82.平ら・なだらかなこと――それは足腰に優しいことを意味する……色んな意味でな!!
ふぃぃぃ。
お待たせしました。
ではどうぞ!!
『第一期研究生のオーディション進行中です! えーっと、それと……あっ! それにもう合格者や研究留学生も何人か決まってて……』
立てかけているスマホには、ネット配信で見られる先日の特番の再放送が流れていた。
エンディングに入っているので、画面下ではスタッフやナレーション役など携わった人々の名前が映っている。
『ちょっと逆井さん退いてっ――はい! 男性探索士アイドルの企画も順調に進んでますよ! 皆さん、今後も是非とも私、白瀬飛鳥を筆頭としたシーク・ラヴの応援を――』
『もう! “しらすん”邪魔!――えへへ! 今回の鬼ごっこでも見てもらった通り、結構運動も頑張れるんで、ダンジョン攻略とか、モンスターとか、安心して大丈夫――』
その後も画面では二人が中央を争いながら、PRを行う姿がしばらく続いた。
だがそうした中でも、画面右上のタイマーはずっと進行していて……。
『動画投稿サイトでも私達の活躍が――』
そこで、逆井の言葉はブツッと途切れる。
頭上から垂れ幕が降りてきて、“PR終了!!”という文字だけが、画面を支配した。
そして、最後もう一人の逃亡成功者がするPRへと移ったのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
俺はそこでスマホを切り替える。
画面を操作してホームに戻し、俺自身も視線を移した。
そこには別のディスプレイの画面越しに、苦笑気味の表情で俺を見る少女の姿が。
「――どうだ、逆井の奴、随分余裕そうだったろ? “織部”」
『ですね……一先ずホッとしました……』
言葉通り胸を撫で下ろすように息を吐く。
今回織部と通信を繋いだのは、定期報告という意味もあったが。
それ以上に、以前逆井へ秘密裏に送ったボイスレコーダーの件を伝えておきたかったのだ。
この特番の撮影日が何時なのかは分からないが、少なくとも逆井が元気でやっていて。
そしてボイスレコーダーの贈り物自体は上手くいったと分かって、織部は随分安堵したようだった。
暫く、無言ながらも安心した余韻のような時間が流れる。
その後は直ぐに表情を改め、可笑しそうに先ほどの感想回へと突入した。
『――それにしても、この鬼ごっこ、意外ですね。新海君から聞いて来た話だと、てっきり桜田さんと梨愛が逃げ切るものとばかり』
織部の驚きはもっともだと思う。
桜田は曲がりなりにも志木や逆井と同じく、モンスターの討伐経験を有している。
それ故に、普通の探索士よりも身体能力におけるアドバンテージはあるはずなのだ。
だが、まあゲームということもあって、そう簡単な話ではなかったのだが。
「ミッション中、白瀬って奴が逃げるために、完全に裏切って桜田を囮にしたからな」
俺は呆れながらも先日4人で見た内容を思い出す。
時折ミッションと呼ばれるものが発生し、それに取り組むか否かは逃走者の意思に任せられる。
だが番組を盛り上げるためにも、そして成功時のPR時間追加ゲットのためにも、参加する人が多かった。
そのミッション中、鬼に見つかった白瀬が普通に同じグループのメンバーである桜田を囮に使って逃げおおせたのだ。
『“ありがとう、桜田さん! 貴方の献身は忘れないわ!”でしたか……黄色い鬼に肩を叩かれたときの桜田さん、ポカーンとしてましたね』
織部の言う通り、まさかメンバーに裏切られるとは思わなかった桜田は口をあんぐりさせていた。
「番組自体も盛り上がったようだが、ネットでも凄かったぞ……」
そう言いながら素早くスマホを操作し、手近な掲示板を検索。
ザッと見て行くと、色んな書き込みがなされていた。
“ヤベェ……仲間割れ”
“仲間を踏み台にして生き残るスタイル、嫌いじゃないw”
“おいおい、テレビ的には面白いが、チームワーク大丈夫か!? あの子らに国防の一端任せていいの!?”
“知刃矢ちゃん、鬼ヶ島牢獄コーナーでの気遣われっぷり半端ないw”
“他の共演者陣も気まずくて、腫れ物に触れる感、凄いもんな”
『――フフッ』
目についたものを読み上げていくと、織部は先ほどの場面を思い出したのか、面白そうに声を上げる。
“ただ、知刃矢ちゃん自身もテレビに沢山映れて、まんざらでもなさそう”
“それで満足して、復活チャンス逃しちゃったんだよな……後日、そのことで花織様に大目玉食らったそうな”
「へぇぇ……」
『そんな裏話が……』
こうして他愛のない話をして、織部が自然に笑う様子を見ていると、つくづく思う。
逆井へボイスレコーダーを贈ったのが、随分効いているんだろうなぁ。
織部のメンタル面が良くなれば、今後異世界での活動もよりスムーズに進むことになるだろう。
それはひいては織部が帰ってくることを早めることにも。
そして俺がこちら側で、出来る行動が増えることにも繋がる。
うん、やってよかったな……。
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そうして何でもない会話を少しの間続けていると。
唐突に織部がいる部屋のドアが開く。
『――カンナ様、お先にお風呂、頂きました』
『カンナ、今あがったぞ!』
そこから入って来たのは、しっとりと濡れた髪を優しく拭くエルフのサラと。
そして火照った体をかなり簡素な部屋着で冷ましている、領主で“五剣姫”の一人であるシルレだった。
二人ともきちんと衣服を身に纏っているものの、その湯上り姿はどこか艶っぽく、女性としての色気を感じさせる。
『あっ――ニイミ、様……』
『何だ、ニイミと話し中だったのか……』
どこか恥ずかしそうにそわそわとするサラ。
シルレは気にした様子こそなさそうなものの、サラよりも肌の露出が多く、自然目のやり場に困る。
『…………』
「……何だ、織部」
そんな中、凄く物言いたげな視線で、俺を睨みつけてくる織部。
俺は俺で、特にやましいことはないんだぞとそしらぬ顔をしてやる。
根負けしたのか、織部は胸を上下させる程に大きく溜息を吐いた。
……ふむ。
『新海君? 何ですか、何か言いたいことでも?』
今度は圧を持って逆に織部から攻めてきた。
「いや? 何も?」
『嘘ですね……新海君の目が、雄弁に物語っています!“織部め、深呼吸や溜息をしないと分からないペッタンなパッド胸の癖に、いっちょ前に巨乳に嫉妬かよ”と――って、誰が餅つきにいたら嬉しい胸ですか!?』
「誤解と曲解が酷い!? そしてそんなこと言ってない!!」
何言ってんだ、流石にそこまで思ってねえよ!
ペッタンを自分で引き摺り過ぎだ!!
『良いんです、貧乳派は無乳派と連立を組んで、巨乳派に対抗しないと直ぐに潰される弱小だってわかってますから……普乳層の流動票を狙って、もっと積極的にちっぱいアピールを――』
ヤバい、何か呪詛みたいにブツブツ呟きだした!
逆井関連の話をしていた時のあの目の透き通りがどんどん濁っていく!?
『……何だ、カンナがこんなになるのも珍しいな』
あまりこの状態の織部を見ないからか、シルレは不思議そうに呟いた。
「ああ、まあな……すまん、サラ、頼めるか?」
それには適当に返事をし、サラにそう伝える。
『……はい、少々お待ち下さい』
もう慣れましたと言わんばかりのサラの手早さもあって。
会話に復帰できる状態へと戻ったのは、3分程経ってからだった。
織部さん達とのお話回です。
小さいのにも、需要は確かにあると思います、強く生きてください……。
次回はもうちょっと話の中身の方に入りますかね。
後、皆さんも体調面は本当にお気を付けください。
手洗いうがい、効果が怪しいと思っていても、少しでもやっといた方が無難かと。
今日は以降の活動も切り上げて、私も早めに寝ることにします。
読んでいただけて、そしてご声援頂けて本当に嬉しいですが、体を壊しては元も子もないんで。




