76.“繋がり”通信……大事だけど、誤解なきよう気をつけてね!!
お待たせしました。
誰かと直ぐに繋がれる時代……そんな中、言葉は大事な意味を持ちます。
ただし……誤解は無きよう気を付けないと、ですね!
ではどうぞ!!
「あれ? 志木か。何で……」
間の抜けたような声を上げ、俺は画面越しにそう問いかける。
俺が志木の名を呼んだことを受け、皇さんと赤星が寄って来た。
それぞれ俺の後ろで話していたが、流石にこのダンジョン内で通話が出来たと知り、驚いたのだろう。
「えっ、御姉様、ですか!?」
「へぇぇ……携帯の電波はダメなのに、そのディスプレイを使えば連絡取れるんだ」
……ちょっと、二人とも俺に顔を近づけすぎじゃないですかい?
左右からDD――ダンジョンディスプレイを覗き込もうとして、殆ど俺の頬とくっついてしまうのではという距離になっていた。
……まあ良いけど。
『良かった……えっと、先ず本題です――こちらのダンジョンは攻略しました』
志木はホッと胸を撫で下ろした後、直ぐに表情をキリッとさせ、手短に告げる。
「ああ、こっちもそのおかげで、塞がってたところが通れるようになった――今丁度3階層まで降りたところだ」
俺も手短に状況を伝えた。
報告を受けた志木は後ろを振り返り、チラッとその姿が見えるラティアや逆井、そしてリヴィルと言葉を交わす。
『……そうね――分かりました』
何か4人で簡単に話し合って、結論が出たようだ。
直ぐに画面へと体を戻し、志木は状況を伝えてきた。
『青い“魔法石”? を破壊したら、私の持ってるこれが突然光って、それでしばらくいじったり確認していたら、貴方と繋がった、というわけなの』
そう言って志木は画面――つまり志木自身が持っているディスプレイを指差して説明する。
……そういえば確かに、以前赤星から説明を受けたことがあったな。
志木達もディスプレイを持っていて、それは共同所有だが管理は実質志木が担っている、みたいなことだったはず。
「そうか……俺と繋がったのがどういうわけか分からんが――」
ただ織部との例を参考にするなら、この通信自体にもDPがいるはず。
俺の画面右上には今もなお保有している47228というDPの値が映っており、その数字は動いていない。
つまり、俺の保有するDPは減っていないということだ。
そうすると減っていたとして、それは相手側――志木のDDになる。
じゃあ志木達もDDを通してDPを手に入れたということに……。
――と、そこまで思考を進めていると、なんだか俺の後ろや、志木の後ろがザワザワし始めた。
最初にラティアがヒョコっと顔を覗かせ、いかにも嬉しいですという表情をして、とんでもない爆弾を置いていったのだ。
『理由は後で考えればいいでしょうが……――とにかく、カオリ様とご主人様が“繋がった”というのは素晴らしいことですね!』
『『ブフッ――』』
ラティアの発言に、逆井と志木が噴き出している様子がハッキリと画面に映った。
俺も俺で、この発言の二重の意味を瞬時に理解。
何とか顔にこそ出さなかったものの、内心は頭を抱えたい思いで一杯だった。
――ラティアめぇぇぇぇぇ!!
あの顔は絶対分かって言ってた!
“私は純粋に通信が繋がったのを喜んでいるんですよ?”ととぼけたような表情だったぞ!
『え、えと……ラティアさん? その、確かに彼と繋がったのは嬉しい誤算よ? でもそれだと意味が――』
珍しく志木が狼狽えていた。
どう言えばいいかと歯切れ悪く頭を悩ませている。
この誤解を解こうと思うと、もう一つの意味について説明しなければならない。
志木自身もそれを分かっているからか、本当に普段見ないような、それこそ色事を殆ど知らない御嬢様みたいに顔を赤らめてあたふたしていた。
……なるほど、黒かおりんと白かおりんがない交ぜになってしまって灰かおりんになっていると。
うん、意味わからんな。
『? ご主人様と繋がったのは……事実、ですよね?――リヴィル、私、おかしいこと言いました?』
うっわ、ラティアめ、とぼけてやがる!!
『……ううん』
クソッ、リヴィルは我関せずで高みの見物かよ!?
「……? どうして御姉様はあんなに慌ててらっしゃるのでしょう? 陽翔様と繋がったのが、恥ずかしい、のでしょうか?」
ちょっ、皇さん!?
いや、確かに“通信が”繋がったのは事実なんだよ!?
でもさ、それだとちょっと意味が違ってくる――ああ、クソッ!!
椎名さん、もうちょっと皇さんに保健体育を教えといて!!
「うーん……ご主人と繋がったら、恥ずかしい? ボク、ちょっと良く分かんないや――」
「――えっとね、多分梨愛が意味を分かってると思うから、梨愛に聞いたら?」
『えっ!? ア、アタシ!?』
こらっ、赤星、お前もか!?
意味が分かっているくせに自分では説明せず、今も顔を真っ赤にしている逆井に振るとか、お前は鬼か!!
赤星は至って普通だと思っていたが、コイツ逆井をいじる時だけはS気を見せるのか……。
……探索士にまともな奴はいなかった。
「「ジーーーッ」」
あたふたする志木や、ニヤリと微笑むラティア。
こちらから期待の眼差しを送る皇さんにルオ。
画面向こうやこちらの状況が、言葉一つで良くここまでグチャグチャになったものだ……。
そんな他人事みたいな感想を思い浮かべながらも。
収拾を付けるべく、俺は気まずそうにして口を開いた。
「――あ~……えっと、他にも用例はあるんだが、男女が対象になっている場合に“繋がる”という言葉を使うと、ちょっと性的な意味合いを含んでしまうことがあるんだ」
「「へぇぇぇ……」」
俺の言葉に、皇さんとルオはシンクロしたように感心した声を上げた。
そして今起こっている一騒動がどういうきっかけで生まれたのかを理解し、納得したように頷きあう。
「……もしくは“合体”でも可ですかね」
「「へぇぇぇぇ!!」」
おい、桜田、お前ボソッと余計なこと教えんな!
ふぅぅ……まあいいや。
こっちはこれでいい、皇さんについては、後は椎名さんの仕事だ。
俺は更に画面向こうに対してこう告げる。
「だから、ラティアも、言葉を使う時は少し気を付けた方が良いかな」
すると、さも今気づいたという様に驚き、ラティアは大袈裟なほどに神妙な表情を作る。
『そうだったのですか……どうりで。これは不注意でした。申し訳ございません、カオリ様、ご主人様』
『え、ええ……分かってもらえればいいんです』
「…………」
ラティアめ、何を考えているか分からんが。
逆井のあのビキニアーマーの件もある。
もしかしたら、他の女子を俺にけしかけようとしている、のか?
――だがラティア……そこは甘かったな!
志木がこの程度のことで、俺みたいなボッチで魅力に欠ける奴を意識するわけがないだろう?
フフッ、自分で言っていて悲しくなるが、ラティアに世間の厳しさを教えるいい機会だ。
『――と、とにかく!』
……あれ?
えっ、おこなの?
志木さん目が座ってますけど!?
どこにも焦点定まってませんよ!?
やべぇ……何考えてるか全然わかんねぇ。
椎名さんの助言にあったように、志木を怒らせて無ければいいが……。
『私達もそちらに向かいます! 進める場合は進んで、待てる場合は待っていてください! じゃあ――』
それだけ一息に言って、志木は通信を切ってしまった。
……うわぁぁ、合流すんの、怖くなってきた。
ボス戦あったら、先に攻略しちまうのもありかもしれない……。
俺は通信が終わった後の画面をしばらく眺めながらも、そんなことを考えていたのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
思わぬ休憩時間となった先ほどの騒動が収束し。
俺たちは再び攻略を再開していた。
3階層はまた、モンスターとちょくちょく戦闘になったものの、特に苦戦を強いられることもなく普通に攻略。
だが、4階層は1階2階、そして3階とは異なり、モンスターが一切出てこず、拍子抜けする思いだったが。
ここに来て、また足止めを食らうことに。
「……また、通行止めか?」
目の前には下の階層へと進むための階段が見えている。
しかしその手前に立て看板が。
縦幅・横幅共に広くはなく、無視して進もうと思えば進めなくもないが……。
しかし初めて見る物だったので、流石に足を止めて気にせざるを得ない。
看板をよく見ると、なんだか分からない文字が書き連ねてある。
「なんだろうね……あっ、横にも何か変なのがあるよ?」
赤星が何かに気づく。
「本当ですね。これは……何かの像?」
皇さんが呟いたみたいに、立て看板を避けて、階段を一段二段降りた辺りの左手に、何かの像が埋め込まれていた。
おそらく鬼というか、ゴブリンみたいな生き物が、大きな盾を構えている、そんな像だ。
「何ですかね……トラップとかだったら嫌ですよ?」
「だな……でも看板に何が書いてあるか分からん以上、慎重にならないとマズいだろう」
桜田がうげぇっと嫌そうな顔をするのも分からなくはない。
モンスターがいなかったのだから、もしかしたらその代わりに罠があるのではないかと疑念を抱くのは正常な警戒心だろう。
そうして何だろう何だろうと皆で首を捻っていると――
「――“力を示せ。さすれば道は示される”」
ルオが、看板を前に、そう声を出した。
……もしかして。
「ルオ、ひょっとして、その看板、読めるのか?」
俺が尋ねると、ルオは看板に顔を向けたまま頷いた。
「うん、そんなに難しい文章じゃなくて良かった」
それを聞いて、皇さん、赤星、桜田の3人の間に感心したような雰囲気が生まれる。
そして特に皇さんはルオを見て、何かを言いかけた。
「……もしかしてルオさん、日本、いや、地球以外の――」
ただ、それが最後まで紡がれる前に、ルオが更に看板の文章を読み上げたのだった。
「“――と難しい言い方をしたが、要はこの盾を一発攻撃してみろってこと。その力量に応じて以降の階層へと通ずる魔法陣を開いてやるからよっ、へへ!!”」
「「「…………」」」
ルオは意味を頭の中で形成しながら読んでいる、ということではないのだろう。
単に書かれている文章を読み上げている、そんな感じだ。
だからなのか、聞いている方の俺や赤星、そして桜田はとても微妙な表情になっていた。
この看板、ぶっちゃけ過ぎだ……。
一方、そんなスラングっぽい文章までも読めるのかと、皇さんは目をキラキラ輝かせてルオを見ていた。
……まあ、良いんだけどね。
「“あっ、勿論ダメならダメで、普通に5階層から攻略を再開してもらうだけだから、気にすんな。でも、もし凄い一撃を示せたら……最深部の“守護者の間”前まで一直線の魔法陣、開いてやんよ!”――だって!!」
ほんとにそんなこと書いてあんの!?
ルオ、翻訳それちゃんと合ってる!?
「……まあとにかく、ルオが読んでくれたことが本当なら、この像に一撃食らわせればいいみたいだな」
正しいかどうか、もしかしたら罠の可能性もなくはない。
しかし、これを無視したからと言ってじゃあトラップの可能性が消えるかと言えば、そうでもなく。
なので、どうせならやるだけやってみた方が得ではないか、そんな趣旨の話を皆にしてみる。
「うーん……私もそれは賛成だけど……」
言葉とは裏腹に、何か懸念があるような言い方の赤星。
「何だ、勿論罠の可能性もあるから、普通に5階層に向かってもいい」
赤星の様子を汲んでそう言ってみると、桜田があからさまに嫌そうな表情になって反論してきた。
「えぇぇぇ……いいじゃないですか、やるだけやってみましょうよ~。わざわざ真面目に1階1階攻略していくの、手間じゃありません?」
「……私も、一足飛びに最後の階層まで行けるのでしたら、それを試してみてもいいと思います」
皇さんも、表現は穏やかだが、桜田の意見に賛成らしい。
「……ルオはどう思う?」
「ボク? ボクはどっちでも大丈夫! 5階層に降りて、また一つ一つ進んでいくのも楽しいし、一気に最終階層まで行けるんなら、それはそれで面白そう!!」
むぅ……。
普段は自己主張をしっかりする癖に、なぜここでどっちでもなんだ。
別に“晩御飯の献立何がいい?”って聞いてるんじゃないんだぞ?
だがルオは本心でそう思っているという様に、ワクワクして待ちきれないといった感じで結論が出るのを見ていた。
…………。
どうしようかと悩んでいると、そんな俺を見かねた赤星が、小さく笑いながらも助け船を出してくれる。
「あはは、私も別に反対ってわけじゃなくてさ。実際にやってみて。で、魔法陣? が出ても入らなければいいんじゃないかな、って」
「? 颯様、それはどういうことでしょう?」
「ああ、えっとね。どうせもう少しで梨愛達が来るんだよね? だったらさ、合流してからどうするか考えればいいと思ったんだ」
俺も皇さんのように、最初ハテナマークが浮かんだが、赤星の補足で直ぐに意味を理解する。
なるほど、看板の言う通りなら、魔法陣が出現したとしても、強制的に転移させられるという感じではない。
だったら、魔法陣が出てきても、入らなければいい。
もっと言うと、合流してから像に攻撃するかどうか決める、ということでもいいわけだ。
「なるほど……そう言うことでしたら、私達しかいない今に試してしまった方が、むしろいいかもしれませんね」
赤星の意図を理解した皇さんがそのように付け加える。
「はて? えっと……律氷さん、どういうことでしょうか?」
今度は、桜田が皇さんの発言の意味を図りかねて尋ねる番だった。
ただ、あまりこの二人、悪いわけではないが、仲が良いというわけでもなく。
桜田に聞かれた皇さんは、どう答えればいいかとおどおどしていた。
……ふむ。
「……これがもし罠だったとしたら、合流した後だと、全員が一度に引っかかることになるわけか……」
俺が自分で整理するようにそう呟くと、流石に桜田もそれだけで意味を理解したようだ。
「ああ、そういうことですか……まあ確かに、引っかかるなら片方のチームだけの方が、マシですかね」
疑問は解消されたようで、桜田は一人納得気に頷く。
俺たちだけが罠にかかるんなら、最悪ラティア達に助けてもらうということも選択肢に入れることができる。
本当に、2つに分けた意味が出てきたな。
「――じゃあ、やるってことで、いいね?」
全員を見回し、赤星が纏めるようにそう確認する。
誰も反対することはなく、皆しっかりと頷きあった。
「で、誰がその一撃を入れるかってことだが――」
俺がそう言いながら4人を見回すと、一人、キラキラした目でこちらを見ている人物がいて……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――フンッ!!」
聞き慣れない、幼い少女が軽く力を入れたみたいな声。
狭い階段の中、その小さな体で像の盾部分に純粋なパンチを入れる。
しっかりと命中したその一撃は、爆発でも起きたのではないかという位に大きな音を上げ、その威力の凄まじさを周りに伝えた。
だが、それを受けた盾の方はというと、ミシッとヒビが入った音をさせただけ。
壊れるような様子を見せることはなかった。
それでも――
「おお、やはり妾の力の前になすすべ無かったらしいな! うむ!!」
小柄な体型で、皇さんよりも小さいのではないかというカリュル――という竜人の少女の姿をしたルオは、満足げに何度も頷く。
そう、この像への一撃に名乗りを上げたのはルオだったのだ。
そして彼女の再現できるストックの中で、一番アタッカーとして優秀なのがこの幼い竜人の少女らしい。
ちなみにシルレは俺と同じく大体なんでもするが、タンク・タンカーとしての役割が上手いという。
彼女の言葉通り、攻撃後の像が輝きを放ち始め。
「うわっ、こっちの看板も――」
「うげっ、ひっ、光り出しました!?」
看板の、特に文字が書かれていた部分も光を放ち、読めはしないが、一瞬で書き変わったことが分かった。
そして階段の手前左にずれた所に、書かれていた通りの魔法陣が浮かび上がったのだ。
「「…………」」
目の前の幻想的とも言うべき不思議な光景に、言葉を無くして見入る皇さん。
俺も同様に、看板通りのことが起こってほうっと息をついていた。
ルオが戻って来たので、労いつつも看板の前まで移動する。
「お疲れさん、スマンが文章が書き変わったみたいでな、訳せるか?」
そう尋ねると、ルオはそのカリュルと言う名の少女を出来るだけ再現するかのように、鷹揚に頷いて返す。
「うむ! 任せい!! ふむむ……」
可愛らしい声を上げながら、看板へと視線を移す。
その間に、赤星や皇さんが俺へと耳打ちしてきた。
……またちょっと顔が近いんですが。
もうちょっと距離感を大事にした方が良くないですかね?
「陽翔様……ルオさん、色んな人になれるんですね?」
「凄いね、ルオちゃん。変身したみたいに別人さんだ……ね、新海君」
「…………そっすね」
無難に答えておいた。
……うっせぇ、ちょっとドギマギしてるとか、そんなことないやい!!
「――何々……“すごっ!? ……へっ、中々やるみたいだな!! いいぜ、最下層まで来な! 8階までの魔法陣を開いてやったぞ! ウチは簡単には負けないかんな!”と言っておるな!!」
なるほど、ということは、ルオというか、カリュルの一撃はどうやら絶賛されるに値するものだったらしい。
一発直通で最深部まで行けるそうだ。
ってかこの看板、あれか、ダンジョンの人格っぽい奴がしゃべってる感じかな?
しかもなんかしゃべり方がちょっとヤンキーの女子っぽい。
うーん……若いヤンママ?
そうして適当に感心していると――
「――あっ、ようやく追いついたわ!!」
後ろから、聞き覚えのある声が、聞こえて来た。
次話でボス戦です。
ふぅぅ……よかった、今回のお話で結構文字数が増えちゃいましたから。
後1話かそこらで、親子ダンジョン攻略自体は済みそうですね。
こうしてランキングが落ちて、投稿間隔が少し空いても未だに読んで、そしてご評価・ブックマーク頂けているということに感謝しかありません。
本当にありがとうございます。
最近巷では新型コロナウイルスの話もよく耳にします。
皆さん体調面は大丈夫ですか?
明日明後日と休日ですので、体を休めながらも、ボス戦何とか書いて行こうと思います。
今後とも、是非ご愛読・ご声援頂けましたら嬉しいです!!




