84.ルオォォォォ!! ラティアァァァ!! ……やべぇ、今日の俺、叫んでばっかだ。
お待たせしました。
ちょっと時間がかかってしまいましたが、何とか。
ではどうぞ。
「「…………」」
シルレの大まかな話を聞いて、俺とラティアは言葉が出なかった。
それ自体をルオから直接聞いたことがあったわけではないので、これでざっくりとした絵を頭に描くしかないが……。
これは……かなり重い。
『普段から私も気を付けているつもりですが、そうですか……“勇者”が仇に……』
『なるほど、ですからシルレ様は彼女を、カンナ様に引き合わせようとはなさらなかったと』
説明を終えたシルレはそれ以降多くを語らず、ただサラの言葉に頷きをもって返答とする。
ルオの故郷と思われる場所は、勇者に急襲された。
その統治者たる魔王を逃がすため、おそらくルオの親が魔王の影武者を務めたのだ。
そのおかげで今もその魔王は生き永らえているが、親の消息は不明。
うーむ……。
それに、あのルオ自身の姿。
ルオから、あのハーフドワーフのベース姿は他のどのストックよりも大事なものだと、簡単にだが聞いている。
何でも“大切な、とても大切な友達の姿で、でも、その友達自体は勇者に殺されちゃった……”と。
「とすると……織部とルオを引き合わせるのは、控えた方が良いかもしれないな」
「仮に顔合わせするにしても……カンナ様が“勇者”であるということは、ルオには告げない方が無難でしょうね」
俺とラティアは直ぐ様、今後の方針を話し合う。
この二つが重なると、もう勇者に対して良い印象なんて抱けないだろう。
そんな過去を抱えたルオが、もし勇者である織部と会ってしまったら……。
何が起こるか、想像もつかないからな。
『私以外にも勇者がいて、その勇者が魔王を倒そうと行動している――それが、想定の中に無かったというわけではないのですが……』
織部はここにはいないルオのことを想ってくれているのか、とても苦しそうに呟く。
『……大丈夫ですよ、カンナ様。私達はそもそも魔王を倒すことを目的とはしていません。それに、カンナ様はちゃんと気高く、誇りをもって行動していらっしゃるじゃないですか』
サラに励まされ、今まで辿って来た自分の歩みを思い出してか。
織部の表情は次第に回復していく。
『……ですね。私も、こちらに呼ばれた際に“この世界を救ってくれ”とは言われましたが、“魔王を倒してくれ”とは一言も聞かされませんでした』
自分に言い聞かせるように。
自分自身を鼓舞するように。
織部は何度も繰り返し呟いて、ようやく元気な笑みを見せた。
……うん、大丈夫そうだな。
「とりあえず、織部にはスマンが。ルオとの顔合わせはもう少し状況を見てからになると思う」
『いえ、事情が事情ですから、私もそれで問題ありません』
よし。
とりあえずはそんなところか。
互いに報告し合うことも伝え終え。
少し緊張が解け、ゆったりとした緩んだ空気が漂う。
ホッと一息、そんな時だった――
――ドタドタドタ
凄い勢いで階段を駆け上がってくる足音が近づいてくる。
えっ、これは――
「――ご主人ッ!!」
ガバッと勢いよく開けられた部屋のドア。
そこに顔を表したのは、今正に話題に上がっていた当人――ルオその人だったのだ。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「ル、ルオ? どしたっぽい、何かあったっぽい?」
やべぇ、ちょっと口調が不安定。
俺が二階に上がるまで、リヴィル達が見ていた録画のアニメに影響されてるっぽい。
俺はどちらかというと提督の方なんだが……。
「ご主人、てやっ!――」
「うぉっつ」
突如、何の前触れもなく。
そのまま俺へ向けてダイビングしてきたルオを、バランスを崩しながら抱きとめる。
ドキッと胸が跳ねあがるのを感じた。
ヤバいヤバいヤバい……。
いや、ルオと密着してるからとか。
こんなに柔らかくて、フニフニな女の子らしい体を抱きとめているからとかじゃなくて……。
――何でこのタイミングゥゥゥゥ!?
「えへへ……コホンッ――“いたた、もう、どこ見て歩いてるの!? 学校に遅刻しちゃうじゃない!”」
ルオらしくない、棒読みなセリフを耳にし、更に俺は固まってしまう。
そんなことはお構いなしに、ルオは俺の胸に体重を預け、また聞こえるような独り言を呟く。
「“あっ……コイツ、私のために、体張ってくれたんだ……いつもは私のことなんかぞんざいに扱う癖に…………ばか”」
「えーっと……」
ルオの良く分からない態度に困惑しっぱなしでいると、丁度そこに救いの声が届いたのだった。
「――あっ、もう……ルオ、マスターたちの邪魔しちゃダメじゃん……」
おおっ、リヴィル!!
開け放たれたままのドア前には、呆れたような顔でいるリヴィルの姿があった。
どうやらルオの後を追って二階へと来てくれたらしい。
「えへへ……ゴメンなさい」
「ゴメンね、マスター、ラティア。なんか、見てたアニメの“ラブコメ”? の展開に刺激されたみたいでさ」
なるほど、そういうことね。
だがこの混乱はむしろナイスだ。
この隙に乗じて、織部も退散してくれて――
『――あわ、あわあわ……どうしましょう』
全然ダメだったぁぁぁぁ!!
お前何してんの!?
何で画面前でそんな右往左往してんだよ!
普通に撤退してくれてれば上手く収めたのに!!
「――ところで、さ。ご主人、その人達、誰?」
ほらぁぁぁぁぁ!!
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「えっと、その、な?」
矛先がルオの知らない人物、画面向こうにいる織部とサラの二人へと変わってしまう。
何とか誤魔化せないかと頭を巡らせていると、ルオの好奇心が完全にドアップでいた織部へと向いてしまった。
「シルレのお姉ちゃんと知り合いみたいだし、ご主人と髪色が一緒……あっ! もしかしてご主人と同郷の人とか!?」
しめた!!
そう思ったのは俺だけではないだろう。
状況を掴めず疑問符を浮かべているリヴィル――ではなく。
――ラティアが、ニヤリとした笑みを浮かべ、飄々と述べたのだった。
「そうなんですよ、カンナ様と言って、ご主人様とは特別な協力関係を築かれているコチラの世界の方だそうですよ?」
“これで良いんですよね?”というラティアの視線に、俺は初めて黒ラティアの心強さを実感した。
クッ、流石っスラティアさん、パねえっス!
俺は小さく頷いて、その波に乗ることにした。
「いつも織部に、色々送ってるんだ。こっちはこっちで情報を貰うこともあるから、いい関係を保ててると思うよ」
嘘ではないので、罪悪感も薄い。
スマンな、ルオよ。
大人の厳しさやズルさを、今のうちに体感しておいてくれたまえ!
「へぇぇ……」
俺とラティアの話を聞き、納得気に頷くルオ。
フフフ……。
だが、話はこれで終わらないようで――
「ご主人は、普段、何を送っているの?」
ん?
何でそんなことが気に何だろう……。
「だって、何かボクが来てから、皆ちょっとコソコソしてたように感じたから……」
ドキッ。
鋭い、最近の女の子は皆鋭過ぎるぞ。
この先、まだ何を言うんだろうと、固唾を飲んでいると……。
「もしかして……何か人には言い辛いエッチな物でも送ってるの!?」
……はぁぁ。
なんだ、それは別に答えても支障はない。
そう思って“俺が答えるから”的な視線を送ると、またラティアがにやりと笑う。
あっ――そう思っても、時既に遅し。
「そうなんです! ね、カンナ様!?」
ラティアァァァァ!?
いやいやいや、それは無茶だろう!?
いくら織部が勇者であるということからルオの目を逸らすってことでも!
『えーっと……――はい! そうなんです、ちょっと過激なものを! いつもいつも、新海君にはお世話になってます!!』
それでいいのか織部ぇぇぇぇぇぇぇ!!
しかもここで“お世話になってます”だとちょっと意味が違ってくるぞぉぉぉぉ!?
お前意味分かって言ってないだろ!?
何かこの場を凌ぐ為、ルオにバレないために勢いで言ってる感プンプンすんぞ!!
もう知らん!
織部、お前が乗っかったんだからな!
「毎回毎回、俺が選ばないといけなくてちょっと恥ずかしい思いもしてるんだ……全く、困ったもんだぜ」
「もう、ご主人ったら……ご主人がそっちのことで困ることがあれば、その、ラティアお姉ちゃんや、リヴィルお姉ちゃん、それに、ボクもいるから……ね?」
ハッとする。
そのルオの、モジモジとしながらも。
懸命に伝えたという感じの言葉を受けて。
誰が一番得したか、ということに気づいてしまった。
勿論それは俺じゃない。
チラッとその相手の表情を覗き見ると――
「――フフッ」
――ラティアァァァァァ!!
ルオの関心が一時的にとはいえ、織部から外れたことは喜ぶべきことなのかもしれないが。
ニヤッと微笑む誰かさんの掌の上で踊っていたのだと分かると、何とも言えない気分にさせられたのだった……。
一応これで織部さん達とのお話回は終わりです。
次回は多分ダンジョン関連の話、かな……。
それか別の話を入れるかも……。
織部さん達が次の町に向かうのは少しだけ先になるので。
感想の返しはこの後行うので、後少しだけお待ちください!
皆さん、体調面は大丈夫ですか?
手洗いうがいは勿論、やはり睡眠を出来るだけとって、体力はしっかりつけておいた方がいいですね。
私もしっかり休ませていただいてますので、今のところは問題ないです。
体に気を付けて、小説を楽しんで下されば幸いです。




