表示されていた。
演劇や物語の装置として、利用される機械仕掛けの神。ゼウスエクスマキナ。
人々の運命を神様が、まるで人の心を無視して、勝手にその人生の役割を定めていく、古代ギリシャの舞台装置。
その文字が、今、コンピューターの画面の中に表示されている。
「……これは、いったいどういうことだ?」
ハルは言う。
しかし、そんなハルのつぶやきに、返事をしてくれるものは、この世界のどこにもいなかった。
世界を二つに分ける、巨大な禍々しい黒い壁の中にある、小さな円柱の形をした狭いコンピューター室の中に閉じ込められてしまったハルは、……完全に孤独だった。
キーボードを叩いても、コンピューターは反応しない。
コンピューター室のドアは、ロックされたままで、力尽くで開けようとしても、ハルの力ではどうしても開かない。
情報士専用のタブレットは沈黙している。
電源はまだ残っているはずだ。
しかし、タブレットは壊れてしまったのか、画面を触っても、強制リセットボタンを押しても、復活しなかった。
それから、一時間ほど、ハルは試行錯誤をした結果、この状況を変えることはできないと判断をして、床の上に寝っ転がって、体力を温存するために、しばらくの間、眠ることにした。
眠りにつく前、ハルはフユのことを考えた。
フユ、……お前は今、どこにいるんだ?
もしかしたら、夢の中でフユと再会できるかも、とハルは少し期待したが、そんな奇跡は起きなかったし、そもそもハルはその眠りの中でなにも夢を見なかった。
どうやら、フユと一緒に、ハルの夢も、この世界から消えてしまったみたいだった……。