90.織部……お互い、失った物は大きいな。
すいません、お待たせしました。
本当は昨日も書く予定だったんですが、ちょっと用事が出来て。
それで帰ってきてクタクタになったので流石に寝てしまいました。
ちょっとそれを引きずってる感があって、あまり物語的には進んでませんが、一先ずどうぞ。
「ふんふん、ここ数日頑張ったからな、結構戻って来たぞ……」
DD――ダンジョンディスプレイの右上に記されたDPを見て、思わずにやけてしまう。
夜中にラティア達が寝静まったと思う頃、出かけて小規模ダンジョンを攻略する日々。
って言っても、本当に小粒なのを7つ攻略しただけだが。
それでも塵も積もればで3100ポイント分増えて、48002ポイントになった。
まあその分眠いことこの上ないが……今日は休日!!
「俺たちの戦いはまだまだこれからだ!! 明日以降の戦いに勝つためにも……寝るぞっ!!」
「えっ、ご主人様、いきなりどうされたんですか? 頭でも打たれましたか!?」
「……マスター、今日はカオリやカンナと通信をするんじゃなかったっけ?」
「ご主人……何か辛いことでも? 現実逃避?」
君ら辛辣だね……。
「いや、悪い、眠気があって、ちょっとどうでもいいこと考えてた」
それ自体は本当だ。
だが、本音のところはまたちょっと別にあった。
眠い中、今日中に二連チャンで志木・織部と話さないといけない。
そのことが少ししんどいな、とは思っていた。
まあやらないと終わんないんだからやるけど……。
『少し怪しいのよ……。彼女、私のことをあまり快く思ってないはずなのに』
テレビチャットを繋いだのだが、志木は首を傾げて疑問を呈してくる。
ゴっさん達のことは軽く伝えたのだが、そんなことは些細なことだとでも言わんばかりに志木の関心は別のところにあった。
「うーん……そんなにおかしいのか? その、白瀬って奴は」
あのイベントのこともあり、名前を告げる時、ちょっとぎこちなさが出てしまう。
『ええ。私に頼み込んでくるなんて、プライドが高い彼女にしては変だもの』
だが志木がそこに気づく様子はなく。
それだけ違和感を持っているということなのだろう。
先日の生放送で思わぬ敗北を喫し、志木はまたシーク・ラヴで宣伝をする機会を別に設けようとしていた。
国の方からも、もし可能であればまた何かダンジョン関連で動画を撮って欲しいと言われていたこともあって。
「……まあ、結成して改めてダンジョン攻略に赴くってこと自体はいいんじゃねえの?」
今回はシーク・ラヴとして、またどこか手頃なダンジョンの攻略を撮影するのだとか。
そしてそれに、白瀬が是非とも参加させて欲しいと意気込んでいる。
『あなたには以前話したかしら……あまり好ましくはないけれど既にシーク・ラヴの中でも派閥というか、グループが出来てしまってるから』
「あ~、あれか、事務所の違いって奴か」
要するに、シーク・ラヴは3つのグループに分けられる。
俺が一番交流が深いのが、勿論志木を中心とする5人のグループ。
志木、皇さん、逆井、赤星、そして桜田。
この5人のバックになってるのが、志木と皇さんが設立に関わってる新興のアイドル事務所だ。
二つ目は、白瀬が核になっているもの。
これは逸見六花と、飯野美洋を合わせて3人。
ただこれは元々がアイドル部門に力を入れていた大手の事務所がバックにある。
プロデューサーもかなりのやり手が多数在籍していて、影響力は決して小さくないという。
そして三つ目は残りの4人。
この4人は特に派閥を作っているわけではなく中立。
それぞれが既存のアイドル事務所からプッシュされて入ったという経緯がある。
……まあ全部、志木自身からの受け売りだけどな。
『ええ、そうなの。それもあって……彼女が私に頭を下げてきたのが良く分からなくて』
あの志木がはっきりと分からないと口にするというのが、少し珍しかった。
それだけ、その白瀬という少女の変化というか、出方に戸惑っているという感じか。
うーん……確かに目立ちたがりという印象は受けたが、プライドも高そうだったな。
「要は動画に出させてほしいってことだろ? 目立ちたい……いや、何か動画でアピールしたい、とかか?」
志木もテレビとか動画では、白いかおりんアピールをずっとしてるからな……。
『それは私も考えたけど……』
「そんなに気になるんなら、白瀬以外にも、後の二人……えーっと、逸見さんと、飯野さん、だっけか? その二人も一緒に連れて行けばいい」
動画に出る時間は当たり前だが、人が増えれば増える程割り振られ辛くなる。
まあ編集でどうとでもなるのかもしれんが、その編集されるための元の時間も相対的に減るのだ。
それに、志木の懸念は別の所にもあるのだと思う。
俺達が逆井にしたように、そしてその逆井が志木達にしたように。
今度もし彼女らが随行することになれば、戦闘面で白瀬が必要以上に強くなってしまうんじゃないか――そんな懸念が。
だがこれも、先の映る時間と同じことが言える。
白瀬自体が付いてくるのを避けられないのなら、いっそのこと人数は増やせばいい。
それで、「ちっ、あんたらに構ってる暇なんてないのよ!!」と志木達だけでモンスターを倒せばいいのだ。
メンバーが増えれば増える程、他者に配慮する余裕がないという主張は説得力を増すのだから。
『うん……そうね、それはいいかもしれないわね。ただ、逸見さんと飯野さんか……』
今の志木の憂鬱そうな表情は、多分白瀬への疑念とはまた別のことだろう。
以前の、あの生放送の、あれか……。
「ははっ、“ローションに浸かるの、いいかも”と“10問連続不正解”、一時急上昇ワードにトレンド入りしてたからな」
『はぁぁ……そうね』
この頭の痛そうな返答からして、やはり俺の思った通りだったらしい。
志木はあの天然な二人が結構苦手っぽいな……。
その後細々としたことを2,3話して。
俺たちは通話を終えた。
さて、次は織部か……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「…………」
『…………』
「えへへ……」
『……えーっと、新海君、どうして、ルオさんが?』
「うん、その、まあ頑張れ」
いや、俺も頑張らないといけないんだけど、一番はやはり織部だ。
「あのね! カンナお姉さんのお話を聴きたくって!! お姉さん、ご主人とエッチなお友達なんだよね?」
『は、はい!? 私と、新海君が!? え、いや、えと――』
バカッ!!
おま、自分が前回何を言ってたか忘れてんのか!?
「じぃーーー……」
ほらぁぁぁ、ルオが疑わしそうな目で見てる!!
ルオにお前が勇者だってバレたら、どうなるか分からないんだぞ!?
「ああ、そうだ!! 毎回毎回、織部が注文してくる品々を揃えるのは、俺でも変態……違った――大変なんだぜ!?」
そこまで言ってようやくピンと来たのかハッとする。
そして自分が如何にとんでもないことを口走っていたのかを理解したようだ。
『えと、あの、そ、それは……』
「じぃぃぃーーーーーー」
ルオに見つめられ、とうとう、織部は――
『――ええ、そうなんですよ!! もう新海君は私の性癖を完璧に捉えていて、それでいてドストライクな物ばかり送ってくれて!! 次はどんな卑猥なものを送ってもらえるのかと、いつもドキドキしてるんです!!』
ハッちゃけることを選んだらしい。
織部……。
『新海君、そっちは冬でしたよね!?』
「あ、ああ……」
『是非次に送ってくるものはコートにしてください!! あ、あとブーツも!! エッチな下着類も忘れないでくださいね!?』
「…………」
『今から待ちきれません!! 下着とブーツだけを身に纏い、その上にコートを纏って誰かにバレないかとドキドキしながら異世界を歩く――想像しただけで体が火照ってきますよ!!』
織部、お前、そこまで痴女としての道を……。
なら、俺も……覚悟を決める!!
「――お、おう任せとけ!! 俺も織部がそんな痴女行動のために使うのかと想像しながら品定めするんだ、考えるだけでムラムラしてくるぜ!!」
俺たち、ただのド変態な二人にしか見えなくないだろうか……。
いや、いいんだ、これで――
「……えと、その、ご主人も、カンナお姉さんも、大胆、なんだね」
俺たちの話を聞いて、耳まで真っ赤にしたルオを見て、俺と織部は頷きあった。
良かった、ちゃんとルオの目を逸らせたようだ。
その代わり……失った物は大きいが。
「後でラティアお姉ちゃんにも伝えとかないと……」
「…………」
『…………』
燃え尽きて灰のようになっている織部。
……うん、コート以外にも、今度何か送ってやろう。
いや、織部と連絡を取った趣旨は本来そっちだったんだがな。
織部が次の町――魔族が統治するところに行くに伴い、何か土産を持って行きたい。
それで、こちらの世界の物を送れば織部に少しでも箔が付くんじゃないか、ということだった。
今回はそれの確認で繋いだんだが……。
うん、ちょっと持ち帰りますわ。
今日はもう、これ以上何かする気力が湧かない。
織部、気を確かにな……。
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