92.寝耳に水です!
第三者視点になります。
偶に第三者視点を書いて行かないと、今後全部が全部主人公視点になってしまいますので……。
まあこの1話で終わりますので、あまり神経質にならずそこはお読みいただければと思います。
ではどうぞ。
□◆□◆Another View◆□◆□
“大丈夫なのか? あの4人の中に1人、男じゃない奴がいるぞ”
青年からそんな臨時の報告を受け。
会議などでも使うテレビチャットに興じていた少女たちは皆目を丸くした。
慌ててそれぞれがいる場所でテレビを点け、あるいはニュースサイトを開いて。
該当する4人組が映っている部分を見て、赤星は目を細める。
彼は具体的に“誰が”とは述べなかったが……恐らくはこの子だ。
“梓川要”――ニュースサイトの記事にはそう紹介されていた。
「うーん……新海君を疑っているわけじゃないけど、俄かには信じがたいよね」
『だよね、マジで。……え、このニュースってか、女子ってほんとなの?』
4分割されたPCの画面右上では逆井が慌てたようにして答えている。
赤星の言葉と、テレビと、そして手元のスマホ、それぞれに気を払ってしまって逆に何が何だか分からなくなっているようだった。
『別にいいんじゃないですか? 私達に直接害があるって感じでもない、ですよね、颯先輩』
驚きはしたものの、案外冷静に物事を見ている桜田は画面右下にて、自分の爪の手入れをしていた。
「……今のところは、ね? ――律氷ちゃん、どう思う?」
画面左上にて従者の椎名と二人で映っている彼女は、一度思考する間を挟み、口を開き始める。
『正直、寝耳に水で、今もとても驚いています。本当だとしたら、目的は、その、何でしょう……』
『御嬢様、裏を取れるよう今から直ぐに動きますしょうか?』
椎名の提案に、律氷はまた一瞬思考し、頷く。
『お願いします――あっ、御姉様には私から伝えておきます』
その言葉を受け、椎名はPC――他の3人に向けて頭を下げ、その場を後にした。
赤星は改めて画面左下の部分に目を向ける。
そこはいつもなら志木がいるはずだったが、今はいない。
チャットの準備だけは済ませているらしく、動きがない部屋だけが映されていた。
「それで……目的、だったよね? 男性グループの中に男装して潜入、か……」
『逆ハーレムって奴だよね! あれじゃん、花パラじゃん! イケメンパラダイスじゃん!』
真っ先に反応した逆井に、赤星は苦笑だけで返す。
変わりにその逆井へとツッコミを入れたのは、美顔ローラーを手にコロコロし始めた桜田だった。
『え~。あれ、イケメンの集団ですか? 別に悪くはないですけど、リスクを冒してまで潜入したいかって聞かれると、微妙じゃありません?』
「そこのところ、梨愛的にはどうなの? 3人のうち2人は梨愛と同じ学校でしょう?」
議論の中心となっている件の少女(仮)は数から外して、赤星は尋ねる。
聞かれた逆井は躊躇いなど一切なく、笑って見せた。
『はは、木田ッチと立ゴンっしょ? どっちかって言われたらまあカッコいい部類とは思うけど、流石にあの二人目当てってことはないんじゃない?』
「…………うん、まあ私もその意味においては賛成、かな」
赤星は慎重に言葉を選びながら、頷いて律氷へと視線を向ける。
ただ、画面越しで、しかも分割されているものなので上手く考えが伝わっているか自信がなく。
なので赤星は椎名がいなくても彼女が話し易いよう、まず言葉を引き出す形の疑問で尋ねてみた。
「律氷ちゃんだったらさ、どうかな? 例えば……どういう意図があったら、彼らに近づいてみたいと思う?」
赤星は何となく、律氷が抱く淡い想いについて認識していた。
だから女性として好意を持って近づく、という趣旨の話ではなく。
違う角度から聞いてみたのだ。
『えっと、その、あの眼鏡の方――藤冬夜という方をお慕いして、との可能性も否定はできないかと思いますが……』
律氷はそう留保・前置きした上で、ゆっくりと自分の考えを頭の中で整理していく。
それを、他の3人は急かすことなく、寛容な心をもって待った。
いや……約一名は、律氷のこの上品さもまた、ファンが増える要因なのだろうかと歯ぎしりしていたが。
「……チハ、顔、顔」
『え? 何ですか先輩? もしかして、もう小顔効果が出てました!? 仕方ないですね、チハちゃんの可愛さは疲労や老廃物では劣化させることはできないんですかね!』
「……あんまり適当だと、志木さんに言っちゃおっかな……」
『――すみませんでした! それだけはご勘弁を! あ、ほらっ、美顔ローラーなんてポイですよポイ! 何なら今すぐフリマアプリで売っちゃいますから!!』
見事なまでの変わり身の早さだった。
――まあ、告げ口は無しにするか。
こうしてどうでも良さそうなやり取りをするのも、別に意図せず脱線してしまったというわけではない。
以前、逆井が番組内で意見やセリフを求められた際、直ぐに言葉が出てこなかった時がある。
その際、司会者が雛段の芸人にボケを振って、一笑い起していたのだ。
これは勿論番組を面白くするという意味もあるが、同時に。
話を振られた出演者が、頭を整理する時間を作るフォローのような意味合いもある。
『あの、想像の域を出ませんが――』
どうやら考えが纏まったようで、丁度律氷が口を開いた。
それで赤星は桜田へと向けていた半目を止め、傾聴の姿勢に入る。
『他国からの間諜――スパイか、その息がかかった人物、という可能性もあるかと』
『なるなる……要は木田ッチとか立ゴンたちへのハニトラ要員って感じ?』
「……まだ、可能性の話、だけどね」
赤星はそうは言っても、その可能性は低くはないと思っている。
彼女が自分達、つまり女性探索士グループの方ではなく。
わざわざ男性グループへと入っている点が大きな根拠となっていた。
『ですね……後は花織先輩や椎名さんが来てから、って感じでいいんじゃないですか?』
一応話し合いに再び身を入れた桜田が纏めるようにそう言って、4人はそれぞれ頷きあう。
これ以上は裏を取ってくれる椎名や、あるいは志木が来ない限りは掘り下げるにも限界があるからだ。
ただ……志木や、年上で冷静な椎名がいない中、自分達で話し合いを持ったのは実はこれが初めてだった。
でも、意外に上手く話を回すことができて、赤星はホッとする。
代わりとまでは言わないが、志木がいない間、彼女の役割のほんの少しでも担えたらと思っていたから。
その後、情報提供してくれた青年に対してお礼や報告の連絡を入れる。
それからしばらく待って、ようやく志木がチャットルームに現れたのだった。
□◆□◆Another View End◆□◆□
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