86.これでも必死で演じてるんです、こっちも!
すいません、ちょっと明日の更新はお休みすると思います。
後、感想の返しはお昼ごろになるかと。
ではどうぞ。
「――へ? 何のキャラか、ですか? あれは……」
灰グラスが単なるダサい伊達と化し、ルオ達の傍まで戻って来て。
俺は一番詳しいだろうラティアに、先ほど見たあのコスプレの元ネタを聞いてみた。
撮った写真を確認していたラティアは顔を上げ、俺が指さした方を眺めて記憶を呼び起こす。
「ああ、“御厨ミレイ”という名の、言うなれば御嬢様キャラですね」
ラティアが言うには、お色気メインの青年向けマンガに出てくるキャラらしい。
「正統派ヒロインを勝手にライバル視していて、悉く突っかかるトラブルメーカー的な存在で……」
そのマンガのヒロインに何とか勝とうとしている内に、ヒロインにとって主人公が特別な存在であると気付く、と。
それで、主人公を奪ってやろうと様々な方法で誘惑するところが、かなり青少年らには受けているらしい。
……むむ、そんなマンガ、知らなかったな。
だがまだそのキャラの説明には続きがあるようで……。
「最初こそ単なるお色気要因だったんですが、ある一件をきっかけにして、ヒロインクラスにまで格上げされた、意外に人気があるキャラなんですよ」
「へぇぇぇ……」
ラティアがかなり好意的に話していることからしても。
そして再び遠目に見たあそこの熱狂ぶりからしても。
そのキャラがちゃんと愛されているんだな、としみじみ感じた。
「最初こそただヒロインに勝ちたかっただけで誘惑していたけれど……主人公に助けられて、本当の恋心を知って……そこからのアタックがいじらしかったり、はたまた過激なものだったりで、ちょっと変わったところもあるものの、とっても可愛い娘なんです!」
……そこまで熱弁するんなら、俺も読んでみようかな。
「……フフッ」
ラティアのその“獲物がかかりました!”的な笑みがちょっと怖いけど……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『――本日は当イベントにご参加いただき、誠にありがとうございました!』
スピーカーを通して、イベント終了の放送が流れる。
更衣室の利用時間や、ゴミの持ち帰りのお願いなど、事務的なお知らせが続く。
『――また、開催予定日は未定ながら、第2回イベントにて探索士アイドル“シーク・ラヴ”のメンバー“逸見六花さん”、“飯野美洋さん”、“赤星颯さん”の参加が決定いたしました!』
こういう広い公園だとそれぞれ参加者は色んな所に散らばっているものだが、どこからともなく「おぉぉぉ……」という驚きの声とともに、一斉に拍手が起こった。
へぇぇ。
次回やるときは赤星も参加するのか。
『コスプレ衣装でのトークイベントなども企画中です。次回開催の折には、是非また奮ってご参加下さい!』
「ハヤテもコスプレするんだ……」
リヴィルも俺と同じことが気になったようだ。
赤星が何かのコスプレをした姿を想像して、ちょっと可笑しそうにクスッと笑っている。
それは別に赤星がコスプレをするのは変だ、という意味ではなく。
「あんまり想像できないな……赤星って、アニメとかマンガとか見るイメージ無いし」
「だね。まあハヤテはスタイルも容姿も良いから、大体の物は似合うと思うけど」
やはりリヴィルもどういう風になるのか想像がつかず、その予想する行為自体を楽しんでいる、そんな感じだった。
「――まっ、それはいい。俺たちはゴミ拾いでもして時間潰しとこうか」
ルオは着替えも含めたストックの交換のために、個室のある女子トイレに向かった。
ラティアは念のための付き添いだ。
なので、今は俺とリヴィル二人で、ルオ達を待っている。
「ん。じゃ、行こっか」
「おう」
周りは自分達の物ではないにしても、自主的にゴミ拾いや片付けを手伝っている。
俺たちもどうせ二人を待つ間暇だし、ゴミ拾いに助力しようということになった。
「――マスター、あれ」
「ん?」
短いながらも緊張感を含んだ声で、リヴィルが俺を呼ぶ。
大勢に紛れて皆で、というのは流石に苦手なので、俺たちはあまり他の人がやらないだろう場所に来ていた。
リヴィルが指差す先を見てみると、人通りが更にグッと少なくなる体育館と施設の間。
そこで、人が揉めているような感じが見て取れた。
それを確認した途端、身を潜められる場へとリヴィルに引っ張られる。
「――嫌よ!!」
そこから窺うようにして顔をちょこっと出すと、女性の悲鳴にも似た声が聞こえた。
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「ちょっと――堀田さん!! 堀田さん、助けてっ!!」
「えへ、えへへ……」
「強気な、ところも……ミレイ様そっくり!」
「本当は、それも、僕らを好きだけど、素直になれない、だけだよね?」
大中小3人の凸凹な男達が、女性を壁際に追い詰めるようにして立ち塞がっていた。
そしてその女性は恐らくあのコスプレをした白瀬。
おいおいおい……。
明らかに不穏な空気漂う現場。
隣にいるリヴィルも見て分かるくらいに顔を険しくしている。
「……あれ、大丈夫? あの子、あの鬼ごっこで逃走成功した子でしょ、探索士の」
俺はこんな状況にも関わらず、驚きで思わずリヴィルの顔をまじまじと見てしまった。
「え……分かんのか?」
「うん。何となく……纏ってるオーラみたいなものが同じ、だから」
「ああ……」
リヴィルは“導力”なんていう特殊なエネルギーの扱いに優れているからか。
そう言った他者の雰囲気とか、気配みたいな物の察知にはかなり敏感だった。
でも、あの白瀬って奴はライブの時に一度、それとテレビ越しくらいでしかまともに見てないはずなのに……。
「――きゃっ……!?」
「へへ、へへへ……あんまり、大声出しちゃうと、よく、ないよ?」
「でも、その嫌がる素振りも、僕らをその気にさせるため、だよね? これは僕らのオフ会だよオフ会……ふへへ、ふへへへ……」
もう見ていられない!
そうして今正に飛び出そうとした、その時――
「さぁ、早く!! 早く僕たちを、その鞭で引っ叩いて!」
「手加減抜きで!!」
「痕が残るくらいに!!」
――3人は一斉にその尻を、白瀬に向けたのだった。
…………。
3人組が今にも襲い掛かるのではないかと冷や冷やしてたのに……。
――さっきまでのシリアスな空気返せ!!
はぁぁ、心配しまくって損した。
ただ、当人としてはやはり困惑する状況は続いているようで。
「で、出来るわけないでしょ! そんなこと!!」
まあ、そうなるわな……。
「へへ、へへへ……嫌よ嫌よも、好きの内、だよん」
「はぁ、はぁ……その蔑む視線も、堪らん!!」
「僕らに、エデンを! 天国を見せてください!!」
……もう何を言ってるのか良く分からなくなってきた。
俺も、助けた方が良いっぽいとは思うものの、ちょっと自信を無くしてくる。
「――私に、良い考えがある。任せて」
端的にリヴィルはそう言ってくれる。
俺が何か伝えなくても、俺のその考えを読み取ってくれたらしい。
クッ……リヴィル、何て頼りになるんだ、全く!!
「じゃ……行くよ――」
そう言って、リヴィルは……え!?
「ちょ、え、リヴィルさん? 何で真正面から抱き着いて――」
「――あんっ、あっ、ダメ、こんなところで、他の人来ちゃうっ」
しかも俺の耳元で、大声で色っぽい声出してる!?
いや、意図は分かった、分かったけどさ……。
「も、もう……胸、ばっかり触って……あっ、んっ、上手、なんだから……」
※注:一切俺の手はリヴィルに触れていません。
しかし、リヴィルがこんな逆セクハラめいた恥ずかしいことを、あえて大声で口にする理由は、一つしかない。
リヴィルだけにこんなことをさせるわけにはいかないと、ヤケクソ気味に俺も声を出す。
「グヘヘ……もうここが、こんなにもグチョビチョじゃねえか、お前も期待してんだろ?」
※注:俺が持つ精一杯の語彙を駆使しています。
……ってか“グチョビチョ”ってなんだ、アホか俺は。
「――っ!! ヤバい、人が来た!?」
「くっ、もう、ちょっと――」
「バカッ――」
3人はリヴィルの思惑通り、俺たちという他者の存在に気づき、慌ててその場を立ち去りだした。
……まあ、今回はリヴィルの機転についてはツッコまないでおこう。
俺の恥部を穿り返すことにも繋がるからな。
そして本当にタイミング良く――
「ったく、あいつ、一体どこに……こっちから何か眩い輝きと共にトラウマを抉るような声がしたが――って、おいっ、お前ら、何やってんだ!?」
「あっ堀田さん!? コイツ等が私にいやらしいことを――」
別の通路から男性が一人、走って来た。
何か見たことあるようなないような……。
そんなスーツ姿の男性は、どうやら白瀬の知り合いなようで、状況を瞬時に理解。
その表情を怒りへと変えていた。
3人は観念したように力なくうなだれる。
……意外にあっさりだったな。
「…………さっ、戻るか」
後はもう大丈夫だろう。
ラティアとルオも、もう戻ってるかもしれないしな。
そう判断し、俺はリヴィルに声をかけた。
「……ん」
リヴィルはあっさりと俺の体から離れ、さっさと歩きだしてしまう。
……これ、俺の方が恥ずかしかったわ。
クソッ、何か納得いかないものがある。
……帰り、ちょっとグレープフルーツのジュースでも買って帰ろう。
□◆□◆Another View ◆□◆□
「ったく……コスプレイベントに付いて来てって言われて来たら、まさかこんなことになるなんて……」
帰りの車内にて。
白瀬を家へと送るために運転する堀田は、呆れたようにそう呟く。
その後、彼女自身の話と意見を聞いた上で、彼は厳重注意だけで終わらせることに決めた。
本当に白瀬へと暴行を働こうとしたのならその限りではなかったが、内容が内容だけに、何とも言い辛い所もあったのだ。
「…………」
一方で被害者たる白瀬本人はそれらの独り言には一切反応しなかった。
着替え終え、白瀬自身の姿そのままの彼女は、物憂げに窓の外を眺め続けている。
ふと、彼女は気になったことがあり、顔は外を向いたまま、堀田に尋ねる。
「ねぇ……堀田さんが気づいてくれたのって……声が聞こえたから?」
「ん? あぁ……何かどうにも無視できない聞き覚えのある声がしてな、それでその声の方に向かってみたら、ああだったわけだ」
「…………それって、エッチなDVDの見過ぎじゃないかしら」
「ばっか! おま、俺はな、これでも日々忙しすぎて――」
堀田が次々と口にする言い訳を聞き流し、白瀬は思案する。
たまたまカップルが私の困っている側まで来て、情事を初めて、都合よく私は解放された。
――流石に無いわ、そんな虫のいい話。じゃあ一体……。
白瀬は考える。
どういうことか、なぜ、あんなことになったのかを。
――もしかして……私のために!? 私のために、誰かがカップルのフリをして、助けてくれた!?
「そうよ、それ以外考えられないわ……」
白瀬はもうこの結論の他にはないと思った。
――だって男の人の声、あまりにも演技染みてたもの。
「え、じゃあ……もしかして、私を助けるためだけに……っ!!」
そこまで想像して、白瀬の頬は真っ赤に染まる。
頭に浮かぶのは、先ほどまで自分が身に纏っていたキャラクター。
今まで傲慢に振舞っていたが、それが全て跳ね返って来たかのようなピンチに陥り。
それを主人公が颯爽と助けてくれて……。
恋を知り、誰かを想うことがこんなにも切なく、尊いものだと教えてくれた。
アニメやマンガ、そしてコスプレを大好きになったきっかけをくれた、そんな自分になくてはならないキャラクター。
「これじゃあ……まるで、私が“ミレイ”じゃない……」
乙女の妄想は止まらない。
未だその姿さえ見ていない男相手に、自分は懸想しているのかもしれないという事実も。
ぼそぼそ呟く白瀬が気になって、堀田が中々運転に集中できないなんてことも。
そもそも女性の方は無視して、なぜ男性に助けてもらったことだけに強く焦点があてられるのかなんてことも。
乙女の前では意味を成さないのだ。
「……必ず、見つけるわ……私の“ハー”君」
そのマンガの主人公の名前“春樹”から来た呼び名を、白瀬は切なげに、しかし決意に満ちた声で呟いた。
……色々なことを見逃していることすら、気づかぬままに。
□◆□◆Another View End◆□◆□
気づかぬうちに、300万PVを超えていましたね!
ありがとうございます。
ちゃんと更新を頑張っていれば、PVって結構安定するもんなんですね、いや有難いです!
次話はおそらくダンジョン関連に入れると思います、感想の返しもそうですが、今しばらくお待ちください!!




