89.夜中でも頑張ろう!
ふぅぅ。
ではどうぞ!
「良し、やっちまいな“ゴっさん”!!」
「ギィィャァァ!!」
ゴっさんことゴブリンが、奇声を上げて駆けていく。
相手は既に俺が痛めつけていて、瀕死状態。
ボロ布を纏った骨だけの存在――スケルトンだ。
……うん、アンデッドの癖して“瀕死状態”って意味わかんないけど、そう表現するしかない。
骨密度に難ありなスケルトンに、ゴっさんが飛び掛かる。
フラフラしていたところに、物理的な衝撃が加わり、骨のボーリングピンでも倒れたかのようにバラバラに弾け飛ぶ。
そして骨が再結集して立ち上がる等ということはなかった。
「ふぃぃぃ……良くやったな、ゴっさん」
「ギイィ、ギィィ!!」
俺の元に戻って来たゴっさんは、(人の美的観点からすると)皺だらけの顔を二ィっとさせて喜びを表現する。
周囲には倒し終えた骨が無数に散らばっていた。
そしてそれだけでなく――
「――gigigi,gi-gigagi……」
ドスッ、ドスッと鈍い足音をダンジョン内に響かせながら、もう一体のモンスターも、戻って来た。
「おお、ゴーさんも、お疲れ」
ゴーさん――スモールゴーレムはハンマー状になっているその腕を軽く上げて見せる。
言葉での意思疎通代わりとしてのボディーランゲージなんだろう。
ゴーさんは盾としては非常に優秀で、前列に立たせているだけで戦闘の安定感が増すのだ。
腕時計に視線を落とすと、既にAM1:15。
今までの戦闘回数がザッと6回。
まだ少しだけ先があることを考えると、それほど無茶はできないな。
「それでも、最初に比べたら随分マシになった。――なぁ?」
俺は今夜の随行者に、2体の成長具合を確認した。
「――うーん、いや……うん。確かに、強くはなったよ? でも、でもさ……そのネーミングセンス、何とかならない、新海?」
探索士の制服ではなく。
俺が贈ったプレゼント――ビキニアーマーに身を包んだ逆井がげんなりしたようにしてゴっさんとゴーさんを見る。
「……いや、な、俺も最初はどうかと思ったんだが……」
ゴブリンでゴっさん、スモールゴーレムでゴーさん。
うん、実に安直だ。
でも、それで2体とも喜んだんだもん……。
「ま、このモンスター達については、アタシがとやかく言うことじゃないから」
以外とあっさり引き下がった逆井は、しかし、左右の人差し指をツンツンと打ち合わせてモジモジする。
「で、でもさ! 子供とか、そういう人の名前を付けるときは、もうちょっと可愛い名前を考えて欲しいって言うか、うん!」
一息に捲し立てて、逆井は良く分からないことを口にした。
何を言ってるんだコイツは……。
「ハルアとか、トアとか……うん、男の子でも女の子でも、どっちでも行けると思う、えへ、えへへ……」
何か独り言を呟き出したぞ……。
えっ、逆井の織部化が凄いんだけど。
離れていても、やっぱり通じるところがあるんだろうな……。
ってことは、そのうち逆井も痴女度と残念度が増してくるのか、可哀想に。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「ふぅぅ……終わった終わった」
その後、正気に戻った逆井と共に、ゴっさん・ゴーさんを引き連れて。
ダンジョンの攻略を終えることができた。
紹介された中に、丁度逆井と皇さんが宿泊するホテルが近かったので、志木がどちらかでも連れて行ってはと促されたのだ。
皇さんはまだ中学生だし、逆井は気心がある程度知れているから、夜中ということもあって逆井に頼んだ。
それでも距離は結構あったから、昨日の22時くらいに家を出たがな……。
「でも結局アタシはそんなに戦わなかったけどね」
今回はダンジョンLv.が9と強くなかった。
それに、主目的は今も傍で控えているこの2体を戦力にすることだったからな。
「まあそれでもいいから、場数を多くこなしておいて欲しいってことだろ、志木としては」
俺が出来るだけ裏でコソコソしたいと思っているように。
志木もおそらくだが、シーク・ラヴ内での立ち位置は控えめにしたいと思っているのだろう。
いや、正確に言うなら、自分が積極的に目立つことで、色々コントロールしたいという意図があってのことだと思う。
それで、実動部隊を多く担うことになるだろうリーダー的な役割として赤星を。
そして、俺たちで言うリヴィルみたいなエース的役割として、逆井を。
皇さんには、身動きが取り辛い志木と俺たちを繋ぐ橋渡し役や、ダンジョン内では赤星のサポート役とかだろうか。
桜田は……知らん。
漠然と、何となくだが、そんな感じなんじゃないかな……。
「ふへぇぇ……やっぱかおりん、色々と考えてるんだね……」
掻い摘んで今考えたようなことを伝えると、逆井は感心したように息を吐く。
あの先日の番組後、皇さんから語られたことを思い出す。
あれも、志木にアドバイスをもらってのことだったらしい。
ルオはまだ答えを保留していて、リヴィルに日々相談に乗ってもらっている。
志木なりに、以前皆でボス戦した後に俺が伝えたことを気にしてくれているということだろうか。
つまり、ルオをはじめ、ラティアやリヴィルが少しでもこの国で、この世界で。
生き易い何かを考えてくれればと伝えた、そのことを。
「……今後、アイツの負担を減らすためには、少しでも余計な問題は起こさないことだな」
「……そだね」
「――あっ、ちなみに、コイツ等のことは簡単にでいいが、逆井からも志木に言っといてくれ」
俺はそう言って、直立不動で待ち続けているゴブリンとスモールゴーレムを見る。
「俺からも伝えはするけど、逆井からも話があった方が、誤解が無くて済むだろうからな」
「いいけど……それにしても、モンスターを使役するんだっけ。何かゲームの“テイマー”みたいじゃない?」
逆井はゴブリンは避け、スモールゴーレムの方へと近づき、顔の前で手を振って見せる。
スモールゴーレムはそれに対して反応を見せない。
指示を出さない限り、何か特別な反応は無いのだ。
「……多分、今はその認識でも支障はないと思う」
俺はそう言って、召喚石を取り出す。
このダンジョンに呼び出すために魔力を消費したので、今はその虹色の輝きを失っていた。
志木へ軽くでも説明してもらうなら、逆井にもちょっと見せておくか。
俺は左右の手に、一つずつ召喚石を握りしめ、突き出す。
そして、体内に残っている豊富な魔力を、練り込むようにして伝わせる。
石は火で炙られているかのように、徐々に熱を帯びていった。
「これ、くらいかな?」
数秒して。
手品を見せるみたいに、俺は手を返し、そして開く。
「凄っ!! 石っ、光ってる!!」
逆井が驚いたのも無理はない。
2つの石は共に、目を細めたくなるほどに眩く輝いていたのだ。
一方は虹色ながら、微妙に緑が強く。
そして他方は同じく虹色だけれども、くすんだレンガのような色が濃い。
「召喚石1つにつき、予め決めた1体のモンスターを喚び出せる。まあ今見たみたいに、都度、魔力補充がいるがな」
低質のものだから、その能力にあったモンスターしか対応関係を結ぶことはできないが。
でもそこは別に今気にする必要はない。
そして、魔力の補充が魔石でも可能であることは、既に実験済みだった。
これで俺も、一人でダンジョン攻略を安全に進められる目途が立つ。
そうすれば、今日みたいに夜中にダンジョン攻略を少しずつでも進めることができる。
ラティア達に負担をかけず、DP稼ぎが可能なのだ。
普段戦闘面で明らかに影が薄いからな、俺……。
裏で努力しないと、いつの日にかご主人様不要論が持ち上がらないとも限らないし。
「ふーん……やっぱファンタジーって便利ぃ~」
とは言いつつ、逆井はまるで親の仇でも見るかのように、ゴブリンのゴっさんを睨んでいる。
……まあゴブリンだし、女子は嫌か。
「……ちなみに、逆井」
「ん、何?」
「……ゴっさんはメスだ」
「え゛っ」
だよな、俺も名前つけた後で気づいて驚いた。
ゴブリンにもメスっているんだな、って。
だから、本当に質素だけれども簡素な服着せてるだろ?
不思議だね……。
そう言えば……人物紹介とかって、更新した方が良いですか?
私は勿論誰が誰かとか、登場人物の名前は把握しているんですが、皆さん区別ってつきます?
新しく出てきて、セリフとかもあるキャラはできるだけ頭に残るよう回を跨いでも、何度も出すようにはしてるんですが。
また本当に簡易的なものでいいならば後書きに乗せますが……。
それか、以前別個に1話分としてあげたことがある人物紹介の、あれを更新するという形にするか。
どのような方法にするかはともかく、名前が出てきてもさっぱり分からん、誰が誰で、区別がつかないという状況でしたら対応しますので。




