8.使えないボッチの育て方――いや、本当に、お願いします!! 俺、このままじゃいらない奴に!!
20位……だとっ!?
評価してくださった方は……15人!?
ブックマークも92人にしていただいている!?
バカな!?
何が原因だ……この作品の面白さ!?
い、いや、そう断定するのは早計だ。
まだ投稿して1週間とちょっと。
そこまで浸透するくらいに物語の深み的なものは書けていないはず。
なら何が――ハッ!?
――三連休。
奴か!!
クソッ、なんてことだ!!
このままじゃ、泡沫の夢となって陥落なんてあっという間だ!!
こうなったら……。
――歩谷健介先生の作品をご愛読いただきありがとうございました!!
次回作にも、ぜひご期待ください!!
……嘘です。
終わりませんよ!!
本当に、ありがとうございます。
これからもご愛読いただければ、幸いです。
〈Congratulations!!――ダンジョンLv.5を攻略しました!!〉
全てのアーマーアントが黒い灰のようになって散った後。
あの機械音が鳴った。
「終わった……のか」
周囲に敵が残ってないことをこの目で確認して。
俺は長い長い息をつく。
「ふぅぅぅ……」
――え、ラティア強すぎない?
ってか何あれ!?
魔法!?
1発でアーマーアント殲滅しちゃったんだけど!!
ラティア一人で全部片付いたじゃん!!
俺が必死こいて努力した意味!!
それに一人で辛い過去乗り越えちゃってるし!!
やっぱり俺いらなかったんじゃね!?
「――ご主人様!!」
魔法発動の後の硬直が終わり。
その当の本人が駆けてきた。
「ああ、お疲れ」
……今の、俺、笑顔で言えてたかな。
ハハッ。
今回の戦いの最大の功労者は、間違いなくラティアだ。
また俺のダンジョン攻略の記憶に、徒労感・報われなかった感が刻み込まれたとしても。
そこはちゃんと伝えないと。
「ご、ご主人様……その、あの……」
何故かラティアは申し訳なさそうな、合わせる顔が無いみたいな様子で言葉を継げないでいた。
いや、うん、いいんだ。
「――ラティア」
「は、はいっ!!」
遮る形になるが、これだけはちゃんと言っておかねば。
「――ラティアがいてくれて、本当に良かったよ」
「……え?」
マジでラティアがいなかったら、これ終わらなかったし。
俺も頑張ったけど、倒した傍から、あの穴から新しい蟻が湧いてきてたから。
「いやぁ、反面、俺の雑魚っぷりが目立った形になったが――ってどうした!?」
ラティアの目から、涙が溢れていた。
な、なんでや!?
まだラティアが話してないこと、で特大の地雷でもあったの!?
クソッ、これだからコミュニケーション能力0のボッチはダメなんだ!!
「わ、悪い……何か変なこと言ったか!?」
女の子を泣かせてしまったという事実に、ついあたふたしてしまう。
だがラティアは首を振る。
「ち、違うんです……これは、違うん、です」
拭えど拭えど溢れ出てくる涙。
違うとラティアは否定してくれるが。
でも、俺の言葉がきっかけになって泣いているのは明らかで。
「ほ、本当に、大丈夫か!? 何なら俺、あの穴の中に沈んでこようか?」
もし俺の存在自体が邪魔ならそれもやぶさかじゃない。
土下座よりも更に下へと沈むことで、謝罪の意を示そうかと本気で思い始めた時――
「――ダ、ダメです!!」
「うぉっと!?」
ラティアが、俺の腰に真っすぐしがみついてきた。
その勢いに、ちょっとよろけるが、何とか受け止める。
「その、これは……嬉し涙、です」
「そ、そうなのか?」
その割には全然涙が止まってなかったが……。
「はい……ですから――」
俺のお腹に埋めていた顔を、ラティアはゆっくりと上げた。
「――いなくなるなんて、おっしゃらないで、ください」
「……あ、いや」
そこまで盛大な意味に取られてたのか、と慌てて否定しようとしたが。
「私を、ご主人様の、お傍に、ずっと、置いて、ください」
「お、おお……」
呻くような声ばかりになってしまった。
「ご主人様にお会いできて、本当に、本当に良かった……」
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
あの後、ラティアが泣き止むまでしばらくかかった。
その間中、言葉もなくずっと頭を撫でてあげてたんだけど。
……もうね、ずっっっっっっと!!
我慢しっぱなしでヤバいっすわ!!
何がって、女の子って何であんなに柔らかいい匂いなの!?
しかもずっとラティア、俺に抱き着いてるでしょ!?
ダイレクトにそれが伝わってくるの!!
生殺しですわ!!
途中であの穴の前に、宝箱が音を立てて出現してくれなかったら、かなりヤバかった。
「ラ、ラティア!! ほらっ、何か出たみたいだ!!」
そう言って俺がやんわりラティアを促すと。
「あっ……」
何か名残惜しいような、もう少しこうしてたかったみたいな声出されるんだもん。
ふぅぅぅ……。
今夜、眠れるかな……。
「――おっ、宝石……かな?」
「綺麗な色ですね……」
その後、突如何もない空間から落ちてくるようにして現れた宝箱を開けてみる。
そこには、緑色に輝く掌サイズの結晶が入っていた。
ラティアも珍しそうな目でそれを見ている。
「……アイツが最初に手に入れたものと、似た系統、かな?」
織部が言っていた、DD――ダンジョンディスプレイの元となった結晶。
それが、ダンジョン攻略時の報酬として手に入れたと言っていた。
これもそうなのだろうか。
そうして光にかざすように上に下にと眺めていると――
「――“アイツ”って、誰のこと?」
――突如、背中から、声が掛けられた。
「うぉっ!? ――って、何だ逆井か」
俺たちから少し離れて。
逆井がのっそりと歩きながら、俺たちに近づいてきていた。
「むむ!! アタシだったら悪い?」
「いや、そういうわけじゃないが……お前、起きてて大丈夫なのか?」
左の脇腹を抑えながらゆっくりと歩いてくる逆井を見て。
流石に心配せずにはいられない。
ラティアも同じことを思ってか、直ぐに逆井の元へ駆けていく。
そして逆井が歩きやすくなるよう肩を貸した。
「ああ、ありがとうラティアちゃん……まあ、ちょーっと痛むけど、何とかだいじょぶ」
逆井は苦笑いして、俺に心配するなと手を振って見せる。
「そうか……後で、医者に診て貰っとけ」
「ん、そする……で――」
素直に頷いた逆井は、この決して大きくはないダンジョンを見回した。
「あのウジャウジャの蟻んこ……新海と、ラティアちゃんが、倒してくれたん、だよね?」
「うっ……」
核心に迫る問いかけに、一瞬頷きかける。
しかし、ギリギリのところで頭が静止をかけてくれた。
「い、いや……俺も、気づいたら、勝手にあの蟻たちは全滅してたぞ」
何とか嘘にならない範囲での答え方を考え出し、逆井にそう告げた。
うん、完全に嘘ではない。
俺が気づいたら、勝手にラティア一人で片付けてしまっていたから。
「じーーーーーー」
「な、何だよ……」
疑わし気な視線を向けてくる逆井。
クッ、最近の女子は勘が鋭い!!
「なーんか怪しい――って!! ゴメン、ラティアちゃん!!」
「え!? あっ、はい!!」
突然、肩を貸してもらっているラティアを促して、何かに気づいたような逆井は、どんどん俺に近づいてくる。
そして、ラティアから離れ、俺の腕を取った。
「……新海、これは?」
「うっ……」
いきなり女子に腕を触られてドギマギしたというのもあった。
だが、言葉に詰まってしまった一番の理由は――
「……はぁぁ――ばか……」
「お、おい――」
「じっとしてて!! もう……」
逆井は、俺の腕に無数についた蟻の歯形を見て、ため息をついた。
そして、ポケットからハンカチを出す。
「ん? ふふん、家庭的っしょ――全く、どっちが怪我人だか分かんないし」
そうして俺をからかいながら、優しい手つきで、血を拭っていった。
……。
「ああ、ご主人様の腕から、こんなに血が出て……」
逆井の介抱で初めて俺の腕の惨状に気が付いたラティア。
「――ん…れッ…ん、ぇるっ」
――って!?
「ラ、ラティア!?」
「えっ!? ちょ、ラティアちゃん!? なんで新海の腕舐めてんの!?」
二人してラティアの行動に驚愕の声を上げる。
ってか、あっ、ちょ、そんな這うように舐めないで!!
超くすぐったい!!
「え? 血を一刻も早く止めようと……その、いけません、でしたか?」
怒られてしまった犬のようにシュンとするラティアを見て、俺と逆井はうぅっ、と唸り声を上げて一歩下がる。
そしてなおも続けようとするため、流石にそれは色んな意味でストップをかけた。
「だ、大丈夫。こんなの唾つけとけば治るから」
俺の咄嗟の言い訳に、ラティアはさぞかし不思議そうな表情を浮かべた。
「えっと……ですので、私の唾液を……」
「バカ、新海のバカ!! 墓穴掘ってる!!」
うあぁぁ!!
スマン!!
「ああ!? えっと、あの……」
こういう時、自分の口下手さが恨めしい!!
「ラティアちゃん、こういうのは、えっと、大切な人が相手じゃないと、その、あれなんじゃないかな?」
助け船を出す形で逆井が優しく諭すようにそう告げた。
ナイス逆井!!
だが――
「? えっと……ご主人様は、私にとって、一番大切な方、ですが、それでもダメなのですか?」
ラティアはコテンッと首を小さく傾げる。
「えっ!? あの、えっと、その――」
その純粋な言葉を受けて、逆井は何故か顔を真っ赤にしてあたふたし出した。
バカッ!!
お前が言いくるめられてどうすんだ!!
いや、ラティアの言葉は嬉しいけど、逆井も逆井で全部真に受けんなよ!!
単に衰弱してて危ないところを助けてくれた恩人って意味だよ!!
「お前が逆に言い淀むなよ!! お前さてはあれか、純情ギャルか!? 恋愛マスターっぽく見えて、実は初恋をずっと引きずってる初心パターンだろ!!」
「なっ!! ひ、人の気持ちも知らないで、この鈍感ッ!! 二次元の美少女好き!! ボッチ!!」
コイツッ!!
何でんなこと知ってんだよ!?
「お、お二人とも――」
「――救助隊ですっ!! 大丈夫ですかぁぁぁぁ!?」
なおもヒートアップしそうな正にその時。
入口の方から、来訪者を告げる、声がした。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――どなたかぁぁぁぁ!! 返事できますかぁぁぁ!!」
入口の方から、大きな声でこちらに呼び掛けてくる。
このままではこちらに来てしまう。
むっ、マズイ――
「――メアド」
焦っている俺と、それを見てあたふたするラティアに。
何の脈絡もなく、逆井がその単語を口にした。
「は? 今それどころじゃ――」
「……色々、知られたくないこと、あるんでしょ?――だから、メアド、教えてくれたら、協力してあげなくもないよ?」
そっぽを向き、ぶっきら棒にしながらも、そう告げる。
「…………」
「ほらっ、さっさと吐いちゃえば?」
「……悪い、助かる」
俺は自分のメアドを構成する文字を直ぐに口にする。
覚えさせなければいけないので、その由来や順序などを早口に告げた。
「ああっ、それと、――これっ、持ってけ」
俺は携帯に適した薬草を、懐からガバっと鷲掴み、逆井に渡した。
「え? 何これ――ってかちょっと青臭いんだけど」
「それくらい我慢しろ! 薬草だ。それを、寝てる奴らに、できるだけ食わせとけ――後、お前もだ」
そう告げると、あからさまに嫌そうな表情をする。
「え~!!」
「文句言うな――」
「――どなたか!! 返事、できますかぁぁぁ!!」
やっべ!!
「じゃあ、頼むぞ!!――ラティア」
「は、はい!!」
俺はラティアを引っ張って、大きな岩の後ろへと隠れた。
「はいはい。――あのぉぉぉ!! こっちでぇぇす!!」
「声が!? ――おおぉぉぉい!! 聞こえますかぁぁぁ!?」
逆井が、駆け付けてきた救助隊を上手く引きつけてくれていた。
さて……。
「ご主人様、どうしましょう……」
「ああ、どうしようか……」
ベストは彼らに、俺たちがここにいたと知られずに、ダンジョンから外へ出ること。
確かに逆井は上手く注意を引きつけてくれているが。
「入口付近に何人もいるし……」
何より数が多い。
いや、それはむしろ熱心に救助へ当たっているのだから、褒められこそすれ、非難されることではない。
ただ、俺にとっては……。
「――あっ、ご主人様!!」
ラティアが俺の袖を引っ張る。
小声で、俺の手の中を指さした。
「おっ!?」
――手の中から、緑色の光が溢れ出ていた。
先ほど拾った、あの宝石だ。
ただ、その光は直ぐに収束する。
掌を開くと、宝石は、光と共に、消えていて。
「――っ!!」
だが、別の驚きが、直ぐに俺を襲った。
「――来てくれ」
頭の中で、どうすべきか、なぜか直ぐにわかった。
俺はDD――ダンジョンディスプレイを呼び出し、起動する。
『新機能追加のお知らせ――“ダンジョンテレポーター”を追加しました』
一番わかりやすいところに、その文章がデカデカと記されていた。
俺は指示に従い、それを進めていく。
『“[廃神社跡 ダンジョン]”へ テレポートしますか?』
「――ラティア、手を」
左手を前に出し、ラティアを呼ぶ。
「は、はい!!」
ラティアはそれに従うように、両手を重ねた。
それを確認し、俺は画面上の“はい”を選択。
すると――
「うっ――」
「キャ――」
DDから、俺たちを包み込むようにして眩い光が放たれる。
それに堪らず目を瞑った。
瞬間、奇妙な浮遊感を覚える。
だがそれは1秒にも満たないもので、直ぐに地面に足が着く。
眩さが薄れ、恐る恐るその目を開けると――
「ここは――」
「――どうやら、移転、したらしいな」
――俺だけが知る、あの1週間前に訪れた最初のダンジョンにいた。