85.誰しもが、別の誰かを演じている……ルオだけじゃなくて!
ストーリー的に少しでも前に進めるために、ルオ関連+別の方向をちょっと掘り下げました。
次話で多分終わらせて、ダンジョン関連の話に入ると思いますので。
とりあえずどうぞ!
「――じゃ、ご主人、今までの成果を見せるよ!」
「……おう」
張り切っているルオに反して、俺の気分は何とも言えない微妙なものだった。
ではそれは何故かというと、ルオが新たに【影絵】で作ったというストックに、その原因があるのだ。
「ムムッ!!――」
目を左右対称のくの字にして力み、体を真っ黒な影に覆わせる。
【影重】に入ったルオを眺めながら、俺は今日これから向かうイベントについて考えていた。
志木が経営に関わっているというアパレル関連の会社が企画した、ちょっとしたコスプレの撮影会。
今後ダンジョンに関わる人は増えていき、産業としても伸びていくと予想。
既存の服装とは一線を画すものが、その制服などに用いられるだろう。
なので、コスプレなどにも手を広げて関わっていくことで、自分達の出来ることを増やそうという挑戦的・実験的なものだった。
「にょわぁぁぁ!!――……どう、ご主人?」
奇声を上げながら、ストックを切り替えたルオは、今や別の姿へと変わっていた。
背は伸び、髪も黒く長くなって、清楚な女性の外見そのものだ。
「……ん~。絶妙に似ているな」
俺はいつものことながら、背丈の合わなくなった衣服には目を向けず。
そのように思ったことを口にする。
俺は“瓜二つ”という元と見分けがつかないみたいな表現ではなく。
“上手い具合に”や“丁度いい感じで”というニュアンスを用いた。
「う~ん……まあ、仕方ないよ。再現しようとしてまだ1週間だし、それに“実在の人”じゃないから」
口調はルオそのままに、だが溌剌としたものではなく、透き通るような声でルオはそう応じた。
そう、ルオが再現したのは、ちょっと過激なことで有名な青年向けアニメの、御嬢様キャラだったのだ。
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場所は移って、電車を乗り継ぎ、県の有する大きな公園内まで来た。
このイベントの参加者が貸し切っているわけではないので、一般の人達も運動で汗を流している姿が見られる。
そんな中、既に撮影会は始まっていて……。
「うわぁぁ、凄い凄い!!“弓子ちゃん”そっくりですよ!! あっ、こっち視線お願いします!!」
「あっ、こっちも! くぅぅぅ~! そのエッチな目に遭ってるのに、それがどんな感情か上手く自分で消化できてない羞恥の顔、凄く上手いです!!」
「えへへ……“あ、あの……私、今一体どうなっているのでしょうか?”」
遊具だったり、あるいは芝生の上など。
中にはレンガ造りの壁など様々な場所をスポットに使い、各々自由に撮影を進行していく。
キャラになり切ってセリフまでサービスするルオに、周りは一気にシャッターを切る。
結構人気だな……。
まあ、実際、ルオはそのキャラに見た目からしてかなり似ていた。
だがそれが完璧に、鏡に映ったように、というところまで似ていないのが肝なのだろう。
ルオの【影絵】はその対象を知り、理解することで再現していく。
その過程で、実在しないアニメのキャラだとどうしても理解しようとする時に得られる情報が限られてしまう。
だから再現度はどうしても落ちてしまうのだが……。
「凄っ! “シーズンズ”の衣装も合わさって、えちえち度が半端ない!!」
「もうYouそこらで百合っちゃいなYO~!」
……ははは。
逆にそのちょっと再現できてない部分もある感じが、かえって上手くハマったのだろう。
今回イベントを企画して、コスプレ衣装の製作・貸し出しまでやったんだ、“シーズンズ”もいい宣伝になっているに違いない。
志木もさぞ嬉しいだろうさ。
まあ、俺たちは今回志木がどうとかではなく、普通にルオが参加したくて参加したみたいな感じだからな。
普段中々作れない分、3人との時間を楽しませてもらおう。
「――あ、すいません。お姉さん、こちらもよろしいですか?」
「ゴメン、こっちもお願いしてもいい?」
「……いや、勿論いいんですけど、お姉さんたちの方がよっぽど写真映り良いんじゃ……」
…………。
ラティアとリヴィルは、ダサい変装をしていてもやっぱり映えるんだろうな……。
二人は男物の帽子と丸眼鏡をかけて、そこから首にカメラを提げていた。
衣装は俺ので、カメラについては親父のものだ。
俺が15になったら譲ってくれると言っていたにもかかわらず、引き出しで眠っていたので、引っ張り出してきた。
そんな装備にも関わらずレイヤーの人が気遣う程なんだ、二人の素材の良さは相当な物なんだろう。
「――ふぅぅぅ……ちょっと疲れちゃった」
一通り撮影が終わったのかルオが深く息を吐きながらこちらに向かってきた。
まあ、ずっと動かず一定のポーズを要求されるってのも、それはそれでしんどいんだろう。
「フフッ、まだマシな方ですよ? 彼氏さんが目を光らせてるから、男性も無理な撮影しようとしないし……」
初めて参加するルオを気遣って色々教えてくれた親切なお姉さんが、誤解してそう言っているのが耳に届いた。
……いや、ちゃうねんけど。
だがここで顔を真っ赤にして立ち上がり、慌てて否定するのはいかにも揶揄われそうな反応になってしまう。
俺は意識せず、腰かけている石段に視線を落とす。
そして、灰グラスを懐から取り出した。
「へぇぇ……――あれっ、どうしたの?」
「ちょっとだけ姿を消すが、心配しなくても大丈夫だから」
傍まで戻って来たルオが、俺の取り出したものに気づいて一瞬緊張したように体をこわばらせる。
だが特に心配する必要はないと手短に伝えると、ルオも安心したように頷いた。
普段“灰グラス”は戦闘面だとか、潜入面だとか。
主に姿を消すことを目的として使用するが、今回は別だ。
これをかけて1分経てば、効果は消え、単なるダサいサングラスとしての意味しか残らない。
しかし今日はこれでいいのだ。
あまり目立ちたくないからな。
俺は隣で休み始めたルオを横目に、灰グラスを装着した。
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姿を消したからと言って特に驚かれることもなく。
というより、認識から外れる前の俺に意識を向けていなければ、“消えた!?”と思うことすらないからな。
まっ、1分後はちょっと気を付ける必要はあるだろうが、それまでちょっとブラブラしてるか……。
そうして立ち上がり。
ルオや、近くで撮影しているラティア・リヴィルからそこまで離れない程度に歩く。
1分だ、大して遠くまで行けるわけでもない、せいぜいが80~100mくらいだ。
「――うっおぉぉぉ! “ミレイ様”!! 素敵です!!」
「こっち! こっちにそのご尊顔を!!」
「凄ぇぇぇ! 恥らいながらもS気を見せる! “ミレイ様”の完成度マジ高ぇぇよ!!」
近くで、また別のレイヤーさんが目に入った。
多くの男性に囲まれ、様々なポーズをとっている所を撮影されている。
誰に聞かせるでもないが、俺は純粋にその見た目に感嘆の声を漏らす。
「へぇぇ……確かに、えらいレベル高いな……」
長い金髪のウィッグを付けて、容姿も申し分ないその女性はとりわけ際どい衣装を身に纏い、大胆で挑発的なポーズをとっていた。
周りの男性達の中には純粋に撮影を楽しんでいる人も勿論いるだろうが。
その際どい衣装、女性的・魅惑的な身体つき目当ての者も、やはり混じっているようで……。
「カメラ越しでも、鼻の下伸ばしてるのバレバレだろう、あれじゃあ……」
そんな他人事みたいなことを呟き、ボーっとする。
だが、何故かここでふと、特に意味は無かったのだが。
俺はどういう訳か、“灰グラス”の副次的効果で、彼女のステータスを見てしまった。
意識したわけではないが、何か魔が差したのだろうか、ちょっとした1分の時間つぶしのつもりだったのだろうか。
――だが、俺は、見て、しまったのだ……。
[Ⅰステータス]
名前:白瀬飛鳥
種族:人間
性別:女性
年齢:16歳
ジョブ:――
[Ⅱ能力]
Lv.1
体力:23/23
力:11
魔力:0
タフ:17
敏捷:12
[Ⅲスキル]
無し
[Ⅳ装備]
頭:ウィッグ(金色)
胸:パッド(大)
上下:ボンテージ(黒)
手:鞭
「…………」
俺はサッと目を閉じ。
そして、目頭を優しく揉み解した。
5秒後、目を開き、見間違いでないことを確認。
「……戻ろう」
そっと、その場を後にしたのだった。
ちょっとでもルオの能力を具体化して説明できればと思っていたのですが、別のことが気になったなんて方はいませんよね?
世の中には、自分を偽らないといけない場面も……あるんです。
皆さん、知ってしまったとしても、ツッコんではいけないことも多分、あるんですよ。
見ていないフリをしてあげましょう!




