81.逃げて!! 皆超逃げて!!
やっとダンジョン攻略が終わったので、ちょっと一休みみたいなお話しです。
ではどうぞ。
「はぁぁ……ようやく帰って来た」
あの後皆疲れもあったので、折角だからと【ダンジョン脱出】を500DPで交換し、直ぐに外に出てみることにした。
特に込んだ手間などは必要なく、ボスの間だろうとどこだろうとダンジョン内であれば、発動を念じるだけで済む。
最大で24人同時に、つまり大体4パーティーくらいまでを一度に外へと連れ出せることになり、その使い勝手の良さには驚いた。
『今回の報酬はまた明日にでも振り込んでおきます』
今さっき来た椎名さんからのメールだ。
外に出た後は、明日以降も全員がそれぞれ平日で予定があるということで。
ダンジョン攻略後の詳細な検討も含め、後日に行うことにして帰ることにしたのだ。
まあ簡単なことは車内で話したけども。
何やら打ち上げみたいなことも、逆井を中心に計画しているらしい。
それも後日連絡してくれるだろう。
「とりあえず直ぐに飯にしよう――」
リビングの椅子に腰かけて、ようやく人心地着く。
先ほど丁度届いたフードデリバリーの夕飯を、どんどんテーブルに並べていった。
帰りに、椎名さんが気を利かせて手配してくれたものだ。
野菜炒めや煮物に、主食のチャーハン、デザートまで含めとりあえず色々な種類が揃っている。
4人でも食べきることができるかどうかという程の量があった。
「お疲れ様です、とりあえずお吸い物だけでも手早く作ってしまいますね……」
「ああ、スマン……頼むよ」
味噌汁かスープのようなモノは、流石にインスタントよりも作った方が良いだろうというラティアの気遣いだ。
ラティア自身も疲れているだろうが、そこは甘えることにする。
まあ手間もそれほどはかからないだろうし。
そちらはラティアに任せ、俺は食事の準備を進めていく。
「――ん、簡単にだけど、荷物の片付け、終わったよ」
「ボクも! 使った服は洗濯機に入れておいたよ!」
先に片付けに入っていた二人も、リビングに入って来た。
リヴィルは既に着替えも済ませていて、部屋着になっている。
「良し、じゃあとにかく夕飯にしよう。今日は十分働いたからな、楽をしよう」
俺はそう言って二人に座っているよう促し、一方で自分はリモコンでテレビの電源を入れ、立ち上がる。
食器棚から4人分のお椀を取り出し、そしてキッチンにあるシンクのスペースに置いた。
「どうだ、ラティア、何か必要があれば言ってくれ」
念のため手伝いを申し出たものの、既に火にかけられた片手鍋からは味噌のいい香りが漂ってきている。
「ありがとうございます、もう後は味を見て、よそうだけですので」
俺に気を使ってというよりは、もう本当にそれだけらしい。
じゃあ器に入れるのはラティアにお願いするか。
冷蔵庫を開け、水とお茶それぞれのペットボトルを取り出す。
それをテーブルに運び、席に着いた。
見ると、既にルオがコップも出してくれていたので、更に立つ必要もない。
「――できました、では、頂きましょうか」
「ん――はい、マスター」
ラティアが盆を使って運んでくれた味噌汁の椀を、リヴィルが受け取り配っていった。
「ありがと――じゃ、いただきます」
全員に行き渡り、そしてラティアも席に着いたことを確認し、俺たちは夕飯を食べ始めたのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――あっ“リア”だ」
「……ん?」
小さなトレイに入ったレバーの生姜煮をつついている中、そんなリヴィルの声で俺は顔を上げる。
「ホントだ! あれ? “チハヤ”もいるね!」
ルオまでそんなことを言うので、何だ何だと思いつつ箸を止め。
そして彼女らの視線を追いかけると、そういうことかと納得する。
「ああ――特番か」
適当にテレビを付けていたのだが、丁度特番をやっていたのだ。
そしてそれは生放送ではなく、撮影した物を編集し、放送しているのだろう。
丁度逆井と桜田がどこかの砂浜を走っているところだった。
そう言えば、確かに逆井の奴が最近撮影やら何やらで忙しいって言ってたな。
「……どうやら何かのゲームみたいですね」
器用に箸を動かしながら、ラティアは番組内容をそう分析する。
「……“PR権を賭けた無人島内での鬼ごっこ”か」
ちょっと立ち上がり、新聞を取ってきてまた座る。
テレビ欄には確かに秋の特番スペシャルということで、3時間の枠がとられていた。
概要欄を読むと、最近話題だったり人気の芸能人や、あるいはスポーツ選手など、様々な人を呼んで鬼ごっこをするという企画らしい。
鬼と逃げる側は完全に分業。
呼ばれた有名人・芸能人たちは逃げに徹する。
そして制限時間一杯を逃げ切れば、PR権を獲得できる、というわけだ。
『ぎゃぁぁぁ!! ちょっ、何でこっち来るんですか!? あっちに隠れる場所あったでしょ!?』
真っ赤な全身タイツを着た鬼に追いかけられ、桜田が吠えている。
『そんなの知らないわよ!! 私だって別にこっちに来たくて来たんじゃないわよ!!』
桜田と鬼の間、つまりより鬼に近い場所を、もう一人が走っていた。
右上にテロップで『白瀬飛鳥、逃げきれるか!?』と短く状況説明がなされている。
「フフッ、チハヤ、凄い素が出てるね」
「だね! もう一人の子も、同じグループの子だと思うけど……」
リヴィルとルオが楽しそうに話す声を耳にしながら、俺は素早く出演者を確認。
テレビ欄には知名度が高い人が優先的に書かれているので、流石に桜田達の具体的な名前は載っていなかった。
ただ『今話題のシーク・ラヴの5人も逃走者として鬼ごっこを盛り上げる!』と説明欄には書いてある。
「5人出ているらしいぞ。逆井と桜田と……あと今の白瀬って子と……」
俺が指折り数えるようにして、そう名前を挙げていく。
「――あっ、丁度場面が変わりました!」
逆井は既に鬼の視界から逃げきっていて、岩陰に隠れることに成功。
その逆井を映すドローンには、別にまた4人の人間が映っていて。
『うーん……“赤鬼は火が好きだ”?“青鬼は泳ぐことをこよなく愛する”?――どういうことでしょう、六花さん』
少し背が低めながらも、愛くるしさを感じさせる容姿をした少女が、もう一人の女性に尋ねる。
『えーっと……“黄鬼は雷で喜び踊る”……何かしら? 美洋ちゃん、分かる?』
大人びていて、知性を感じさせる女性はさっぱり分からないと首を傾げた。
ああ、おそらくこの二人が残りのシーク・ラヴのメンバーだ。
それに慌てたのは他の出演者の男性2人。
『いやいやいや!! 色、色が関係してるでしょ、どう考えても!!』
コンビ芸人さんで、中堅程の芸歴ながらも最近ブレークしたボケの方だ。
……いや、ボケの方にツッコまれるって。
『さっき桜田さんとも話したけど、今日参加のシーク・ラヴメンバー、みんなミッション苦手系!?』
こちらは若いながらも踊り方面で伝統芸能を盛り上げようと頑張っている注目株の男性だ。
『えぇぇ!! そんなことないですよ、ワタシら、どっちも現役大学生ですよ!!』
『マジで!? 逸見さんは兎も角、飯野さん、中学生やないん!?』
そう言われて怒ったのは小柄でどこか愛嬌がある女性の方。
確かにライブでは飯野美洋と名乗っていたように記憶している。
『酷いですよ!! ワタシ、こう見えてちゃんと入試も名前書いたんですから!! 計算だって、算数じゃなくて数学受けたんですよ!?』
どこかずれている答えを受けて、男性二人の参加者は苦笑する。
そして近くのカメラを見つけ、芸人さんが笑いながら謝罪。
『すいません、関係者の方々。ちょっとボクでは会話を成り立たすん難しいようですわ』
それで笑いが起こる。
和みながらも、またミッションとやらに向かう――ところで。
「――あっ、リアが立った!」
いや、リヴィル、そんな“ク〇ラが立った!”みたいに言わんでも。
隠れて様子を見守っていた逆井が凄い形相で何かを伝えようとしている。
「どうやら鬼が彼女らの後ろから迫っているようですね」
「うわぁ、うわぁ、後ろ!! 皆、後ろ!!」
ルオはまるで子供のように、焦りながらテレビに向かってそう叫ぶ。
……これ撮影済みだし、それにテレビに言っても聞こえないが。
ただ、それでも。
これほどまでにテレビを見て楽しんでくれてるのなら、野暮なことは言うまい。
その後、忠告しようと立ち上がった逆井の奮闘虚しく。
協力してミッションに挑もうとした4人はゴキブリの如くわらわらと集まった黒鬼に捕まってしまった。
ちなみに赤鬼がレベル1、青鬼がレベル2、黄鬼がレベル3。
そして黒鬼はレべル鬼というチートな鬼だった。
……鬼がレベル“鬼”ってなんだ。
「……あれ、絶対黒の全身タイツの中身、その手のプロだろ」
ちょっと微妙な心境になりながらも。
俺は4人での食事の時間を楽しんだのだった。
この特番のお話、広げても広げなくてもいいんですが、また続きを書くとしたら別の視点からの書き方になるかと。
……掲示板回?
いや、それは流石に私が死にますので……多分やらないですかね。
まあ普通にストーリー進めると思います。
今のところは、ですが。
ご声援・ご愛読いただきありがとうございます。
今後も引き続き楽しんでいただければ幸いです!




