77.攻略前、しっかりと話し合って準備を!
本当ならボス戦突入のはずだったんですが、長くなりそうなんで分けました。
すいません、今日中に何とか終わらせるんで、勘弁してください……。
自分達が進んできた通路を、志木やラティア達が小走りに駆けてくるのが見えた。
そしてすぐにその距離は無くなり、再会の喜びに一時皆が沸き立つ。
リヴィルとラティアは大丈夫だったが、志木と逆井は今のルオの姿を目にするのは初めてだったので――
「え!? えーっと……どなた?」
と、極々当たり前の反応をしていた。
ただそんな中でも。
志木はしばし考え込んだ後、自信なさげだが、呟くようにして確認する。
「……この場にいない人物や、状況を察するに……もしかしてルオ、さん?」
「「おおぉぉぉ……」」
俺とルオは同時に感心の声を上げる。
すっげ、全くルオとは別の姿なのに、状況把握だけでこれがルオだと当てるとは。
そしてルオはそれだけでなく、俺に視線で同意を得てから元の姿――ハーフドワーフのあの体へと戻った。
「「…………」」
これには流石に志木も、目の前で起こっていることが信じられないというように言葉が出なかった。
逆井なんかは大きく口を開けて、少々間抜けな顔になってるし。
「――えへへ……やっぱりこの姿が一番落ち着くな、ボク」
皇さんや赤星もやはり慣れないみたいで、ルオの姿をまじまじと見つめていた。
フフッ、と何故か俺が得意げになっていると、固まっていた志木、そして逆井が何かに気づいたように動き始める。
「――って!? ルオちゃん、服、服!!」
「変化させるのは体の方だけなのね!? ちょっと、これ普段はどうしてるの!?」
あっ!
そうだ、クソッ、忘れてたわけじゃないが、この場面でルオが再び戻ると想定して準備してなかった!
ルオは今指摘され、サイズが合わずにずり落ちてしまったパンツを引っ張り上げている。
上はやはりルオの体では小さすぎて、おへそがチラリと覗いてしまう。
……うむ、綺麗なお腹で大変宜しい。
――じゃなくて!
先ほど通信の際に、ちょっとギクシャクする様なことはあったものの。
近寄ってくる志木を見て、俺も余計なことは考えず、即座にルオの着替えを用意したのだった。
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「……じゃあ、とりあえず私達が先に行きましょう」
ルオの着替えを済ませ、その後、俺たちがここで留まっていた理由を説明した。
罠の可能性も0ではないこと。
そして2チームが合流できたのなら、9人纏めて入るという選択肢も無くはない。
そのようなことも合わせて伝えた上での志木の言葉だった。
「……だね、マスター達、モンスターとの戦闘で私達よりも消耗があるでしょ」
志木の提案に同意するように、リヴィルがそう告げる。
同じく、逆井も逆井で、別の視点から自分達が先に行くと主張した。
「ってかもしかしたら、片方入ったらもう片方は入れないかもしれないっしょ?」
「ああ……以前の」
逆井が確認するように視線を向けると、思い出したといった風にラティアが答えた。
それは俺とラティアにリヴィル、そして逆井の4人でボス戦を行った際のことを言っているのだろう。
俺たちがボスの間に入ると、入口が閉じたように記憶している。
それを逆井も覚えていたから、もしかしたら入ることができるのは片方だけになるんじゃないかと言っているのだ。
「……そう」
ザックリとだが、ボスの間は他者が途中から入ることはできないかもしれないと、ラティアから説明を受ける。
志木はそれを聞いて、考え込むように握った拳を顎に当てていた。
「それを踏まえても……罠の可能性が怖い、かな」
暫く沈黙が降りた後。
助け船というわけではないが参考程度に、赤星が自己の意見を告げる。
「確かにそうですよね~。皆で入って、罠でした、全滅します、ではちょっとおまぬけですから」
桜田も、赤星の言葉に乗っかる感じで率直な意見を口にした。
「……律氷はどう思う?」
二人の意見を聞き、志木は皇さんの考えも参考にしようと彼女に水を向ける。
皇さんは自分にまで意見を求められるとは思っていなかったのか、最初ビクッとしながらも、直ぐに考え込んで答えを出した。
「えっと……やはりこのまま分けて挑むことには賛成です。ただ、その、御姉様方のチームに1名か2名、補充すべき、かと」
……ふむ。
「確かに、もし罠じゃなくて、そして普通にボス戦が始まるとしたら、4人で戦う羽目になる、それを懸念していると」
多分こういうことだろうと具体例を挙げて確認。
皇さんはこちらを向いて頷き返してくれた。
「陽翔様のおっしゃる通りです。残るメンバーが少なすぎるのも問題ですが、余らせ過ぎるのもどうかと」
「……なるほど」
今の提案に、志木が肯定的なニュアンスの頷きをしているのを見るに。
多分この案で決定だろう。
「なら……私が行こうか。2人いるなら後、チハが適任かな」
赤星が場の雰囲気、つまり俺と同じように志木の考えを素早く察知し、自らそう提案してくれた。
確かに、赤星は運動神経が彼女らの中でも一番だし、戦力になってくれるだろう。
桜田も最初こそちょっと不満そうな声を上げたが、志木が補充は一人にしておこうと告げたので、それも直ぐに収まった。
「――じゃあ、行ってきます」
話し合いも纏まり、とうとう赤星を加えた新生Aチームが魔法陣の中に突入する時が来た。
流石の志木も、ボス戦は初めてということもあり、若干緊張気味の表情。
「まあルオが読んでくれた看板の文章からすると、おそらく大丈夫だろうが……気をつけてな」
「ええ。そっちもね」
短くそう返した志木の緊張した様子は、少しはマシになっただろうか。
「ラティア……何かトラップだった場合、遠慮せずに、ラティアの判断でな?」
「はい、畏まりました」
先ほどラティアには俺のDD――ダンジョンディスプレイを渡しておいた。
最悪はそのテレポート機能を使って、どこでもいいから逃げるようにと伝えてあるのだ。
俺たちは取り残されることになるが、命には代えられない。
逆に志木には、彼女が管理するディスプレイを皇さんに渡してもらった。
これで本当に拙いながらも、最悪の場合の連絡手段は確保されたと思っていい。
「まっ、大丈夫っしょ! アタシも前よりかは使い物になってるし、それにリヴィルちゃんもラティアちゃんもいるし!!」
「うん。ボスは真っ先に私が潰しに行くから、皆はその間を頑張ってくれればいいから」
「うわぁぁ……梨愛の言う通りだね、リヴィルちゃん、女子から見てもかなりカッコいいこと言うよ……」
逆井やリヴィルは特に緊張した様子はなさそう。
そんな二人を見て、赤星は若干呆れながらも肩の力を抜いていた。
……まあ余程意地の悪い奴が相手でない限りは大丈夫だな、うん。
そして、5人が歩調を揃えて、光るサークルの中へと入っていった。
光は地面から直接天井へと届くのではないかというくらい輝きを強め、5人を包む。
一瞬の間、最も強く光り。
そしてそれが弱まって、視界が戻る頃には5人の姿はそこにはなかった。
「……大丈夫、でしょうか?」
「うん、ラティアお姉ちゃんとリヴィルお姉ちゃんがいるから、大丈夫だよ!!」
不安そうに5人が消えた後の魔法陣を眺める皇さんを、ルオが本心からそう思っているという言葉で励ます。
俺も特に心配はしていないが、出来るなら9人全員でボス戦に挑みたいと思う。
「先輩、これ、普通に消えませんね? 思ってたのとちょっと違いました」
未だ輝きを失わないサークルを指さして、桜田が意外だという表情で俺にそう言ってきた。
ああ、消えるって、魔法陣そのものの方か……確かに。
「……だな、一組が転移したら、一旦これは消失するもんだと俺も思ってた」
「案外罠なんて何もなくて、普通にボクらもボス戦参加できたりして」
楽観的というよりは、少しでも重い雰囲気を消し飛ばそうというルオなりの気遣いなのだろう。
その気持ちが通じたからか、状況が一変する報が届く。
「――あっ!!“メッセージを受信しました”と来ました!!」
直ぐに、皇さんの周りに集まる。
彼女は慣れないながらもテキパキと操作を進め、目的のメッセージを開いた。
『ボス間に直通。罠なし。危険は無い模様、合流試されたし』
とても短いながらも端的にあちら側の状況を伝えてくれていた。
ラティアがちゃんといい仕事をしてくれているのだ。
「よし! なら俺たちも行くぞ!」
「はい!!」
「うん!!」
「えぇぇ……」
おい桜田。
全然締まらねぇぇぇ……。
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「全然問題なかったな」
「ええ……まあ用心するに越したことはないわ」
あの後すぐに俺たちも魔法陣へと移動し。
そして先に消えた5人と合流を果たしたのだった。
しばしのお別れみたいな空気だったのに、呆気ない再会だな。
まあ、志木が言うように、何もなかったんならそれが一番だ。
「――じゃ、今度こそ、ボス戦と行きますか」
9人全員で挑めると判明し、慌てる必要もないと大きく開かれた石門の前で再度、準備を整え。
俺たちは、ゆっくりとその中へと足を踏み入れた。
とりあえず寝て、力を蓄え、ボス戦を終わらせます。
何とか今日中に!!
ですので感想の返信はそのもう一話を書き終え、更新した後になるかと。
すいません、もうしばらくお待ちください!




