96.ストーカーじゃないよ!? た、ただ見守ってるだけだから!!
お待たせしました。
では、どうぞ。
「――ウフフッ、なんだか皆でピクニックしているみたいね」
「ちょっ、六花さん、あんまり呑気なこと言わないでください! これも一応撮影はしてるんですからね!? ってか何で私が撮影係……可愛いチハちゃんが映らないなんて……」
「ハハッ、チハ……その音声も全部拾ってるからね……」
「ハッ!? クッ、仕方ありません、チハちゃんの事象改変能力――もとい、編集技術で何とかするしかないですね!!」
「えーっと……桜田さん、編集するんなら、私の名前もちゃんと入れてくださいね? 美洋です、飯野美洋に清き一票を!! あっ、赤星さんも是非に!!」
「うーん……絶妙にごちゃごちゃしてるね、やっぱり」
ダンジョン内に、ワイワイと明るい声が響く。
女性だけの一行は、モンスターを倒しながらも順調に進んでいた。
彼女らシーク・ラヴの内の8人――志木達のグループ5人、そして白瀬飛鳥、逸見六花、飯野美洋の3人はダンジョン攻略過程の撮影に挑んでいた。
……俺?
俺は……後ろから見守り隊?
「……随分余裕なのね、皆さん」
「まあね、アタシら、ダンジョン攻略初めてじゃないし――ね、かおりん?」
「……ええ、まあ、油断は禁物ですが」
最後尾では、逆井と志木、そして白瀬が3人で横一列になって歩いている。
緊張した様子の白瀬を逆井が和ませ、それを志木が見守るという感じだ。
そしてそんな彼女らにバレないよう、俺が尾行している形となっている。
……違うし、ストーカーじゃねえし。
というか、志木は俺が後ろからついて来ていることを知っている。
むしろ本人からそれを要請されたのだから。
うん、だから今を時めく彼女たちの後ろから、そっと、バレないよう、じぃぃっと眺めていても、何ら問題ないのだ。
……うん、文字にして表現すると変態チックになるからやめておこう。
「それにしても……律氷ちゃんも本当に立派に戦ってるのねぇぇ……私も訓練や講習自体は受けたけど……」
「私も……最初は全然ダメダメでしたから。六花さんも、いずれ、戦えるようになりますよ」
今まで5度程モンスターとの戦闘になったが、どれも大きなダメージを受けることなく勝利を収めていた。
その中で、皇さんは白瀬や逸見さんを上手く庇いながらも前衛の赤星をフォロー。
衣服でも溶かしそうな溶解液を吐く巨大芋虫が多かったが、ラッキースケベ的展開が発生することもない。
俺が出る幕もなく、ダンジョン攻略は至って順調だと言えた。
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最終階層たる3階層まで降りてきた。
それまで問題が起きることもなく、俺の尾行も尾行するだけで済んでいた。
“保険が欲しいの――勿論、また貴方の力を借りるわけだから、貴方の望み、後程ちゃんと伺います”
それが、事前に志木から頼まれた際に言われたことだった。
……別に、ルオのあれをちょっと思い出したとかないから、うん。
まあ、要するに彼女たちがダンジョン攻略を撮影する間、後ろで見守って欲しいってこと。
ラティア達を連れてくる案もあるにはあったが、今回は俺一人で付いてきた。
今回のダンジョン、先ずボス戦が無い。
そして撮影がある。
つまり、後ろから見守り、本当に必要な時だけ駆け付けるという隠密性が要求される。
だから灰グラスを所持している俺が一人で行くことになったのだ。
……まあ、ラティアは話し合って決めた際に何故か物凄く嬉しそうに笑んでいたが。
ラティアさん……最近蠱惑的な笑みを浮かべること多くないっすかね?
「少し……休憩しましょうか――颯さん」
おっと。
どうやら志木達は小休憩をとるようだ。
この先別にボス部屋もないのだが、まあ慎重なのはいいことだ。
俺は2階層と3階層を繋ぐ階段の中で立ち止まり、バレないよう腰を下ろす。
「ん、だね。――梨愛、見張りしとくから、軽食の準備お願いね」
「うしっ! じゃじゃ、律氷ちゃん、一緒にやろっか!」
「……牛……さん? 牛さんをこれから食べるんですか?」
「いやいや! “うしっ!”って、単なる応答の声だから!! こんなところで牛丸々一頭食べないから!!」
逆井の騒がしいツッコミが聞こえてくる。
うーん……皇さんは天然ボケの逸材だな。
「え? そうなの? 牛さん、美味しいと思うんだけれど……」
「いや、六花さんも!? 美味しいとかそう言うことじゃなくて……ああ、もう! 金持ち御嬢様はこれだから!!」
ううむ……皇さんと逸見さんのダブルパンチ、逆井一人じゃ厳しいっぽい。
「――で、話があるんじゃないかしら、飛鳥さん」
うぉっと!?
「……それで、休憩をとったの? 相変わらず悪趣味ね、志木さんは」
ビビったぁ……。
声や話から察するに、志木と白瀬の二人が俺のいる階段近くまで来たようだ。
「フフッ……さぁ、何のことかしら?」
「……いつか貴方の本性を曝け出して、痛い目見せてやるわ……フンッ!」
……おお。
もしかして、白瀬は黒かおりんに気づいているのだろうか。
だとしたら、これは心強い。
異性で黒かおりんの存在を認識しているのは俺だけかもしれないからな。
例え同性だとしても同じ苦しみを共有できる相手はいてくれた方がありがたい。
「で、飛鳥さん。休憩もそう長く取るわけじゃないわ……話があるなら早いとこお願い」
「……貴方に言うのは癪だけど、一応、言っとくわ……その、ありがとう」
「…………」
どうやら普段志木に対してはツンツンしている白瀬がデレている場面らしい。
関係性としては微妙だからな……この二人。
「……別に、こちらも要求を聞いてもらう以上、片務的な関係ではないわ。対等よ」
……志木も志木で、ちょっとツンデレってるのかな?
黒かおりんの白かおりん的な部分が出てきて、それが混じってちょっと灰かおりんになってると。
うん、意味わからん。
「それはそうだけど……でも意外ね。あなたが男性探索士グループの人に興味があるなんて。ええっと……ああ、そうそう。“梓川要君”だっけ?」
「…………」
志木としては答え辛いか……。
そう、今回ダンジョン攻略過程の撮影日程がかなり早まったのも、その件が関連していた。
彼女と接触を図ろうと思うなら、彼女に近い人物の協力を取り付けた方がいい。
そして、その“アズサ”の後ろ盾となっている個人というのが、志木が調べた限りだと――
「ああ、勿論意外だっただけで、それをどうこう思うことはないから。専務とも個人間の繋がりなんてないし、わざわざ告げ口なんてしないわ」
そう、彼女が所属するプロダクションの専務が、おそらくアズサと近い関係にあるらしいのだ。
だから、彼女と接触を図るのなら白瀬派の協力は事前に取りつけておいた方がいい。
今回の撮影での同行を許可すること、それが取引材料として使えると志木は踏んだのだ。
「……意外ね。飛鳥さんってもっと色んなことに貪欲なんだとばっかり思ってたわ、私」
「ええ、貪欲よ?……探したい人が出来たの。だから、私はどうしてももっと早く知名度を上げたい……小さなことに拘っている暇はないってこと」
…………。
志木から要請されたとはいえ、盗み聞きしているのがちょっと申し訳なく感じる。
以前コスプレイベントで見てはいけないものを見たのもそうだし、俺って大分間が悪いな……。
俺が出来るせめてものことと言えば、その探し人の居場所が分かれば、それとなく志木に伝えることくらい、かな?
ただ、探している人がどんな人物なのかという話まではなされなかった。
その後は逆井が呼びに来るまで、二人の沈黙は続いたのだった。
すいません、まだ体調が万全ではなく、倦怠感も残っていて少しボーっとしてます。
感想の返しはまた明日以降、まとめて行おうと思います。
もうしばらくお待ちください。




