7.腕がぁぁぁぁ!! 俺の、俺の唯の右腕がぁぁぁぁ!?
い、今確認した限りでですよ?
日間ローファンタジーランキングの36位になってました……。
評価していただいた方も7人にまで増え!
ブックマークも42人の方にしていただいて!!
……言葉を失うとは正にこのことですね。
ご愛読、本当にありがとうございます!!
今後も引き続きお楽しみいただけるよう頑張ります。
……と言いつつ、今回のお話はちょっと真面目・シリアスモードも入ります。
最後、第三者視点にもなりますのでお気を付けください。
……あんまり第三者視点はしないんで、うまく書けているかどうか。
「――とにかく、これを飲め」
意識を失いかけている逆井に、俺は躊躇なくポーションⅠを飲ませた。
半分口から零れてしまったが、目に見える傷は何とか塞がってくれる。
「よし――」
最悪の事態は回避できた。
だが安心するにはまだ早い。
「ご主人様!! アーマーアントです!! 数が多いので、お気を付けを!!」
ラティアがあのモンスター達を見てそう告げた。
アーマーアントっていう名前なのか。
俺は横並びになって、刃物のように尖った牙をギチギチ言わせる蟻共を見る。
さて、どうしたもんか――
――って!?
「――蟻如きが、人間様に楯突いてんじゃないわよぉぉお!」
さっきまでそこらへんで同じように寝転がっていた少女の一人が。
突如寝たふりから立ち上がって、一番近くにいたアーマーアントに飛び蹴りをかました。
スカートを履いているが、そんなことお構いなし。
しかもお嬢様みたいな清楚な見た目・服装にも関わらず、それに全く反した腹黒そうな荒々しい口調。
そこまでなりふり構わず攻撃するってことは、何か勝算が――
「――ギッチィ!!」
「キャァア!?」
――普通に弾き返された。
じゃあなんで攻撃したの!?
「チッ――」
俺は振り返らず、叫ぶ。
「――ラティアァァ!! さっきの罰だぁぁ!!“出来ること”をするんだぁぁ!!」
返事は待たない。
この状況で、しかも頼んだことは“出来ること”を。
今度こそは聞いてもらえる内容だと確信し、俺は逆井を寝かせ、あの少女の元へと駆けた。
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完全に不意をついた飛び蹴りを防がれて。
少女は何が起きたのか理解できていなかった。
「ギィィ――」
追撃の牙を、アントは少女に伸ばそうと迫っていた。
「――アリの巣コ○リ買ってくんぞこの野郎ぉぉ!!」
今正に、その牙を剥こうとした時。
少しでも注意を引きつけられればとの思いで声を張る。
そして今度は自分も同じように跳ね返されることを覚悟で――
「――らぁぁぁぁ!!」
助走と重さを乗せた、渾身の一撃。
それでも、この右拳が通用することはないだろう――
――その思いは、良い意味で、裏切られた。
「ギチッ――」
――グシャリッ、と新聞紙でも潰したような音がした。
そして俺の拳にも、同じように紙でも殴り潰したような感触が伝わってくる。
「え――」
想像していたこととのあまりの乖離に、変な声を上げてしまう。
――アーマーアントの装甲に、俺の拳跡がついていた。
「――ッ!!」
俺は迷わず追撃に移った。
「せぁっ!! うらっ、だぁっ!!」
横の蹴り、純粋な突き、膝蹴り――
――全てが面白いように決まっていく。
そして攻撃が入る度。
段ボールが凹むように、アーマーアントの体がボコボコになっていった。
そして最後にとどめでもう一発。
「うらぁぁ!!」
「ギィィ――」
蟻らしく、踏みつぶされろとの願いを込めて、踏んづけてやった。
それが頭に入り、アーマーアントはとうとう行動不能に。
「ふぅぅ、大丈夫か――」
息継ぎをし、後ろを振り返る。
戦闘中気にすることができなかったが、あの少女は――
「きゅぅぅぅぅ――」
「お、おい!?」
自分を襲おうとしたアーマーアントが倒れたのを確認し、緊張が解けたのか。
気絶してしまう。
それを受け止めるも、俺は気が気でない。
「こんなところで倒れるなよ!! まだうじゃうじゃ蟻が湧いて――」
「――ギシィィィィ」
「――ギチッ!!」
「――ギギギィ……」
「ぃっ!!」
蟻共は、次々にお替りを吐き出すようにして俺に迫っていた。
「――クソォォォォ!! 全部相手してやらぁぁぁ!!」
「はぁはぁ……一体、何匹、いんだよ」
あれから、息が続く限り、迫るアーマーアントを攻撃し続ける。
当初の懸念は直ぐに吹き飛ぶほどに、俺は善戦できていた。
「ウラッ!! 寄るな、足がキモいっ!!」
これも、1週間前にモンスターを2体だけとはいえ、倒したからなのか。
それとも、その1週間の間にも薬草を胃の中に収めることを止めなかったからなのか。
理由は恐らくどちらか、あるいは両方だろうが、少なくともあの時みたいなことにはならなかった。
……1体倒すのに10発は攻撃を加えてるが。
「クソがっ、俺ばっか狙いやがって!! お前らに、矜持というものは、ないのか!!」
とは言いつつ、俺だけを狙ってくれているからこそ、被害を最小限に食い止められていることは想定通り。
攻撃する手を止めない。
ってか止めたらアーマーアントの波に飲み込まれる。
それほどまでに数が圧倒的に多かった。
自分の成長度合いを実感できて嬉しがる暇もない。
「お前ら、マジで覚えとけよ!? 俺が権力握ったら、真っ先に絶滅指定種にしてやる!!」
“危惧種”じゃなくて“指定種”ね。
真っ先に地球から葬り去るべき相手。
……あん?
蟻に求めた矜持?
んなもん知るか!!
「チッ、多い……あの“蟻地獄”を何とかしないとダメか……」
俺が視線を向けた先には、逆円錐になって砂が落ち続けている穴があった。
そしてそこは落ちる“穴”のはずなのに、何故かそこからアーマーアントが湧いて出現するのだ。
一定時間ごとにそこからアーマーアントが出ている。
そして、その前には、明らかにその穴を守ってますよと言わんばかりに。
「ちょっとカッコいい兜被りやがって……」
そこらにいるアーマーアントとは別種のタイプのアリがいた。
「かなり間引いたし、数もちょっとずつだが減っている」
気絶したままの少女から、うまく関心を逸らせながら戦えている。
一度負傷者を外へと逃がせたら、撤退するのも手だ。
そうした考えが。
或いは、周りには倒したアーマーアントが転がっているだけだという認識が。
――少しの、警戒の余白を作ってしまったのかもしれない。
「――ギィチィィ!!」
「なっ!? 生きて――」
倒したと思っていたアーマーアントの最後の悪あがきだった。
俺の死角から、その強靭な顎を大きく開けて、俺の腕に食いつき――
「ギシャァァァァン!!」
――容赦なく、思いっきり、閉じた。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!! 右腕がぁぁぁぁぁ――」
「――……ぁぁ?」
「ギィィシィ?」
今、敵同士にもかかわらず。
おそらく、俺とこのアーマーアントの疑問符が浮かび上がる瞬間が、シンクロした。
「――全然噛み千切られてねぇじゃねぇか!!」
歯形っぽいのは着いたけど!!
ちょっと痛かったけど!!
お前もう俺の腕噛み千切る気満々で食いついてた癖に!!
俺一瞬、片腕無くす覚悟したぞ!?
俺はカッと沸き上がったよくわからない怒りを。
今もしがみつく様にして噛みついているアーマーアントにそのままぶつける。
「おらぁぁぁ、体の中グチャグチャにしてやらぁぁぁ!!」
俺の肘から先。
おそらくアントの喉に当たる場所よりも奥に飲み込まれている。
その腕の先っぽを、暴れられる限りに、暴れさせた。
体内で腕のミキサーにかけてやるイメージ。
「ギシィ――」
「うゎぁッ!?」
ちょっと柔らかい水風船みたいなものを潰した感触があって。
それから直ぐに、アーマーアントは俺の腕を吐き出し、青い体液をぶちまけて。
今度こそ完全に動かなくなった。
「…………」
俺は、それを見届け、他のアーマーアントへ向き直る。
「――お前らも体内グチャグチャにして、一撃で沈めてやらぁぁ!!」
□◆□◆Another View ◆□◆□
「――ラティアァァ!! さっきの罰だぁぁ!!“出来ること”をするんだぁぁ!!」
そう言って、主人は敵が蠢くほぼ中心地に突っ込んでいった。
ラティアは引き留めようとした言葉を、しかし飲み込んだ。
罰を受ける、といったのは自分だ。
でも、主人はそれを、自分ができることをするように、と言いつけた。
そんなのは、何も罰になんかなっていない。
つまり、主人は自分を信頼してくれているのだ。
2日前、話したはずなのに。
自分がどれだけ役に立たないか、自分がどれだけ無能なのかを、語ったはずなのに。
『ラティアってさぁ……いてもいなくてもいいよね? ってかぶっちゃけいない方がよくない?』
『……ねぇ、役立たずの癖して、食事してるなんてさ、図々しいと思わない? ちょっと魔王様に話しかけられたからって、調子に乗んないでくれる?』
『ハハッ、私達の代わりに、ヘイト集めといてよ。それで詠唱するからさ……そうしたら、魔王様もまた話しかけてくれるかもよ?』
それが、ラティアが背中を預けた仲間達に、かけられた言葉だった。
サキュバスは皆、魔法という点を除けば、最初は圧倒的に弱い。
強くなれば、チャーム・魅了などのスキルを覚える。
それで異性やモンスターを誘惑状態にし、自分が詠唱する時間を稼ぐための前衛を担わせる。
――これが、サキュバスの基本の戦闘スタイル。
そして自分の女性としての容姿・魅力を磨けば磨くほどに、チャーム・魅了の効果も発揮される。
なので、最初はあまりサキュバスとして成熟していない者同士が集まり。
一時的にパーティーのように組んで、戦闘での前衛の役割を交代で行う。
話は変わるが、ダンジョンは欲望の集積地であると同時に、生き物である。
生き物の命・欲望を糧として、ダンジョンも生きているのである。
人が、貧血を補おうとする時に、レバーや肉などを積極的に食らうように。
自らの肉体を、容姿を――生物的能力を引き上げようとする時、ダンジョンはこの上ない役割を持つ。
サキュバスにとっては、自らの容姿・肉体が戦闘能力に直結する資本である。
彼女たちが、自らを磨くためにダンジョンへと潜ることは自然なことだった。
『ねえ、食事もただじゃないの……ってかいてもいなくてもいいんだからさ、あんた奴隷になったら?』
ラティアは、群れから村八分にされた。
彼女にとって、理由は定かではない。
でも、きっと自分が悪かったのだろう――ラティアは今でもそう思っている。
そして、その結果、ラティアは、一切の強くなる機会を失った。
チャームも満足に使えない。
そして、初心者状態のサキュバスが強くなるための、仲間の協力も、一切得られない。
単体としての物理的な戦闘能力もほぼない。
全てに絶望し、そして自分が悪いと思っていたラティア。
仲間達が、ある日、ローテーションで前衛をやるから、ついてきなと言う。
何かおかしいと思っても、断れなかった。
そういう状況が、既に、出来上がっていた。
諦念を抱いてついていった先で、何故かダンジョンにいた奴隷狩りに遭って。
捕まり、奴隷になって、食事もとらなくなった。
真っ暗な世界。
凍える体と心。
『役立たず』
『いなくていいよね』
『いても邪魔なだけ』
今までかけられた心無い言葉が、呪いのように何度も何度もラティアの頭の中で繰り返される。
このまま自分は何の役にも立たず、何の意味も持たずに死んで行く――
『――それで、大丈夫か? 何か、食べるか?』
――そんな自分に、光をくれた、方がいた。
温かな手を、差し伸べてくれた、方がいた。
私なんかのために、涙を流してくださった、方がいた。
「――お前らも体内グチャグチャにして、一撃で沈めてやらぁぁ!!」
「っ!!」
ハッとする。
未だ、ラティアの中に巣食う恐怖が、トラウマが、体を縛り付けようとする。
だが、今、正に!!
闇の沼に頭から沈み込んでいた自分を、掬い上げてくれた主人が!!
自分を信頼して戦ってくれているのだ!!
ラティアは恐怖で震える喉を、意志の力で、自ら震わせた。
声を、刻む。
周囲に光が浮かぶ。
魔力を練る。
一度として、まともに発動させたことが無かった魔法を、今――
「≪闇よ、刃となりて、揺れ刻め――≫」
自分の詠唱時間を、稼いでくれたのは。
自分を捨てた仲間でもない。
チャームで従えるモンスターでもない。
『“出来ること”を』と言って、自分のことを信じてくれた。
――こんな自分のことを、心から信頼してくださった、ご主人様なんです!!
「――【シャドウ・ペンデュラム】!!」
全てを飲み込むのではないかというドス黒い闇。
それが大きな大きな鎌へと姿を変える。
そして、それは振り子のように4度、左右に振れた。
2往復したその鎌は、一振りで10を。
二振りで30を、跡形もなく消し飛ばした。
そして、最後の振りで、穴の前を守護者のようにして立ち塞いでいたアントを。
――体を左右に分かれるように、真っ二つにした。
振り子が役割を終え、霧状になって消失する。
その後、穴を流れ落ちていた砂は、その動きを止めた。
そして、新たなアーマーアントがそれ以上出現することはなかった。
□◆□◆Another View End◆□◆□