87.ダンジョンの新たな機能を確認しよう!
お待たせしました。
では、どうぞ!
『おう! やっぱりあたいに会いたくて会いたくて仕方なかったんだな! 流石あたいの旦那だぜ!』
『おうおう! だぜ!!』
平日の空いた時間を利用して、DD――ダンジョンディスプレイのテレポート機能を用い。
あのヤンママの親子ダンジョンに再びやって来たのだが……。
「……そっスね」
凄い歓待ぶり……。
これで“いや、ちょっとダンジョン自体の機能を確かめに来たんだ”とか言ったら……どうなるだろう?
……何か悪いことはしてないはずなのに、凄い罪悪感。
何だろう、愛人の家に久しぶりに寄ったのに、“用があるのはお前が稼いだ金だけだ、お前じゃねえ!!”とかいうクソ野郎みたいだ……。
……いや、本当に俺はそんなつもり一切ないんだけどね。
「ではご主人様、明日も学校がおありということですし、早く済ましてしまいましょう」
「……そうだな」
≪ダンジョン修練士≫を持っているために、供としてラティアを連れては来ていた。
リヴィルとルオは今頃は夕飯の準備のためにお買い物をしてくれているはずだ。
そのラティアは、俺とは違って特に気にした様子もなく淡々と促す。
……俺しかまだダンジョンと話せないからなんだろうけども。
それでも、先の変な想像もあってか、ちょっとラティアの反応を気にしてしまう。
これも全くの想像だが、妻が愛人宅まで同行してきた、みたいな感じなんだろうか……。
まあ、間違ってもこんなこと口に出しては言わないけどな。
ダンジョンだけでなく、ラティアにもどんな反応されるか怖くて仕方ないし。
そんなどうでも良い思考を切り替え、俺は今日訪れた目的を達すべく、ダンジョンへと語りかけた。
『んじゃ、先ずはこれだな』
幾つか世間話のようなやり取りをした後。
ダンジョンは半透明な紙を台座の上へと出現させた。
Ⅰダンジョン機能展開
Ⅱダンジョン特性とDP交換
「ふむ……じゃあⅠを頼むよ」
今日来た目的。
それは今まで目にはしていたものの、しっかりと検証できていなかったこの項目を調べるためだった。
『あいよ!』
元気のいい返事があり、紙上の中身が変化する。
そしてあの無機質な音声が聞こえてきたのだった。
<現在、①モンスター創造Lv.1 ②アイテム等創造Lv.1 が、選択可能です。 如何しますか?>
→①モンスター創造Lv.1
②アイテム等創造Lv.1
戻る
「とりあえず、どっちも試してみるか」
念のため隣で紙面を覗き込むラティアに確認してみる。
「そうですね……そこまで時間を用いることはないでしょうから」
「だな――じゃあ、先ず①を」
そう口にすると、また半透明の紙に記された文字が変わっていく。
①モンスター創造Lv.1 →(1)ゴブリンLv.1 (2)スモールゴーレムLv.1
「……選択できるのは、今のところ2体か」
更に、それぞれのモンスター名に指で触れると、創造に必要なDPが表示された。
ゴブリンは“25DP”。
スモールゴーレムは“100DP”だ。
「まあ……戦力的な評価からして、こういう感じになりますかね」
“スモール”とはいえ、ゴーレムがゴブリン4体分なのは妥当な評価らしい。
そして、これは何もゴブリン4体で戦えばスモールゴーレム1体と必ず相討ちにできることを意味しない。
1度で多くのDPを消費するということは、それだけ戦力的に評価されるということなのだ。
『もっとあたいや娘が強くなれば、あんたの≪ダンジョンマスター≫としての力も上がる。そうすれば出来ることも増える、あたいら夫婦の未来のためにも、頑張りな!』
『な!!』
「……ウっス」
ちょっとダンジョンからかかる期待が重い……。
ダンジョンと夫婦とか、その未来のためとか、何言ってるか良く分かんない……。
本当、気楽に行きたいんスけど。
②アイテム等創造Lv.1 →(1)魔石 小 低 (2)薬草 低 (3)召喚石 低
「なるほど……これも、ダンジョン特有の物が一つは項目にあがるんだな」
②のアイテム等創造に移ってみて。
説明を受けてみたが、どうやらこれも、先ほどのモンスターと同じらしい。
いや、おそらくこれに限らず、スキルやジョブのことについても同様のことが言える。
つまり、このダンジョンなら“スモールゴーレム”や“召喚石 低”、それに赤星やラティアのジョブ≪ダンジョン修練士≫など、そのダンジョンに特有のものをDPと交換できる。
ただ“ゴブリン”や“魔石”、それに“薬草”などはどこのダンジョンにもありうる普遍的なもの。
つまりここで必ずしも交換せずとも、別のダンジョンでも得られる可能性がある、ということだ。
「じゃあ、物は試しだ。モンスターは1体ずつ、アイテム等は1つずつ――ああいや、召喚石だけは2つ、交換を頼むよ」
魔石の小さく、質が低い物は1つ3DP。
薬草は低質で5DP必要だった。
召喚石はモンスターがいて初めて意味を成すということなので、ゴブリンとスモールゴーレム分の計80DP分。
……ゴブリン1体よりも召喚石1つ分の方が多いのか。
兎に角、全部で213DPで交換することにした。
『あいよ!! ちょいと待ってな――』
DPが45221から引かれて、45008ポイントに。
……まあこの実験は必要だし、仕方あるまい。
まず真っ先に目の前に現れたのはアイテム等の方だった。
「あっ……これ、薬草と魔石は特に変わりないですね」
何もない空間に現れ、地面にゆっくりと着地したその二つをラティアが手にとって検分。
普通にドロップを拾う場合とそこまで大差ないらしい。
そして次に召喚石が同じように2つ出現して、カツンと乾いた音を立てて転がった。
「……見た目は、薄っすらと虹色に光る、石?」
これを何個か集めて、ガチャを回すための贄にでもするのだろうか。
どうせ出てくるなら過去の英霊とかの方が、俺ももっと今より楽できて嬉しいんだが……
「ご主人様、モンスターの方が、出てくるようですよ!」
ラティアが少し興奮しながら指差す先に目をやると、石畳に魔法陣が浮かび上がる。
そこからまず白い光だけでモンスターの像が形作られ、徐々に色や細かな形・輪郭が出来上がっていった。
「おぉぉ……」
「こうして……モンスターが出来るんですね」
俺たちは今正に生命の神秘の一端に触れた気がして、思わず息を漏らす。
これほどゴブリンの誕生が興奮をもって迎えられるのも、今の様な場合か、あるいは女騎士が自ら悔し気に“殺せっ”と欲する薄い本くらいだろうか。
そしてその興奮が冷めないうちにスモールゴーレムも、ゴブリンの直ぐ隣に生み出された。
あの、9人でボス戦をした時に相手をしたゴーレムよりも一回り小さい。
下手すると俺よりも背が低いんじゃないか?
それでも無数の岩石で造られたその体は十分に迫力があった。
『モンスター達はあんたとあたい達以外の指示は受け付けないからね』
2体、特にスモールゴーレムの姿に感心していると、ダンジョンから更に簡単な説明があった。
「おう、了解」
流石にこのまま連れ帰ることはできないので、この場に置いていくことになる。
だが、もうこの2体は指示がない限り外に出ようとすることもない。
ふと今思ったが……。
厳密にいえばラティアだけはこの2体にとっては関係がない相手なのに、特に襲い掛かるようなこともなく、大人しく待機したままだ。
それを見ると、今後仮に誰かがここに来たとしても積極的に攻撃を仕掛けることはないと言えた。
……まあ、流石に志木には簡単にでも話を通しといた方が良いか。
「じゃ、一先ず今日はこのくらいにして、戻るか」
「ですね、今から帰り始めれば、丁度いい時間帯になるかと」
地理的には今、志木のお爺さんが持つ別荘の敷地内。
そこにあるダンジョンにいるわけだが、まあ、特に問題ない。
テレポート機能を使って、あの廃神社跡へと戻って、そこから家に帰れば丁度いいくらいだろう。
俺とラティアは召喚石の使い方だけ最後に確認し、このダンジョンを後にしたのだった。
投稿しようと思ったら、絶妙なタイミングで接続が切れて、かなり焦りました。
勿論本文はちゃんと保存してあったので、直ぐに繋いで、投稿しているのですが……。
接続が切れることはあってもこういう嫌なタイミングで、ということは最近なかったので肝を冷やしました。
ちゃんと今後も保存はしっかりしよう……。




