93.不思議ちゃんは本当に存在が不思議なようです!!
すいません……お待たせしました。
ではどうぞ。
『……それらしい形式の書類はあります。ただ、実際に現地まで行くと実在しないことが分かりました。場所も、そして――“梓川要”という人物も』
それが、後日椎名さんが調査を終えて報告してくれた内容だった。
俺はそれを聞きながら考える。
先日この目で見た内容を思い出し、2,3質問して、通話を終えた。
「……ふぅぅ」
「お疲れ様です、ご主人様」
「ご主人どうだった、やっぱり?」
電話を終えて、待ちきれないというようにラティア達が寄って来た。
……ただ、リヴィルは先日の件が尾を引いているようで。
未だ恥ずかしそうにちょこんとソファーへ腰を下ろしているが。
「勿論、直接引っぺがして体を見たとか、そういうことはないが――」
俺はそう前置きしてから、軽く顎を引いて頷いて見せた。
「うーん、まあ、やっぱりあれは少なくとも、幾つか嘘をついて、潜入してるっぽいな」
『さあ、もう直ぐデビューの日が迫ったわけですが、どうですか、率直な心境は?』
『はい、日に日にそれが実感されて……正直緊張で、今日もご飯、あんまり入らなかったですよ……』
再生した録画番組では、主に立石を中心に受け答えがなされていた。
朝の情報番組内で生出演した彼ら4人は、その後も色んな番組を梯子して宣伝に努めているようだ。
『へへ、立石っち、そんなんじゃこれからどうすんの? 朝ごはんは一日に活力っしょ、ねえアナウンスさん!』
『えと、ははは、そうだね、うん! 朝ごはん、しっかり食べて、エネルギー充填、しないと! ――ねえ“冬夜”君?』
水を向けられた4人のうちの一人で眼鏡のインテリっぽいイケメンさん――藤冬夜はそれには答えず、スッと頭を下げる。
『……すいません、木田君はちょっと日本語に不器用で、でも根は真っすぐで明るく、元気な青年なんですよ“アナウンサー”さん』
彼が正確にはこうだよ、と上手く言ってみせる。
それは別に嫌みっぽくなく、指摘された木田でさえ少し恥ずかしそうにするだけ。
スタジオ内は笑いに包まれた。
「うーん……“女の子”って言われて見てみると、確かにそうかもって感じはするね」
「ええ……ですが、事前情報なしで“男性探索士アイドルの一人”とバイアスがかかっていると……普通に男性に見えていたでしょう」
そんな立石や木田、そして3人目の藤さんには目もくれず。
ラティアとルオはその4人目を見ることにだけ集中していた。
それは別に二人に何か凄い思惑があってのことではなく。
単に珍しい物でも見るみたいな、そんな感じだった。
間違い探しで答えを言われた後“本当だろうか、うわ、本当だ、ここ!”と楽しむ、みたいな?
「…………」
そんな盛り上がる二人に反して、リヴィルは借りて来た猫のように静かだった。
ってか隣に座ったら、俺からちょっとでも逃れようとしてか、狭いソファーの中、横にずれるのだ。
……10cmか、そこらしか離れられてないぞ。
そんなに嫌?
「……よっと」
「…………」
うわっ、近づいたらまた離れられた。
もうそれ以上はソファーの端になるのに……。
うーん……これが続くようだと、ちょっと擦れ違いが生まれかねないな。
……もう一回柑橘系、行っとく?
『――えっと、“梓川”君はさ、どう? これからアイドル活動を始めていくわけだけど』
おっと、ちょい思考がゲスな方向に行きかけた。
ゲスの極みボッチだな……うん適当。
問題の人物に話が振られ、俺たちは画面に俄然集中する。
もう俺たちとしては、この人物が“彼”ではなく“彼女”だということは共通の前提となっていた。
どういう感じで、どういう仕草をするのか、それに注目が行くわけだが。
――ま、俺が見た限りでは、“それ以上”の秘密があるっぽいけどな……。
『……?』
自分に話しかけられたというのは分かったようだが。
しかし、首を傾げ、良く分からないといったポーズをした。
『ハハッ、要って、凄く不思議ちゃんだから、ゴメンね、えーっと……』
『アナウンサーさん、ですよ』
仲間だということでフォローしたのだろう木田のことを、更に藤さんがフォロー。
特にそれで雰囲気が悪くなるということもなく、アナウンサー陣はどういう感じで接すればいいかを何となくそれで把握する。
『えっと、じゃあさ、何か一言、何でもいいよ? ああ、勿論、朝の番組だってことは流石に考慮して欲しいけどね』
メインの重鎮アナウンサーが上手く冗談を交えて、もう一度話を振った。
本当にもうフリーハンドで、何を言ってくれても全部こっちが拾うからという気概が感じられる。
それで他の3人もグッと肩の力が抜けたようで、ホッとしたように彼女(勿論彼らとしては“彼”と思っているだろうが)を見守っていた。
すると、どこにそんなものを持っていたのかといった感じで、いきなり彼女は何かを取り出した。
周囲もそれに多少驚くも、よくよく見てみると、それは手袋と、ちょっとおしゃれな伊達メガネ。
彼女が自分の手に顔に、それらを着けていく。
その姿は少し滑稽なようにも、逆に彼女の整った容姿を引き立てているようにも、どちらにでも取れる不思議なものだった。
『ハハッ、何だそれ? ほんと、要って不思議ちゃんだよな~!』
『……ええ、要君はそう言ったミステリアスな部分が、魅力なんだと思います』
『白い手袋に、灰色なフレームの伊達メガネか……うん、似合ってるんじゃないか?』
木田、藤さん、そして立石はお世辞抜きにそれぞれがそう褒めた。
スタジオ内でも、取っ付き辛いというよりはむしろ魅力的な不思議さのように受け止めて、一緒に感嘆の息を漏らす。
「――……ねえ、アレ、マスターに似てない?」
今までずっと口を利いてくれなかったリヴィルが、そこで初めて、口を開いた。
リヴィルが指さしているのは、彼女の顔。
「? えっと……ゴメン、ボクは普通にご主人の方がカッコいいと思う、けど?」
ルオは自信なさそうにそう告げてから、ラティアへと視線で意見を求める。
……そこ、別に贔屓目入れなくていいんだよ?
俺がカッコいいなんて“※特殊な訓練を受けたルオの意見です”みたいに言ってくれた方が、俺もむしろ変な期待抱かないでいられるし……。
「うーんと、多分リヴィルが言いたいことはそう言うことではなくてですね……」
と、言ってから。
ラティアは何かに気づいたようにハッとして、慌てて俺へと弁解し出した。
「ちっ、違うんです!! 勿論私も、ご主人様が一番素敵で、カッコよくて、あの、その、素敵、だと――」
いや、だからいいんだって、無理しなくて。
ってか“素敵”が2回出てる。
そんなにテンパっちゃう程、俺って世間一般ではダメなんだろうな……うん。
俺も、今夜は柑橘系ジュースでも一杯ひっかけるか。
「うん、ラティアの言う通りでさ……眼鏡の方」
リヴィルの言葉で現実に引き戻される。
今リヴィルは照れとか恥じらいみたいな感情はなく、結構シリアスな雰囲気でそれを指摘していた。
そして、その灰色のサングラスを指さした後、ツーっとその指が下がって。
「後、この手袋さ……勿論特別な能力とかは無いだろうけど……私、これにどうしても意味付けせずにはいられない」
リヴィルはそう言って俺へと体を向ける。
そして真剣な眼差しで俺の目を真っすぐに見つめて来た。
「マスター……私、一回“カンナ”が白い手袋付けてるの、見てるんだ」
リヴィルの言葉を耳にしながら、俺は一瞬視線を逸らし。
そのままテレビに映る、彼女の体を一通り上から下までザッと確認する。
その彼女の足は……この日本では中々見ないだろう装飾が施された真っ黒なブーツに包まれていた。
んーっと……すいません、感想の返しはまたお昼かそれか更新後になると思います。
申し訳ありませんが、もうしばらくお待ちください!




